2010年01月15日

悪魔の囁き、地球温暖化・大惨事のシナリオ!



グウィン・ダイヤー著「地球温暖化戦争」(新潮社 2000円+税)

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この本は、狡いというか、悪辣というか。悪魔の囁きそのもの・・・。
多くの科学者が、今までに書いてきた地球温暖化に対する警告は、理論的で、人々の良心に訴え、反省を促すものだった。
ところが、著者はカナダだけでなくイギリス、アメリカ海軍に在籍していた経験を持つ軍事アナリストでありジャーナリスト。
温暖化がもたらす危機を理論的に単なる社会問題として捉えるのではなく、人種問題、階層問題、国家間の紛争問題としてとらえている。
つまり、温暖化問題は国家間の戦争を呼び起こすと、沈静冷酷な目で予見している。

この本を読む前に、この本の書評を3つばかり読んだ。どの書評も、この本の持つ画期的な意義を正しく把握し、紹介していなかったので、買い損ねるところだった。一般紙誌の書評がこれほど信頼出来ないとは・・・。
内容はかなり専門的。
気候学に対する代表的な著書を数冊読み、基本知識がないと理解が難しい。最低条件として、ゴア著「私たちの挑戦」は読んでおく必要がある。
この本を書くために、著者は100人以上の専門家を取材し、代表的な20の文献からの引用許可も得ている。
その上で、誰にでも分かる6つのシナリオを描いている。

2019年 ロシア
2029年 アメリカ合衆国
2036年 北インド
2042年 中国
2045年 世界
2175年 世界

この6の中から、2019年のロシア、2029年のアメリカ、2036年の北インド、2045年の世界の、4つのシナリオだけを簡単に紹介する。

◆2019年 ロシア
北極海の氷の溶解テンポが加速化するにつれて、漁業と海底の石油、天然ガスに対する各国のゴールドラッシュ現象が顕著になってきた。
ロシア、アメリカ、カナダ、デンマーク、ノルウェーが、国際海洋法に基づいて大陸棚の申請を2014年までに提出しなければならなかった。
その時「スピッツベルゲン事変」が起こった。ノルウェー側が主張する海域にロシアの漁船団が強行侵入を試み、ノルウェー哨戒艇に阻まれ、ロシア側に死者が出た。
これが「冷たい戦争」の始まりだった。

◆2029年 アメリカ
メキシコとの境界のアリゾナ砂漠に、金網塀が昔から張りめぐらされていた。その金網網を抜けて21世紀初頭までは年間200万人程度が黙認されて越境し、アメリカの農場で働いていた。
しかし、地球の平均温度の上昇により、気候学者が予想していたようにメキシコから南コスタリカに至る農業地帯は、2020年までに砂塵が舞う場所へ様変わり。
メキシコシティは難民を加えて人口が2700万人にふくれあがったが、アメリカやカナダからの食料輸入がストップし、中央政府は機能不全に陥った。
そうした難民の越境を阻止するためテキサスからカリフォルニアに至る3000kmに亘って金網が補強されてピック・フェンスとなった。地雷を埋設し、自動火器装置によって誰1人として突破出来ないように変えられた。もちろん哨戒艇と哨戒機により洋上警備も厳重になされ、破壊力を増したハリケーンによってキューバ、ハイチ、ドミニカなどからの気候難民の北米への上陸も、完全に遮断された。
これに要したコストは2016年換算で25兆円に達し、それに伴う人的、政治的コストはこの数字をはるかに上回っていた。

◆2036年 北インド
ヒマラヤの氷河が溶けたことにより、一時は洪水に悩まされたが、インダス、ガンジス、プラマプトラ等の河川はやがて夏期の旱魃に見舞われ、インド、パキスタンとも自国民を食べさすことが出来なくなっていた。
とくにパキスタンは1951年には3400万人だった人口が2010年には1.7億人と数倍に増え、インダス水系の水は一滴残らず使っていた。河川の涸渇化を予想して政府は堰やダムをつくり最善の努力をしたが、水量の減少に為す術がなかった。2036年に6度目の軍事クーデターが起こり、下層青年将校が実権を握った。そして、国民の支持が薄くなるのを防ぐため、インドに対して河川水を全部パキスタンへ渡すように求め、カシミールのインド地域にゲリラを派遣してサトレジ河の巨大ダムを襲撃し、発電所のタービンを数ヶ月も稼働不能に陥らせた。
これに対してインドは複数の機械部隊をパキスタン国境にはりつけた。インドの戦車や砲兵隊の国境越えを防ぐには、パキスタンは国境沿いの運河に水を張る必要があると読んだから。インドは国境を越えるつもりはなかった。パキスタンの水事情を更に深刻化させ、弱体化させるのが目的。パキスタンが運河に水を張るまではインドの筋書き通りに事は運んだ。
ところが、追いつめられたパキスタンのクーデター政権は、インドに対してまさかの核爆弾を投下した。これに呼応してインドからパキスタンへの集中核攻撃が行われた。
開戦6日にして射程距離の長い兵器が底を尽き、事実上の停戦になった。この戦火と停戦1ヶ月の間に被爆で亡くなった人を合わせると、死者は4億から5億人に達した。

◆2045年 世界
2036年、EUは解体した。
南の加盟国から北の加盟国を目指す大量移住民の圧力に、北が耐えられなくなったから。そして、ベネルクス3国、フランス、ドイツ、スカンジナビア、ポーランドで「北部同盟」を構成し、国境封鎖をなんとか成功させた。
イタリアには北アフリカから大量の難民が雪崩れ込んで、ローマ以南が占拠され、国家そのものが解体した。イタリア北部、スペイン、トルコは北部同盟に核兵器を突きつけ、食い物をシェアしろと迫ったが、ほとんど成功しなかった。
イギリスは国民総動員で食料の自給を実現し、大陸と縁を切り、増強した核の報復力を盾に、島国に立て籠もった。
気候変動で、食料面で一番得をしたのがロシア。だが、中国との国境地域が新たな脅威になろうとしていた。
中国は何とか30年までに2度に亘る大内乱を乗り越えていた。だが華北平原の降雨量は減少、主要河川の消滅もあって人口は8億人に減った。だが、人民を食べさせてゆくことは不可能に。そこでロシアへの越境が始まろうとしていた。
そして日本は、イギリスと同様に大陸とは縁を切り、ハリネズミのように核兵器を拡げて、比較的繁栄した島国として生きていた。
アラビア・イスラム社会は人口が1/4に激減し、アフリカも急減、ラテンアメリカではブラジルとアルゼンチンだけが食料自給を維持している。

人為起源のCO2の発生量は2032年に1990年比で47%を上回るまで上昇した。
しかし、石油の供給量が低下したことと中国の内戦が主因でCO2は減少に転じた。
だが、カナダ、米アラスカ、シベリアにある永久凍土の解体により発生したメタン及びCO2の排出量は、人類の懸命な削減努力を上回り、温室効果ガスの総量は現在も急増中。
21世紀末の地球の平均気温は1990年比で8℃ないしは9℃上昇すると見込まれている。


今まで、分かっていても誰も書かなかった地球温暖化がもたらす大惨事のシナリオ。
そのタブーに挑んだ、ある意味では非常に狡い筆法。
しかし、この本によって、今まで観念的にしか分かっていなかった悲劇が、現実味を帯びてグングン迫ってくる。
人類が今まで経験したことのない温暖化という未知な出来事。
したがって、具体的にその被害内容や「450ppmを越えると大変なことになる」と言われても、その大変さが想像出来なかった。
賢明な皆さんはそうではなかったのだろうが、私はこんなシナリオを無想だにしてこなかった。
そして、余命の少ない老人は、諦めとともにこの現実を受け容れることが出来ようが、青年や少年、幼児はこの現実をそのまま受け容れられるだろうか。
未来に対する一切の希望を放棄出来るだろうか。
生き延びることだけが唯一の希望だという社会。
先の第二次世界大戦時よりは、もっと悪い条件の世界。それを避けるために今、若い世代の奮起のお手伝いをすべきなのではなかろうか。

断っておく。
著者は決していい加減な気持ちや態度で筆を執ってはいない。
実によく取材をしている。
そして、最初に書いたようにきちんとした専門書で、内容は示唆に満ちている。
ゴア氏の記述にはなかったバイオ燃料としての藻の果たす大きな役割や、大気中からCO2を除去する数々の素晴らしいアイディアにも触れている。
温暖化に対する反対意見も、きちんと紹介していて、大変勉強になる。
なのに、この本を読んでいて胸が疼いてならなかった。
そして、「なぜもっと早く省エネ住宅運動を、本気になって起こさなかったのか」という悔恨と反省に苛まされた。

ネット上では絶対に得られないインパクト。
どうか、1人でも多くの人が、この著書とゴア氏の「私たちの選択」を読まれ、まず情報発信という行動から開始されることを祈念します。


posted by unohideo at 06:16| Comment(0) | CO2と環境 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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