2009年08月05日

出でよイノベーター。ガラスとサッシの袋小路



北米で5社、北欧で3社の地域密着型のサッシ工場を見てきた仲間の話によると、どのサッシ工場もガラスの加工場を持っていたという。

私はそれほど多くは見ていないが、たしかにカナダのサッシ工場にはサッシとは別に、ガラスの加工ラインがあった。
ガラスは、ヨーロッパから10帖ぐらいの広い板ガラスを直輸入。
それを需要に併せて効率よくカット。
そして、Low-E加工を施し、ペアとかトリプルに加工して、アルゴンガスを注入する。
設備費はそれほど大きくはないが、億単位近くは必要。
それよりも、機械化して連続的に生産しているので、ある程度のロットが必要だということが良くわかった。

日本のサッシメーカーは、ガラス工場を持っている?
最近の工場を見てないので確言出来ないが、持っていないはず。
住宅用のアルミサッシの場合は、各地に設けられた建材店やガラス店関係のサッシセンターで部材とガラスが組立てられて現場へ搬送される。
PVCのペアガラス入りの高気密・高断熱サッシの場合は、ガラス入りで梱包されて現場へ搬入される場合と、ガラスだけは後で現場取り付けの場合がある。
この場合も、PVCサッシメーカーが板ガラスを買ってきて自社で加工していない。
旭硝子とか日本板ガラスの指定加工場が存在する。
そこで加工して、サッシメーカーに卸しているのが一般的。
ペアガラスはほとんどオーダーメイドだから、ガラスメーカーが直接手をだすことはなく、下請け工場に任されている。

日本の板ガラスは寡占状態。
したがって、旭とか日本板の系列でないとペアとかトリプルガラスは生産出来ない。
北米や北欧のように、他国からガラスを買ってきて、地場のサッシメーカーが勝手に加工する。そのような能力を持つ会社が存在しない。
もし、独立したガラス加工場が存在していたとしたら、ビルダーは容易にドイツからサッシを輸入することが出来る。軽い枠や金物だけを輸入し、日本のガラス加工場で作ったガラスをセットすれば、輸送コストは大幅に安くなる。緊急の場合には空輸したとしても、たかが知れている。

こうしたガラス加工場がないから、輸入サッシはガラス込みとならざるを得ない。
当然重くなるから、船便以外は使えない。
そうすると、発注から現場納入までに2ヶ月はかかる。
そして、万が一ガラスが損傷した場合などで空輸にすると、たった1窓で何十万円も支払うことになる。そういった苦い経験をほとんどのビルダーが持っている。
だからといって在庫をするとなると、それを管理する場所と人が必要になる。デットストックが発生して管理費がかさむ。
したがって、輸入住宅サッシ専業でないかぎり、自社内にサッシ部門を持つという例はなかなか見当たらない。

次善策として求められるのが、ヨーロッパから型材や金物などの資材を輸入し、日本で加工するメーカー。とくにウッドサッシは金物が命だから輸入金物に頼らざるを得ない。日本には木製建具の歴史はあっても機能フルなウッドサッシの歴史がない。
北海道には、旭川に工場を持つノルドと、昨年から帯広に工場を持ったユーロハンズがある。いずれもスウェーデンから資材を入れている。
これだと、発注から納品まで1ヶ月以内。
それと、日本の消費者やビルダーの厳しい細部の要望にも対応出来る。
トリプルサッシにも対応出来るので、性能的に0.9Wを切れる。
価格的にもある程度こなれているので、北海道ではパッシブハウスにトライしょうとするビルダーや消費者にとっては、心強い存在。
もちろんアフターメンテの面でも心配がない。

ところが、両社とも回転窓が主体。
ユーロハンズは、最初はドレーキップが主力商品だったという。
しかし、夏の短い北海道ではブラインド付きのメリットがさっぱり理解されず、ドレーキップの良さも分かってもらえなかったという。このため、2年前に生産中止を決め、一番外側のアルミサッシの鋳型も消却したという。新規にアルミサッシ部分の鋳型を作るとなると、億単位の投資が必要。
帯広で工場を稼働させたばかりだし、ドレーキップの確実な需要が見込めないので、今すぐには手を出すわけにはゆかない。
もっと早く同社の存在と、ブラインド付きのドレーキップの存在を知っていたらと残念でならない。2年間のズレが、何とも痛い。

下の写真は、同社が2年前に生産したドレーキップを取り付けた完成現場。外側がアルミサッシなので雨による内部のウッドの劣化の心配がない。ただ北海道なので、ブラインドが省かれていた。

P1010508.JPG

そうした折、スウェーデンホームの名で住宅を売っている兵庫の昭和住宅を知った。
ブラインド入りのドレーキップを採用している。
電話して、「関東でそのサッシを使うことが出来るか」と聞いたら可能だという。
早速、東京の事務所を訪ねた。
モデルを見たらウッドはノルウェー産。金物はドイツ。最初はそれらの資材を輸入して日本で作っていた。しかし、日本のサッシメーカーのほとんどが中国へ進出。日本で作ったのでは価格的に太刀打ち出来ないので、急遽山東省へ進出。
これは賢明な方策で、コストは安くなるし、製品は2週間で現場へとどく。
輸入住宅のデメリットのほとんどが解消される。

最近、フードマイレージやウッドマイレージという言葉がよく使われる。
その食品なり木材の運送費がどれだけかかるかを考えて商品を選択しましょう。出来るだけ運送費を省いて地球にやさしくしましょうとの考え。
これは非常に優れた考えだが、距離が問題なのではない。
その輸送で、どれだけCO2を排出するかが問題。
陸送に比べると海送のCO2排出量は、はるかに少ない。中国の内陸で生産するのなら問題だが、沿海だとサッシマイレージは少ない。

サッシメーカーに限らず、ほとんどの建材メーカーが中国へ進出している。
現在ではサッシ、フロアー、衛生陶器など、日本で使われている建材の多くは中国製。
食品では数多くの事故があったので、一般消費者のアレルギー反応が強い。だから、スーパーなどでは中国産野菜や加工食品はあまり置いてない。
しかし、ワタミやサイゼリアなど一部を除いたほとんどの外食産業とお惣菜の中食産業で用いられている食品は中国産。
私の家の近くにプロ相手の食品問屋があるが、加工食品はほとんどが中国産。

サラ・ボンジョルニというアメリカの4人家族の若い母親が、丸一年間中国製の商品を使わない生活にトライした記録を「チャイナフリー」という著書にまとめている。
チャイナフリーを実行したら、子どものオモチャは1つも買うことが出来ず、靴や衣料品も手に入らなかった。バースディケーキに飾るローソクも手に入らず、こっそり内緒でチャイナ製品を使った、とその体験談を発表している。
それほどアメリカは国内の工場を潰し、中国へ移転させて中国産品無しでは生きてゆけなくなっている。
日本はアメリカほどではない。だが、中国産ギョウザやウナギは避けられても、中国産のユニクロとかサッシやフロアーは避けることが出来ない。これがグローバルの実態。

日本の住宅メーカーの中で、唯一PVCサッシを自社生産しているのが一条工務店。
昔、大手住宅メーカーはサッシで差別化を図るため仕様書発注をしたことがある。しかし、特許をとれるわけがないので、売れると分かるとすぐ他のサッシメーカーが類似品の生産を始める。このため、サッシでの差別化は瞬時に終わり、以来大手住宅メーカーは性能やデザインの良い新サッシの開発に対する関心を失い、アルプラの6mmペアから脱出しようとしていない。
サッシに対して比較的高い関心を示しているのは、スウェーデンハウスと一条とハイムだけと言っていい。
一条がサッシを自社生産しているのは中国同様に安いフィリピンの労働力が得られるからであり、スウェーデンハウスは親会社のトウモクが、スウェーデンでサッシを生産してくれているから。

これは、昭和住宅に確かめたわけではないのでどこまでも推定だが、同社がスウェーデンホームという名でスウェーデンハウスに対抗している関係上、リスクを覚悟でサッシに手を付けざるを得なかったのだと思う。そして、主なマーケットが関西だったから、ハウスの回転窓ではなく、ブラインド付きのドレーキップを選択した、のだと思う。
U値よりも日射遮蔽を優先した選択は、正しかったと思う。

P1010197.JPG

しかし、もらった資料を見たらU値が2.0W。
つまり、ウッドのペアガラスは、Low-Eもアルゴンガスもない単なるペア。
これでは性能が低すぎて、パッシブハウス用のサッシとしては使えない。
そこで「0.8Wはムリでも、なんとか1.0Wの性能がクリアー出来ないか」と聞いた。
「ガラスを変えれば何とかなる。ただ、ガラスを変えるためにはある程度のロットがまとまらないと話にならない。ロットがまとまる見込みはあるか」という当然の質問。

自分が事業をやっていたなら「最低50棟は保証する」とハッタリを咬ませて断言する。
しかし第一線を退いた現在では、仲間の意向を聞いて回るしかない。
仲間のおおまかな意見は下記。
「日本や中国のガラス事情を考えると、うまくいって1.2Wが限度ではなかろうか…」
「実験値でなくてもいい。シミュレーションで良いから、どれだけの性能値が得られるかの数値を出してもらわないと検討が出来ない。そして、その性能値でのおおよその価格を教えてもらえないかぎり判断は出来ない…」

恥ずかしながら、子どもの使いになってしまった。
再度こちらの意向を伝えると、「当社はサッシ屋ではない。輸入資材や輸入住宅を含めていろいろ考えてもらわないことには、数値が出せない」との返事。
「シミュレーションでも良いからサッシの性能値を…」という当然の要望に対して「企業秘密に近い数値を出す以上は、どれだけ動くかの保証が必要。それがないかぎりは出せない」と断られた。
サッシの性能値が企業機密とは…。
つまり、ニワトリが先かタマゴが先かのコンニャク問答。
私のアプローチが間違っていたようだ。
最初から本社のトップに会っておれば、コンニャク問答にはならなかったはず。

私の仲間は、R-2000住宅でのトップランナーばかり。
その仲間が欲しいのは高性能なブラインドつきドレーキップサッシ。
その他の資材は、安くて良いモノがあれば使わせてもらう。
しかし、スウェーデンホームを売らねばならないほど落ちぶれてはいない。
技術力、デザイン力、営業力、経営力は、各社とも優れている。
戸数はおよばないが、中には一年先までの需要を抱えている仲間もいる。
目下の同盟者になろうなどという考えは、誰も毛ほども持っていない。
しかし私は、昭和住宅を責める気もなければ、その資格もない。

メーカー側からのアプローチを待つのではなく、「何としてでも日本最初のパッシブハウス専業ビルダーとして、年間30棟建ててゆく。その30棟用の0.9Wの性能を持ったブラインド付きサッシを、なんとしてでも開発して欲しい」と、ビルダー側からの強い熱意を示さない限り、日本のこの閉塞状態は絶対に打破されない。

問題はサッシメーカーよりも、ビルダー側にある。
ビルダーの意欲の乏しさが根本原因だと思う。
この時期に、意欲を持てというのは酷な要求かもしれないが、イノベーターというのはどんな時代でも酷な条件を克服するのが使命。

posted by unohideo at 07:41| Comment(1) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年07月10日

●高熱容量の断熱材をどう評価するか 【帯広・札幌駆け歩記5】

関東地域で最初のR-2000住宅を建てたのは1988年だから21年前のこと。
206の外壁に32キロのグラスウールを140mm吹き込まないとR-2000住宅の部位別基準をクリアー出来ない。
それまで、吹き込み断熱材など見たこともない。
そこで北海道のよねくらホームにSOSを発信したら、BIBの三星氏を紹介してくれた。
しかし、北海道からわざわざ上京するわけにはゆかない。ということで信越BIB社の小林氏を紹介してもらい、わざわざ長野から出張して施工してもらった。

その三星氏がグラスウールでなく、最近はもっぱらロックウールのPRマン。
正直なところ、同じ鉱物質系のグラスウールとロックウールとでは、熱伝導率もU値(熱貫流率)も全く変わらない。
その差は、ロックウールは防火性能が良いということと、吸音性が良いということしか知らなかった。一階の天井根太の間に必ずロックウールを吸音材として用ってきた。

ところが、数年前にナカジマホームがドイツから木質繊維のエコボードを輸入し「熱容量がモノを言う」と言われたが、ピンとこなかった。たしかに簡単には冷めない。だが、U値が同じであれば、わざわざ高い材料を使う必要性を感じない。
つまり、現在の代表的なソフトSMASHでは、熱容量はQ値に影響を与えない。
熱計算で、モノを言うのはどこまでもQ値。
Q値が低いと、ハウス・オブ・ザ・イヤーで特別賞がとれない。
充填断熱材には価格がこなれた高性能グラスウールを使う。そして、プラスの外断熱の時はロックウールを使うというハイブリッド方式が、もっとも良いのではないかと考えていた。

ところが、帯広の広岡建設の社長から聞いた話では、数年前より全面的にロックウールに切り替えてきているという。
その理由として2つを上げた。
まず第1は、吹き込み方式を採用しているが、グラスウールのようにパンパンに張って石膏ボードが張れないというバカげたことがないからだという。
グラスウールの吹き込み断熱で一番泣かされたのがこのパンパン現象。
大工さんに泣きつかれ、カッターでインサルバリアを切腹し、グラスウールを抜き取り、テープで切腹跡を補修するというみっともないことをやってきた。
このため、吹き込み断熱方式は、次第に敬遠してきた。

そのパンパン現象が、ロックウールの吹き込みにはないという。
それだけではない。65キロを吹き込むと、セルローズファイバーでよく見られるような沈下現象は全くない。
「固形化してくれ、例えば四角い穴をあけると、その四角い穴がいつまでも潰れない。そのままの形で残っている。これこそ安心して使える素材だ」という。
メーカーの話なら話半分にしか聞けないが、仲間のビルダーの話だから信用出来る。

第2の理由は「やはり部屋の温度の変化が少ないと言うこと。熱容量の高さのメリットをお客さまから教えてもらった。それと吸音性の高さ。いままで以上に外部の騒音が気にならなくて静か。ロックウールの吹き込みは、今まで使ってきた断熱材の中では最高のものだ」と言う。この言葉も信じよう。
今まで、熱容量というと、土間床などコンクリート系しか私の頭にはなかった。
壁断熱の、グラスウールとロックウールとで、消費者が実感出来るほどの差があろうとは、お釈迦様でも・・・である。

そんなわけで、にわか熱容量派に変身。
変身したのはいいが、物理学的にその根拠とかメリットを証明しろと言われても、文系の人間には手に負えない。
昨年の「木材学会誌 Vol.54」に山崎真理子ほか5氏による「熱容量の異なる木質壁体の熱的特性による省エネ比較」が掲載されている。
◆一般的な土壁 ◆土壁と木材の複合体 ◆断熱壁の比較を、小規模な実験棟を建てて検証している。しかし、これはあまりにも対象が初歩的にすぎ、断熱材や断熱厚の比較実験がなく、あまり参考にならない。

また、一年前の新住協の「技術情報 40号」に室工大鎌田研究室の山内麻里恵さんの「熱容量が木造住宅の熱性能に及ぼす影響」の研究が発表されている。
これは56ページにも亘るシミュレーション結果をまとめたもの。
◆駆体性能を、次世代基準、Q1.0基準、Q1.0+αの3で比較 ◆床は、床断熱、基礎断熱、土間床の3で比較 ◆開口部は大と小の2つで比較 ◆部位別の資材の構成は4タイプに分けて比較、している。
そして●全国18都市での年間暖房用灯油使用量 ●各都市における特定日におけるオーバーヒートの検証 ●実質有効熱容量の算定、という研究成果を発表している。
これは、非常に貴重な研究ではあるが、壁面構成材の有効熱容量として採用されているのは、合板、プラスターボード、漆喰、モルタル、コンクリート、割栗石だけ。断熱材がカウントされていない。したがって断熱材の比較は、この研究からは分からない。
それに、主に北海道や東北の都市を選んで暖房費を対象とした研究。冷房とか日射遮蔽の研究は、残念ながら含まれていない。

という次第で、グラスウールとロックウールの熱容量の違いはどれほどなのかを調べたデータを見つけることが出来ないでいる。
ただし、今度の駆け歩る記の最後の訪問先が、試験操業を始めたばかりの千歳空港に近い苫小牧の「木の繊維」の新鋭工場だった。
この木の繊維の工場は敷地が2万5000uと広大。
そこに延べ約6000uの新鋭工場と管理事務所棟が建てられている。
このほかに、チップなどの広大な資材置き場もあり、なかなかの壮観さ。

P1010571.JPG

P1010567.JPG

ドイツのホーマテルム社から技術を導入し、日本で初めてウッドファイバーを生産し、2000円/uで売り出そうとしている。
現在は試験操業中。
グラスウールのように柔らかくないから、2mm以上厚いものが生産されると石膏ボードが張れなくなる。
このため、プラス2mm、マイナス4mmの均一さが求められる。木の繊維をこのように均一にするのはかなり難しく、試験操業が続いている。そして、試験操業で得られた試作品が、鎌倉パッシブハウスをはじめとして、北海道のビルダーにも格安の価格で提供されているというのが現状らしい。
この木の繊維社のパンフレットに、下記のグラフが出ていた。

P1010667.JPG

これは木の繊維と鉱物繊維断熱材の温度振幅抑制率と熱伝導率の遅延時間を測定したデータ。(写真はきちんと写っているのですが拡大するとボケるので、見づらい点をご了承いただきたい)
熱伝導率は、ともに0.038W/(mk)で、熱貫流率はともに0.21W/(uk)。
そして温度振幅抑制率は木質繊維12に対して鉱物繊維は5。
さらに熱伝導率の遅延時間は矢印で示しているように木質繊維が10.6時間に対して鉱物繊維は6時間。ピークが4.6時間ずれている。
さて、この鉱物繊維というのが、グラスウールを指すのか、あるいはロックウールをさすのかが分からない。相違を大きく見せるために、多分グラスウールとの比較だと思う。
そして、試験を行ったのは外気温度が夜は10℃で、昼が35℃というから、北海道の内陸の別荘地での夏期の比較ではないかと思う。
また、住宅の規模や駆体、サッシの仕様などが明示されていないので、この数字をどこまで信頼して良いのかわからない。ただ、断熱材を変えるだけで、振幅抑制率と熱伝導率の遅延時間がかなり違うことは分かる。

ちなみに、同社が用意していてくれた主要断熱材の密度、熱抵抗値、熱伝導率、m3当たりの熱容量は下記のとおり。
                  密 度  熱抵抗値  熱伝導率  熱容量
                  (kg/u) (100mm換算) (W/mk) (kJ/m3k)         
グラスウール16k          16    2.63    0.038   16.5  
グラスウール24k          24    2.63    0.038   24.7   
高性能グラスウール24k      24    2.78    0.036   24.7   
グラスウール40k          40    2.78    0.036   41.2   
ロックウール40k          40    2.63    0.038   41.2   
EPS                  30    3.13    0.032   43.5    
硬質ウレタン             30    3.85    0.026   45.0    
現場発泡ウレタン          35    2.78  0.026〜0.036 52.5        
クラスウール吹込BIB 35K    35    2.50    0.04    36.1   
コックウール吹込BIB 65k     65    2.56    0.039    67.0
ウッドファイバー 40k        40    2.63    0.038    84.0 
        
上表で、帯広の広岡建設が言っていたのはグラスウール吹き込みの36.1に対してロックウールの吹き込みは67.0KJ/uKと熱容量が2倍近くちがうということの差である。

そして、木の繊維のグラフが示している差は、16kのグラスウールの16.5とウッドファイバーの84.0KJ/uKという5倍近い熱容量の差ではないかと思う。

いずれにしろ、ウッドファイバーのセールスポイントがこの熱容量にあるとしたら、その具体的なメリットをきちんと示してもらうしかない。
私のようにQ値に凝り固まった頭脳の持ち主の意識改革をやってもらわないと、消費者と施工業者の支持を得てゆくのは困難。
その点を農業工学技師である後藤良忠専務に聞いてみた。

建築における熱計算ソフトには、熱容量が加味されていない。建築の熱計算ソフトは大型コンピューターを駆使したものにならねばならないと私は痛感しています。
例をあげれば医薬品開発のソフト。動物実験を行い、人体実験の前に、その薬が唾液にどのように反応するか、胃液に混ざればどうなるか、さらに血液の中に混ざった場合はどんな反応を起こすか、神経細胞にどんな変化が・・・・。
こういったいろんな問題点を、大型コンピューターで精密にシミュレーションしています。それから初めて人体実験にとりかかる。
住宅の熱計算ソフトに熱容量が加味されるべきだと思います。誰もやってくれなければ、私は自分でやりたいと考えています。しかし、この大型コンピューターを駆使するシステム開発には大きな資金が必要です。
当社は、30億円を投じてやっと試験操業にまで漕ぎつけた段階。
ウッドファイバーが売れて資金的な余裕が出てこないと、おいそれとは大型コンピューターでのソフト開発までには手が回らない。
その前に、防火認定を取るという仕事もうあります。
したがって、貴方が言うように今すぐにでも熱容量のメリットをもっと正確な数値で示したい。その強い意欲はあるのだが、残念ながらもう少し先に延ばさざるを得ないと言う実態をご理解いただきたい。

ということで、断熱材の熱容量問題は先送りになってしまった。
いろんな問題が次々と発生してくるので、この新鋭工場が軌道に乗るまでには今後も大変な苦労が待っていると思う。
しかし、日本の国産材を有効活用するという面で、画期的な設備が導入された。
この新鋭工場が、一日も早く軌道に乗ることを心から祈念したい。
                                    (完)
posted by unohideo at 13:25| Comment(0) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年07月05日

●坪53万円でQ値0.7Wが可能? 【帯広・札幌駆け歩記4】



昨日、鎌倉のパッシブハウスを見学したが、あまり感動がなかった。
というのは、日本で造られているサッシや輸入換気を使えば、Q値が0.7Wどころか、0.6Wから0.5Wのパッシブハウスが、地場ビルダーの手によって簡単に造れることが北海道で確認出来たから・・・。
問題はコンスタントな販売価格。
いくら良い性能の住宅でも、価格面でのイノベーションがないと普及しない。
400万円もする三菱の電気自動車。
これを購入するのは、当面は地方自治体とか環境省とかに限られる。
一般の人が、ハィブリッドカーの2倍もし、走行距離が短いものを関係者以外の人が先を争って買うわけがない。

鎌倉のパッシブハウスが感動しなかったのは、換気、断熱材、べバーバリアなどの資材関係や請負金額が特別協賛価格で構成されており、ビルダーの実勢価格からはるかに離れたものだったことが大きい。
パッシブハウスでは、もうデモストレーションの時代ではない。
北海道ではQ値が0.6Wから0.7Wの住宅が、一体いくらの坪単価で供給出来るのか。
内地では0.8Wから0.9Wの住宅の坪単価が、いくらで提供出来るのか。

パッシブハウス級の住宅で、先導的な価格が発表されている。
一条工務店のi-cubeの、50坪の住宅の坪53万円の価格がそれ。
一般的には50坪というのを標準価格とするには規模が大きすぎる。
一条工務店としては安さを強調したいがためにあえて50坪としたのだろうが、一般的には40坪から45坪で、坪単価がいくらというのが普通。
i-cubeも40坪から45坪ということになると坪単価が60万円前後となろう。

RIMG3175.JPG

RIMG3178.JPG

帯広で一昨年、私が最初に訪れたQ値が0.9W台の住宅は、岡本建設の高橋工事部長の自宅であった。208の充填断熱で、サッシはノルドの1.2Wで、換気はカナダの顕熱で熱回収率は60%。これが2年前は最先端だった。そして、延べ建築面積は43坪で、坪単価は55万円。
技術屋が自宅だということで工夫を凝らし、プラン的にもデザイン的にも非常に面白く、内地に比べて価格が大変にこなれていた。

P1010503.JPG

これが、昨年から今年になると、性能が一段とアップしていた。
上の写真はキューブ・チセが昨年暮れに完成引き渡したA邸。
206にロックウールの充填断熱材、熱回収率90%の顕熱換気に0.8Wのサッシで、Q値は0.78W。延べ面積は60坪で、この家の坪単価は53万円。奥さんのお目出度の関係で中に入れなかったが、無垢材をふんだんに使い、照明に工夫がこらしてあるという。
そして、この性能で40坪から45坪の住宅だと坪単価はどれだけかと簑島社長に聞いたら、坪当たり55万円から58万円という答が返ってきた。

P1010542.JPG

P1010544.JPG

次ぎに訪れたのが、広岡建設が施工したガレージを含めると延べ90坪にも及ぶI邸とY邸。
このしっとりとした雰囲気の漂う豪邸について書きたいことがいっぱいあるが、今回は価格がテーマなので、はしょらせていただく。

P1010517.JPG

P1010507.JPG

P1010510.JPG

同社が施工した標準的な住宅を二軒案内していただいた。
1つは回転窓の家で、もう1つはドレーキップの家。どの家も換気は外気が−27℃になっても結露せず、熱回収率が90%の顕熱。
「私も、つい最近までは第1種換気などは必要ないと考えていた。ところが90%の熱回収をすると暖房費がほとんどかからない。お施主さんの反応がまるきり違う。性能のよいサッシと90%の熱回収は、これからは不可欠の条件。そして、現時点では206に60キロのロックウール充填で帯広のお客さんは満足している。あと100ミリのロックウールを外断熱として追加し、Q値を0.7W以下にすることはいたって簡単。坪1万円強でいくらでも可能。しかし、そこまでの要望はない。0.8Wの40坪から45坪の住宅で、坪単価は48万円から52万円というところ」と広岡社長。
これだと、一条工務店は帯広へ店を出すのをためらうであろう。

P1010269.JPG

さて、翌日は札幌の無暖冷房研究会のメンバーの現場を2ヵ所拝見した。
1ヶ所が大洋建設のQ値が0.9Wのスーパーエコの現場。この現場はアースチューブに見るべきものがあった。ともかく、20メートルの長さだと19万円で出来ると言うから驚き。
同社の場合はスーパーエコで坪単価は50万円という。

P1010268.JPG

次ぎに訪ねたのが道東ハウスのモデル。
断熱材はやたらと厚いがサッシはPVCの1.4Wで、カナダから輸入の顕熱換気の熱回収率も思ったほどではない。したがって、現時点でのQ値は0.85W程度と推定した。
藤井社長は「この性能だと45坪の住宅で坪45万円で出来ます」ときっぱり断言。
そして、性能の良いサッシと換気を導入し、Q値が0.7Wを切り0.6Wに近くなっても、同社の場合は45坪の住宅で、坪単価は50万円で可能かもしれない。

札幌周辺で、現在一番優れた性能値をだしているのが西條産業で、アースチューブとスティーベルの90%の熱回収でQ値は0.6Wを切っているという。しかし、モデル的に1棟施工しただけのようで、何度もお願いしたがあまりにも有名になりすぎ、施主から公開拒否の返事をいただいたのが残念。

しかし、事務局の三星氏は「サッシと換気で高性能のものを安適正価格で入手出来る見通しがやっと得られた。私どもの研究会が目的としている3−0−3(平方メートル当たり暖房が3リッター、冷房が0リッター、給湯が3リッターであがる家造り運動)住宅の年内着工見通しが、現時点で15棟となっている。このいずれもがQ値が0.7W以下になると考えられる。そして価格は一条さんが50坪の住宅で坪単価53万円というなら、私どもは40坪から45坪で坪単価53万円以下でやらなければならない。まだ、アースチューブなど研究すべき問題点は多いが、非常に明るい見通しがえられてきている」と語る。

北海道のトップグループは自信満々。
さて、内地ビルダーの価格問題のイノベーションは、どうなるのだろうか。


posted by unohideo at 17:21| Comment(0) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年06月25日

●金物が露呈しない画期的ラーメン構造 【帯広・札幌駆け歩記3】



今回の旅行の番外で、特別に面白い木質構造にぶつかりました。
個人的関心の優先順位が高いので、パッシブハウスの価格や断熱問題の前に取り上げさせていただきます。

ご案内のとおり、私は206の木軸壁工法が、これからの国産材を使った有力な木質構造の1つとして考えるべきだと提案しています。
これを、最初に問題提起したのがNPO法人北海道住宅の会。
ツーバィフォーのパネル化が進んだ。しかし、外壁パネルが長い一体構造として制作されていない。
壁工法では水平力を支えるのは一体化した壁パネル。これが命。
その命の壁パネルが一体化せず分断されているのなら、2間半とか3間毎に柱を建て、胴差と敷桁の間に206のパネルをはめ込んでゆけばいい。これだと壁工法と木軸の利点が活かされる。

この206の木軸壁工法を、かなり以前から実践している会社があります。
札幌のヨシケン一級建築士事務所がそれ。
そこが、新しいラーメン構造に取り組んだという噂を聞き、何はさておいてもと訪問させていただきました。
同社の206の木軸壁工法は写真のとおり。
606の柱を建て、206のパネルを挟んでゆく。
そして胴差しや敷桁は410ないしは610。
このため、窓マグサが不要に。
そして、小屋組は210材で屋根根太方式ないしは屋根梁方式。

P1010577.JPG

P1010576.JPG

P1010579.JPG

今回はこの木軸壁工法の紹介が目的ではありません。先へ急ぎましょう。

釧路市の東北に弟子屈(てしかが)町があります。摩周湖と屈斜路湖で有名。
その屈斜路湖の川湯温泉近くに、東京の不動産屋が延べ290坪にも及ぶ保養施設を計画しました。設計は東京の事務所で、元請けは北海道のゼネコン。
そのゼネコンからヨシケンへ「初めて見る変わった木構造だ。君のところならいろいろやっているから出来るだろう。1つ骨を折ってみてくれないか」という話が持ち込まれました。

計画を見るとレストラン棟216.3u、宿泊棟363u、スパ93u、管理棟289u、合計4棟で961.3u(約290坪)にも及ぶもの。大きな吹き抜け空間もあるので、実質的には延べ400坪を越えるという施設。釣り好きの仲間の集会場所となるらしい。
この木構造は、ステンレスのダボによるラーメン構造。これが珍しい。

もう1/4世紀も前の話。千葉工大に成田寿一郎という木工の先生がいました。
家具が専門で、木製建具の工場を見ては「なぜダボを使わないの・・・。ダボを使うと生産性が一気に上がるのに・・・」というのが口癖。
堅木を使う家具では有効でも、スギなどの柔らかい針葉樹では無理。建築関係ではいろんなホゾやミゾが昔から無数に考えられて、ダボが出る幕はないのだろうと考えていました。
ところが、数年前に北欧の木質構造をネットで調べていたら、高速道路の支柱に直径1.5メートルもある中空の集成材が使われており、その大きな支柱は直径10cm、長さ60cmもあるステンレス製のダボで、地上に設置された鋼製のプレートに取り付けられていました。
はっきりした数は忘れましたが、ステンレスのダボの数は30本近くあったように思います。これを接着剤併用で固定してゆく。

「へぇ。北欧では橋梁だけではなく、高速道路の支柱にも木の集成材が使われているのだ! 日本では見たことのないステンレスのダボが土木工事では使われている。しかし、建築にこのステンレスのダボが使われることはないだろうな」とため息をついた記憶があります。
ところが、ヨシケンさんに見せて頂いた弟子屈町の写真は、まさにこのダボ構造。
4棟で37枚もの写真をいただきましたが、全部公開するだけのスペースはありません。
メインのレストラン棟を中心に、新しいダボ(ホームコネクター)によるラーメン構造のスナップ写真のいくつかを、見てゆくことにしましょう。

resize3257.jpg

まず、フラットな土間床スラブが完成した現場へ、道材のカラマツ集成材の大きな梁と柱が運びこまれます。

resize3258.jpg

そして、現場の脇に206材や構造用合板などでフラットな作業台が作られ、その上で柱と梁に、梁と梁の接合のためにダボ穴があけられます。

resize3107.jpg

resize3105.jpg

この梁と柱を、変形K字型に現場で組み建てます。
ダボ穴にステンレス製の中空ホームコネクターを何本も取り付けて、サヤ管から中空ホームコネクターへ接着剤を注入し、ダボ穴全体に接着剤を充填します。
そして24時間放置しておくと剛に緊結し、簡単にラーメン構造が得られるというわけ。

resize3109.jpg

右端の柱のダボ穴の大きさを確認して下さい。鋼製のプレートに取り付けるホームコネクターは太く、10本も取り付けることがわかります。

resize3119.jpg

resize3134.jpg

組上がった変形K字型のラーメンをクレーンで吊り上げます。
そして、慎重に柱がプレートに取り付けられます。

resize3132.jpg

resize3174.jpg

柱と柱も、梁で緊結されます。
そして、サヤ管からコンプレッサー式の注入器で接着剤が注入されます。
このサヤ管は、後で埋木をすれば跡が気にならなくなる。

resize3152.jpg

resize3162.jpg

天井根太が取り付けられ、野地合板が張られます。

resize3220.jpg

resize3215.jpg

こうして、剛なラーメン構造の吹き抜け空間が完成。

resize3222.jpg

外部から見た完成写真。

見てきたように、現場での加工精度と施工精度を維持する苦労は大変です。
しかし、ことさら加工業者に発注しなくても、現場で自在にラーメン構造が完成するというのがこの工法の魅力。
そして、今までの金物工法とは異なり、金物が一切表面に露呈しないのがいい。

どんな断面の梁と柱が必要かは、構造設計事務所で計算。
その図面をホームコネクターへ送付すれば、どれだけの太さのホームコネクターが何本必要かを計算してくれます。そして、そのホームコネクターと接着剤とコンプレッサー式の注入器を買うだけでよいとのこと。

つまり、大袈裟な設備や投資が不要で、簡単に木構造のラーメンが得られるというのは、大変に魅力的なことです。
この耐用年数や価格などについては、メーカーに直に聞いていただきたい。
ともあれ、日本の木質構造もここまで来たか、と一入の思いがしました。

posted by unohideo at 05:26| Comment(0) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年06月20日

●90%の熱回収の現実と問題点 【帯広・札幌駆け歩記2】

25年も前から、第3種換気の輸入業者から「熱交換機はコスト的なメリットが1つもない。まして東京で第1種換気を採用するのは狂気の沙汰だ」と批判されてきました。
単に燃費だけを考えればこの指摘は正しい。
しかし、いくら批判されても、第1種換気にこだわり続けました。
快適性がまるきり違い、消費者の強力な支持があったから・・・。

ご案内のように、北ヨーロッパでは第3種換気が圧倒的に多い。
これは、(1) 地域給湯・暖房システムが大都市では100%に近い普及を見せている (2) 各戸に供給される安い給湯を使って、各室の開口部の下部には輻射暖房のパネルヒーターが設置されている (3)このため、パネルヒーターの上部に第3種換気の給気口を設けても、冷気が直接床に落ちることがなく快適、だからです。
つまり、窓下にパネルラジエーターがあっての第3種換気。
逆に言えば、窓下にパネルヒーターや蓄暖がないのに第3種換気を奨めるのは犯罪行為。

冷房が主体の東京以西では、窓下の暖房とクーラーの二重投資が出来る家庭はほとんどありません。空調で冷房と暖房を兼ねています。
個別エアコンは、ドレーンの関係で外壁側についており、同じ外壁に3種換気のパッコンを設置。この冷気は床へ向かって直下降。
個別エアコンの家を冬期に訪ねると、時折ヒヤリと冷気が襲ってきて不快。施主は家の中で風邪をひくことも・・・。
そして夏期は、高温多湿な外気がそのまま室内へ入ってきます。このためクーラーに結露が生じたことも。ただ、冬期と違って暑気は床に落ちず、天井面に溜まるのでそれほど体感的な不快さは少ない。だが、湿度管理が難しく、冷房はフル運転して痛い風が当たります。

こういった不快さを一掃するため、セントラル空調換気システムを採用しました。
顕熱換気で、当時の熱回収率は60%で御の字。
そして、換気のランニングコストはバカ高。第3種が日に30円なのに対して、第1種は80円近くも。
しかし松下・三菱の寡占状態が解消して50円までに下がりましたが、モーターが2台必要だからこの差は不可避と考えていました。
ところが、最近では熱回収率が大きく向上したのに、ランニングコストは第3種並みかそれ以下という製品が続々登場。さらに、各室の窓下にパネルラジエーターが不要なパッシブハウス化が進んで、第1種換気の開発が急速に進んできています。

さて、サッシと換気を大きく取り上げている理由をここで説明させていただきます。
今、仮に132u(40坪)の総2階建ての住宅があるとします。
この家の天井及び床面積は62.6u、外壁が136.6u、開口部が38.3u、気積が一部勾配天井で350.3m3とします。

そして、3タイプの異なる性能の住宅を用意。
◆W地域の次世代省エネ基準のQ値2.7W。
◆R-2000住宅基準の1.4W。
◆パッシブハウスに準ずる0.7Wの住宅がそれ。
次世代の約半分がR-2000で、その半分がパッシブハウスという配置。

それぞれの住宅の外壁、開口部、換気の仕様は下記。(天井、床は省略)
◆次世代住宅
 ・外壁=10キロのグラスウール100mm ・サッシ=アルプラ6mm ・換気=3種。
◆R-2000住宅
 ・外壁=140mm高性能GW ・サッシ=PVC Low-Eアルゴン、ペア ・換気=1種、熱回収70%。
◆パッシブハウス住宅
・外壁=140mm高性能GW+KMロックウール100mm ・サッシ=4-14-4-14-4トリプル ・換気=1種、熱回収90%。
この3タイプの部位別熱損失とその比率は下表。

  【次世代基準】2.6W/u  【R-2000】1.4W/u  【パッシブハウス】0.7W/u
部位  熱損失(W)比率(%)   熱損失(W)比率(%)   熱損失(W)比率(%)
外壁   66.3   19.3       42.6  23.8       21.4  24.1   
開口   155.9   45.3       65.1  36.4       30.6  34.5      
換気   61.3   17.8        30.1  16.8         17.3   19.5  
天井   29.5    8.6        15.8   8.8        8.4   9.5    
床    30.8    9.0        25.5   14.2       11.0  12.4      
合計   343.8   100.0      179.1  100.0       88.7  100.0                                                                          

この表で一目のように、熱損失の中で圧倒的な比率を占めているのがサッシ。次いで外壁と換気。これに手をつけることが省エネ住宅づくりだということが分かります。
◆開口部をアルプラ6mmからU値0.8Wのトリプルに変えるだけで熱損失は125.3Wも改善出来る。平方メートル当たり改善Q値は0.95Wにも。
◆外壁断熱は10kgのGW100mmを、140mmの高性能GW+ロックウール100mmに変えると熱損失は44.9Wの改善。平方メートル当たりの改善Q値は0.34Wに。
◆この外壁数値に匹敵するのが換気。3種を1種の熱回収率90%に変えると熱損失は44Wの改善に。平方メートル当たり改善Q値は0.33W。
つまり、開口部・外壁・換気を高性能に変えるだけで平方メートル当たり1.62WものQ値を大幅に引き下げることが出来ます。
ということは、関東以西ではほぼ暖房費が不要になります。これは、これからの10年、20年先のことを考えると、施主にとっては大きな魅力。
パッシブハウス研究所がサッシのU値を0.8Wに、換気の熱回収率を90%に、外皮のU値を0.15W以下にするように強調している理由が、上記の数字から納得できます。
ただし、東京などの温暖地で、それだけの性能が必要かどうかという判断は別。


P1010572.JPG

日本へ最初に導入された90%の熱回収換気は、スティーベル社製の顕熱交換機。
実は、この機械はドイツではアースチューブを前提に開発されたもの。
地中2メートルの深度に30メートルにおよぶアースチューブを設置。このため、外気温がマイナスであってもほとんど結露することなくドイツでは稼働しています。
この機種を北海道のQ-1グループが、勇気を持って最初に採用しました。
ところがアースチューブがなかったので結露が激しく、デフロスト(霜取り作業)をしている時間が長く、90%の熱回収はとても無理。このため、Q-1グループはスティーベルを捨て、ナショナルの全熱交換機に切り替えています。これは、アースチューブのことを正しく説明していなかった側が悪い。

一方、スウェーデンから輸入の顕熱には、結露防止のためのプレヒーター付きが多い。
あのハンスさんが「無暖房機住宅」と呼んだ住宅にも、このプレヒーターが付いています。プレヒーターは単純な電熱器。ヒートポンプではありません。
結露を防ぐために、原始的な電熱器で冷気を温めてから換気を行う。
「暖房機を排除した家」という言葉はカッコ良いが、その内容は「性能の悪い電熱器を採用した住宅」だった。このためスウェーデンでは、その後ハンスさんの「無暖房機住宅」は一戸も建てられていません。

P1010509.JPG

P1010521.JPG

ところが、その中にあって「外気温度がマイナス27℃でもプレヒーターが不要で、熱回収率がアベレージで90%あります」を謳い文句にしているのかSystem air社のVM-A。
顕熱交換機で、北海道などの寒冷地に最適。
しかし、何しろこの機種は価格が高い。
第3種が工事費込みで30〜35万円なのに対して、90〜110万円と3倍。
これではとても商売にならないと、ガデリウス社は昨年で撤退を表明。ところが、ユーロハンズは意気軒昂。
なぜなら、単に換気だけで考えるのではなく、暖房もセットで考えると安くなるから。
第3種換気は30〜35万円だが、暖房設備に80〜100万円かかる。合計110〜135万円。
これに対してVM-Aは90〜110万円。しかし90%熱回収してくれるから暖房器は小型のオイルパネルヒーターで十分。つまり暖房費は40〜45万円で、合計すると120〜160万円。3種に比べて10〜25万円高にすぎない。
これは、数年間のランニングコストで十分に償却出来る。

この機種にはプレヒーターが無いのに、なぜ熱回収率が高いのか。
それは、外気温度が氷点下になり氷結が始まると、2つの解氷ダンバーが交互に作動を始める。デフロスト作動時は、実働熱交換面積が半減することもある。その時、モーターの回転数が自動コンピューター制御で上がり、同じ流量が確保されるから。これがポイント。
そして解氷された水は2つのドレーン管から除去される。このコンピューター制御がメーカーというよりはユーロハンズの得手とするところであるらしい。
ただし、日本の浴室からの換気はしないという。北海道では浴室は局所間欠排気。でないと結露が生じる。
浴室の排気処理をしないのなら、顕熱ではなく全熱でよいのではないかという気がした。
しかし、機械はコンパクトで、これを採用しているビルダーと施主の評価は高かった。

P1010246.JPG

この外に、道東ハウスではカナダ・ライフブレース社製の顕熱交換機「155MAX-ECM」を、床下ピットの暖房空間に設置していました。最大熱回収率が83%で、これは試験採用で、アースチューブとのドッキングの下調べ段階ということのようでした。
北海道では、配管工事が基礎工事に先行するところから、アースチューブ工事が20万円前後で簡単に施工出来るそうです。
ということになると、こうしたスウェーデンやカナダ製だけではなく、ドイツやオーストリア製のアースチューブを前提にした、熱回収と貯湯を兼ねたシステム機種が導入されてくる可能性も考えられます。
熱回収と貯湯については、まだまだ技術開発の途上にあると考えるべきでしょう。したがって、最終的な結論が出るのはまだ先だと思います。

P1010230.JPG

さて、北海道はともかく、内地での換気はどうしたらよいでしょうか。
なにしろ、一条工務店が全熱で90%という写真上の機種を公開しています。
この全熱交換機は旭川では結露が心配だが札幌ではないというから、内地では結露フリー。しかも、熱回収が顕熱の90%ではなく全熱の90%という性能。性能が良い反面、機械の容量はスウェーデン製やドイツ製に比べて大きく、場所をとる。
この全熱交換機に対抗するものとして、熱回収率83%のスウェーデン製のRDKRをガデリウスから発売されようとしています。

P1010190.JPG

最大の特徴はロータリー式で、交換ユニットが従来の紙ではなくアルミだという点。このため、メンテナンスが容易で、匂いの移転問題も解決済みという。
日本での実績がないのでこれ以上のコメントは出来ません。
仲間のビルダーが試験的な採用を決めており、その結果の発表が待たれます。
匂いが気になれば、光触媒機能を付加させたら良いかもしれません。

いずれにしろ、内地の方が北海道よりも対応が遅れており、まだまだ混沌状態と言えるようです。
posted by unohideo at 06:59| Comment(0) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年06月15日

●U値0.8Wのサッシの入手方法【帯広・札幌駆け歩記】  



内地のビルダー2社と、帯広・札幌を駆け足で回ってきました。
テーマは5つ。
(1) U値0.8Wのサッシの入手 (2) 熱回収率90%の換気 (3) 熱容量の大きな木の繊維とロックウールの調査 (4) 一条のi-cubeに対応出来る性能と価格の見通し (5) 新しいラーメン木構造の可能性。
随分と欲の皮の突っ張った視察。
当然のことながら、すべてのテーマに対して完全な答を用意出来るわけがありません。

最大のテーマは、U値が0.8Wのサッシを、どうしたら安価に、しかもスムーズに、アフター体制が万全の形で入手出来るか。
私は、日本のサッシメーカーをはじめ北米、北欧のサッシ工場はかなり見ている方だと自負していました。しかし、昨年バウマンさんにドイツのダンドル社という中堅サッシ工場を案内してもらい、腰が抜けるほどびっくりしました。
この工場は1950年に、ウッドサッシ工場として設立され、現社長は3代目で、技術にも明るく人柄も信頼出来る立派な紳士。
従業員は80人。ドイツのサッシ工場としては大きい方。
そして、単にサッシの受注生産をしているだけでなく販売エリアを100キロ圏と決め、搬送から取付工事までを一貫して行っていました。もちろんアフターも。
したがって、従業員80人といっても、工場で働いているのは40人程度?

サッシの生産比率はPVCが50%、ウッドが35%、残りの15%はウッドにアルミをカバーしたもの。このほかに、玄関ドアや内部ドアも生産しています。
ガラスは現時点ではダブルが2/3でトリプルが1/3。このトリプルというのは4-16-4-16-4で44ミリ厚。そして2年後にはトリプルの需要が増えて50:50になるだろうと予測。
納入している戸建住宅の平均規模は150m2で、内部ドアを含めての平均売上高が2万ユーロ。
工事込みで270万円前後で納まるというのですからため息が出ました。
おそらく0.9WのPVCサッシだと300万円強。0.8Wのウッドサッシだと350万円程度で納まるのではないかと勝手に推測しました。
この価格で、150m2の住宅の高性能サッシとドア工事が仕上げられるというのは、エリアを限定しているので梱包費がほとんどかからず、運賃も安い。そしてやたらと営業マンや事務員を抱えていないし、営業所経費、事務所賃料などの間接経費が、日本の大手サッシメーカーに比べると格段に低いから。
ただ、肝心の全体の売上高を聞くのを忘れました。おそらく25〜30億円程度? 
ともかく、工場の自動化は大変進んでおり、日本や北米の工場に比べてはるかに生産性が高いのには感動しました。感心てはなく感動もの。
それだけではなく、精度が驚くほど良い。
製品のデザインもクォリティも抜群。
パッシブハウス研究所からのハードな性能要請が、ドイツのサッシ工場を世界一のハイレベルなものに一変させていました。
(写真などの詳細は、このブログのカテゴリ「海外情報」08年12月05日、ドイツパッシブハウス調査 11 を参照されたし)

この工場を見て、最初に考えたことはこのダンドル社からPVCサッシとウッドサッシの輸入です。とくにPVCサッシには大きな魅力があります。
だが、輸入サッシには3つの大きな障害があることは、輸入住宅を手がけたことのあるほとんどのビルダーは熟知しています。
(1) 船便だと最低2ヶ月かかる。万が一破損して航空便を使うと数十万円が吹っ飛ぶ。
(2) 在庫すると、不良在庫が20%近くも増大してしまう。
(3) アフターメンテを含めて、専門的な知識と技術を持ったプロの存在が不可欠。
このプロがなかなか得られない。そして、その経費を含めると高価なものになってしまう。
ということで、ダンドル社からの輸入を検討していたフーチャーハウジングは、代理店問題からダンドル社を諦め、同等の性能を持つ他社に切り替えたと聞いています。

ドイツには4点同時熔接出来る機械を1500万円程度で導入し、50キロを商圏としたPVCサッシの加工工場が1000社近くもあると聞いています。肉厚の厚いメタボリックな従来の型材での加工ならば、こうした弱小メーカーでも生産が可能です。
ところが、U値が0.9WのPVCサッシの型材は、日本や北米のメーカーが採用している従来の肥満症の型材とは全く異なります。
空気の房を多くして断熱性能を飛躍的に向上させるため型材の形状が一変し、PVCは極端に細くなっています。そして、ステンレスの角材を入れて強度を保持しています。
このステンレスの角材加工までを含めたサッシ工場は、1500万円とか5000万円の投資では絶対に出来ません。

ダンドル社は2年前に旧工場を破棄し、新規に5億円? を投資してコンピューター制御の最新工場を稼働させていました。
この新工場の内部は、一切撮影禁止。
このため、その素晴らしさを立体的に説明出来ませんが、まさしく近未来のサッシ工場の姿がそこにありました。パッシブハウスの普及とともに、ドイツのサッシ需要はこうした設備を持った工場に統合されてゆくでしょう。

つまり、性能の低いサッシだと、大型の量産工場の存在も許される一方、サッシの加工センターにすぎない零細工場の存在も世界的に許されてきました。
ところが、Q値が0.9Wを切るサッシが生産出来る工場となると、投下資金が最低でも2億円はかかると考えるべきでしょう。
そして、工場での生産性だけなく、搬送や取り付けまでのトータルの生産性を考えると、やたらな大型工場は間接経費倒れになります。
ドイツではQ値が0.9W以上のサッシだと、大手メーカーは生産性で中堅企業に太刀打ち出来ません。高級取りの営業マンを、あまりにも多く抱えた日本のサッシ会社も、価格面での値下げは半永久的に期待薄。
と同時に「集中と排除」という横並びの経営姿勢で、直ぐに儲からないパッシブハウス用サッシの開発は、大手のサラリーマン集団に期待することは出来ません。私は、大手サッシメーカーにパッシブハウス用のサッシの開発を期待するムダな考えは一切破棄しました。
こうした現実を直視して、日本では売上げ20億円から40億円というPVCサッシとウッドサッシの両方を生産出来る工場が、50社程度出来ることが理想的な姿ではないかと考えるようになっています。

さて、日本で5億円近くを新規に投資して、ドイツから型材とステンレスの角材を輸入し、PVC工場を開設しようとする企業はどれだけ期待出来るでしょうか?  
正直な話、皆無に近いと考えます。
可能性があるとすれば、一条工務店がフィリピン工場のラインを変え、型材の仕入れ先をカネカからドイツに変更する程度ぐらい。
したがってPVCに関しては、残念ながら当面は輸入以外に選択肢はないと思います。

しからば、ウッドの輸入サッシで、Q値が0.9W以下のものがあるのか?
ご案内のとおり、輸入サッシはスウェーデンからの輸入の大手であるガデリウスをはじめとしてほとんどが1.2W以上。
単なる完成品の輸入ではなく、スウェーデンから技術と資材を輸入し、日本や中国で加工生産している会社が旭川のノルド社と兵庫の昭和住宅があります。しかし、1.0Wを切る性能値については必ずしも価格面での実績があるわけではありません。
しかし、加工場が旭川や中国にあるということは、搬送期間が2週間以内で済みますから、ビルダーや消費者にとっては有難い存在。
問題は性能と価格と形状。

今回訪れたのは、帯広に昨年加工工場を開設したユーロハンズ社。
スウェーデンからサッシの資材を輸入するという点ではノルド社と同じ。そして、主力商品が回転窓というのもよく似ています。スウェーデンハウスとも同じ。
ただ、0.8Wのサッシを適正価格で出荷することを約束してくれています。

P1010516.JPG

個人的な意見では、この両社が切磋琢磨して、北海道のビルダーにより安価で、高性能のサッシの供給競争をしてくれることがベスト。これに、久保木工とか飯田ウッドワークがどれだけ本気になって立ち向かってくれるのか?
純国産メーカーは、現時点ではあまり期待出来ないのが実態・・・。
というのは、ウッドサッシというのは、見た目はウッドだけれども、裏方の金物の性能が物を言う世界。とくに内地で評判の良いドレーキップ窓などは、金物そのものの性能で決まると言っても過言でありません。

このドレーンキップをメインにしているのが昭和住宅。
ユーロハンズは2年前までこれをメインにしていた。
このドレーンキップは外側がアルミで内側がウッド。その間にブラインドを入れられ、仙台以西ではこれからの本命商品。

P1010197.JPG

しかし、北海道では日射遮蔽の要望が少なく、ユーロハンズでは長く売っていたが需要を開発出来ず、2年前に生産を中止したというのが何よりも残念。
同社が2年前に販売したドレーンキップの施工現場を案内してもらいました。
ブラインドは入っていなかったが、外のアルミが外開きで、内倒しと内開きの機能は大変に魅力的。価格的な面から考えても、同社がドレーンキップの生産を再開してくれたら、関東から東北にかけてかなりの需要が期待出来ると考えられます。

P1010508.JPG

ということで、ユーロハンズの回転窓は性能、価格面で魅力があり、北海道のビルダーには朗報だが、内地の両社が採用に踏み切るかどうかは微妙。

それと、PVCサッシの防火偽装で、準防火地域用の使える高性能サッシが皆無になったことが東京では痛い。本当に痛い。
ユーロハンズの小川社長は、ドレーンキップ窓で防火認定を取ろうと努力したが、ほんの少しの差で二回も不合格になったと正直に話してくれました。もし合格していたら、単に住宅だけでなく、ホテルやマンション需要も期待出来たはず。
なんとか、再トライを期待します。
このような事情で、防火認定を取れるサッシは、現時点では2.3Wのアルプラしかない。
哀しい!!

私は準防地域では、外側に外開きのアルミの網入りサッシを使い、間にブラインドを入れ、内側にウッドのダブルかトリプルの内開きサッシを入れるしかないのではないかと考えています。
つまり2+1か、3+1。
3+1だと0.8Wは堅い。
ともかく、ユーロハンズは1つの突破口を開いてくれました。
地場のビルダーに聞きましたら、雨仕舞いやメンテナンスに関しては問題がないとのこと。
とすれば、これを詰めてゆく作業を、お互いに急ぎましょうよ。
ただ、サッシ工場として見れば、スウェーデン系はドイツに比べると遅れています。
posted by unohideo at 07:02| Comment(0) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月25日

3-0-3運動の続き ・ 身近になったアースチューブ


先月、札幌で大洋建設の鏡原社長に会うまでは、どんなにパッシブハウス研究所のファィスト博士が力説しても、「アースチューブはドイツやオーストリアでは実用性があっても、日本では縁のないシステムだ」 と考えていた。

ところが、4月30日のこの欄で書いたように、北海道では凍結深度の関係上、基礎工事に先行して給排水工事がなされる。
東京のように、床下に配管して、念のために断熱材を巻いておけば「凍結の心配がない」というわけにはゆかない。
ということで、先行工事を行う水道屋さんは掘削機を持っている。
その水道屋さんに、「ついでにアースチューブ配管をやって欲しい」 と頼めば、快くやってくれる。
しかも、ついでの工事だからそれほど費用がかからない。
「20メートルの長さのアースチューブだと、20万円程度でやってもらえる」と。
これだったら北海道で使える、と直感した。
外のどのシステムよりも価格的に有利だと感じた。

そして先週、道無暖冷房研究会から、北総研の月舘課長を招いて行った「アースチューブに関するセミナー」の講演資料を送っていただいた。
この資料は41枚に及ぶレクチャー画面を縮小したもので、その研究範囲は多岐にわたっていることが伺われるもの。
日本でこんな地道な研究がなされていたとは知らなかった。
正直言って、驚き。
しかし、送ってもらった資料を、面識のない人間が、月舘氏の了解を得ずに勝手に紹介するというわけにはわかない。

そこで、月館氏の研究発表がネット上にないかを調べた。
もしあれば、それを参考にしてもらえばいい。
しかし、いろいろ漁ってみたが見当たらない。
ネット上に公開されていないらしい。
というわけで、図を示せないのではなはだ説得力のないものになってしまったが、北海道におけるアースチューブの実用性について、その表皮をさらりと紹介させて頂きたいと思う。

まず、アースチューブの性能、つまり熱交換量を左右する要因として、月舘氏は次の7点をあげている。
(1) 管の長さ
(2) 管の径
(3) 風量
(4) 埋設の深さ
(5) 土質
(6) 運転時間
(7) 埋設間隔

非常にもっともな話。
そして、氏は下記の、札幌での夏期(6〜8月)の10例のシミュレーション結果を発表している。

管径   風量   長さ 温度効率 運転時間 平均温度降下 総除去熱  備考
  (m)  (m3/h) (m)          (h)      (℃)     (MJ)
1 0.19   167  10    0.632    211     4.4     185     
2 0.19   167  20    0.865    211     6.5     304  結露水残留  
3 0.19   167  30    0.950    211     7.7     396  結露水残留
4 0.19   167  10    0.865    211     5.0     214         
5 0.19   167  10    1.000    211     5.7     243         
6 0.19   333  10    0.634    211     3.2     270        
7 0.25   167  10    0.558    211     4.1     190  結露水残留
8 0.25   333  10    0.508    211     3.1     265       
9 0.19   167  10    0.632    586     2.7     314  22℃以上
10 0.19   167  10    0.632    2183     1.2     361  連続

ドイツでは、夏期はアースチューブを使っていなかった。
結露のおそれがあるからだと考えていた。
しかし、それは自分の一方的な思いこみだったようだ。

ヨーロッパでは夏期は乾燥期。
温度がそれほど高くなく、湿度が低いので、直射日光が室内に入らない限り冷房の必要もなければ、わざわざアースチューブで温度を下げた温度で熱交換する必要がない。
ということで、アースチューブはもっぱら冬期だけに使っているらしい。

ところが、相対湿度が高い札幌では、日射遮蔽だけでは不十分で、アースチューブで温度を下げた方が良い。
上のシミュレーションでは、φ190mmで、長さ30mの塩ビ管の中を167m3/hの風速で空気を流すと、7.7℃も温度が降下してくれる。
札幌では、最高気温が28℃台であることを考えると、アースチューブを通すだけで25℃以下の室温が十分に可能だと推測される。
つまり、窓を開けて風通しを良くし、室内をホコリや排気ガスで汚さなくても、アースチューブで「冷房費ゼロ」となる可能性が高いということ。
しかし、備考欄にあるように、結露水の残留の心配もある。

だが、札幌の平均温度が8月の平均温度が24℃程度で、相対湿度が70%強ということであれば、絶対湿度は13g程度。
東京だと快く感じるほどのこと。
そして、この温湿度の露点を調べるとマイナス6℃程度。
たしかに結露水残留の心配はあるが、ドレーンを用意すれば除去が十分に可能。
むしろ、意識的に結露を起こさせ、除湿した空気を取り組むことも可能だろうが、絶対湿度が低いので、装置としては案外難しくなりそうだ。

月舘氏の資料には、夏期だけではなく、冬期の吹き出し温度、並びに熱交換量の計算式が掲載されている。
それによると、年間を通したアースチューブの効率を考えると、管径は19mmで、長さは30mではなく20数mで良いという。
実験値に裏打ちされた計算式だから、ビルダーにとっては使い勝手が良い。

残念ながら、現時点ではこれ以上の紹介が出来ないが、北海道の仲間の手で、アースチューブを使った顕熱交換システムの採用や、夏期の無冷房機運動が進んでゆくものと期待される。



posted by unohideo at 15:55| Comment(0) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月16日

訂正

友人からメールが入りました。
3リッターは15kWh/uではなく30kWh/uではないかと。

最近は灯油高で3リッター=30kWh/uとは言いにくくなっていま
すが、友人の指摘が正しい。

つまり、暖房30kWh/u、冷房0kWh/u、給湯3OkWh/uという3-0-3
目標は甘過ぎる。
暖房15kWh、冷房0kWh、給湯15kWhに、1.5-0-1.5運動に訂正した方
が良いと言うのです。

運動の趣旨はともかくとして、私の3リッター=15kWhは間違って
いますので訂正させて頂きます。
posted by unohideo at 20:39| Comment(0) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月15日

「3-0-3運動」 ・ 専業ビルダーの出現 (下)



「掛け声と実態の乖離」が、省エネ住宅では多く見かける。

「R-2000住宅」は建設大臣認定で厳密に運営されていたから、乖離はなかった。
「Q−1住宅」は、すべての住宅のQ値が1.0W以下であるかのように錯覚する。
ところが、新省エネ基準の1/3の暖房費で上がれば、Q値が1.8Wであれ1.9Wであれ「Q-1住宅」と呼んでいいと言うからややこしい。

ドイツのパッシブハウスの定義を、これぞ「正義の味方」と高々と掲げている組織や個人をいくつか見ることができる。
暖房費15kWh/u、漏気回数0.6回/hの基準は、日本の優れたビルダーなら簡単に厳守することが可能。しかし、一次エネルギーが120kWh/uという基準は日本では絶対と言っていいほど守ることが出来ない。
なぜなら、ドイツは太陽熱温水器を使い、シャワーだけの生活をしているから一次給湯費をなんとか19kWh/uであげることが出来る。
これに対して深夜電力の安いエコキュートを使い、肩まで浴槽に浸からないと満足出来ない日本人は、一次給湯費だけで安く見積もっても41kWh/uも使う。
120kWh/uの1/3も給湯費だけで使う勘定。
しかも電気製品の使用量が多く、それだけでも50kWh/u近くかかっている。

Miwaさんの「鎌倉の家」の計画がその後どうなったか分からないが、給湯費は明らかにドイツのパッシブハウスの定義からはみ出していた。
ことほど左様に、一次エネルギー120kWh/uを掲げ、日本人にこれを押しつけようとする人々の常識は、徹底的に疑ってかかる必要がある。
こうした現実を考慮して、私のホームページでは今春早々から一次エネルギー目標を140kWh/uとさせていただいている。
これが、日本では現実的な目標値だと考えている・・・。

さて、「3-0-3運動」。
どうも、いまさらリッターで標示されると、道民にとっては分かり易くても内地の人間には分かりにくい。新築住宅で、灯油を前提にしている家庭が皆無になっている。北海道でも、新築では灯油暖房は見かけない。
したがって、3-0-3を「暖房15kWh/u、冷房0kWh/u、給湯15kWh/u」と置き換えて考えた方が、国際的に比較が出来、理解が早い。

まず、暖房の15kWh/u。
これは、北海道よりも緯度の高いドイツの基準と同じだから、簡単に達成出来るような気がする。
しかし理科年表で、ドイツをはじめ北欧各国の代表的な都市の冬期の平均温度を確かめて頂きたい。北欧やドイツよりも北海道の都市の平均温度が低い。
これはドーバ海峡を通って温かい海水が流れ込んでいる北欧に対して、オホーツクの流氷が漂着する北海道は冬期の気温が低い。
流氷が漂着する世界の最南端が北海道とのこと。
だから、北海道の暖房15kWh/uは、それほど簡単な数値ではない。

ドイツでは15kWh/uを達成するために (1) 屋根・外壁・床のU値は0.15W/uk以下であること (2) サッシのU値は0.8W/ukであること (3) 30mのアースチューブないしは熱回収率90%以上の顕熱交を使用すること、を求めている。
これに対して、研究会ではとりあえず断熱材だけで突っ走ってきた。
サッシやアースチューブ、換気に関してはなかなか手がかりが得られず、どちらかというと後回しになってきた。
その軌道修正の見通しがようやく得られた模様。
これは大変に喜ばしい現象。

次の冷房費0kWh/u。
これは、相対湿度を無視し、平均温度だけだったら達成が可能。
しかし、温暖化が進んでおり、快適性を無視出来ないからなかなか難しい目的になってきている。
たしかに、ドイツなど北欧各国の家庭にはクーラーが入っていない。
クーラーを取り付けない変わりに、ドイツでは直射日光が当たる窓という窓に(北側の窓も含めて)シャッターないしはブラインド・シャッターを取り付けている。

P1000466.JPG

P1000460.JPG

P1000474.JPG

P1000481.JPG

何回も書くが、ヨーロッパでは冬期が雨期で夏が乾期。
したがって、夏は空気が乾燥していて相対湿度が40%以下の場合が多く、直射日光さえ遮れば30℃でも十分に体感的に涼しい。
これに対して札幌の過去5年間の7、8月の相対湿度は70%から75%。8月の平均気温は
21.2℃から24.3℃と低い。そして、過去5年間の最高気温をとってみても26.2℃、27.7℃、28.8℃、28.3℃、25.4℃と、驚くほどのことはない。
人間は25℃までだと相対湿度が多少高くてもそれほど不快感を覚えない。
しかし、温度が26℃を突破すると、はじめて相対湿度が60%以下でないと不快感を覚える。
ということは、札幌では日射遮蔽さえしっかりやれば、不快感を覚える日は年に数回しかないという勘定になる。
扇風機で十分に凌げる温湿度。
温暖化がどのような形で進むのかによって異なってくるが、クーラーの設置よりもドイツのように全窓にシャッターを付ける方を優先すべきなのかもしれない。

そして、給湯の15kWh/u。
これは、エコキュートのCOP能力が、寒冷地でも高くなれば達成が不可能な数値ではない。
しかし、エコキュートのCOPが2とか3の場合は、やはり積極的に太陽熱の活用を考えるべきだと思う。
この給湯問題は、どんなにビルダーが努力してもお手上げの問題。
建築的に処理出来る方法としては、太陽熱の採用以外に現時点ではない。
太陽熱とヒートポンプの併用をドイツとオーストリアでは行っていた。
その開発を、設備メーカーに促してゆくしかない。

このように見てくると、「3-0-3運動」は、分かったようで分かり憎い目的。
やはり、年間冷暖房費・換気費・給湯費の燃費を、kWh/uで標示した方が消費者に分かりやすいのではなかろうか。
そして、二次燃費だけでなく、一次エネルギー費と、それから割り出せるCO2を併せて標示するというEU方式が、やはり本命。

そしてこの研究会の中で、もっとも注目すべきは超高性能住宅に特化しはじめているビルダーが2、3存在しはじめているらしきこと・・・。
Q値が0.60Wとか0.55Wの住宅を1戸とか2戸建てるということは誰にでも出来る。
要は0.75Wでも0.8Wでもいいから、それに特化するビルダーが誕生してくること。
R-2000住宅が優れていたのは、特化した有力ビルダーが全国に十数社誕生したことにあった。

日本の実態を考慮した「日本的なパッシブハウス専業ビルダー」が、研究会の中から生まれようとしているとしたら・・・。
特筆すべきことだと思う。


posted by unohideo at 11:00| Comment(0) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月11日

訂正

140mmの充填断熱材+100mmのロックウール外断熱+200mm相当の真空断熱材で、計は340mmではなく440mm相当です。
posted by unohideo at 09:45| Comment(0) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月10日

「3-0-3運動」 ・ 独創的壁厚に対する賛否 (中)



無暖冷房住宅研究会が発足したそもそもの動機は、2年前の「真空断熱材による超高性能住宅造り」にあったと思う。
2007年の3月13日に札幌で「真空断熱材による家づくり」の研修会が開かれ、翌14日には現場見学会が開かれた。
内地からも8人の仲間が参加した。
その詳細は「07,08年の今週の本音」の「技術商品情報 2」の3月15日付けの「これは使える真空断熱」と3月25日付けの「真空断熱は高かった」を参照にしていただきたい。

最初の発想は外壁に105mmなり140mmの充填断熱を行い、外側にKMブラケットを取り付けて100mmのロックウールを施工し、その下側に真空断熱を挟むように施工するというものであった。
フィルムの中に100mm厚のグラスウールを入れて空気を抜くと10mm厚ぐらいの真空になる。ところがその断熱性能は100mmではなく200mmに匹敵する断熱性能を持つ。
つまり、206の壁に140mmの断熱材を充填し10mmの真空断熱材と100mmのロックウール外断熱を施工すると340mm厚に匹敵する。
外壁のU値が0.01W/m2を切るという素晴らしい性能値が得られる。
ところが、真空断熱材が3000円とか4000円/m2だと使えるが、7000円/m2もする高価さのために使いきれない。

そこで、研究会のビルダー仲間が、知恵を出し合って「真空断熱に匹敵する300mm程度の外断熱を木工事で簡単に作れないか」という研究が始まった。
その結果、下の写真のような厚い断面が得られた。

5西條産業(写真).JPG
1.3材に210材を加工して組立て、火打ち材を入れたのだと思う。

この断面に、断熱材を吹き込んだのが下の写真。

P1010247.JPG
壁厚は206で140mm。その外側に300mmの外断熱。
親亀が子亀や孫亀を乗っけたものではなく、孫亀が親亀を背負った恰好。

P1010265.JPG
これだけの壁厚のために、サッシ下部の水切り工事は大袈裟なものにならざるを得ない。

このような、孫亀が親亀を背負うといった断熱手法は、世界では見られない。
全くの、日本独自の考案。
その新規性と独創性は買えるが、北欧のように地震のない国だったら許されようが、果たして地震国日本では許される仕様であるのか、どうか。

中越地震の川口町の激震地を目撃した者には、外断熱のもろさを肌で感じており、一人残らず震度7、2500ガルという直下型地震には耐えられないという感想を持つと思う。
震度6弱までの揺れと、震度7では揺れの激しさが十数倍も違う。
しかも1500ガルといういきなり30cmもガクンと持ち上げ、力一杯叩きつけるような直下型の縦揺れは、想像を絶するものがある。
ホールダン金物のボルトが千切れたという事実。
それを等閑視してはならない。

道東では震度6強ないしはそれ以上の懸念があるが、道西では震度6弱しかないということであれば、許されるのかもしれない。
そして、この断熱手法は個々の企業の責任において施工し、最悪の場合は個企業が全面的な責任を持ち、外断熱が欠落した場合は建て替えるという一筆と保証を入れ、消費者の納得のもとに採用されるということであればかまわない。
だが、研究会として全面的に採用してゆくということであるならば、実物大での耐震テストが不可欠だと思う。
しかも、引っ張りテストではなく、直下型のテストが・・・。

私個人は、外断熱を100mm以上ふかすには次の条件が必須だと考えている。
まず、屋根たるきは210とする。
このたるきに20フィートの204材に弾性接着剤併用でクギを平打ちして止め、さらに
_| ̄|_ 型の金物で絞めて204材を吊す。
そして、下部は集成合板などを用いて204材を抑え、長くて堅いL字型金物で204材を両面から土台に固定する。
途中にも集成合板を飼い、204材に転ばぬように火打ち材を内側から打ち付ける。
もちろん、耐震テストの結果、そこまでやる必要がなければそれに越したことはないが、直下型の地震をあなどってはいけない。

研究会での試行は、途中段階のものであり、これをもって最終的な評価を下すことは出来ない。もっといろんな知恵が加えられてゆく。
そして、これだけ壁を厚くした効果は現れていた。
下の写真は道東ハウスの外観。

P1010268.JPG

内部に入ると玄関の上が大きな吹き抜け空間になっている。

P1010252.JPG

そして、3日前から一切の暖房を止めていたとのことだったが、1階の床の温度は21℃で、2階の天井の温度も21℃で温度差がゼロ。
驚くほどの断熱性能値。
これだと、暖房費は3リッターではなく2リッターを下回るのではなかろうかと感じられた。
まだ、サッシと換気に関してはこれと言った解決策が用意されておらず、問題点を残してはいたが、駆体の暖房に関しては「一歩前進」と言えると思う。

そして、藤井末雄社長は力強く言った。
「40坪の住宅を坪40万円台で売れ出せます」と。

posted by unohideo at 06:36| Comment(0) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月05日

北海道「3-0-3運動」・アースチューブの可能性 (上)



北海道無暖冷房住宅研究会(会長・北大繪内正道教授)では2年前より「3-0-3運動」を提唱し、かなりの成果を挙げてきている。
この「3-0-3運動」というのは、「平方メートル当たり暖房費を3リッター、冷房費を0リッター、給湯費を3リッターで上がる住宅造り」を目指す運動のこと。

本来、無暖冷房研であるならば、「0-0-3」であるべき。
それが、暖房費が3リッター/uというのだから、「暖房費ゼロ住宅という世界のトップを走る素晴らしい研究だ」と、お世辞を言うわけにはゆかない。設立時から、無暖房という呼称の紛らわしさは指摘してきた。
「無暖冷房住宅造りを研究する」ことは一向に構わない。研究し、試行することは自由。
しかし「3-0-3住宅」を「無暖冷房住宅」としてビルダーがチラシに書き込むことだけは絶対に避けるべき。
告訴されるのは「研究会」ではなく、どこまでも「地場ビルダー」。
「訴訟に要する費用と時間と、失われる信用はとてつもなく大きいですよ。当事者以外はそのリスクが分かっていませんよ」というのが、実務経験者の肉声・・・。

ドイツでは今から10年前に「3リッターハウス」が叫ばれていた。
それが、現在では3リッターを完全に卒業して、半分の「1.5リッター/u」で済む「パッシブハウス」がブームになっている。
それでも、ドイツではパッシブハウスのことを「暖房費ゼロ住宅」などとは絶対に言わない。暖房費をゼロにするには、建築コスト15%増程度のさらなる初期投資が不可欠。
それよりも、1.5リッターハウス(15kWh/u)の住宅の方が、費用対効果が高い。
したがって、賢明な消費者は「暖房費ゼロ住宅」には踊らされない。

3週間前に札幌を訪ねた折、研究会メンバーのビルダー2社に、完成と工事中の3つの現場を案内していただいた。
当然のことながら、最初に「3-0-3運動」の性能進捗状況を書くべき。
ところが、私の頭の中に焼き付いたのが大洋建設鏡原社長の「札幌では、20メートルの長さのアースチューブなら、原価19万円で出来ます」という言葉。
これは、北海道の戸建て住宅の省エネ化を考える場合の「キー・ポイント」になるのではないかと直感させられた。

アースチューブがどんなものであるかを、昨年ドイツで初めて目にした。
カナダやスウェーデンでは見なかった。
スウェーデンではほとんどが中高層住宅。新設される木造戸建ては「サマーハウス」と呼ばれる別荘需要と農家住宅しかない。
中高層住宅、サマーハウスではアースチューブは採用していない。
都市住宅は中高層の集合住宅が主体で、そのほとんどが地域暖房システムを採用している。ヨーテボリ市では地域暖房の普及率は85%と聞いた。
熱源は(1) 家庭からの廃棄物 (2) 下水の汚水処理熱 (3) 製油所などの排熱などで、残った15%が(4) 天然ガス、とのこと。

つまり、各家庭には安くお湯が供給されてくる。
それをシャワーや洗面などに使う一方、開口部の下部にパネルラジエーターを設置して輻射暖房として使う。
各室の開口部下部にパネルラジエーターがあるから、換気は第3種換気で良い。給気はパッコンよりもサッシからのものが増えてきており、排気は台所・浴室・トイレからダクトで強制排気。
このような地域暖房を大前提に、スウェーデンでは第3種換気が普及している。それなのに、地域暖房とパネルラジエーターが普及していない日本に、やたらに第3種換気を売り込もうとする一部業者の、偏った意見には腹立たしさを覚える。

そのスウェーデンでも、熱回収型の顕熱交換機が普及しはじめている。
しかし、スウェーデンの顕熱交には、原則的にプレヒーターが付いている。
某社の顕熱交換機をバラしてみたら、新鮮空気の取り入れ口にプレヒーターが、そして熱交換した空気を送る送風口にもアフターヒーターが付いていた。
もちろん結露を防ぐのが目的。
このヒーターはシーズ状の、単なる電熱器。
したがって、ヒートポンプよりもはるかに熱効率が悪い。

ヨーテボリ市のハンスさんのタウンハウス団地の「無暖房機住宅」にはこのプレヒーターが使われており、暖房代に匹敵する電気が消費されていた。ただ、パネルラジエーターが不要な分、イニシアルコストが削減されている。
この実態を知って、スウェーデンではその後、誰もこの無暖房機方式を採用していない。
騒いでいるのは、日本の無知なる「無暖房論者」だけ。
茅野市に建てられたQ値が0.6Wのパッシブハウスの介護施設。
延べ234坪と大きなRC造。
一年前、空調関係者と一緒に同施設を訪ね、田代専務に実態を教えてもらった。
エネルギー代はQ値が0.6Wと優れているため、今までの施設に比べて年間冷暖房費は500万円安くなったという。パッシブハウス仕様にするために余分にかかった費用が1500万円。ということは3年間余で元がとれるという勘定。
そして、冬期のエネルギー源として電灯など電気機器類からの放熱が51%。入居している老人や若い職員の発熱が12%。
そしてプレヒーターの電気代が37%というから馬鹿にならない。
このため2年目からは極寒期を除いて、プレヒーターを使わずに出来るだけヒートポンプエアコン暖房に切り替えているとのこと。
つまり、プレヒーター付きの熱交換システムは、省エネ性の面で問題が残る。

これに対して、ドイツやオーストリア製の90%という高熱回収型熱交にはプレヒーターが付いていない。
北海道のQ-1W住宅ビルダーが、スティーベル社の90%熱回収という顕熱交を採用したら結露がひどく、溶解している時間が長くて熱回収率は低くて使えなかった。このため、国産の全熱交に替えたという話を聞いた。
これは日本スティーベル社の平山所長が悪い。多分。
スティーベル社製のパッシブハウス用の顕熱交は、アースチューブを大前提に考案されている。それを、アースチューブを装置していないドイツよりも厳寒な北海道の住宅に売り込むこと自体が間違っている。
昨秋のドイツ調査報告で紹介したが、改めてドイツのアースチューブの実態を見てみることにしよう。

P1000045.JPG
庭の南側に設置されている冬期用の給気口。長さ30メートルのアースチューブに繋がっている。

P1000048.JPG
南面の壁際にあるのが夏期の給気口。そのまま顕熱交に入る。

P1000050.JPG
これが排気口。給気口とは別の、道路に面した東壁に位置している。

P1000066.JPG
太いダクトの中央に赤い切り替えダンバースイッチが見える。冬期は下から給気し、夏期はアースチューブ内の結露を防ぐために上から直接空気を入れる。

P1000065.JPG
これが地下室に置かれた90%以上熱回収する顕熱交。アースチューブで高温になるので結露の心配はない。しかし、念のために排水施設が付いていた。

ドイツの戸建て住宅は、ほとんどが地下室付き。このため3メートル近く堀って、そこに30メートルのアースチューブを施工する。このため、プレヒーターが不要。関東以西ではとても考えられない工事。
ところが、札幌では凍結深度の関係で、布基礎の下に上下水道の配管工事が行なわれるという。
つまり、基礎工事に先行して配管工事が行われる。したがって水道屋さんは大型の掘削機を持っていないと商売にならない。
その水道屋さんに、「19万円を払うから、ついでに20メートルのアースチューブを施工してくれ」と頼めば、簡単に施工してくれると鏡原社長。
したがって、北海道ではアースチューブといっても、驚くほど原価は高くならない。
ただ、今まで冬期用と夏期用の2つの給気口を設けて、切り替えダンバーを付けるなどという発想がなかった。
また、20メートル長が常識で、ドイツのように30メートル長が必要だという規定がなかった。ドイツでは30メートル長が必要だというのには、何らかの理論的根拠があるはずだと思う。
つまり、北海道のアースチューブは、怒られるかもしれないが実験的な経験値しか持っていない。これに対して、ドイツの30メートルは科学的な根拠を持っている・・・。

鏡原社長の経験によると、20メートルでも7℃近い高温が得られるという。その高温を顕熱交へ入れるのではなく、現在は床下の土間空間に入れ、蓄暖で温めて各室へ上昇気流を利用して供給している。
つまり、アースチューブシステムとしては、かなり中途半端な方法でしか北海道では実験され、採用されてこなかった・・・。
これが、20年以上も前から本格的な開発がなされ、改良に改良を重ねてきたパッシブハウス研究所を中心とした顕熱交のシステムとドッキングさせると、かなり大幅な省エネが可能になるはずだと思うのだが・・・?

これは、ど素人の単なる思いつきかもしれない。
しかし、検討してみる価値はあると思う・・・。

posted by unohideo at 05:44| Comment(0) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年02月28日

吹き込み断熱材(Loose Fill)の種類と問題点


最近、天井・屋根、壁、床に、グラスウール(GW)、ロックウール(RW)、セルロースファイバー(CF)、木繊維、羊毛、コットン、麻繊維、ヤシ繊維、発泡ビーズ、ウレタン再生粒子などを吹き込むブローイングによる断熱が増加してきている。
そして、単に断熱材の熱伝導率だけを問題にするのではなく、蓄熱性能を重視する声が欧米では強く叫ばれてきている。
つまり、K値だけで判断することに対する疑問が日本でも浮上してきている。
もっと蓄熱性に注目すべきではないか、と。
といっても、私は断熱材に関しては素人。
たまたま音熱環境開発の三星社長から、Energy Design Update誌などのデータを基にした資料をいただいたので、この要点を紹介したい。
お断りしておくが、この内容について私は一切責任が負えない。
疑問のある方は、直接 011-762-7805 へ問い合わせていただきたい。


【グラスウール】
グラスウールには、(1種)細繊維4〜5ミクロン、施工密度13k/uのPrimary Wool品と Bonded Wool再生品の2種類と、(2種)通常のグラスウール(7〜8ミクロン)をハンマーミルなどで小塊状に加工した施工密度18Kがある。
断熱性能は13K, !8Kとも、各メーカー品ともIBECの評定ではλ値0.052W/mK。
しかし、このような低密度で0.052W/mKという表示をしているGWは、欧米では見当たらない。アメリカ、カナダでは同密度ではλ値は0.058Wから0.062W/mK。

このような低密度ブローイングは、外気がマイナスになると断熱材内部で対流が起こり性能が低下する。外気温が−10℃、−20℃となると性能が1/2から1/3になることをOrkridge National Labやテネシー工科大で発表している。これに基づいてカナダ政府は細繊維ブローイングの密度を16K以上にするように行政指導を行った。
しかし、細繊維ブローイングの密度を高くすることが出来ないので、天井吹きつけの表面にタイべックの施工を行ってみたが効果がなく、ブローイングの表面に高密度の薄いマット状のGWを追加施工して効果を出している。
このような問題が発生する原因は、熱伝導率測定方法に起因。
断熱材の両面をプレートではさみ、熱流が定常状態になった温度差から熱抵抗を測定して熱伝導率が算定される。つまり、プレートを被せた状態の測定では対流による損失が測定出来ない。このため、アメリカではASTMによる測定見直しが議論されてきた。
日本では、低密度ブローイングの対流による性能的影響を、実験・研究している大学、研究機関は皆無。
パッシブハウスなどが叫ばれて、天井吹き込みの断熱厚が次第に厚くなってきている。施工業者がきちんと施工しても、根本的な見直しがなされないと、折角断熱材を厚くしても、その効果が消費者に正しく還元されないということになりかねない。

また、壁に35Kという密度で吹き込むと、ウールの反発性がつよく、石膏ボードが太鼓状にふくらむので、20K程度に抑えている例もみられる。
ただし、GWの発ガン性についてはWHOの下部機関であるIARCが、長年調査、実験を行った結果、その危険度はコーヒー並の危険度にランクダウンされた。発ガン性については心配しなくても良くなったのは幸い。


【ロックウール】
RWのブローイングウールは2社しかない。
日本ロックウール社のエスブローウールとJFEロックファイバーのロクセラムブローウール。
そして、GWは各社共通の通則認定に対して、RWは個別認定であることを知っておく必要がある。エスブローウールのλ値は0.04W/mkに対して、ロクセラムブローウールのλ値は0.047W/mK。施工密度は30K±5Kで、最低25Kの密度を保証。

RWはGWのようにBonded Woolからつくるのではなく、Primary Woolから作るため、密度が安定しているということと総じてホコリが少ないと言える。
そして、壁に吹き込む時の密度はGWの2倍近い65K±5K。このためλ値0.039W/mK。
このように2倍近い密度だが、繊維の反発性が少ないので石膏ボードが太鼓状に膨らむことがないのが利点。
さらにRWはGWと異なり実際の施工密度は表示より高くなる傾向がある。そして、外気温が低下しても断熱材内部の対流発生が少なく、性能の低下がない。むしろ外気温が下がると断熱性が良くなるとのOrkridge National Labのデータが発表されている。

しかし、施工密度が高いということはコストがアップするということ。さらに繊維が固くショットなどが含まれるために施工機械の損傷も激しい。高密度であるということは断熱性能も高く、対流も起こらず、施工後の沈下現象も非常に少ないというメリットはあるが、コスト面でのデメリットは避けられない。


【セルロースファイバー】
古新聞、雑誌、電話帳などの古紙を粉砕し、ホー酸類、ソルビン酸、その他の薬品を添加して難燃化、撥水性を強化した断熱材。
この断熱材に対する評価は極端に分かれる。
一方では、資源再利用のエコ商品の代表格としてドイツでは高い評価。λ値も0.04W/mkでGWよりは良い。吸音性もRWと同等。
一方では(1)非常にホコリが多い (2)自重沈下で上部に隙間が出来るのでバンバンに吹き込み、横胴縁を入れて石膏ボードを取り付けねばならない (3)ホー酸25%以上添加しないと準不燃にはならない (4)添加物の安全性が確証されていない (5)バーナーを直接当てるともぐさのように着火する、などとアメリカ、フランスでの評価が低く発ガン性に言及する意見も…。

これについては、IARCの責任者であるDr.Grosseが2007年6月に2年半から3年掛けて人体に対する安全性の研究結果を発表すると発言している。
少なくとも、来年中には発表されるはずだから、消費者はその結果を確かめてから採用の是非を考えるのがベターかもしれない。


【その他の断熱材】
ウッドファイバー、コットン、羊毛、パームファイバー、ジュートなどの動植物性の断熱材は、それぞれにミネラルファイバーにない特徴を備えている。利用するだけの価値のある断熱材ではあるが、共通の弱点は火に弱いこと。どうしてもホー酸、水酸化アルミなどの薬品を添加して難燃化することが求められる。
とくにダウンライトの場合は、天井配線を含めて漏電が起きないように保護対策を完全に講じなければならない。
工事面での課題解決を、最優先で考えてゆかねばならない。
posted by unohideo at 17:08| Comment(1) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年02月20日

東京財団の「建築基準法改正提言」を100%支持

2月16日(月)の日経の朝刊の「経済教室」欄で、今月10日に発表された東京財団の 「建築基準法の耐震基準を根本的に変えるべき」 との提案が紹介された。

http://www.tkfd.or.jp/research/project.php?id=13

上記URLの中の「建築基準法改正提言」を開いてもらうと、28ページにもおよぶ提言をプリントアウトすることが出来る。

この提言で言っていることは、そんな難しいことではない。
建築基準法は、1950年の物資が不足していた時代に制定されたもので、「この法律は、建築物の敷地、構造、設備および用途に関する『最低の基準』を定めて、国民の生命、健康および財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする」と、その第一条に書かれている。
つまり、どこまでも建築に関する最低基準を定めたものに過ぎない。
そして、1981年の新耐震基準で幾多の耐震改善が行われたが、それでも耐震性に関しては『最低基準』であることには変わりがない。

しからば、その最低基準の内容とはどんなものか。
建築基準法施行令第88条3項の「標準剪断力係数は1.0以上としなければならない」という規定が根拠になっている。
こんな専門語を並べられても、一般の消費者に分かるわけがない。
実務レベルで言えば、「震度で言えば6強、加速度で言えば400ガル程度の地震がきても倒壊しない程度の住宅」 という基準でしかない。
この倒壊しないというのは、家の内部にいた人がペシャンと下敷きになって死なないということであって、家が半壊したり、ガラスやドアが倒れたり、テレビが飛んできたり、壁に大きな亀裂が入ったりして多少のケガはしてもしょうがない、という基準。

ところが、震度が6強どころではなく、阪神淡路と中越では震度7の直下型の地震が起きた。そして、中越地震の激震地であった川口町では加速度が2400ガルルという信じられない数値が記録された。建築基準法が想定していた400ガルの6倍という加速度。
この震度と加速度は、建築基準法の最低基準では想定していないものであり、建築基準法で確認申請を受理されて建てた住宅が倒壊しても、それは官も民の誰もが責任を負わなくてよいことになっている。これは想定外の天災であって消費者が泣き寝入りするしかない…。保証機関の保証は、すべて基準法に準じているので、保証する必要はない、ということ。

ご案内のとおり、品確法では地震の等級を等級1、等級2、等級3の3段階に分けている。
等級1というのは建築基準法の最低基準。つまり、震度6強だと全壊はなんとか免れるが、半壊になることもありますよという耐震性。
等級2というのは、建築基準法の1.25倍の強度を持っている建築。震度6強だと部分的には被害があっても、半壊には到らないという程度。
等級3というのは、建築基準法の1.5倍の強度を持っており、震度6強程度だと被害がほとんどなく、震度7でもめったに半全壊はしない住宅…というふえに考えて良い。もっともこれは私の勝手な解釈で、政府がそのように定義しているわけではない。

さて、東京財団が提案している内容で一番注目されるのは、最低の耐震基準を表示するのではなく、もう少しましな標準基準を建築基準法に書くべきだといっている点にある。そして、耐震基準を5段階程度に分けて、それぞれの住宅がどの耐震基準に相当しているかを表示する義務を課すべきだとしている。

まず、耐震基準を品確法の3段階ではなく、下記のような5段階に分ける。
+2  +1  0  ―1  ―2
そして、この−2に該当するのが現行の建築基準法とすべきだと念を押している。
つまり、現行の基準法による耐震性は、標準の0に比べて2段階劣っていますよ。
価格が安いからといってそんなマンションを買っていいのですか。
そういった点を、消費者に耐震性能をわかり易く表示すべきだ、という提案。
だが、その5段階の耐震性能値については何も書いていない。
そこで、話を分かり易くするため、我流で次ぎのような数値を入れてみた。

   +2       +1        0        ―1        ―2
(基準法1.7倍) (基準法1.5倍) (基準法1.3倍) (基準法1.15倍) (現行の基準法)

もちろん、これが正しいというのではない。
少なくとも、品確法でいうところの2等級(基準法の1.25倍)よりやや上の強度を、日本の耐震の標準にすべきだと思う。
そして品確法の等級3を+1に位置づける。
その上に+2の性能を新設すべきだと思う。
こんなようなことを、東京財団では考えているのだと思う。
しかし、具体的な数値を入れると役所や諸先生方の余分な反発を招く。
それで、数値をわざと省略しているのだと推測する。

同財団では、同時に重要な2点を指摘している。
1つは、木造住宅の場合は、品確法の等級2や等級3が比較的守られている割合が多いが、マンションなどの中高層建築物では等級1の最低基準が圧倒的に多いという事実。
これは、大手デベロッパーやゼネコンが建てるマンションは耐震性が高いはずだとの先入観を消費者が持っている。まさか建築基準法の最低基準を守っているだけだということを消費者は知らされていない。
このため、どのマンションも耐震性が売り物にならない。したがって、耐震性以外の部分にカネをかけている。
等級1を等級3にしたところで、原価のアップ率はたったの3〜5%。
それなのに、デベロッパー・設計・施工・販売業者の責任関係が曖昧で、耐震性をないがしろにしている。姉歯事件が起きた根本原因は、いまでも基本的に改善されていない。
つまり、耐震性最優先という意識がマンション関係者からすっぽり抜けている。
だからこそ、建築基準法を最低基準から標準基準へ変えるべきだ、というのだ。

もう1つは200年住宅が叫ばれている。しかし、200年の耐久性を保証するには何よりも耐震性が保証されていなくてはならない。最低で等級3でなければならないはず。その基本的な視点が200年住宅議論には欠けている。
これは、大きな問題である。
以上が東京財団の提言のあらまし。

私は、この提言を100%支持する。
というのは、中越地震の激震地で見た被害は、とても現在の建築基準法ではダメで、等級3でもまだ足りないということを実感されたから。
震度7ということで、阪神淡路地震と中越地震は同列に論じられている。
そして、大都市・神戸の人的な被害があまりにも大きく、報道関係者の目にとまったので、どちらかというと阪神淡路地震が最大のものだという認識が一般化している。

実際は、激震地の被害状況は、神戸よりも中越の方が圧倒的。
神戸は、昔から「地震のない街」という概念で、かなり手抜きの工事が多かった。基礎工事にしても無筋のものがあり、筋違いもいいかげん。このため、激震地では半分以上が倒壊していた。
これに対して中越の激震地・川口町では豪雪地のため、高床式の基礎が普通。ダブル配筋が普通で、基礎が大きく破壊されている例がほとんど見かけなかった。
そして、豪雪地のために柱は太く、その2つ割の筋違いは厚く、耐震性は神戸の比ではない。
それなのに、超激震地の田麦山地域100棟のうち倒壊を免れたのが10棟しかなかった。武道窪では17棟のうち16棟が全壊または半壊状態。つまり丈夫な家で、建築基準法に準じていても90%が倒壊、ないしは半倒壊状態になったのである。

その川口町は、未だにセイガイ建築と呼ばれる5寸柱の大貫工法が尊重されている地域で、プレハブやツーバィフォー工法で建てられた住宅はなかった。
唯一あったのがスーパーウォール工法。外壁に構造用合板を用い、内部には厚い2つ割の筋違いを入れたもの。このスーパーウォールが川口町に十数棟建てられていたが、1つも倒壊していなかった。いかに外壁の構造用面材が有効であるかを如実に物語っていた。
この十数棟の耐震性能は、開口部から考えて等級2と等級3に匹敵すると推測することが出来た。

そして、強調しなければならないことは、等級3と推定されるだけの耐力壁を持った住宅でも、内部に入れば開口部回りの石膏ボードに亀裂が入り、内部の壁は厚い筋違いが圧縮を受け面外へ坐屈して石膏ボードをはね飛ばしていた。エコキュートや蓄暖が倒れたり、壁掛けエアコンが脱落したり、サッシが落下したりしていた。

RIMG0186.JPG

そして、上の写真の真ん中にあるように、ひどいものはホールダン金物のボルトの先が千切れ、何ヶ所かでは金物が曲がって機能不全になっていた。
等級3、つまり建築基準法の1.5倍では倒壊は免れることは出来ても、多くの実被害からは免れることが出来なかった。
とくに問題になったのは気密性能の著しい低下。
この補修は、容易なことではない。今まで表を通る自動車の音が聞こえなかったのが、突然に大きな音で聞こえる。この気密性能を震度7の直下型地震から守るには、現行建築基準法に比べて1.7倍から2.0倍ほどの耐震性が必要だと私は川口町のスーパーウォールの現場で痛感した。

ところが、ほとんどの学者は川口町の激震地に入っていない。入っても、倒壊した住宅だけを調べ、写真に撮っているだけ。
倒壊しなかった家を調べ、なぜ倒壊しなかったかを調査していない。
そして、倒壊はしなかったけれども、ホールダン金物をはじめとして大きな被害があったという状態も調査していない。とくに気密性能の喪失という重要事項には誰一人として触れていない。

日本は、地震学者をはじめとして木造住宅関係者も、まだまだ勉強不足。
東京財団の提案を、国交省をはじめとして学界、産業界でも真摯に受けとめて頂きたい。
posted by unohideo at 07:22| Comment(1) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年02月05日

やたらQ値を追うのは止めましょう!



皆さんも多分そうだろうと思う。
ゼロエネルギー・ハウスという呼称に、どうしても抵抗感がある。

もう10年前、オール電化住宅が登場したての頃。
R-2000住宅の60坪(約200u)の大きなオール電化住宅に入居された4〜5人家族の3つの世帯。いずれも几帳面に年間電気代を記録していただいた。
そのいずれもが、20万円から24万円に収まっていた。
もちろん全館24時間空調換気で、除加湿機能付き。
それまでの住んでいた住宅の広さは半分以下と狭く、冷暖房は個別エアコンの間欠運転。もちろんオール電化住宅ではなかった。
その小さな家に比べても、新居の電気代が安く、しかも超快適な生活環境に大変に感謝された。
今では、その半分以下の電気代が目標に。

さて、この60坪のR-2000住宅に、500万円近くを投資して10kWの太陽光発電を搭載したとすると、年間の売電は26万円を超える。
ということは、60坪のR-2000住宅3戸とも「ゼロエネルギー・ハウス」と呼んで良いことになる。
つまり、20年前のR-2000住宅の建築技術レベルでも、太陽光発電を60坪の家で10kW、40坪の家で7kWを搭載するだけでゼロエネルギー・ハウスに変身してしまう。
建築屋は何の努力をしなくてもいい。
施主が太陽光に投資するか否かにかかっている。
こんな他人任せの無責任な姿勢が、ゼロエネルギー・ハウスを唱える企業の背後に見え隠れしているように感じられる。

P1000084.JPG

P1000421.JPG

太陽光発電には誰一人として反対しない。
今年から再度補助金が付くようになったが、償却には20年近くかかってしまう。
ドイツのように10年以内に償却できるという、特別価格での買電料金政策が用意されているわけではいない。
太陽光発電設備の寿命は何年なのだろうか。
20年前に、誰よりも早く太陽光を本格採用して、かなりの数を売った。
当時は、3kWでも補助金以外に200万円はかかった。
第一次オイルショックの後で、注文住宅では200万円の値引きが常識だった時代。
それを逆手にとって、「絶対に値引きをしない変わりに3kWの太陽光発電を無料で進呈します」 という作戦を展開したら、やたらに売れた。
シャープからは 「太陽光発電は高気密高断熱住宅にこそ相応しいことがわかった。基本戦略を教えてもらいました」 と、大変に感謝された。
しかし、補助金制度がネックになってきた。
合格すれば良いが、不合格だとオジャン。このため、受注が計画出来ない。それで、この無料作戦は2年間で打ち止めにせざるを得なかった。
その時売った太陽光発電が、20年たった現在、どうなっているだろうか?
残念ながら系統的な追跡調査をしていないので、実際の耐用年数は定かでない。

仮に耐用年数が20年とすると、償却を終わった途端に寿命ということになり、実際的なメリットが施主にはない。
これが10年で償却できるということであれば、残りの10年間の年間8万円から20万円の売電が嬉しいボーナスになる。
太陽光発電は 「地球に貢献している」 という施主の良心的な満足感以外に、日本では際だったメリットを実感しにくい。
その施主の良心の上に、「ゼロエネルギー・ハウス」 がオンブしているだけではなかろうか。
やはり、太陽光、エコキュート、有機ELなどにオンブするのではなく、建築屋は駆体そのものの断熱・気密性能と耐震、防結露技術で勝負すべきだと思う。

ということで、一昨年からパッシブハウスを追い求めた。
そして、Q値が0.8Wないしは0.7Wから0.5Wへと、より高い数値であればあるほど、より優れた性能住宅であるはずだという考えが、急性インフルエンザのように私をはじめとした一部の日本人に伝染した。
しかし、この考えにブレーキをかけてくれたのがhiroさん。

このhiro邸の詳細については、2008年の「今週の本音」欄のカテゴリ「冷暖房と除湿」を開いていただくと、8月5日から25日まで5回に亘って掲載されている。参考にしていただきたい。
大まかな内容は、まず立地は首都圏で、V地域に近いWa地域。
法定建築面積は138uだが、2階から小屋裏にかけての大きな吹き抜け空間があるので実質面積は160uと言って良い。
気密性能は漏気回数で0.33回/50pa(相当隙間面積0.2cm2/u)と、パッシブハウスの厳しい基準を上回っている。Q値は1.0Wで、μ値は0.025。
全館セントラル空調換気システムを採用している。

このhiro邸のもっとも優れている点は、自分で「温度とり」を購入し、2年間にわたって室内の温湿度をはじめとして使用エネルギー量、電気代、換気量などの記録を系統的、継続的に記録しているというところにあるのだが、それだけではない。
その造詣の深い理論大系に基づいて、自分が求める空気質と室内温湿度環境を完全にコントロールしているという点にある。
パッシブハウスクラスの住宅のデータ取りは、山下先生が何ヶ所で行っておられるが、それはどこまでもデータどり。
hiro邸のように、想定した温湿度が、想定内で稼働しているかしどうかを検証するという積極的な使い方は、住宅では初めてだと思う。

hiro邸の年間設定温度と相対湿度は下記。

冬 期  温度24.0℃±0.5℃  相対湿度40%±0.5%  空調制御
中間期  温度24〜28℃     相対湿度35%〜50%   空調送風のみ        
夏 期  温度27.5℃±0.5℃  相対湿度45%±0.5%  空調制御

この設定温度と設定湿度がすごい。
まず、冬期の設定温度が24.0℃で相対湿度が40%というのは、なかなか到達出来ない数値。一般的には22.0℃で40%がやっというところではなかろうか。この室温を24℃にまいで上げると35%に落ちてしまう。
冬期もさることながら、夏期の設定温度が27.5℃で、相対湿度が45%というのは、信じられない数値。これだと絶対湿度は10.5gという驚異的な数値。通常12.5gで十分に快適。
したがって、hiro邸の温湿度の設定条件は、一般の家庭に比べて贅沢過ぎると言える。
別な言葉で言えば、そのような贅沢過ぎるほどの室内環境が日本の家庭で実際にコントロールされ、実現されているという紛れもない事実が存在かするということ。
この実現性に注目していただきたい。
そして、注目すべきは設定温湿度がほぼ完璧に実施それているという点。
下の3枚のグラフの紫線が1階室温で、緑線が2階の室温。これがほとんど変化を見せていない。いかにも安定している。
また、夏のグラフを見ると梅雨時も理想的な相対湿度が保たれている。
まさに理想的な室内空間。

20080120冬_hiro.bmp

20080601春_hiro.bmp

20080803夏_hiro.bmp

グラフは昨年の温湿度測定図。上から冬期、春の中間期、夏期。
紫が1階の室温。緑が2階の室温。赤が外気温度。青が2階の相対湿度。
梅雨時でも相対湿度が50%を越えたのは一度だけで、見事にコントロールされているのが良くわかる。

この理想的な室内環境を得るために、一体どれだけの電気代がかかったか。
・暖房   15.3kWh/u
・冷房    9.0kWh/u
・換気    7.3kW/u
・給湯   15.3kWh/u
・合計   46.9kWh/u

さて、問題はこの各項目を如何にして小さくしてゆくかである。
hiro邸の温湿度の設定条件が厳しいので、これを一般並にするだけで暖冷房エネルギーは10%はセーブすることが出来よう。
そして、暖房費を小さくするためにはQ値を1.0Wから0.8W程度にまで上げるべきかもしれない。
しかし、そうなった場合、夏期の室温の上昇ということも考えねばならない。ドイツのように暖房のことだけを考えておればいいのは、日本では北海道のT地域しかない。
V地域からWa地域では、Q値はせいぜい0.7Wから1.0Wの範囲で考える方が、最も適切ではないかと考えられるようになってきた。
また、換気の熱回収率を90%以上に高めてゆくということも大切。
さらに、暖房効率を高めるためには、Q値もさることながら、より蓄熱に力をいれるべきだという意見にも耳を傾けてゆく必要がある。

冷房の中で大きな比重を占めるのは除湿運転。
室内温度を25℃に設定するだけで、ことが足れるほど日本の条件は甘くない。
Q値が0.9W以上の高性能住宅で夏期の設定温度を25℃に設定すると、ほとんど冷房運転が稼働せず、室内の相対湿度は70%を突破して結露現象を引き起こす。
次ぎにやらねばならないことは、日射遮蔽をより完全にしてゆくこと。
そして、夜間や中間期に窓からの放熱するシステム開発も考慮してゆく必要がある。
さらには、換気のバイパス機能も重要な役割を担ってくる。
最終的には、ヒートポンプによるデシカ除湿の開発に期待したい。

換気については、hiro邸では2台入っているが、スティーベルの顕熱交換機だとエネルギー効率が高い。こうした新しい商品を導入することで、かなり解決出来る。

給湯に関しては、V、W地域では当面エコキュートに頼らざるを得ず、そのCOP能力の改善を求めるしかない。しかし、将来的には太陽熱を利用したハイブリッド給湯の開発を求めてゆかねばならない。

このように見てくると、V、W地域における省エネ化は、寒冷地ドイツを真似して、やたらとQ値をあげてゆくことではないということが分かってくる。
日本では、除湿と冷房のことがあるので、空調設備を住宅から撤去してゆくことは絶対に出来ない。つまり、パッシブハウスはあり得ないということ。
Miwaさんが調査してくれたおかげで、パッシブハウス研究所を万能視する考えが間違っているということも良くわかってきた。

V地域からW地域の住宅の比率が90%も占める日本では、いたずらなQ値競争や一方的なドイツ崇拝主義をやめて、日本独自の駆体性能の技術体系と評価体系を、現実のデータを基に創造してゆかねばならない。
posted by unohideo at 10:30| Comment(0) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年01月25日

なぜ原発なのか? 原発は本当に安全か?



まさか自分が原発擁護論を展開するなどとは、1年前までは考えてもいなかった。
原発だったら、理系出身の適任者がいっぱい居られる。
とても私などがしゃしゃり出る場面ではない。
ただ、原発はあまりにも専門的にすぎる。いきなり専門用語を駆使されると、とたんに私などは思考が停止してしまう。
また、平均的な日本人の場合には、どうしても先入観と感情面の大きな障害を乗り越えねばならない。何しろ、日本は唯一の被爆国なのだから…。
したがって、私のようなド素人が感じた疑問を解きほぐすという形で、眺めてみたい。

最初に考えさせられるのは、CO2の削減は本当に必要なのかどうかという基本テーマ。
観念的には2050年までに50%削減しなければならず、世界の大勢はその方向に進んでいるということは熟知している。アメリカも、オバマ氏が大統領になってからその方向に向かっている。
だが、日本人の中には武田邦彦氏のように 「地球が寒冷化しているのなら心配だが、温暖化しているのなら喜ばしい現象ではないか」 と楽観的に開き直り、CO2の削減に努力している人々をあざ笑っている諸先生方が数多くいる。
素人の悲しさで、時折こうした偽装論議にフラリと靡いてしまいがち。

「核燃料サイクルが開く未来」という名のシンポジウム。
この「核燃料」という言葉が引っかかるという意見が開陳された。核というと日本人は核爆発をはじめ核開発とか核装備とかを連想してしまう。したがって、「核燃料」ではなく「原子力燃料」と呼んだ方が少しでも馴染みやすくなる。
そのシンポジウムで基調講演をした科技振興機構・原子力研究統括の茅陽一氏の話には肯かされるものがあった。
まず悟らされたのは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次報告を全然読んでいなかったという不勉強さ。それを読まずにいいかげんな議論をしていた。
IPCCにはCO2削減に関して6つのシナリオが用意されている。

P1000855.JPG

この表で分かるように、温度が何℃上昇したかという基本になるのは産業革命以前の温度であるということ。
京都議定書でいうところのCO2削減6%は、1990年比であったので、てっきり1990年比のことだと考えていたのは間違いだと知らされた。
このシナリオのTとUはEUが13年前に提案したものだという。産業革命以前に比べて2℃台の温度上昇で抑えようという提案。
もし、シナリオUで収まればCO2の濃度は400〜440ppmで収まる。そしてCO2のピーク年は2000〜2020年となり、それ以上は増大しない。このためには2050年のCO2の排出量は2000年に比べて30〜60%削減しなければならない。日本やオバマ氏のアメリカが2050年に50%の削減を叫んでいるのはシナリオUで行きましょうということ。
一方、イギリスやドイツは80%の削減を謳っている。これはシナリオTでゆくべきだという主張である。
そして、何も対策を取らなかったらシナリオYとなる。なんと産業革命前に比べると最大6.1℃もの温度上昇となる。21世紀の100年間に5℃も気温が上昇するということはどんな意味を持っているのだろうか。

配布された資料に産業革命以前の温度データがないので調べてみた。
正確な温度計による系統的な気温の観測が始まったのは1850年だという。それ以降の記録がフリー百科事典「ウィキペディア」に掲載されている。

P1000857.JPG

上図がそれで、赤線は5年ごとのアベレージ。
そして、この図は1975年を0の基準年としているらしい。そして125年前の1850年は-0.3℃となる。つまり125年間で0.3℃しか上昇しなかった。
それが2000年には0.4℃も上昇し、2003年にはなんと0.5℃に急上昇している。つまり過去125年間の上昇よりも、この28年間の上昇が0.5℃。2倍くらいの急上昇。

そして、産業革命からこれまでの2世紀で約1℃しか上昇しなかったものが、このまま対策を取らないと21世紀の100年間で5℃も気温が上昇してしまう。これは「温暖化」ではない。急激な「高温化」である。
温水だと思って安心して浸かっていたカエルが高温で茹カエルになるということ。
「温暖化歓迎」などと叫んでいる学者さんとは付き合っておれない。
ということが、これらの数字からビンビン伝わってくる。
この図以外にIPCCはもっと正確な図を発表しているはずだから、詳細はそちらで確かめていただきたい。

P1000853.JPG

さて、EUが2℃の温度上昇に抑えたいと言っている理由は上図にある。
2℃までだと、「生物の多様性」や「異常気象」に、若干の影響はあっても大問題になることはない。だから可能な限りシナリオTとUを推進すべきだという意見。
これに対して茅氏は、2050年に世界のCO2を半減することは不可能だという。
現在のCO2の排出量を1.0とすると、その内訳は先進国が0.6で、開発途上国が0.4の比率だという。この排出量を0.5にするということは、例えば先進国が0であっても開発途上国は0.5でなければならない。これからの40年間に0.4が0.5で収まるとはとても考えられない。現実は不可能であろう。

とすると、選択肢としてシナリオVで考えるべきだと言う。
つまり、産業革命前に比べて2℃ではなく3℃の上昇線を死守する。
これだと、残念ながら生物の多様性や異常気象は避けられない。
しかし、「農業生産」は地域によって多少のバラツキはあるが、それほど大きな影響を受けない。また、GDPへの影響も軽微。したがって、この3℃高に抑えるという国民的な合意が絶対に必要だと強調。
さらに言うならば、グリーンランドの氷床融解や海水の深層循環消滅などの「熱塩循環崩壊」などは、5℃近くなって問題化する。
したがって、シナリオのW、X、Yの選択は、出来るだけ避けるべきだという。
いままで、温暖化ということで北極のシロクマとか異常気象問題を並列的に考えていたが、この解説で初めて温暖化、高温化の相違がわかったような気がした。

そして、CO2削減を考える場合に、何はさておいても考慮しなければならないのが電気の電源。
水素エネルギーも、電気自動車も、ヒートしポンプも、高炉の水素還元などの新しい技術も、すべて電気がベースになっている。したがって、電源の議論を抜きにしてCO2の削減を議論することはナンセンス。
そこで、各国の電源別比率を見てみる必要がある。下図は電気事業連合会発表の2005年の構成比。

http://www.fepc.or.jp/present/jigyou/shuyoukoku/sw_index_03/index.html

これをみれば一目のように、石炭の比率が高いのは中国の79%とインドの69%が群を抜いている。そしてアメリカとドイツが50%前後。これが高いCO2を排出している。
しかし、石炭による発電を止めさせるわけにはゆかない。発電の効率化を進めると共に、排出したCO2を地下に貯留するいわゆるCCSを実行してゆかねばならない。
この技術は既に応用されている技術。
アメリカで、石油の産出が少なくなった時に、地下にCO2を注入して石油を取りだしている。コストの問題は残るが、技術的には解決済みと言ってもいい。
ただし、日本の場合には、貯留場所の候補地が大陸棚の海底地下帯水層で、年100万トン程度かもしれないという。

再生可能なクリーンエネルギーとして太陽光と風力、バイオが挙げられている。しかし、世界で一番活用されているクリーンエネルギーは水力。ドイツはクリーンエネルギーで世界のトップを走っていると言われるが、水力を含めると10.6%に過ぎず、日本の9.4%とそれほど大きな差があるわけではない。
そして、太陽光発電は現在の150kWを2020年には10倍に、2030年には40倍にする政府のビジョンが発表されている。電力10社も30地点でメガソーラー発電計画を掲げており、14kWを2020年までに導入する予定。

ただ、太陽光発電と風力発電で問題になるのは、まずスペース。
原子力発電1基に匹敵する電力を太陽光で賄おうとすると山手線内全部にシリコンパネルを敷き詰めなければならない。風力だと山手線の3.4倍の敷地を必要とする。
つまり、四国全土を太陽光パネルで覆い尽くすか、九州全域の海上までを風車で満たさないと必要な電力は賄えない。
そして、本格的な採用となって2桁のパーセントを占めるようになると、現在のような売電システムでは処理出来ない。高容量のバッテリーが必要で、その投資額は年間数兆円にも及ぶと試算されるとか。年間の電力料金が十数億円ということを考えると、ある一定以上の期待を持つことは出来ない。
また、バイオは地域需要に応えてゆくという形になろう。
こう考えてくると、電気事業連合会がベストミックスと呼んでいる2017年の原子力41.5%、水力10%、太陽光・風力で2%。この3つで50%を突破させ、残りをLPG22%、石炭20%、石油5%で埋めてゆくという考えは正しいと思う。

原発が主流になると、問題になるのはウラン原料。現在天然ウランの埋蔵量は547トンと言われ、100年間分があるという。主要埋蔵量はオーストラリア23%、カザフスタン15%、ロシア10%、南アフリカ・カナダ8%、アメリカ6%、ブラジル・ナミビア・ニジール5%、その他15%。
日本の主要輸入先はカナダ、オーストラリア、ナミビア、アメリカ、カザフスタンなど。とくにカザフスタンと友好な契約が締結出来たのが大きい。

P1000861.JPG

天然ウランは、そのままでは燃えやすいウラン235はたった0.7%しか占めていない。このため濃縮して3.7%にまで高めて軽水炉の燃料として使われる。そして、アメリカをはじめとしてほとんどの国は、核拡散の問題もあってこのワンス・スルーで捨てる。
しかし、この使用済燃料にはまだ利用出来るウランやプルトニウムが含まれている。
含まれている1%のプルトニウムとウランを混ぜて作るのがMOX燃料。この燃料を軽水炉で最利用することをプルサーマルという。

しかし、日本での実績は微々たるもの。圧倒的な実績を誇るのがフランスで、次はドイツ。このほかスイスやベルギーも実績を持っている。
しかし、プルサーマルでサイクルされる燃料は18%に過ぎないが、廃棄物の体積が1/3となることの効果が大きい。
日本でMOX加工工場が青森県六ヶ所村に建築中で、竣工は2012年の予定。
とりあえずはフランスでMOX燃料を加工してもらい、2010年まで16〜18基の導入を各電力会社で目指しているという段階。プルサーマルに関しては、日本の技術水準は高いとは言えない。

さて、原子力発電で問題になるのは3点。
(1) 高速増殖炉の実用はいつ頃になるのか (2) 原発の稼働率をいつまでに高められるか (3) 最終処分地は何時、どこに決定出来るか。

P1000849.JPG

高速増殖炉が開発されると、プルトニウムが次々に生産され、燃料効率は100倍近くにもなるという。その技術的詳細を述べる資格が私にはない。上の図を参考に調べて頂きたい。
政府の計画では、まず2030年までに次世代軽水炉を開発する。
高速増殖炉に関しては2025年に実証炉などを実現したい。そして2050年頃から商業ベースでの導入を目指して技術開発を進めたい、というもの。
実現までに40年もかかる息の長い話。場合によっては水素発電の方が早いかもしれない。
残念ながら、私は高速増殖炉の完成を見ることが出来そうにもない。

また、原発の稼働率については、2000年までは80%以上と、高い稼働率を誇ってきた。
しかし、東電の偽装報告、関電事故、柏崎地震で、現在は60%に落ちている。
これが、日本国民の原発に対する不信感につながっている。いち早く80%〜90%へどう高めて行くことが課題。

そして、最終処分場問題。
高レベル放射性廃棄物は、ガラス固体化が世界的にベストだと認められてきている。
そのガラス固体を20センチ厚の炭素鋼の中に密閉する。
そして、その炭素鋼を70センチの粘土で囲んで地下300メートル以深の岩盤の中に封じこめる。最低1000年先までモニター出来るようにしなければならないという。
しかし、地震国日本では、最適地を探すのは容易なことではない。現在、世界で最終処理場が決まっているのがフィンランドだけだという。

過去40年間、一貫して原発の技術を守り育ててきたのはフランスと日本だけだと聞かされてきた。このため、日本の技術は優れていると考えてきた。
たしかに東芝とウィスチングハウス、日立とGE、菱重とアレパの提携がある。
また、技術というのはハード面だけに限らない。
地震国で、被爆国の日本での原発運用ノウハウ面とか人材育成面では、日本は進んでいる。
しかし、プルサーマルにしても次世代軽水炉の開発にしても、期待していたほど技術の優位性がシンポジウムでは感じられなかった。
質疑応答の時間がなかったせいでもあるが…。
posted by unohideo at 15:40| Comment(3) | 技術・商品情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。