プラットフォーム・フレーミングという床盤構法は、ご存じのように戦後、北米の西海岸で開発されたもの。
木質構造としては戦後っ子の新顔。
厚い構造用合板が開発され、それを継ぎ目なく床に張り付け、ダイヤフラムを構成すると地震や台風などの水平力に対して大変な力を発揮することが分かった。
プラットフォームの剛な床が、すべての壁に均等に力を伝える。
最終的に水平力に耐えるのは一体化した壁。
ではあるが、遊んでいる壁をなくした功績がプラットフォームの床にある。
つまり、すべての壁が一致協力して水平力に抗して耐える。
そして、このプラットフォームが、それまで不可欠と考えられていた通し柱を不要にしてくれた。
つまり、木質構造で2、3階建てではなく、5階建てや6階建ても可能になってきた。
地震のないドイツなどでは、昔から木骨土壁構造による6階建てが建てられてきた。
地震がないので土壁を厚くすれば、通し柱がなくても各階毎に床を組み、その上に管柱を建てて継ぎ足してゆくだけで中層建築が可能。
しかし、地震の多い日本や北米の西海岸では、木造の中層建築は夢物語にすぎなかった。
それが、プラットフォーム・フレーミングの登場によって一変。
戦前まで北米の主力となっていたバルーン・フレーミングとポスト&ビーム。
それが、主役の坐をプラットフォームに譲った。
とは言え、バルーンやポスト&ビームが全く使われなくなったというのではない。
最初に見たように、アメリカの現場では対立する構法ではなく、同じ木構造として何の違和感もなく同居して採用されている。
だから、すべてをまとめて導入したいと考えた。
それが不可能だということを杉山先生に教えられ、プラットフォーム・フレーミングだけをオープンな形で導入した。
しかし、30年前は、木軸工法とツーバィフォー工法は、建築現場だけでなく学会でも、全く異質のものとして捉えられていた。
たしかに軸組と壁組では力の流れが全く異なる。
きちんと分けて考えねばならない。
木軸工法しか経験してこなかった大工さんや設計士にとっては、当然のことながら最初は戸惑いがあった。だが、多くの大工さんや設計士は、研修と経験を積んで新工法のコンセプトを素直に受け入れていった。
なぜなら、実際に2階や屋根の上で仕事をしてみると、グラグラする木軸に比べてツーバイフォーは頑丈で、いかにも安定していた。まさに一見は百聞よりも説得力を持っていた。
ただ、学会を含めた一部の守旧派は、ツーバイフォーを木構法として正しく把握せず、RC造や鉄骨造と同じ敵対する工法として捉え、いたずらな敵視を繰り返した。
その期間が30年近く続いた。
10年前に登場した金物工法は、単に今までのホゾ、ミゾによる継ぎ手、仕口を金物に置き替えただけではなかった。
壁と床に構造用面材を採用。
とくに床に厚い構造用合板を採用し、今まで部屋ごとに区切られていた床を一体化した。つまり、プラットフォーム化した。
そのことで通し柱が折れやすくなるという最大の懸念が、幸いにも中越地震で払拭された。
このことにより、木軸とツーバイフォーの壁工法は、一気に距離を縮めた。
現に札幌などでは金物工法で、集成材の太い柱間隔を2間とか3間とばし、その中に206材で組んだ壁パネルをはめ込んでいる例が見られる。
確認申請は木軸でとっているが、内容は文字通り「木軸壁工法」。
これは、ものすごく利口な木軸と壁工法のドッキング。
カッコ良い言葉で表現するなら 「ハイブリッド木構法」。
さて、これからのあるべきハイブリッド木構法なるものを展望してみたい。
まず、外壁の土台材は406。
大引き404を3尺間隔に入れ、鋼製束などで受ける。
そして、2間から3間間隔に4.7寸角(140cm角)の通し柱を建て、足元は逆さT型金物とホールダン金物でしっかり土台に固定。
そして29mmの構造用T&G合板を弾性接着剤併用で千鳥張りして、BN75クギを外周@150mm間隔に、中通りを@200mm間隔に打ち付ける。
通し柱の部分だけは床合板を切り欠いてプラットフォームとする。
この柱の間に外壁は206材(140mm)で組んだパネルをはめ込み、内壁には204材(89mm)で組んだパネルをはめ込んでゆく。
この206材と204材は、必ずしも輸入材にこだわる必要がない。きちんとした乾燥材であれば、内地の杉材でよい。間伐材も厭わない。
ただし、根太が上に乗っかる頭つなぎ材だけは、へこまない強度のある樹種のものを使うか、杉材だったら表面に圧縮した杉板を貼ったものを使いたい。
さて、外壁に206にこだわるのはスブルース材や杉材の強度が気になるからであるが、それよりもこれからの住宅の充填断熱材の厚みが4寸角(120mm)ではどうしても不足すると考えるから。
ドイツのように、5.3寸角(160mm角)を標準にしたいところだが、5寸角でも日本ではままならない。しかし、金物工法で集成材ということであれば、606を求めることは無理難題な相談ではない。
そして、国産の杉材から206の乾燥材を求めるのも、決して無理な注文とは考えない。
ユーザーのニーズに応えるという姿勢があれば、強度が欠ける国産杉材は柱として使うより壁工法のスタッドとして活用した方がはるかに良い。
そして、主として鉛直荷重しかかからない内壁は204材のパネルで十分。
床荷重などが集中的にかかるところは、204材を2枚とか3枚合わせにすれば、角材を使うよりは強度の補充が可能。
枠組み壁工法は、パネル化した場合にジョイント部分に問題があることは前回指摘した通り。
ところが、木軸の間にパネルを差し込むということであれば、このパネルとパネルの接続部分の不完全さが補える。パネルは通し柱にクギ打ちし、パネルとパネルの接合部分の面材、つまり柱をまたいで後で面材を張るようにすれば、完全に一体化出来る。
現在のツーバイフォー工法のパネル化の欠陥を補うことが出来る。
一方で、今までの木軸工法の力の流れをこのパネルが補って、変える。
今までの木軸の場合は、3尺とか6尺間隔に柱を入れた。そして、1.5尺間隔に細い間柱を入れてきた。この間柱はボード受けのためだけのものであり、構造強度には何一つ役に立たない。このため細い間柱は構造材しはみなされず、石膏ボードなどを使っても耐力壁として認めてもらえない。
この間柱と管柱を206とか204の構造材にすることによって、壁パネルとして耐力が支えられるようになる。パネル化すれば、ホールダン金物の数も大幅に減らせる。
つまり、606の太い通し柱は、集中荷重を受ける軸として働いてもらうのではなく、パネルの緊結役と、胴差し・梁受け・敷き桁の緊結役として働いてもらう。水平ならびに鉛直荷重をパネルが負担するという流れになる。
今の各社の金物工法は、そこまで水平・鉛直荷重の流れを見極め、構造的に割り切っていない。もっとパネル化と省力化が可能なはず。
さて、1階の壁パネルをはめ込んだら、外周一円に窓まぐさを兼ねて406の集成材の胴差しをぐるりと回す。606を用いないのは、胴差しの内側に50mmの硬質断熱材を入れ、ヒートブリッジを避けるため。もちろん柱との緊結は金物。
その上に210ないしは212の2階床パネルを施工してゆく。
ただし、この床パネルには合板を張らずに搬入。合板は現場で千鳥張りとする。
そして、大きな開口部がある場合は側根太ないしは端根太は410ないしは412の集成材を、これまた窓まぐさを兼ねて入れ、床根太は金物止めとする。
根太は原則としてTJIとし、北側の根太はダクト配管を考えて出来れば平行弦トラスとしたい。これだと国産材でもすべてに対応が可能。
つまり、床組に関しては、プラットフォーム・フレーミングを全面的に採用するということ。
根太の変わりに集成梁でおさめることも十分にあり得るが、プラットフォームを構成するという大原則だけは守りたい。
さて、2階床合板が張り終えたら、2階の壁パネルが取り付けられ、外周に406の敷き桁が回される。天井断熱材を厚く吹きたいという場合は408とか410の敷き桁を回す場合もある。
そして小屋組は、北海道の木軸がほとんど210材に変わったように、木軸の束立ては止めてTJIか210、208材にしたい。このことによって、小屋裏空間が全面的活用が可能になる。吹き抜け空間にするのもよい。この空間づくりの意義は大きい。
210材とか208材は輸入に頼るしかないので、出来れば国産のTJIにしてゆきたい。
こうした木軸壁工法は、部分的には各地で採用されている。
しかし、金物工法がそれぞれクローズドであるために、オープンな形になっていない。
オープンな形にするには、木住協あたりが音頭をとって、場合によっては何社かがお金を出し合い、共同で実験を行い、認定をとるという形が可能であればベター。
しかし、おそらくそんな形での進行は期待出来まい。
とすれば、北海道でなし崩し的に木軸と壁工法のハイブリッド化が進んでいるように、全国的な規模でハイブリッド化をなし崩し方式で進める方が早いかもしれない。
よりエンジニアウッド化した国産材の活用と、充填断熱プラス外断熱という時代は、すぐそこまできている。
国産材の活用は、地産地消という耳障のよい殺し文句で、現在の製材所の身勝手で加工度と強度、精度が低いものを消費者に押しつけることであってはならない。
国産材の活用には、乾燥材化と集成材化、および204材および206材化が不可欠。
細い間柱を使う時代を早く終わらせるべき。
そして、充填断熱は120mmの時代ではない。耐久性の長期化ということも考えると140mmが最低条件になってくる。それにプラス外断熱でヒートブリッジを追放。
誰が140mmでのハイブリッド木構法の先導役を、買って出てくれるのだろうか?