2009年09月30日

泣きたくなった「長期優良住宅」の建築現場



2週間前、関東エリアで建築中の「長期優良住宅」の建築現場を見学してきました。

国土交通省が推奨している住宅。
木軸工法で認定申請をし、きちんと認可を得て建築中の現場。
地場ビルダーの仕事ぶりは丁寧。
外壁に構造用合板を張り、通気層をとって小幅板を施工していて、耐震等級は2。
アルプラのLow-Eのペアガラスを採用しており、次世代省エネ基準をクリアーしている。
そして、夏期の逆転結露防ぐためにべバーバリアにサバーンを採用。
したがって、階段室が狭かったのを別にすれば、どこから見ても「長期優良住宅」として胸を張って見せられる現場。

ところが、私はこの住宅を見て、哀しくなってきた。
如何に有利なローン減税が受けられても、私は絶対にこの住宅は買わない。
「長期優良住宅はインチキだ」 と感じたから・・・。
それは、地場ビルダーに対する不信感ではない。
地場ビルダーは、きちんと法に基づき、指導にしたがって仕事をしている。
ビルダーに瑕疵はない。
問題は、こんな住宅を100年も200年も持つ 「長期優良住宅だ」 と宣伝し、国民を欺瞞している国土交通省にある。
住宅のプロである住宅局長さんや課長さん。
「あなた方は、本当にこんな住宅を建てたいと考えているのですか?」
「この住宅の寿命が100年も、200年もあると、本気で考えているのですか?」
それと、木軸工法の研究機関にも問題が・・・。

品確法では、日本における最高の省エネ性能は4等級と定められている。
次世代省エネ基準がそれ。
それ以上の等級は世界にはワンサとあるのに、日本の品確法にはない。
関東地域では、熱損失係数(Q値)が2.7Wが最高値。
京都議定書が策定されたのは1997年。
次世代省エネ基準はその2年後の1999年に制定されたから、多くの人は次世代省エネ基準を守っておれば家庭部門で6%の省エネが図られるものと勘違いしている。
次世代省エネ基準は、京都議定書の完全実施を前提に決められたものではない。
そろそろ改定期なので変えねばならない。
そこで、当時もっとも進んでいたR-2000住宅の基準の1.4Wと、それまでの新省エネ基準の4.0Wの間をとって、「エイ、ヤーッ」と2.7Wと決めたのが次世代省エネ基準なのだと思う。

ヨーロッパでは昨年1月31日のEU議会で、「2011年までに、EU圏では住宅に限らずすべての新築建築物は、パッシブハウスを基準にするように義務化する」 という提案がなされた。
このパッシブハウス基準の熱損失係数(Q値)は、おおよそだが0.7Wと考えてよい。
関東地域の2.7Wの約1/4という厳しい基準。
したがって、そこまではゆかなくても、関東地域ではR-2000住宅の1.4Wにすべき。
これでもパッシブハウスの2倍という数値。
民主党が本気に2020年までに、1990年比で25%のCO2の削減を図ろうと考えるのなら、何はさておいてもこのR-2000住宅の1.4Wを、新築するすべての建築に義務化する法案を用意すべき。そこまで踏み込まないと、25%の削減は覚束ない。
その法案を成立させる覚悟もないくせに、対外的に甘言をたれ流している姿は、決して褒められたものではない。

今年から省エネ基準が変わった。
坂本先生を中心とした学者や識者は、当初は次のように考えていたと思う。
今の熱損失係数では、世界の大きな潮流には合わなくなってきている。
だからといって、いきなりR-2000の基準にするには抵抗が大きすぎる。そこで、誘導値として北海道など寒冷地のT、U地域は1.6Wを1.3Wにし、V、W地域は2.7Wを1.9Wにする。
それと同時に、新省エネ基準(等級3)を絶対に守るべき最低基準として義務化してゆく。
というものであった、と推測する。
これは、いたって穏便な考え方。
個人的には大いに不満があったが、一歩前進と考えていた。

ところが、この穏便な基準がネグレクトされてしまった。
あくまでも憶測だが、ネグレクトに回ったのは2グループ。
1つは鉄骨プレハブの大手メーカー。
とくに鉄骨プレハブ各社は、現在の2.7Wでさえフウフウ言っている。
そして、ほとんどの住宅メーカーの技術者は 「ダイワハウスの外断熱ほどのまがいものは見たことがない」 と異口同音になじっている。
日本の鉄骨プレハブメーカーの言う省エネ化は、肝心の外皮性能向上には頬かむりをして、太陽光発電と燃料電池の採用で逃げようと画策している。
つまり、外皮の熱損失係数(Q値)の1.9Wは、何としても避けたかった。
そこで、もう1つの守旧派グループである全建総連に働きかけ、「このままでは等級3が義務化されてしまう。一緒になって新基準廃止を働きかけましょう」 と呼びかけたのだと思う。
こうして、自民党政権下の今年の省エネ基準改正は、住宅局の官僚主導で 「大山鳴動ネズミ一匹」 に終わった。
ただ、予定されていた1.3Wと1.9Wの基準値は、年間150棟以上の大手分譲住宅業者約100社に対する省エネ義務として課せられた。
当然すぎる報いである。

R-2000住宅が導入された当初は、サッシや換気システム、断熱・気密システムが揃っていなかったので、坪単価は高いものについた。しかし、数年もしたらサッシなどが揃い、次世代省エネ住宅に比べると坪数万円以内の差で施工出来るようになった。大手のプレハブ各社の受注価格で、2倍から3倍の性能を持ったR-2000住宅が全国的に供給出来るようになってきた。
こうして、R-2000住宅に特化した地域のツーバィフォービルダーは大きく成長することができた。
彼等は、かなりの低価格でQ値が1.4Wの住宅を提供している。
これに対して、軸組専用の内地ビルダーで、コンスタントに1.4Wを切る商品を提供している会社を探すのは難しい。時折、高性能住宅もやっていますという企業がいるだけ。
あの鎌田先生のQ-1グループも、北海道では多くのビルダーが文字通りQ値1.0W以下の住宅を提供した経験を持っている。
しかし、私が今年の春に訪ねた関東地域のビルダーが提供していたQ1住宅の実態値は2.0W前後のものが多かった。東北や中部のビルダーの実態は分からないが・・・。
正直言って、「この性能でQ1と言うのは羊頭狗肉ではないか」 と、信頼感が一気に薄れたのは事実。消費者に対して、紛らわしいことを言ったのでは一時的に伸びることがあっても、賢明な消費者からは見離される。

私の脳には、「Q値が1.4W以下のものを高気密高断熱住宅と呼ぶのはペテンである」 という刷り込みがなされている。したがって、どんなにデザインが綺麗であれ、機能がフル装備されていても、反射的に受け付けない。
家の中に温度差のある住宅は、未来派住宅とは絶対に呼べない。
2020年までにCO2を25%削減し、2050年までに80%を削減する住宅の最低条件は、換気を含めた外皮の性能が関東以西でも0.8W〜1.0Wであるべき。誰が考計算しても結論はそうなるはず。
この条件から大きく外れたQ値2.7W住宅を、「長期優良住宅」 と国交省が呼ぶことそのものがナンセンス。
せめて北海道のように1.3W以下であるべき。

こうした省エネ面のほかに、木軸で気になるのは耐震性。
神戸と中越の直下型地震の現場を目撃して思想が変わった。
とくに震度7で、2500ガルを越えていた中越の川口町の激震地の被害は想像を絶していた。倒壊率が90%を越えていた田麦山と武道窪では、面材を使用していない木軸のほとんどが、直下型の強烈ガルによって倒壊した。
面材を使っていて倒壊を免れたものであっても、ホールダン金物が裂傷したり、外部開口部周りには軒並み亀裂が入っていた。

P1010853.JPG

上の写真のように、木軸では柱から柱へ合板とボードを張る。
そして、間には端材を張る。
間柱は、ボードのクギ止めのためのもので、見付け寸法が1寸もないものが多い。この張り方では、開口部周りのボード継ぎ目から亀裂が入る。
これに対して、ツーバィフォーは合板もボードも開口部周りはコ型に切り抜く。つまり、柱から455mmずれた見付け寸法38mmの間柱のところから合板やボードを張り出す。このため、開口部周りに亀裂が入らない。
これは、非常に重要なポイント。
なぜなら、開口部周りで亀裂が入るということは、その部分のボードを張り替えたにしても、住宅の気密性がガクンと落ちているから。
家が倒壊しなくても、外部の騒音が入り、花粉やチリ、湿気が入ってくる。

P1010854.JPG

最近の、剛金物を使った木軸では、柱や梁の捻れが少ない。
しかし、羽子板ボルトを使った木軸は、直下型の地震に遭遇した場合は、捻れから気密性が損なわれる。
日本の伝統的な大貫工法を中心とする木軸工法は、基本的に捻れを認め、隙間を容認するものであった。
しかし、省エネ性が最大のテーマになって、断熱と共に気密性能がもっとも重要性能としてクローズアップされてきた。
直下型地震に遭っても、強烈な台風に遭っても、捻れが少なくて気密性が損失しない木軸を採用してゆくことこそが、地場ビルダーの最大の仕事となってきている。

激震地の川口町に建てられていた渡部建築のスーパーウォールは、一戸も倒壊しなかった。しかし、残念ながら気密性能は大きく落ちた。
今まで、想像していなかった気密性の劣化現象が、大問題として浮上。
気密性能が落ちてすきま風が入る住宅を、100年住宅と呼べようか?

川口町のような強烈な直下型地震が、日本全国を襲うことはあるまい。
しかし、直下型地震が避けられないと言われている東京。
ここで耐震2等級の住宅を建てて、「長期優良住宅だ」 と空威張りし、浮かれているわけにはゆかない。
省エネ性に優れ、3等級以上の耐震性があり、木造ダイヤフラム理論に忠実で、気密性能が劣化しない住宅づくり。
非常に大変な仕事だが、その条件が満たされていない住宅を見ると、偏屈者は静かに泣きたくなってくる・・・。


posted by unohideo at 09:20| Comment(1) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
最近ダイワハウスで家を建てたものです。
「ほとんどの住宅メーカーの技術者は、ダイワハウスの外断熱ほどのまがいものは見たことがない、と異口同音になじっている」に関してですが、これは厚みが1.2cmしかなくて大した断熱効果が期待できないという意味なのでしょうか。それなら良いのですが、それ以外に何か問題がある(と彼らが主張している)のでしょうか。
Posted by at 2009年10月09日 23:19
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