2010年01月10日

一条工務店は住宅業界の「ユニクロ」になり得るか?




三井ホームの実質的な創業者であった元岡田徳太郎副社長。
「三井グループが住宅産業にエントリーするなら、ツーバイフォーに限りますよ」 と焚きつけた1人として爾来40年間、いろいろ薫陶を受けてきた。
80才の大台を超えられたが、未だに好奇心が旺盛で、三井物産やトヨタホームの顧問として、電車で飛び回っているから、すごい。

その岡田氏が、昨年暮れにつぶやくように言った。
「いや・・・。ユニクロはすごいね。完全に一人勝ち。物産の繊維関係者は勝負にならないとこぼしている。住宅業界にユニクロのような企業が誕生してくる可能性はあるのだろうか?」
まず無理だろうと思ったが、私はとっさに答えていた。
「もしかしたら一条工務店に、唯一可能性があります」 と。
私の 「一条工務店のユニクロ説」 に対して、まともな考えだと興味を示す人は、まずは居ない。
「何を、寝言を言っているか・・・」 と一瞥されるのがオチ。
しかし、岡田氏は私が列挙する理由をじっと聞いて、「なるほど」 と肯いた。
決して賛意を表したわけではないが、「それはおかしい」 とは言わなかった最初の人である。

私が一条工務店に関心を持ったのは4年前、同社がダイキン工業に対して熱回収率90%の全熱交換機を、仕様書発注をするかもしれないと聞いた時。
一条工務店というのは、それまでアンチ・ダクト派。
それが、いきなり全熱で90%の熱回収率を求めているという。
社内のアンチ・ダクト派を説得するためには、ダクトシステムには問題がないということを立証しなければならない。
そこで、「築10年程度のセントラル空調換気システムの家で、ダクト内の細菌を蒐集して試験を行いたい。該当する施主を紹介して欲しい」 とダイキンの課長から頼まれた。
築10年というと、スパイラル・ダクトに切り替えた初期のもの。
そこで、八千代市のS邸を紹介した。

外気の吸気口から熱交換機までのダクトと、排気ダクトの中は薄くホコリの膜があるのは事実。
しかし、問題は熱交換機からの給気側のダクト内部。
今までも、何回となく解体中のモデルハウスのダクトを調査してきているので、問題は皆無だと確信していた。
しかし、日本食品分析センターで、正式にカビフローラ検査を行ってもらうという。
いささか心配になったが、結果は日本の家屋に多い5種類のカビが、いずれもダクト内で見つからなかったという嬉しい報告書が提出された。

その次ぎに、一条工務店について新発見があったのは3年前。ダイキンから 「一条の幕張展示場に新しい熱交(一条はロスガード90と命名)が取り付いたので、内々の披露を行うから参加しないか」 との誘いがあった時。
新しい熱交その物は、一条の了承のもとに3台使わせていただくことになっていたから珍しくは感じなかった。ただ、ダイキンが製作したのは熱交本体だけで、各室への分配ユニットは一条が独自に開発したと聞いて驚いた。1立方メートル単位で調整出来るという。
さらに驚いたのは、同社はPVCサッシだけではなく、ダブルハニカムのスクリーンもアメリカから技術を導入して、自社で生産しているという。
それだけではない。なんと真空断熱材まで自社生産しており、浴槽に使っていると聞いて、同社に対する印象が一変した。

かくて、一昨年、昨年の2年間に、一条工務店は延べ1万台の 「ロスガード90」 をダイキンに発注している。
このような画期的な新商品を、住宅メーカーの責任で大胆に仕様書発注するというニュースは、最近ほとんど耳にしていない。30年前までは、大手住宅メーカーによるサッシなどの部品や設備の仕様書発注はあった。しかし最近は、仕様書発注力はとみに低下してきている。
それだけに、一条工務店の仕様書発注は、目立つ出来事だった。

その一条工務店が、昨年早々に札幌・手稲の新街区にi-cubeの体験棟を完成させた。
Q値がなんと0.76Wで、50坪の住宅の販売価格が坪53万円。
北海道住宅通信の野島氏に 「本当?」 と聞いたら 「間違いない。床暖房やロスガードなどの設備込みの価格」 との返事。
これは是非とも見学しなければならない。
i-cube開発に関する中心的な技術屋さんから、「宿泊体験しても良いですよ」 との返事をいただいた。
そこで、「宿泊体験は私だけとして、内地の仲間や札幌の仲間も見学に加えてもらえないか」 と無理なお願いをしたら、OKとのこと。ただ、あまりにも火急な1泊2日のスケジュールのために、内地からの参加者が2人だけだったのが残念。
この詳細は、この欄のカテゴリから(住宅メーカー)を開いていただくと、「一条の挑戦」 と題して09年4月15日、20日、25日の3回に亘って掲載しているので、参照して頂きたい。

この宿泊体験で私が得た最大の成果は、一条工務店という会社は他の住宅メーカーとは考え方の根本が違うということを発見出来たこと。
ほとんどの住宅メーカーは、アウトソーシングと美名のもとで、極端なことを言えば営業と経理関係以外は外注に依存してきている。設計とか現場監理という技術者の採用は、営業がらみ以外は極力抑えてきている。
「仕事さえ取れれば、後は何とでもなる」 という発想。
これに対して一条は、現場で材工込みで15万円以上かかる部品や設備を全て内製化してきている。
先にあげたPVCサッシ、ダブルハニカム、真空断熱材だけではない。システムキッチン、システムバス、厨房セット、洗面セット、下足セット、出窓セット、本箱セット、サウナユニット、ホームシアターセット、和紙でつくる畳表から畳、ドア、ケーシングなどの造作材、構造材の全てをフィリッピンの工場で自社生産している。

そして、一条工務店はフィリッピン工場のことを、ホームページでも社内の広報関係の図書類でも、全く触れていない。会社四季報にも載っていない。
私だったら、自慢げにフィリッピン工場の大きさやその設備内容の凄さをPRするであろう。しかし、同社は沈黙したまま。
したがって、ほとんどの住宅関係者は、私を含めてフィリッピンに工場があることは知っているが、その規模がどれくらいのものなのかは知らない。
そこで、「フィリッピン工場の敷地はどれくらいなのですか」 と聞いてみた。
「はっきりした数字は忘れましたが、車でないと移動できないことは事実です」 と体よく逃げられてしまった。

ともかく、原木を置く大きなストックヤードから、製材工場、乾燥工場、防蟻処理工場、各種木製品加工工場、サッシや真空断熱材、ダブルハニカムなどの加工工場が延々と続いているらしい。
そのほかに、開発部が同工場内にあって、いくつかの試験棟や実験施設も持っているらしい。
さらには、かなり厖大な数のフィリッピンの若いエンジニアを擁していて、全国の営業担当者から上がってくる要望を、その日のうちにCAD化しているらしい。
なにしろ、フィリッピン工場の写真すら見せてもらえないので、想像をたくましくする以外に手段がない。

ただ、私が札幌・手稲の宿泊体験棟で直感したのは、i-cubeは同社にとって内製化の究極的な姿だということ。
つまり、今までは如何にプレカット化しても、現場で大工さんに依存しないと家が完成しなかった。このため、部品や部材がいくら安くなっても、価格的にはそれほどメリットが示せなかった。
ところが、i-cubeという206と210材を使って工場でほぼ完成化し、建て方は現場で1日で済むようになった。
その結果、Q値0.76Wという性能住宅を50坪で、坪53万円で売って十分な利益が確保出来る見通しを得たのだと思う。
つまり、ユニクロのように新しい性能を、専門工場に作らせることによって価格競争力をつけてきている。タマホームにはイノベーションらしきものが見られなかった。しかし、一条工務店はイノベーションを行っている。だから怖い。

一条工務店という会社は、テレビや新聞などの媒体を使って華々しくPRをする会社ではない。全国に330ヶ所あるモデルハウスを使って、徐々に、確実に前進を続ける会社。
そのため、i-cubeの普及には、モデルハウスの建て替えが大前提にならざるを得ない。
そのモデルハウスが地元に建てられていないから、地場のビルダーに現時点では切迫感が見られない。
だが、やっと昨年の後半から建て替えのピッチが上がってきているようだ。
ユニクロほど華々しくはないが、一条こそが地場ビルダーにとって最大の強敵になる。

日本の住宅を大きく変えるものは、ドイツのパッシブハウスではなく、間違いなくi-cube。
i-cubeが伸びることで、日本の住宅が一新する。
地場ビルダーも、否応なしに本格的なイノベーションが迫られてくる。
i-cubeに対等に戦える武器を、今のうちに地場ビルダーは準備し、装備しなければならない。やる気になれば、大変に苦しいけれども準備は可能になりつつある。
札幌の3-0-3のメンバーは、いち早く取り組んでいるが、全国的にはノホホンとしている。
しかし、ノホホンとして居られるのも、今年の前半までだと考えた方が良いようですよ・・・。


なお、一条工務店は杉山英男先生の業績保護活動でも素晴らしい働きを行っています。この件については、別の機会に報告したいと考えます。



posted by unohideo at 10:53| Comment(2) | 住宅メーカー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年04月25日

一条工務店の挑戦状 ・ グローバル化の対抗策(下)



自分の経済知識のいい加減さに、我ながら呆れた。
GDPでは日本は2位。
1人当たりGDPでは北欧各国や産油国に抜かれて22位になったということは知っていた。だが、アジアではトップだと思っていた。
ところがシンガポールに抜かれて2位。
そのあとを香港、韓国、台湾、マレーシアが続く。

そして、いろんな政情不安はあったが、早くから民主化されていたフィリピンがそのすぐ後を追っていると考えていた。
ところが、資料を漁ってみると中国、タイ、インドネシアよりもフィリピンの1人当たりのGDPが下回っている。
多くの企業が安い賃金を求めて中国に進出した。そして、中国でのマーケット開拓に自信のない企業は、中国の賃金高騰からさらに安いベトナムなどへ逃避を始めている。
しかし、フィリピンへの移転は聞かない。

フィリピンは大小7000余の島からなる島国。人口は約8800万人。農林水産業に従事している人口が37%。
外国からの投資も少なく工業化が遅れている。1人当たりGDPは10年前に中国に抜かれ、やがてインドにも抜かれるであろう。フィリピンに行ったことがないので、それ以上の細かい実態は不明。
そのフィリピンに、一条工務店が何万坪かの土地を取得し、木材の製材から乾燥、加工、防蟻処理に至る一貫工場をはじめ、各種の建材、住宅部品や設備機器を内製化していることは書いた通り。
「工場は何万坪あるのですか」と聞いたら、「さあ。なにしろ車でないと工場内を移動することが出来ません・・・」との返事。良くわからないが、3万坪以上はありそう。
こうした工場のほかに、日本からの派遣社員の住宅や食堂、福祉施設、更にはフィリピン労働者用の食堂や福祉施設などもある

一条は上場していない。
非上場企業の会社四季報に800社の中の1社として一条のことが取り上げられているが、スペースが1/4ページと小さく、とおり一遍の情報しか掲載されていない。
フィリピンの何島の何市に、どれだけの規模の工場を持っているのかが分からない。同社のホームページを見ても、海外に工場を持っていることすら触れてない。
一時、工場の設備管理者を募集していた時、勤務先がフィリピンとあったのが唯一。
完全にお手上げ状態。
関心のある向きは、帝国データバンクから有料で資料を取り寄せて頂くしかない。

中国に比べて1人当たりGDPが70%くらいということは、それだけ貧しく、労賃が安いということだと思う。
それなのに、日本からの企業進出の話題をあまり聞かない。
良くわからないが、一条工務店はフィリピンにとっては最良の安定した職場の一つであり、憧れをもって迎えられているのだと推測する。
このように、競合企業が少なく、勤勉な労働力が簡単に、しかも安く得られるところから、同社は日本の企業から建材、部品、設備機器を仕入れるよりも、フィリピン工場で内製化した方が、はるかに安く入手出来ることを発見した。
それが、樹脂サッシから真空断熱材に至るまでの幅広い内製化になった。

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ダイキンに仕様書発注した90%熱回収の全熱交換。分配器は1m3単位でコントロール出来るものを自社開発。

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フィンランド式サウナユニット。18万円でオプション。

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主寝室の書棚付き出窓ユニット。ドアを閉めるとカーテン変わりに。

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拡声器を内包した大スクリーンユニット。19万円でオプション。

しかし、こうした建材、部品、設備機器の内製化だけでは、大手プレハブ各社に対して10%程度しか販価を下げることが出来なかった。地場ビルダー比10%高というところか・・・。
何しろ同社は全国に330ヶ所の展示場を持っている。展示場が多いということは営業マンの数も多いということ。
つまり売上げでは7番目なのに展示場の数が3番目ということは、営業にかかる固定経費が大きい。テレビや新聞などでの宣伝よりも、展示場で実物を見てもらう方が実質的な宣伝になり、効率的だと考えているのであろう。
ただ、このPR力の乏しさが同社を目立たなくしている。

そして、今までは木軸のプレカットが主力。
たしかに、同社の免震工法は、ダントツの実績を誇っているだけに、現場を見ていると楽しい。
しかし木構造は、進んだ他社の木軸壁工法に比べて筋違いなどを多用し、北側に4寸の柱が多く、工法的にはあまり感心出来ない。床のプラットフォーム化も遅れている。
現在の古めかしい木軸によるプレカットを前提にしていたのでは、工場生産化率に自ずと限界がある。
つまり、日本の高い大工さんに依存する部分が多すぎる。
したがって、同社の価格はそれほど高くはないが、決して安くはなかった。

しかし、i-cubeは構造体を一変させた。
外壁に206を使い、二階床や天井根太には210を使う枠組み壁工法。
これは、単に工法の変身を意味しているだけではない。
プレハブ化率を飛躍的に高めたという点に注目すべき。
つまり、断熱材を圧縮充填し、下地の構造用合板を張り、外断熱を取り付け、通気防水シートを施工し、サッシを取り付け、縦胴縁を入れて外装仕上げまで行う。
壁内に配線・配管を行って、内壁下地の石膏ボードを施工する。
壁として一体化するために、一部は現場施工となるが、幅3メートルまでの完全なパネル化をなし遂げた。

これを2週間以内に現場へ運び込み、丸2日間で屋根を葺きあげる。
ハイムやトヨタのユニット並のプレハブ化率と考えてよい。
つまり、安いフィリピンの労働力を最大限活用した住宅がi-cube。
50坪で、53万円という坪単価はここから得られた。
ハイムやトヨタよりも価格が安いのは、日本とフィリピンの賃金の差。
それが、如実に示されたということ。
いわゆるグローバル化そのもの。

住宅業界におけるグローバル化というと、今まで2つしかなかった。
1つは、アメリカ、カナダ、北欧からの「輸入住宅ブーム」。
この輸入住宅は、いずれも先進国からのもので労賃が高い国。
したがって、デザインとムードで売れたが、本格的な競争力を持っていなかった。
もう1つは、中国の合弁会社にサッシ、フロアー、建具、衛生陶器、石、タイルなどを安く作って、日本へ持ち込む方法。
これは、一部資材のグローバル化にすぎない。
中国で完全にパネル化した住宅を、日本へ持ち込むという本格的なグローバル化は見られなかった。

このため、日本の住宅企業は、とくに大手プレハブメーカーはグローバル化が叫ばれているのに日本国内だけを見て、お山の大将で威張り続けてきた。
ヨーロッパを中心に、駆体の省エネ化の一大イノベーションが世界で起こっているのに、国交省や一部のお抱え学者を懐柔し、われ関せずと傲慢な態度をとり続けてきた。
消費者を欺瞞する「外断熱」の誇大広告。それを咎めない公取。
そして、省エネ住宅とは「大陽光発電と燃料電池発電を装備すること」と建築会社としての責任を放棄し、臆面もなく問題点をスリ替えた全面広告の数々。
駆体のQ値が2.0Wさえ切っていない惨めな性能値。
日本の住宅メーカーは、良心の欠落を世界に曝して恥じなかった。

そこへ、Q値が0.76Wで、50坪で53万円という住宅の登場。
これは、大手プレハブメーカーにとってはまさしく「黒船」。
太平の安眠を貪っていたメーカーに対して号砲を轟かせたのがi-cube。
そういった意味で、今回の一条の行動を高く評価したい。
そして、当然のことながら大手プレハブだけではなく、地域のパワービルダーにも大きな影響力を与えてゆく。
もちろん、地場ビルダーも例外ではあり得ない。
今年から来年にかけて日本の住宅産業界は、トップランナー一条のi-cubeが提起したグローバル化を中心に急回転する。好むと好まざるとにかかわらず・・・。
パッシブハウスはメインテーマではなく、サブテーマになる。

さて、地場ビルダーはどう対処すべきか。
札幌で、パッシブハウスクラスの住宅に特化しょうとしているビルダーの嬉しい姿を散見した。
片手間ではなく、一条以上の性能と価格に特化するビルダーがこれから各地に誕生してくる。そして地場のトップランナーになってゆく。
そのことをもう少し詳しく書きたかったが紙数が尽きた。
稿を改めて検証したい。
posted by unohideo at 05:11| Comment(1) | 住宅メーカー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年04月20日

一条工務店の挑戦状・何が低価格を実現させたのか(中)


一条工務店から案内メールをもらった時、次の4点は絶対に解明したいと思った。

《1》 自分が関わった住宅でQ値が0.9W住宅の宿泊体験は持っている。しかし、Q値が0.8Wを切る住宅での宿泊体験がない。是非とも0.76W住宅での体験宿泊で、その快適度を確かめたい。

《2》 同社は全熱交換機を採用。そして、浴室とトイレは局所間欠運転。カナダのR-2000住宅の基準から言うと完全な間違いを犯している。温度差、結露、カビ、一時的な負圧現象などで・・・。全熱換気の局所間欠運転は本当に問題がないのだろうか。

《3》 同社は全面的に床暖房を採用している。Q値が1.4WのR-2000住宅以上の性能住宅では、吹き抜け空間であっても1階床と2階の天井との温度差はせいぜい1℃。床暖房の必要性が一切ない。床暖房とクーラーの2重投資はムダではないか・・・。

《4》 同社のi-cubeのカタログでは、50坪の住宅のモニター価格が坪当たり53万円と表示されている。同社の今までの商品価格は、高くはないが決して安いとは言えない。ということは坪53万円というのはどこまでもモニター価格で、実際の販価は坪60万円を超すのではなかろうか・・・。

まず、《1》である。
なるべく寒い時期に宿泊体験をしたかったので、指定された日では一番早い4月10日を選んだ。
ところが当日は、昼はコートが不要なほどの暖かさ。やっと明け方に4℃になるという天気予報。
このためリターン温度25℃に設定された主寝室の床暖房もほとんど作動せず、レザー光線を当てると床、天井とも21℃。暑がり屋の私にとっては適温。
ハニカムシェードを降ろし、パジャマを持参するのを忘れたので、パンツとランニング姿で毛布のない布団に潜り込み、読みかけの本を読んでいたらいつの間にかそのまま朝まで寝込んでしまった。

深い熟睡は、ストレス解消の最大の良薬。前夜のグランドホテルよりは快適。
早朝の床、天井とも21℃。
ただ、寝室に温湿度計がなかったので、相対湿度が確かめることが出来なかったのが残念。といっても、相対湿度が気になったわけではない。いつも見慣れているものがないと、物足りなく感じたというだけ。

それと、肝心の実験を忘れた。
それは寝る前に浴槽に浸かり、真空断熱材の蓋をして、翌朝そのまま追い炊きをせずに浴槽に入って見ようと考えていた。
ところが、朝起きたらいつもの癖で散歩に出てしまい、浴槽に浸かることをコロリと忘れてしまった。まことに残念。
話によると、真冬でも一晩でせいぜい2℃程度しかお湯の温度が下がらないと言う。
温かいまま数日お湯を変えないと、それこそレジオネラ菌が発生して24時間風呂と同様に大問題になろうが、朝そのまま入浴出来、そのあとの温水で洗濯が出来れば一挙両得。

《2》については、すでに「ネット・フォーラム」欄で触れているので省略させていただきたい。これを議論するにはいろんな試験装置を持ち込み、データを集めない限り確言は出来ない。
ただ同社の場合は、浴室やトイレの換気が24時間連続運転はしていないけれど、各居室や廊下との温度差がないことだけは保証出来る。
なぜなら、2階のトイレも廊下も、1階のユニットバスの床にも床暖房がなされている。
とくに浴室の床暖房は、同社に限らず評判が良い。
しかし、そのためには現場施工が不可欠であった。
それを、同社は内製のユニットで達成していたのだから、脱帽。

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内製の床暖房付きバスユニット。槽と蓋に真空断熱材が充填。

次は《3》の床暖房。
これについては、見学会に参加した木建研の林勝朗工博から、北海道における床暖房の経緯について、次のような適切な説明があった。
「床暖房を取り上げたのは北海道が一番早かった。しかし、高気密住宅が普及してきたら次第に床暖房が少なくなってきた。その理由は、床暖房では温度調節がうまくゆかず、パネルヒーターの方が温度調節は楽で、しかも快適だったから・・・。三種換気の給気口の下にパネルヒーターを設けることにより、コールドドラフト現象を防げたことも大きかった。また、低温床暖房の普及は、とくに老人や幼児に低温火傷を起こす危険性が叫ばれ、北海道では床暖房がほとんど普及していない」と。
この説明は、私が得ていた知識と一致。
だから、「今頃になって、しかもQ値が0.76Wの超高性能住宅で、床暖房を必須条件にしているのは何故? 一条は何を考えているの!」との疑問が・・・。

しかし、この疑問は価格を聞いて氷解。
もし、地場ビルダーが、押入れ以外の2階を含めた全室の床に床暖房を入れて欲しいと施主に依頼されたら、おそらく200万円はかかるであろう。
ところが一条のオール床暖房費は60〜70万円で上がる。
つまり、パネルヒーターよりも安い。
それは、工場で全室に配管下地がなされて出荷されるから。
それが標準仕様。そして、現場で簡単にパイプ配管がなされる。
熱源は、北電の融雪用の22時間使える「ホットタイム」が使われていた。
つまり、われわれビルダーは、世界の潮流がそうであるように床暖房は無視すべき。
とくに同社と競合する場合には、床暖房を前提にしていると完敗の憂き目に遭う。
そして、一条と同社の施主にとっては、床暖房は最良の選択肢としていつまでも残る。

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物入れの中のホットタイムと、リターン温度を25℃に設定して1,2階に分かれた回路。

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畳の部屋も床暖房。温度で変色しないようイグサではなく和紙を編んだ畳表を使用。

さて、いよいよ問題の、《4》の坪単価。
単刀直入に書く。
50坪で53万円は、一時のモニター価格ではなく標準価格。

アルゴンガス入りのLow-EペアのPVCサッシ+ハニカムシェードでU値は約1.0W。
これに全室床暖房とクーラーと、熱回収率90%の全熱交換機ロスガード90が付く。
もちろんオール電化住宅。
そして、下の写真のように外壁は206に隙間なくEPS140mmを充填させ、その外側にEPS50mmを外断熱として施工。
1階のスタッド、合板、EPS、縦胴縁はすべて越井の技術を導入して防蟻処理済み。
天井断熱はEPS235mm。
これでQ値が0.76W。

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しかし、ここまで書いても、ビルダー各社も大手メーカー各社も、ピンとこないだろう。
その脅威が、実感出来ないと思う。
i-cubeは今までの同社の商品のようなプレカットではない。
サッシを取り付け、一部を除いて外装仕上げや内装の石膏ボードまでが施工された完全なプレハブパネル。
これを3メートルまでの長さで現場へ搬入される。
そして、屋根材を葺き終えるまで丸2日しかかからない。
ハイムやトヨタホームのユニット住宅とほぼ同じ工期。

しかし、完全プレハブであるために、特定行政庁では中間検査が出来ない。
このため、特認をとる必要がある。
現在はその特認を取る作業と、モデルハウス建設の準備に追われている。
そして、特認が降りるであろう夏過ぎには、今まで内地では見なかった超高性能住宅が、破格の価格で登場する。

何故、フル装備のQ値0.76Wの住宅が、50坪で坪53万円の価格で出来るのか?

その最大の謎を、皆さんで解いてみて頂きたい。

posted by unohideo at 08:51| Comment(0) | 住宅メーカー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年04月15日

省エネ住宅のトップランナー・一条工務店の挑戦状(上)



日本の省エネ住宅のトップランナーは、一昨年までは間違いなくセキスイハイムだった。
2005年の2月、同社は「シェダン」というQ値が0.99Wの北海道型の住宅を開発し、その年に60戸という輝かしい実績を上げた。

それまでは、Q値が1.2W〜1.4WのR-2000住宅が、日本における最高水準の住宅。
つまり5年前までは、日本の住宅の省エネ住宅のトップランナーは、R-2000住宅に携わっていたツーバィフォーの地場ビルダーだった。
北海道ではR-2000住宅に特化した札幌のよねくらホームをはじめとして、帯広の岡本建設、赤坂建設など数社、旭川のハウジングシステム等々の多くの企業が頑張っていた。
東北では、ドイツのデザインスタイルでR-2000住宅に特化した北洲ハウジングが、性能と実績戸数でその存在を轟かせていた。
関東では、これまたR-2000住宅に特化して卓越した現場力を持つマイスターハウスと、全戸セントラル空調換気システムのナイスハーティホームが圧倒的な技術力を誇っていた。
このように、省エネ住宅は地場ビルダーの専売品だと考えられていた。
そこへ、セキスイハイムが殴り込みをかけた。

基礎断熱で、ポリスチレンフォーム150mmでU値は0.3W。外壁は高性能グラスウールが220mmで0.2W。天井は同じく高性能グラスウール360mmで0.13W。
このシェダンの登場を契機に、北海道で鎌田先生を中心に「Q-1.0W運動」が起こったのはご存じの通り。しかし、このQ-1運動は、関東以西ではR-2000住宅よりかなり性能が低いものがまかり通っており、輪の拡がりの割にはインパクトと影響力が弱い。

そして、2007年から始まったハウスオブザイャー・イン・エレクトリック大賞は、当然のことながらセキスイハイムが受賞するはずであった。何しろQ値が0.99Wで、軽く120棟を越す実績を上げていて、当時としてはダントツの存在だった・・・。
ところが、ハイムにとって不幸なことは、東電が中心になっていたこともあって第一回の授賞対象からI地域が除外されてしまったこと。
その理由は、「イン・エレクトリックということで、I地域ではエコキュートのCOP性能が現時点では低すぎるので期待出来ない」というもの。
このため、漁夫の利を得たのが一条工務店とスウェーデンハウス。

さらに言うならば、弟二回からはI地域も対象になったのだから、昨年ハイムがシェダンで応募していたならば間違いなく大賞を授賞出来たはず。
その点で、一条に比べてハイムのツキのなさが惜しまれる。
しかし、トップランナーとしてハイムが果たした大きな役割と功績は、決して忘れてはならない。

ハイムがシェダンを発表した年に、スウェーデンのハンス氏の「暖房機のない住宅」が話題を集めた。日本全国で講演会を企画したNPO法人外断熱協が、この無暖房機住宅のことを「無暖房住宅」と訳して宣伝した。
これは同NPO法人の明らかなミステーク。なるべく早く訂正した方がよい。
ハンス氏のやったことは、ドイツのファイスト博士のパッシブハウスの技術をもじったものに過ぎない。プレヒーター付きの熱交換機を採用して、ヨーロッパで多用されてきた温水パネルヒーターを採用しなかっただけ。
つまり、「暖房機のない家」にすぎない。
氷点下の空気を導入すると、顕熱の熱交換機は凍って動かなくなる。
このため、電熱器で空気を強制的に暖めてから導入する。
ヒートポンプではない。単なる電熱器で・・・。
このため、電気代がやたらにかかる。
ハンス氏の指導で建てられた茅野の介護施設「桜ハウス玉川」の田代育夫専務は「プレヒーターは電気代がやたらに喰うので、なるべくCOPの良いエアコンを使うようにしている」と話していた。
当然のこと。
無暖房住宅というのはまさしく羊頭狗肉。

その羊頭狗肉の見本がサンワホーム。
昨年「無暖房住宅セミナー」を、関東を中心とした12都県で170回も開いている。
第二回のハウスオブザイヤーの大賞を受賞した今年、同じような羊頭狗肉のセミナーを開いたら、公取から「誇大広告」で刺されるのは必然。
すでに各社から地域開発センターや東電へタレコミ情報が入っている。
単にサンワホームが訴訟され、敗訴するだけなら自業自得。
しかし大賞をとった会社が誇大広告をやっていたとなると、ハウスオブザイヤー制度そのものの信頼性が問われることになる。ともかく東電が黙ってはいまい。

このような理由で、ハンス氏の無暖房器住宅は2001年に20数棟のタウンハウスが建てたが、その後はスウェーデンで1戸も建てられていない。
お呼びではない。
プレヒーターは、温水パネルヒーター住宅よりも燃費がかかる場合がある。ヨーロッパの地域暖房の温水パネルシステムのコストは、イニシアル、ランニングとも安い。
そして強調したいのは、R-2000住宅の時のように無暖房住宅に特化した地場ビルダーが未だに一社も誕生していないという事実。
サンワホームのように、片手間でいいかげんな姿勢で宣伝材料に使っている企業ばかり。
断言しても良い。
「サンワホームは、絶対に省エネ住宅のトップランナーにはなれない」と。

この傾向は、日本でパッシブハウスの開発に取り組んでいる企業にも時折見られる。
日本各地で、Q値が0.7Wを切る試行住宅の建設が盛ん。これは素晴らしい傾向。
ともかくPRを兼ねて、試験棟を1棟建てる。
だが、この程度のことは誰にでも出来る。猫も杓子もとは言わないが・・・。
特別に騒ぎ立てるほどの価値はない。
だが、基本的で地味な努力と研究をやらずに、一発目当てでは早晩行き詰まる。

トップランナーというのは、本腰を入れて特化する企業のことを指す。
ということは、一条工務店はi-cubeに本腰を入れているということ?

一条工務店というのは、大変に印象の薄い会社。
テレビやラジオで宣伝をしない。
みのもんた、ラサール石井、宇宙飛行士の毛利さんを使うなどという発想が全然ない。
新聞に全面広告を出したこともなければ、雑誌に出稿もしない。
したがってさっぱり目立たないし、話題になることがほとんどない。
どことなく泥臭く、田舎臭い会社・・・。
ほとんどの人が、そんな印象を同社に持っていると思う。

ところが調べてみると、住宅の販売戸数は7000を越えて7位。
売上高は2000億円を超えている。創業30年でこの成績。
平均受注坪単価は64万円だから、決して高い方ではない。
それで、経営内容は良い。本来だともっと騒がれてよい存在。
何しろ、免震工法では他社とはケタ違いの強みを発揮し、3000戸近い施工実績を誇っている。
展示場は全国に330ヶ所も持っている。
今年の受注実績は、大手プレハブ各社が対前年度比で20〜30%減で苦労しているのに、同社は対前年比でプラスが続いている。
それなのに、なぜこれほどまでに目立たないのか?

それは同社の工場がフィリピンにあって、ほとんどの日本人がその凄さを目にする機会がないからではなかろうか。
つまり、商社や下請け企業を通じて同社の動向を知らされることがない。
工場労働者が通う居酒屋での会話を介して、同社の実態が語られることもない。
日本の消費者や業界関係者が目にすることが出来るのは展示場のみ。
そしてそこに駐在している営業マンは、お世辞にもスマートとは言いかねる。
企業の源泉力が奈辺にあるかが、さっぱり分からない。

しかしこの一年間、同社の設計関係者と付き合っているうちに、同社はとんでもない会社だということがおぼろげながらに分かってきた。
フィリピンの工場を見ていないので確言出来ないが、その工場の規模はただごとではないらしい。ともかく歩いては動くことは出来ない。車でないと工場内を移動出来ないという。
社員の宿舎や食堂などの施設まで加えると、何万坪という規模になるらしい。
そして、メインの製材から乾燥、加工、防蟻ラインだけでなく、あらゆる住宅部品や設備の製造施設を持っている。
ほとんどの住宅メーカーは、アウトソーシングという美しい言葉で、すべて下請けに投げており、工場は単なるアッセンブル工場。それどころか、組立ラインの一角を下請け業者に任せているところもある。
もちろん、あらゆる部品、設備、建材は一切外部発注。

これに対して、一条工務店はいろんなものを内製化している。
最初に、PVCの押出材を買ってきてサッシを自家生産していることが分かった。
その次はダブルハニカムブラインドを積水化学から買っているのではなく、アメリカのメーカーから特許を買ってこれを内製しているということが判明。
それどころか真空断熱材も自家生産し、これをシステムバスの槽と蓋に使っている。そして、当然のことながら床暖房付きのシステムバスも自家生産。
こんな調子で、聞き出したら次から次へと内製品が出てくる。
木製建具はもちろん、階段をはじめとした造作材、システムキッチンや収納家具、洗面家具、本棚付きや物置付の出窓セット、下足ユニット、床暖房用の下地セットetc.

中でも面白いのはノルウェー式サウナセットと大型スクリーンセット。
そして極めつきは、床暖房をしても永久に変色しない和紙を編んだ畳セット。
これには呆れてしまった。
ともかく同社は、今までのプレハブメーカーの常識では考えられない会社。
徹底的に自社での「もの造り」にこだわっている異色中の異色企業。
そこいらのプレハブ工場とは資質とポリシーが全く異なる。
こうなれば、何が何でもフィリピン工場が見たくなってくる。
好奇心が疼いてならない・・・。

P1010225.JPG
写真は札幌・手稲区明日の風町に建てられたi-cube宿泊体験棟

その一条工務店から、どうした風の吹き回しか知らないが、「札幌のi-cubeの宿泊体験棟を案内しもいいですよ」とのメールがとどいた。
私が同社のイエスマンになるわけがない。
私に情報を公開するということは、同社の内部情報がオープンになるということ。
その覚悟のほどが知りたかったから、「私だけでなく仲間に参加を呼びかけて良いですか」と聞いた。断られてもともとで・・・。
ところがOKだという。
慌ててハウスオブザイヤーの特別賞を受けた仲間を中心に8人にメールを出したのが5日前。しかも一泊二日の旅。
あまりの突然なので、忙しいトップは時間がとれる訳がない。
内地の仲間で参加出来たのはたった1人。
しかし、セキスイハイムや北海道の仲間を含めて11人が参加した。

一条工務店は、単に「敵に塩を送ったのではない」と思う。
その本気振りをアピールしたかったのだと思う。
そしてその本気ぶりは、私にとっては想定外の、ものすごく強烈なものだった。
posted by unohideo at 16:05| Comment(0) | 住宅メーカー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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