2009年11月15日

ジャパンホームショーのU値0.9Wのサッシと1.4Wの天窓



正直なところ、最近の建築・建材界のホームショーは面白くなかった。
画期的な省エネ性能を持った資材、部品、設備の展示がない。
ありふれた商品を、部分的にデザインを変更し、改良したものばかり。
どうしても採用してみたいと気をそそられるものがなかった。

ところが、11日から13日までのジャパンホームショー2009には、外国系の展示ブースに何点か、これはというものがあった。
その中で、ひときわ目についたのがガデリウス社のU値が0.9Wのサッシ。
アルミクラッド付きのウッドサッシ。
同社の今までのトリプルサッシのU値は1.2W。
これは、昨年まで日本で入手出来る最高クラスのサッシ。
今年の夏から北海道では道産の0.8Wのサッシが入手出来るようになったが、まだまだ全国区とは言いかねる。

同じトリプルで1.2Wが0.9Wになった理由は、今まではトリプルガラスの一方にしかLow-Eとアルゴンガスが施されていなかったものが、両方のガラスに施されるようになったため。
さらに、外側のガラスの表面に光触媒のコーテングが施されているので、掃除をしなくても雨水で自動的にクリーニングされる。
したがって外側から順に列記すれば下記のようになる。

光触媒コーテング4mmガラスLow-E + アルゴンガス12mm + フロートガラス4mm+ アルゴンガス12mm + 耐熱ガラス5mm

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サッシの形状は、(1) 回転窓 (2) FIX (3) テラスドア (4) 片引き戸の4種類。
残念ながらブラインド付きのドレーキップ窓はない。
問題は価格。
国内での在庫価格は0812の回転窓で116,000円。
決して安くはないが、驚くほどの価格ではない。
そして、特筆すべきは回転窓6、FIX3、テラスドア2が防火認定をとっていること。
したがって、準防火地域でも直ぐに使える。だが、価格が50%も割高となり、0812の回転窓で174,000円となる。
販売を開始したばかりで在庫はこれから。したがって当面は発注してから納入までに3ヶ月余はかかるという。
問題はいろいろあるが、日本のマーケットに1.0Wを切るサッシが初めて登場してきたことの意義の大きさを、噛みしめたい。

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それとガデリウスのブーツで、熱回収率83%のロータリー式熱交換機とヒートポンプ式換気・暖房・給湯システムが目についた。
ロータリー式熱交は今年の春にネットフォーラムで紹介したもの。フィンがアルミで寿命は長いが、臭いの移転がどの程度なのかがはっきりしない。仲間のビルダーが試験採用するので、その経験値を聞いて判断するしかない。
また、ヒートポンプ式換気・貯湯システムは暖房用と給湯用を兼ねていて、システムとして面白いが、給湯のキャパシティが160リッターと小さいので、オーストリアのドレクセル社製品と同様に、日本では使えない。

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その次ぎに面白かったのは、ポーランドFAKRO社製の天窓。
種類としては写真のような片開きの外に回転、押出し、FIXなどがあるが、U値が1.4Wというのが気に入った。
日本へは初進出という。したがって日本の連絡先が出展社名簿にも書かれていない。
価格を含めて関心のある方は、下記URLからアクセスしていただくしかない。

http://www.fakro.com

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次はドイツのHAHN社製のペアーガラスのルーバー。
住宅用ではなく、ビルとか工場が主な対象だと思う。
聞いてみたらU値が1.3Wから1.4Wという。
しかし、ルーバーだから気密性が悪そう。
どの程度かを聞いてみたらドイツの基準で3等級という。これでは意味が分からない。
ただ、初めて見る商品に意表を突かれたのは事実。

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このように、ヨーロッパ系のブースからは性能値の高い面白い提案があった。
これに対して北米系は全然進歩の跡が見られない。
マービンのブースには相変わらずペアサッシしか置いてない。
カナダのプリメーラ社のブースには、上の写真のようなPVCの新しい型材の断面が揃えられていた。
ドイツに比べると性能は悪いが、日本のものよりは優れている。そこで、「この中の一番優れた型材だとU値はどれくらいになるのか」 を聞いてみた。
中年の日本人技術者は 「どれも2.3W。良い数値でしょう」 とトンチンカンな返事。
アルプラと同じ数値には魅力の「み」もない。
北米のサッシ屋は、日本以上に不勉強。

このほかに、個人的に面白く感じた商品が2、3あったが省略して、1つの講演会とセミナーに限って紹介させていただく。

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1つは特設会場Bで行われた稲山正弘氏の「ここまでできる木造建築」と題した講演会。
稲山氏は、東大建築卒で、ミサワに勤務したあと坂本功研究室で6年間木構造の研究を行っている。
そして、稲山設計事務所を19年前に主宰して、いろんな木質の構造体の開発を手がけている。
現在は東大農学部の准教授。

http://www.inayama.net/sub2.html

上のURLを開いてもらえば一目のように、◆貫+木栓ラーメン ◆Iビーム式木造ラーメン ◆相欠き平面トラス ◆面格子 ◆木造立体トラス ◆卍固め ◆支点桁屋根 ◆ストレスキンパネル・面材張り折板屋根 etc.と、かぎりなく続く。
言うならば、新しい構造体の開発マニア。
事実、12年前から先生が先頭になって、学生などに働きかけ「木造耐力壁ジャパンカップ」なるものを毎年主催している。
3尺幅の耐力壁と耐力壁が互いに引っ張りあって、どちらが強いかを競う遊び。

先生の頭の中には、日本の施主やビルダー、大工さんのために、より優れた木構造を開発・解析し、それを普及させることによって世の中に貢献してゆこうなどという発想は、ないようだ。
新しい、珍しい構造体を開発し、自分の事務所に設計依頼が舞い込み、社会的に有名になりたいという願望が、話の端々に顔を覗かせる。
大先輩の杉山英男先生のように、1人になっても木質構造を守り抜き、社会的な責任を果たしてゆこうとする決意を求めるなどは、ないものねだり。
それと、杉山先生が口癖のように言われていたことがある。
「構造は、いくらコンピューターでシミュレーションしてもダメ。神戸では大型のSRC造が見事にやられていた。コンピューター崇拝主義の敗北だった。やはり、実物大で試験をやってみないと、木質構造の安全性は絶対に担保されない」
この言葉が、無視されているようで気になる。

とは言え、伊藤豊雄氏が大好きな自分としては、常に新しい構造体つくりにトライしてくれている稲山氏の発想の新しさ、面白さは、ネットの写真を見るまでもなく十二分に楽しんでいる。
木構造の可能性を拡げている努力には感動する。
しかし反面、「ここまでできる木造建築」と感心するよりは、マニアックな技術だけにとらわれすぎ、ダイナミックな行動力を喪失し、「こんなところでモタモタしている木造建築」というような印象の方がより強く感じられ、哀しい気持ちにもさせられた。

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最後は、日経BP主催の「住宅履歴情報(家カルテ)の重要さとその普及」という内容の、明海大中城恭彦・斉藤広子教授と全建連青木宏之会長という住宅履歴検討委員会のメンバーによるセミナー。
国交省の言うように、長期優良住宅が本当に200年の寿命があるとしたら、新築時の設計図書一式と、途中でのリフォーム履歴の図書一式をまとめて保存しておくことは絶対に必要。
私の知っている多くの施主は、渡した図書一式をきちんと保存してくれている。
それがないと、アフターがうまくゆかず、売る時に高く売れない。
ビルダーも同じ設計図書一式の保管が不可欠。ただ、分厚い設計図書と契約書の保管場所が一杯になり、かつてはかなり苦労させられた。
しかし、現在ではCD保存が出来るので、場所はそれほどとらない。
ただ、ビルダーとして施主の家のカルテを保存するのは、せいぜい20年から40年。
このため施主個人とは別に、情報センターという第三者の天下り機関で保存しようという動きが出てきている。
その動きを側面援助しょうという内容のセミナー。

話を聞いていて、ちっとも新規性がない。
たしかに、病状のカルテや投薬記録も大事。だが、より大切なのは住宅の耐震性能と防火性能、そして何よりも省エネ性能の評価記録。
つまり、その住宅がどれだけ健康であるかという性能診断書。
症状カルテの前に、耐震性能とか年間必要燃費を正確に表示する制度を、EUのように義務的に構築するのかという議論の方が先き。
その根本を抜きにした議論を聞いているうちに草臥れ、途中でトンズラしてしまった。
日経ホームビルダーがつまらない理由が、こんなところにある。


posted by unohideo at 09:39| Comment(0) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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