2009年01月05日

パッシブハウス研(PHI)の目標値は日本の目標に相応しいか?(上)



パッシブハウス研究所(PHI)の掲げている目標数値は下記のとおり。

http://www.passivehouse.com/English/PassiveH.HTM

この図から年間暖房費15kWh、年間給湯費6kWh、年間換気費4kWh、年間家電費11kWh、計36kWhと読みとることが出来る。
つまり、二次エネルギーの燃費が36kWh/uaで、一次エネルギーが97.2kWh/uaで上がる住宅のことを指すのだと考えていた。

この数値を達成させるためには、外壁などの熱貫流率(K値)0.15W/u以下で、サッシは0.8W/u以下であるべき。そして気密性は0.6tims/50pa(相当隙間面積0.3cm2)以下でなければならせない。また換気の熱回収率は80%以上であることが絶対的な条件になると言っている。
そして、パッシブハウスという名称を用いた理由は、ヨーロッパで広く用いられている温水ラジエーターによるセントラル輻射暖房装置を、住宅から追放してゆくという目的を明確にするためであった。
つまり、「セントラル温水式輻射暖房装置を追放した住宅」ということ。

日本では、北海道だけでなく10数年前からV地域やWa地域でもこのセントラル温水式輻射暖房のクリーンさと快適さが認められて、かなり広く普及してきている。
東京ガスなどが提案している床暖房よりもはるかに温度コントロールが容易で、セントラルシステムとして使いやすく、床暖房よりはるかに快適だから。
しかし灯油価格の高騰から、この給湯方式が寒冷地では見直されてきている。
V地域やWa地域では、深夜電力のエコキュートを使えば、灯油よりもはるかに安くなってきた。このため、灯油から深夜電力利用の給湯方式に切り替わった。
しかし、北海道などではエコキュートのCOPが低いので、温水輻射暖房から深夜電力利用の「チクダン」などへ切り替わってきている。
残念ながら、暖房機器の本格的な追放運動は起きていない。
「無暖房住宅」という勇ましい掛け声は聞こえてくるが…。

そういった点から考えると、ヨーロッパ人が不可欠と考えていたセントラル温水式輻射暖房装置の追放を叫んだパッシブハウス研究所の先見性と、それを推進してきた馬力には頭が下がる思いがする。
しかし、昨年秋に同研究所を訪ねた時「新しく冷房負荷基準として15kWhを加えるつもりだ」と言われた時、裏切られた思いがした。
まさしく「100年来の恋いが醒める」想い。
今までの二次エネルギー36+15=51kWhとなる。
これだと、単純計算をすると一次エネルギーは137.7kWh/uaとなってしまう。今まで唱えていた120kWhが霧散してしまうではないか、と考えた。

横浜国大建設卒で、ドイツStuttgart大建設学部でDiploma学位を取得し、アイルランドでパッシブハウスの普及に努めているMiwa女史から昨年秋にメールが入った。そして近くパッシブハウス研を訪れる予定があることを知った。
その折に、2つのことを訊いていただくように依頼した。
(1) 昨年末までにパッシブハウスの累積建築戸数は2008年末に1万5000戸に達すると聞いたが、この数値はむPHIのコンサルタントが一戸一戸確認した数値か、それともおおよその推定値か。
(2) 新しく冷房の15kWh/uaが加えられるということだが、その根拠と具体的な内容について細かく教えていただきたい、と。

この2点についての返答メールが、12月15日にとどいた。
(1) 1万5000戸というのはPHIの社員と認定コンサルタントが一戸一戸確認し、認定した数値だという。
したがって、R-2000住宅やQ-1住宅の累計戸数が推定4000戸というのとは訳が違う。改めて、凄い数値だと感じさせられた。
(2) 新しく追加される冷房負荷については、COPを1とした場合の建物が必要としている上限のエネルギー量であるとのこと。

つまり、kWhで表現するから二次電力使用エネルギーと私などは勘違いしていた。そうではなくて省エネ基準で定義されている年間冷暖房負荷と同様の建物性能の定義。つまりギガジュール(GJ)を使った方が理解が早い。
仮に、赤道直下でパッシブハウスを建てるとなると暖房負荷はゼロだが、冷房負荷は最大15kWh以内にしなさいということ。
そして、東京で暖房が12kWh、冷房が10kWhの住宅を建ててもパッシブハウスとは呼べない場合が出てくる。二次エネルギーはクリアーしていても、一次エネルギーの120kWhをクリアーしないとパッシブハウスとは認定されないから…。
だから冷房15kWhという基準を加えても、問題がないというのがPHIの見解。

それと、もう一つ重要なポイントが隠されている。
夏が乾期で乾燥しているヨーロッパでは、クーラーを用いなくても、つまり冷房除湿装置がなくても過ごせる場合がある。その場合には、建築物の二次エネルギーが15kWh以下であれば、一次エネルギーはゼロ。また、冷房のことだけを考えればよく、日本のように除湿について細かい配慮が要らない。
ただし、MiwaさんがPHIに計算を依頼した日本の例だと、絶対湿度が12g/kg(DA)以下であるようにして計算されているという。結果は、「日本は夏の夜、温度が低くなっても窓をあけてはいけない」という当然の答が出てきたという。
しかし、冷房負荷15kWh/uaを決めた時に、絶対湿度が12g/kg以下になるようにエンタルピ負荷を考慮して決めたのかどうかが定かではない。

また、太陽光発電を搭載していると、暖冷房費がいくらかかっても一次エネルギーは
ゼロ。だから、5キロワット以上の太陽光発電を搭載さえしておれば、冷暖房負荷に対する配慮がいい加減な住宅でもパッシブハウスとして認められる可能性がある。
原子力発電を必要以上に忌み嫌うドイツらしい方程式。

こういった冷房除湿に関する諸点の他に、給湯と家電のエネルギー消費量でもいろいろな疑問点が浮上してきた。

まず、給湯。
これは、すでに何度も書いていることだが、ドイツのモデルハウスにはほとんど浴槽がついていなかった。
今までドイツで泊まったホテルには、いずれもシャワーしかついていなかった。
このため200リッターの貯湯槽のコンパクト・ユニットが普及していた。
データで見てもドイツの世帯当たりの年間給湯エネルギーの使用量は7ギガジュール。
これに対してセントラル空調換気システムが普及していない日本では、肩まで湯に浸かって身体を暖めなければならない。ストレスを解消するためにも浴槽は不可欠。そして追い炊き機能が求められている。
このため、日本が給湯に使用するエネルギーはドイツの2倍の14ギガジュール。

7ギガジュールのドイツやフランス、オーストリア、オランダなどを前提にPHIは給湯の目標値を6kWh/uaと定めた。
その基準をそのまま日本へもってくることは本当に正しいのか?
2倍の12kWhは無理としても、10〜11kWh/uaを見込む必要があるのではないか?

日本は、基本エネルギーを原子力に依存する方向を定めた。
原子力発電は稼働率を変えることが出来ない。
したがさって、東京などの産業が集中している大都市では、夜間の電力の利用が大問題になってきている。そして、深夜割引料金がこれからも維持されてゆくであろう。
このため、夜間電力を利用している給湯費は非常に安い。月2000円を超すことはまれ。
しかし、年間の二次エネルギーで見ると、簡単に15kWhを突破してしまう。
つまり、東京以西では暖房よりも給湯エネルギーの占める割合が非常に高い。

このほかに、省エネ家電の開発が進んでいるとはいえ、日本の家庭での家電の使用量はドイツに比べて5割近く多い。
また、調理費もドイツの家庭の2倍。
このあたりを考慮しないと、PHIの目標値は単なる高嶺の花と、日本の消費者から無視されてしまう可能性が高い。

そして、更に言うならば、最終的な目標がCO2の削減にあるならば、半分近くの電力を石炭に依存しており、風力や太陽光、バイオに力を入れてはいるが、これらの占める比率がまだ10%に過ぎないドイツ。
これに対して日本で原子力発電が進んでゆき、フランスのように80%近くになったとしたら、日本のCO2は大幅に削減されることになる。
そういった点まで含めて考えると、パッシブハウスの基準を金科玉条のように考えることには、どうしても疑問符がつく。

温暖地で、冬期の過剰乾燥と夏期の異常な多湿を抱える日本の場合は、PHIの貴重な動きは大いに参考にしながらも、独自の省エネ目的を掲げてゆくことが非常に大切だと考える。
posted by unohideo at 16:54| Comment(0) | パッシブハウス(計画と現場) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。