さて、この103冊の中から選んだベスト10。
いつものことながら写真の写りが悪いのは、ご容赦あれ。
◆10位 今回も建築・住宅の分野は実りが少ない。 この著は構造とか省エネということを無視し、もっぱら無添加のみに走っている。卓見もあるが偏見も多いので落選と考えていた。ところか、アトピー患者は国民の0.6%、つまり70万人も居るとNHKニュースが話していたので急遽ランクイン。週評258回、10月1日付を参照。
◆9位 2冊とも古い著書だが、グローバル化で日本企業の海外進出に拍車がかかってきている。その時、トップのマネージメント能力が厳しく問われている。文化と習慣、意識構造が違う人種に対するマネージメントの苦労話は、多くのことを教えてくれている。「15億人を味方にする」は9月10日のこの欄で紹介。
◆8位 この著書は7月5日に紹介。 メタボリック症候群などがいろいろ取り上げられているが、一番目立つのは子どものアトピーと若き母親の乳ガンの多さだという。メタボリック症候群を含めて原因は同一。砂糖と油の多い食事にあるという指摘は、あまりにも適切で痛烈。
◆7位 この著は9月22、23、25、27、29、30日と6回に分けて紹介。
ちょっと買いかぶりすぎたかも…。
◆6位 この著も9月20日に紹介。 今世紀に入って日本が一貫してデフレ不況に見舞われている最大の原因は、日銀法の改正により日銀が誤った独自性を発揮して日本経済をミスリードしてきたことにあると糾弾している。
政府の目的は「雇用の最大化と物価の安定」。その目標を達成する手段の独自性は中央銀行に与えられている。ところが、日銀の白川総裁は「雇用や経済成長に対する責任は日銀にはない」として、−1%〜0%の経済成長率で運営してきた。諸外国は1〜3%の消費者物価指数を目指して運営しているのに…。
この著書の影響もあってか、秋口以降の日銀は円高に対してやっと重い腰をあげてきているが、名目4%、実質2%という成長率を達成するための具体的なシナリオを日銀も菅内閣も持っていない。賢明なる航海士が居ない日本丸。このために成長率が世界一低く、デフレと円高に苦しめられている。
◆5位 この著書は07年に日経BP社から刊行され、このほど文庫本になったもの。
著者は2003年から08年までの5年間、民間企業から杉並区和田中学の校長として迎えられ、地域社会と一体になって中学校を蘇生させた輝かしい実績を持っている。現在は橋本大阪知事の顧問として活躍中。
中学校の数は1万校。そのうちの3000校に、校長として外部の血を迎え入れるべきだと著者は訴えている。しかし、それには9つの条件があるという。
(1) 毎週校長主導の公開授業を行う (2) 支援組織「地域本部」を校内に立ち上げる (3) 50分28コマ授業を45分32コマへ変更する (4) 校長自らゴミを拾い、トイレの掃除をする (5) 校庭の荒れ地や倉庫を一掃 (6) 訓示をやめ職員会議も短く (7) 不用な政府のアンケートには答えない (8) 職員の朝礼はチャイムと共にはじめ、ダラダラ報告はやめる (9) サボリ屋の先生にはやめてもらう。
◆4位 これは週評の第267回、12月3日を参照いただきたい。
著者は小説として書いたのだろうが、小説としての面白さはほとんど感じなかった。いや、著者が医師なので、小説的な手法を用いなくても主人公の技術のすごさを客観的に表現出来たせいかもしれない。ともかく、外科医・須磨久善の生き様が強烈で、引き込まれてしまう。したがって、あえて医・農・食・環の分野に分類した。
日本の医師会にはいろいろ問題もあるようだが、このように世界をまたにかけて頑張っている優れた人もいる。書評を読んで分かった気になられたのでは困る。1200円で買える本だから、是非正月休みにご一読を。
◆3位 この著は、大晦日付の週評で紹介しているので、その折に参照あれ。
137億年前、ビックバンで宇宙は生まれたことは知っている。その宇宙が膨張を続けてきていることも知っている。そろそろ膨張速度が鈍ってきたのかと考えていたら、さらに加速度をつけて膨張しているのだそうだ。
望遠鏡で、遠くの星を見ることによって、135億年前ことまでは分かるようになってきた。しかし、ビックバン前後の2億年間のことは分からない。その時期には星が生まれていないので、いくら望遠鏡で探しても光を反射する物体がないので何も見えない。
そこでどうするかというと、素粒子物理学で10の−27乗から−35乗という素粒子の微細な世界を探ることで、初期の宇宙の謎をが探れるのだという。
そして、今世紀に入って、宇宙に関する今までの常識は大きく塗り替えられたと言う。大変に難しい話だが、分かりやすい比喩で最後まで息もつかせずに読ませてくれる。
◆2位 コメ作りや野菜作りに比べて、畜産は大な投資を必要とする。しかも、国の政策は二転三転。農協の指導にまともに付き合っていたら潰される。そのせいか、今まで畜産業で元気のよい話はあまり聞こえてこなかった。
たまたま今年の秋になって、面白い本が2冊出版された。「三元豚」物語は、11月25日、30日と12月5日の3回で紹介済み。ここでは吉田牧場に絞って紹介したい。
高校時代の著者は探検本が大好き。「探検と冒険」という8巻シリーズを読んでいたら著者は京大と北大卒が圧倒的に多い。京大は無理なので北大を選び、一番拘束されない学部は農学部の畜産科と知って入学。もっぱら山歩きに熱中。卒業して農協の経理部に勤めたが性に合わない。やめた時、北海道で農場のリース制度が始まるのを知り申し込んだ。そしたら、親から「俺たちも寒い北海道へ移れということか」と怒られ、大学を出て5年目の1984年に故郷の岡山の山奥で牧畜を始めることを決めた。
しかし、生産調整で乳牛の削減を迫られ、チーズ作りに転身。フランスやイタリアに学んで24時間放牧による健康な牛乳で特上の味のチーズづくりに成功。現在は親夫婦と息子夫婦の4人の家族経営にこだわり、毎日400リットルの牛乳から各種のチーズを作り、通信販売44%、レストラン40%、直売所15%、百貨店1%の比率で出荷。その美味しさで山田牧場の名は世界に知られるようになってきている。
◆1位 故人の、あの井上ひさし氏が、約3年前にこんな素晴らしい著作を世に問うていたとは知らなかった。私は商売柄、建築家や都市工学家の書いた都市論は嫌というほど読まされてきた。しかし、心に響き、納得出来たものは皆無といってよい。
もちろん井上氏は都市工学の専門家ではない。この著作は意識的に都市のあり方を追求したものではない。文字通りの紀行文にすぎない。
それなのに、自活し自立する都市とは何か、地方自治とは何かを鮮明に描いてくれている。建築に携わる者にとって、必読の書だと断言したい。
ボローニャは、イタリアのフィレンツェから北に約80キロ。人口37.5万人の都市。この街に、美術館・博物館・陳列館が計37ヶ所ある。映画館が50ヶ所で劇場が41ヶ所。図書館にいたってはなんと73ヶ所。
日本の人口37万人強の都市というと、和歌山市、豊橋市、高崎市などが挙げられる。これらの市にはコンビニやドラッグストア、パチンコ屋の数は多いが、文化施設はボローニャの1/10もない。
パチンコをした後、家に帰ってテレビを視て、インスタントラーメンを啜って、サプリメントを飲んで寝るだけ。
著者は、この中の産業博物館を取り上げて詳報。この博物館は3原則で運営されている。
(1) 2ヶ月毎に展示内容を替える。工業専門学校の学生が知恵を絞ってデザインを変更すること。
(2) 展示物の前には必ず赤いボタンがあり、例えば@を押すと街が上昇して地下1階の紡績工場が見られる。さらにAのボタンを押すと地下2階の網の目状の水路が見られ、昔の動力を知ることが出来る、など立体的な工夫を凝らすこと。
(3) この会館は卒業生達の同窓会館でもある。常に新しい技術情報を発信し、技術と情報の交流と共有を深めること。
この市には、9つの地区評議会がある。評議員は20〜24名で、任期は5年。1回5000円の交通費は支給されるがボランタリー。公共事業、保安、教育、社会、文化、スポーツなどの予算に対する提案権と、年間7億円の予算編成権を持っている。
また、この市は戦後の復活を政府に依存せず、4原則を基本に自力で復活を果たした。
(1) 女性の力の必要性を謳い、共有の保育所を建設する。
(2) 歴史的な建造物と郊外の緑は市の宝として保存し、維持する。
(3) 投機を目的とした土地の売買は、お互いに禁止する。
(4) 都市の職人の工場の増設は認めない。ただ熟練した職人の分社化は例外的に認め、街の景観を守る。景観を無視した都市の拡張は長期的にみて必ず失敗する。
そして、地元銀行は利益の49%を地元に還元することが義務づけられている。このため。各行は文化やスポーツ、弱者に資金を提供する財団を持っている。
あの河村たかし市長が目指しているのは、名古屋市のボローニャ化なのかもしれない。
どうぞ、よいお年をお迎えください。