2009年01月15日

工務店にとってオープンな断熱技術交流の場・新住協



「Q-1.0W住宅」のことはご存じのはず。
それを推進しているNPO法人・新住協の存在も十分にご存じ…。
そして、そのNPO法人の代表理事が室蘭工業大学の鎌田紀彦教授であることも、あまねく知りわたっている。

だが、それ以上の実態については、残念ながら今まで知らなかった。いや、知ろうとは思わなかった。
木軸工法としては、断熱性能という面でとび抜けて先鋭的。
しかし、「新在来木造構法」という謳い文句がどうしても気になった。
木質構造的に見れば、金物工法に比べて特別に傑出したものがない…。
故杉山英男先生に「在来木造の改革の方向性についてどう考えたらよいか」と教えを乞うたことがある。
その時、杉山先生は「君の言う在来木造というのは羽子板ボルトに筋違い入りの木造のことかね? 日本の在来木造は3寸5分の柱による筋違い工法ではないよ。日本の民衆に広く深く浸透し伝統的に伝わってきた在来木質構造は、民家に代表される“大貫構法”だよ」とピシャリと言われた。

以来、杉山先生の「不肖39番目の弟子」を自認している関係上、住友林業、一条工務店、東日本ハウス、あるいは地場の工務店が採用している木軸の筋違い工法は「木造軸組」とは言っても、絶対に「在来木造」とは言わないようにしてきた。中越地方に現存する「セイガイ」建築と呼ばれる大貫工法などを耐震改善したものを「新在来工法」と呼ぶべき。
そこまで頑なになる必要はないのだが、現在の細い柱の筋違い工法をもって「法隆寺以来1300年来の伝統のある木造」などと平気でウソを言っているメーカーや自称宮大工崩れの輩共を、絶対に許すわけにはゆかない。
1000年近い伝統的な大貫構法を度外視して、たかだか80年程度の歴史しかない貧弱な筋違い工法を伝統ある在来工法というのは、明らかに偽装。

そんなこともあり、Q-1.0W運動には関心をそそられたが、それ以上に新住協に踏み込みたいとは感じなかった。
それに、もう一つ理由があった。それはホームページに掲載されている写真が少しダサく感じられ、地方の需要にはマッチしても、都会の奥さんや若者のニーズには応えられないだろうとの第一印象が強かった…。
今まで、一度も新住協のメンバーと受注で競合になった経験がないので、私の商圏内では無視してもよい存在だと考えていたせいもある。

昨年秋、十勝2X4協会の30年記念講演会で、初めて鎌田先生にお会いした。
ジカに先生の考えと技術水準を聞いて、業界専門紙で読まされてきた内容とニュアンスが大幅に違っているのにびっくりした。
そして、貴重で膨大な資料をいただいた。
その中には、各部位の断熱施工例や新しい熱容量の計算例のほかに、熱計算プログラム「QPEX ver.2.0」の解説書とフロッピーが含まれていた。
この資料は、本来は有料のはず。
いまどき、台所事情が豊かなNPO法人などは聞いたことがない。
祝賀会の二次会の席上で、先生に聞いた。
「ここまでオープンなマインドの研究者に出会ったことがない。最初からこのようなオープンなスタンスだったのですか…」
「国立大学法人に変わって、しきりに特許を取るように言われている。技術をもっとクローズドにしろという命令。しかし、私は最初からオープンでやってきた。20年前から、技術を抱え込んでフランチャイズ化する動きはあった。しかし、それでは世の中を変えることが出来ない。これからもオープンでゆくつもり…」

鎌田先生に対しては妬っかみもあって、とやかくの雑音が絶えない。
しかし、このオープン化宣言を聞いて、私は「鎌田教」フアンが工務店の中に多い理由が初めて理解出来た。
たしかに、学問的に優れた研究や調査をしている先生や研究者は多い。
だが、どこまでも現場主義を唱え、抱えている650社をメンバーの現場の中に入って行き、積極的に高断熱住宅運動の改革を進めている学研の徒は、鎌田先生以外には見当たらない。

新住協の会沢健二統括事務局長によると、現在の新住協の母体となった新在協(新在来木造構法普及協議会)が発足したのは20年前の1989年だったという。
ツーバィフォー工法は2階床がプラットフォームになっていて、1階の外壁の空気が2階の壁に流れることがない。しかし、今までの木軸工法だと気流止めがなく壁の中の気流がいたずらに上昇して断熱性能が著しく落ちていた。この改善方法を提案し、それを実践するために協議会を立ち上げた。
そして、北海道をはじめ東北のハウスメーカー、工務店、設計事務所に積極的に改善を働きかけた。ツーバィフォーの人間から見ればたいしたことはないと思われる件だが、木軸工法の温熱環境という面から見れば画期的な改善策。
提案するだけだったら誰にもできる。それを実行させたという点が、いかにも鎌田流。

それと、もう一つ特筆しておかなければならないことがある。
それは、充填断熱を第一義に考え、硬質発泡系の外断熱を意識的に排除したこと。
ひと頃、木造住宅においても外断熱こそが最高の断熱方法であるかのように喧伝された。
今でもダイワハウスが「外断熱を唯一の売り物」にしている。
ラサール石井の間抜けたテレビCMを見る毎に感じる、何とも言えない虚脱感…。
郊外の一軒家ならともかく、大都市の密集地の住宅にあって、外側に可燃性の発泡系断熱材を使うことは、類焼の面で絶対に許し難い。
また、耐久性の点でも外断熱だけに依存するのは問題がありすぎ…。
そのことは、特に札幌のビルダー全員が体験的に知っている。
このため、べバーバリアを入れるという難しい気密工事を覚悟の上で、繊維系の断熱材を充填している。東北でもこれを原則としている。もちろん、北米や北欧でもそれが大原則で、当たり前のこと。
だが、鎌田先生の果たした役割も見過ごせない。

ただ、関東以西の新住協の工務店では、外側に張る構造用合板を気密層としている例が多いとのこと。気密性能値が気になるところだが、相当隙間面積は1cm2前後という。コーキングとテーピングでしのいでいるのだろう。
そして、袋詰めの繊維系断熱材を充填する。
この場合の逆転結露現象についての試験データは、見たことも聞いたこともない。
最悪の場合、湿度は室内側に逃げるということだろう…。

そして、新在協は2004年に新住協と名前を変えてNPO法人に脱皮した。
会員の中から10人の役員と2人の監事が選ばれ、現在会員社は北海道約170社、内地約490社、計約650社というところ。毎年30社ぐらいが新規に加入し、それと同程度の退会社があるので、全体の数はほとんど変動がない。
入会金の額を聞いて驚いた。
たったの1万円。
これを払えばQPEXのソフトをはじめ、実質10万円相当分の資料が黙って貰える。
いまどき、熱計算ソフトが5000円で入手出来るというのだから驚くというよりは呆れてしまう。
そして、年会費は4万円。
NPO法人の趣旨に基づいて、工務店も設計事務所も資材メーカーも流通業者も会費は一律という。ただし、大学教授などの研究員だけは1万円と特別価格。
つまり、年会費2500万円前後でNPOを運営していることになる。

さて、工務店が新住協に入会して得られるメリットは何か。
まず、1万円の入会金で山ほどの技術資料が得られることは分かった。
そのほかに、いろんな研修会に参加出来、最新情報が得られる。
北海道で2ヵ所、東北で2ヵ所、関東2ヵ所、岐阜と関西で1ヶ所、計8ヶ所で毎年鎌田先生を囲んでの研修会が開かれる。
そのほかに、支部毎に毎月とか隔月とかに情報交換を兼ねた研修会が開かれる。

それよりも、新規会員社にとって最大のメリットは現場見学会に参加出来、活きた断熱工事や防蟻工事などの情報が入手出来ることだという。
地場の工務店にとって、一番必要なのは活きた経営情報と技術情報。
活きた経営情報というのは、よほどトップ同意が親しくなり、信頼関係が生まれない限りは得られない。
そして、得られる経営情報というのは、どこまでも発信した量に比例する。
これに対して技術情報は、代表理事の鎌田氏がそもそもオープン論者。
他のグループに比べても、鮮度の高い情報が得られると考えて良い。
フランチャイズと異なり、資材の買い付けが義務化されていないのも良い。

NOP法人化がなった翌2005年の秋に、代表理事は突如Q-1.0W住宅を提案した。
セキスイハイムのシェダンの動きもあり、2006年には札幌支部で徹底的にQ-1.0W住宅の可能性が議論され、数社が同年中に着工している。
鎌田研究室でQPEXのシステムの開発が進んでおり、どの部位の熱貫流率をどのように改良すればQ値が1.0Wの住宅が得られるかのシミュレーションが可能になっていた。

このQ-1.0W住宅について、私は誤解していた。
全ての住宅のQ値を1.0W以下にしてゆこうという運動だと…。
ところが、地域によって目標の数値が異なる。
QPEXでシミュレーションをして、次世代省エネ基準で必要とする暖房費の1/3で上がる性能を目指しているというのが正解。
例えば、次世代のQ値が2.4Wの仙台で、シミュレーションの結果、年間暖房費が900リッターだったとする。その場合は1/3の300リッターで上がる家造りを目指す。ただ北海道だけは1/2。これは、次世代の数値が北海道だけ異常に厳しいから。
パッシブハウス研究所のように一律15kWh/uaというのではない。
このことの良否は、別の機会に議論したい。

その新住協が称するところのQ-1.0W住宅、ないしは限りなくQ-1.0Wに近い性能住宅の「Q-1住宅全国同時現場見学会」が2月7日と8日に、全国59ヶ所で一斉に開催される。
その59ヶ所の場所とシミュレーションによる性能値は下表の通り。

2第2回熱計算・仕様書表.pdf

R-2000住宅の経験から言えることは、「1戸や2戸の建築だったら誰でも出来る」ということ。
受注する全ての住宅をR-2000住宅とか、Q-1.0W住宅とか、あるいはパッシブハウス住宅に全面的に切り替えられるかどうかが勝負。何でも屋であってはならない。特化出来るかどうかがカギであった。
R-2000仕様に全面的に切り替えたビルダーは、全国に約30社ある。そして、十勝を中心に北海道では200戸、東北と関東で400戸を北洲とマイスターハウスを中心に供給されている。
この継続性に意味がある。

Q-1.0W住宅の工務店は、年間5戸から10戸の規模の工務店が多い。
年間の建築戸数よりも、全面的に切り替えられるかどうか、切り替え率が80%以上かどうかが、地場ビルダーとして生き残れるかどうかのカギになってくる。
そして、暖房費だけの表示だけではなく、次は冷暖房費・除加湿費・換気費・給湯費を含めた国際的なルールに基づく表示時代が近づいている。訓練を受けた同グループが、国際的な表示制度に切り替えることは容易。

元気者の新住協の動きは、日本の地場ビルダーのトップランナーの一人として、今後とも刮目を集めつづけるであろう。
posted by unohideo at 06:54| Comment(1) | 経営 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんわ。

始めてコメントさせて頂きます。

今日は1才の娘を膝に乗せて

子守しながら仕事してました。

いろいろ見させていただきました。

また、時間がある時に

ゆっくり見させていただきます。

それでは失礼します。
Posted by ☆KEEP BLUE☆ at 2009年01月27日 22:36
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