2009年02月20日

東京財団の「建築基準法改正提言」を100%支持

2月16日(月)の日経の朝刊の「経済教室」欄で、今月10日に発表された東京財団の 「建築基準法の耐震基準を根本的に変えるべき」 との提案が紹介された。

http://www.tkfd.or.jp/research/project.php?id=13

上記URLの中の「建築基準法改正提言」を開いてもらうと、28ページにもおよぶ提言をプリントアウトすることが出来る。

この提言で言っていることは、そんな難しいことではない。
建築基準法は、1950年の物資が不足していた時代に制定されたもので、「この法律は、建築物の敷地、構造、設備および用途に関する『最低の基準』を定めて、国民の生命、健康および財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする」と、その第一条に書かれている。
つまり、どこまでも建築に関する最低基準を定めたものに過ぎない。
そして、1981年の新耐震基準で幾多の耐震改善が行われたが、それでも耐震性に関しては『最低基準』であることには変わりがない。

しからば、その最低基準の内容とはどんなものか。
建築基準法施行令第88条3項の「標準剪断力係数は1.0以上としなければならない」という規定が根拠になっている。
こんな専門語を並べられても、一般の消費者に分かるわけがない。
実務レベルで言えば、「震度で言えば6強、加速度で言えば400ガル程度の地震がきても倒壊しない程度の住宅」 という基準でしかない。
この倒壊しないというのは、家の内部にいた人がペシャンと下敷きになって死なないということであって、家が半壊したり、ガラスやドアが倒れたり、テレビが飛んできたり、壁に大きな亀裂が入ったりして多少のケガはしてもしょうがない、という基準。

ところが、震度が6強どころではなく、阪神淡路と中越では震度7の直下型の地震が起きた。そして、中越地震の激震地であった川口町では加速度が2400ガルルという信じられない数値が記録された。建築基準法が想定していた400ガルの6倍という加速度。
この震度と加速度は、建築基準法の最低基準では想定していないものであり、建築基準法で確認申請を受理されて建てた住宅が倒壊しても、それは官も民の誰もが責任を負わなくてよいことになっている。これは想定外の天災であって消費者が泣き寝入りするしかない…。保証機関の保証は、すべて基準法に準じているので、保証する必要はない、ということ。

ご案内のとおり、品確法では地震の等級を等級1、等級2、等級3の3段階に分けている。
等級1というのは建築基準法の最低基準。つまり、震度6強だと全壊はなんとか免れるが、半壊になることもありますよという耐震性。
等級2というのは、建築基準法の1.25倍の強度を持っている建築。震度6強だと部分的には被害があっても、半壊には到らないという程度。
等級3というのは、建築基準法の1.5倍の強度を持っており、震度6強程度だと被害がほとんどなく、震度7でもめったに半全壊はしない住宅…というふえに考えて良い。もっともこれは私の勝手な解釈で、政府がそのように定義しているわけではない。

さて、東京財団が提案している内容で一番注目されるのは、最低の耐震基準を表示するのではなく、もう少しましな標準基準を建築基準法に書くべきだといっている点にある。そして、耐震基準を5段階程度に分けて、それぞれの住宅がどの耐震基準に相当しているかを表示する義務を課すべきだとしている。

まず、耐震基準を品確法の3段階ではなく、下記のような5段階に分ける。
+2  +1  0  ―1  ―2
そして、この−2に該当するのが現行の建築基準法とすべきだと念を押している。
つまり、現行の基準法による耐震性は、標準の0に比べて2段階劣っていますよ。
価格が安いからといってそんなマンションを買っていいのですか。
そういった点を、消費者に耐震性能をわかり易く表示すべきだ、という提案。
だが、その5段階の耐震性能値については何も書いていない。
そこで、話を分かり易くするため、我流で次ぎのような数値を入れてみた。

   +2       +1        0        ―1        ―2
(基準法1.7倍) (基準法1.5倍) (基準法1.3倍) (基準法1.15倍) (現行の基準法)

もちろん、これが正しいというのではない。
少なくとも、品確法でいうところの2等級(基準法の1.25倍)よりやや上の強度を、日本の耐震の標準にすべきだと思う。
そして品確法の等級3を+1に位置づける。
その上に+2の性能を新設すべきだと思う。
こんなようなことを、東京財団では考えているのだと思う。
しかし、具体的な数値を入れると役所や諸先生方の余分な反発を招く。
それで、数値をわざと省略しているのだと推測する。

同財団では、同時に重要な2点を指摘している。
1つは、木造住宅の場合は、品確法の等級2や等級3が比較的守られている割合が多いが、マンションなどの中高層建築物では等級1の最低基準が圧倒的に多いという事実。
これは、大手デベロッパーやゼネコンが建てるマンションは耐震性が高いはずだとの先入観を消費者が持っている。まさか建築基準法の最低基準を守っているだけだということを消費者は知らされていない。
このため、どのマンションも耐震性が売り物にならない。したがって、耐震性以外の部分にカネをかけている。
等級1を等級3にしたところで、原価のアップ率はたったの3〜5%。
それなのに、デベロッパー・設計・施工・販売業者の責任関係が曖昧で、耐震性をないがしろにしている。姉歯事件が起きた根本原因は、いまでも基本的に改善されていない。
つまり、耐震性最優先という意識がマンション関係者からすっぽり抜けている。
だからこそ、建築基準法を最低基準から標準基準へ変えるべきだ、というのだ。

もう1つは200年住宅が叫ばれている。しかし、200年の耐久性を保証するには何よりも耐震性が保証されていなくてはならない。最低で等級3でなければならないはず。その基本的な視点が200年住宅議論には欠けている。
これは、大きな問題である。
以上が東京財団の提言のあらまし。

私は、この提言を100%支持する。
というのは、中越地震の激震地で見た被害は、とても現在の建築基準法ではダメで、等級3でもまだ足りないということを実感されたから。
震度7ということで、阪神淡路地震と中越地震は同列に論じられている。
そして、大都市・神戸の人的な被害があまりにも大きく、報道関係者の目にとまったので、どちらかというと阪神淡路地震が最大のものだという認識が一般化している。

実際は、激震地の被害状況は、神戸よりも中越の方が圧倒的。
神戸は、昔から「地震のない街」という概念で、かなり手抜きの工事が多かった。基礎工事にしても無筋のものがあり、筋違いもいいかげん。このため、激震地では半分以上が倒壊していた。
これに対して中越の激震地・川口町では豪雪地のため、高床式の基礎が普通。ダブル配筋が普通で、基礎が大きく破壊されている例がほとんど見かけなかった。
そして、豪雪地のために柱は太く、その2つ割の筋違いは厚く、耐震性は神戸の比ではない。
それなのに、超激震地の田麦山地域100棟のうち倒壊を免れたのが10棟しかなかった。武道窪では17棟のうち16棟が全壊または半壊状態。つまり丈夫な家で、建築基準法に準じていても90%が倒壊、ないしは半倒壊状態になったのである。

その川口町は、未だにセイガイ建築と呼ばれる5寸柱の大貫工法が尊重されている地域で、プレハブやツーバィフォー工法で建てられた住宅はなかった。
唯一あったのがスーパーウォール工法。外壁に構造用合板を用い、内部には厚い2つ割の筋違いを入れたもの。このスーパーウォールが川口町に十数棟建てられていたが、1つも倒壊していなかった。いかに外壁の構造用面材が有効であるかを如実に物語っていた。
この十数棟の耐震性能は、開口部から考えて等級2と等級3に匹敵すると推測することが出来た。

そして、強調しなければならないことは、等級3と推定されるだけの耐力壁を持った住宅でも、内部に入れば開口部回りの石膏ボードに亀裂が入り、内部の壁は厚い筋違いが圧縮を受け面外へ坐屈して石膏ボードをはね飛ばしていた。エコキュートや蓄暖が倒れたり、壁掛けエアコンが脱落したり、サッシが落下したりしていた。

RIMG0186.JPG

そして、上の写真の真ん中にあるように、ひどいものはホールダン金物のボルトの先が千切れ、何ヶ所かでは金物が曲がって機能不全になっていた。
等級3、つまり建築基準法の1.5倍では倒壊は免れることは出来ても、多くの実被害からは免れることが出来なかった。
とくに問題になったのは気密性能の著しい低下。
この補修は、容易なことではない。今まで表を通る自動車の音が聞こえなかったのが、突然に大きな音で聞こえる。この気密性能を震度7の直下型地震から守るには、現行建築基準法に比べて1.7倍から2.0倍ほどの耐震性が必要だと私は川口町のスーパーウォールの現場で痛感した。

ところが、ほとんどの学者は川口町の激震地に入っていない。入っても、倒壊した住宅だけを調べ、写真に撮っているだけ。
倒壊しなかった家を調べ、なぜ倒壊しなかったかを調査していない。
そして、倒壊はしなかったけれども、ホールダン金物をはじめとして大きな被害があったという状態も調査していない。とくに気密性能の喪失という重要事項には誰一人として触れていない。

日本は、地震学者をはじめとして木造住宅関係者も、まだまだ勉強不足。
東京財団の提案を、国交省をはじめとして学界、産業界でも真摯に受けとめて頂きたい。
posted by unohideo at 07:22| Comment(1) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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