北米で5社、北欧で3社の地域密着型のサッシ工場を見てきた仲間の話によると、どのサッシ工場もガラスの加工場を持っていたという。
私はそれほど多くは見ていないが、たしかにカナダのサッシ工場にはサッシとは別に、ガラスの加工ラインがあった。
ガラスは、ヨーロッパから10帖ぐらいの広い板ガラスを直輸入。
それを需要に併せて効率よくカット。
そして、Low-E加工を施し、ペアとかトリプルに加工して、アルゴンガスを注入する。
設備費はそれほど大きくはないが、億単位近くは必要。
それよりも、機械化して連続的に生産しているので、ある程度のロットが必要だということが良くわかった。
日本のサッシメーカーは、ガラス工場を持っている?
最近の工場を見てないので確言出来ないが、持っていないはず。
住宅用のアルミサッシの場合は、各地に設けられた建材店やガラス店関係のサッシセンターで部材とガラスが組立てられて現場へ搬送される。
PVCのペアガラス入りの高気密・高断熱サッシの場合は、ガラス入りで梱包されて現場へ搬入される場合と、ガラスだけは後で現場取り付けの場合がある。
この場合も、PVCサッシメーカーが板ガラスを買ってきて自社で加工していない。
旭硝子とか日本板ガラスの指定加工場が存在する。
そこで加工して、サッシメーカーに卸しているのが一般的。
ペアガラスはほとんどオーダーメイドだから、ガラスメーカーが直接手をだすことはなく、下請け工場に任されている。
日本の板ガラスは寡占状態。
したがって、旭とか日本板の系列でないとペアとかトリプルガラスは生産出来ない。
北米や北欧のように、他国からガラスを買ってきて、地場のサッシメーカーが勝手に加工する。そのような能力を持つ会社が存在しない。
もし、独立したガラス加工場が存在していたとしたら、ビルダーは容易にドイツからサッシを輸入することが出来る。軽い枠や金物だけを輸入し、日本のガラス加工場で作ったガラスをセットすれば、輸送コストは大幅に安くなる。緊急の場合には空輸したとしても、たかが知れている。
こうしたガラス加工場がないから、輸入サッシはガラス込みとならざるを得ない。
当然重くなるから、船便以外は使えない。
そうすると、発注から現場納入までに2ヶ月はかかる。
そして、万が一ガラスが損傷した場合などで空輸にすると、たった1窓で何十万円も支払うことになる。そういった苦い経験をほとんどのビルダーが持っている。
だからといって在庫をするとなると、それを管理する場所と人が必要になる。デットストックが発生して管理費がかさむ。
したがって、輸入住宅サッシ専業でないかぎり、自社内にサッシ部門を持つという例はなかなか見当たらない。
次善策として求められるのが、ヨーロッパから型材や金物などの資材を輸入し、日本で加工するメーカー。とくにウッドサッシは金物が命だから輸入金物に頼らざるを得ない。日本には木製建具の歴史はあっても機能フルなウッドサッシの歴史がない。
北海道には、旭川に工場を持つノルドと、昨年から帯広に工場を持ったユーロハンズがある。いずれもスウェーデンから資材を入れている。
これだと、発注から納品まで1ヶ月以内。
それと、日本の消費者やビルダーの厳しい細部の要望にも対応出来る。
トリプルサッシにも対応出来るので、性能的に0.9Wを切れる。
価格的にもある程度こなれているので、北海道ではパッシブハウスにトライしょうとするビルダーや消費者にとっては、心強い存在。
もちろんアフターメンテの面でも心配がない。
ところが、両社とも回転窓が主体。
ユーロハンズは、最初はドレーキップが主力商品だったという。
しかし、夏の短い北海道ではブラインド付きのメリットがさっぱり理解されず、ドレーキップの良さも分かってもらえなかったという。このため、2年前に生産中止を決め、一番外側のアルミサッシの鋳型も消却したという。新規にアルミサッシ部分の鋳型を作るとなると、億単位の投資が必要。
帯広で工場を稼働させたばかりだし、ドレーキップの確実な需要が見込めないので、今すぐには手を出すわけにはゆかない。
もっと早く同社の存在と、ブラインド付きのドレーキップの存在を知っていたらと残念でならない。2年間のズレが、何とも痛い。
下の写真は、同社が2年前に生産したドレーキップを取り付けた完成現場。外側がアルミサッシなので雨による内部のウッドの劣化の心配がない。ただ北海道なので、ブラインドが省かれていた。
そうした折、スウェーデンホームの名で住宅を売っている兵庫の昭和住宅を知った。
ブラインド入りのドレーキップを採用している。
電話して、「関東でそのサッシを使うことが出来るか」と聞いたら可能だという。
早速、東京の事務所を訪ねた。
モデルを見たらウッドはノルウェー産。金物はドイツ。最初はそれらの資材を輸入して日本で作っていた。しかし、日本のサッシメーカーのほとんどが中国へ進出。日本で作ったのでは価格的に太刀打ち出来ないので、急遽山東省へ進出。
これは賢明な方策で、コストは安くなるし、製品は2週間で現場へとどく。
輸入住宅のデメリットのほとんどが解消される。
最近、フードマイレージやウッドマイレージという言葉がよく使われる。
その食品なり木材の運送費がどれだけかかるかを考えて商品を選択しましょう。出来るだけ運送費を省いて地球にやさしくしましょうとの考え。
これは非常に優れた考えだが、距離が問題なのではない。
その輸送で、どれだけCO2を排出するかが問題。
陸送に比べると海送のCO2排出量は、はるかに少ない。中国の内陸で生産するのなら問題だが、沿海だとサッシマイレージは少ない。
サッシメーカーに限らず、ほとんどの建材メーカーが中国へ進出している。
現在ではサッシ、フロアー、衛生陶器など、日本で使われている建材の多くは中国製。
食品では数多くの事故があったので、一般消費者のアレルギー反応が強い。だから、スーパーなどでは中国産野菜や加工食品はあまり置いてない。
しかし、ワタミやサイゼリアなど一部を除いたほとんどの外食産業とお惣菜の中食産業で用いられている食品は中国産。
私の家の近くにプロ相手の食品問屋があるが、加工食品はほとんどが中国産。
サラ・ボンジョルニというアメリカの4人家族の若い母親が、丸一年間中国製の商品を使わない生活にトライした記録を「チャイナフリー」という著書にまとめている。
チャイナフリーを実行したら、子どものオモチャは1つも買うことが出来ず、靴や衣料品も手に入らなかった。バースディケーキに飾るローソクも手に入らず、こっそり内緒でチャイナ製品を使った、とその体験談を発表している。
それほどアメリカは国内の工場を潰し、中国へ移転させて中国産品無しでは生きてゆけなくなっている。
日本はアメリカほどではない。だが、中国産ギョウザやウナギは避けられても、中国産のユニクロとかサッシやフロアーは避けることが出来ない。これがグローバルの実態。
日本の住宅メーカーの中で、唯一PVCサッシを自社生産しているのが一条工務店。
昔、大手住宅メーカーはサッシで差別化を図るため仕様書発注をしたことがある。しかし、特許をとれるわけがないので、売れると分かるとすぐ他のサッシメーカーが類似品の生産を始める。このため、サッシでの差別化は瞬時に終わり、以来大手住宅メーカーは性能やデザインの良い新サッシの開発に対する関心を失い、アルプラの6mmペアから脱出しようとしていない。
サッシに対して比較的高い関心を示しているのは、スウェーデンハウスと一条とハイムだけと言っていい。
一条がサッシを自社生産しているのは中国同様に安いフィリピンの労働力が得られるからであり、スウェーデンハウスは親会社のトウモクが、スウェーデンでサッシを生産してくれているから。
これは、昭和住宅に確かめたわけではないのでどこまでも推定だが、同社がスウェーデンホームという名でスウェーデンハウスに対抗している関係上、リスクを覚悟でサッシに手を付けざるを得なかったのだと思う。そして、主なマーケットが関西だったから、ハウスの回転窓ではなく、ブラインド付きのドレーキップを選択した、のだと思う。
U値よりも日射遮蔽を優先した選択は、正しかったと思う。
しかし、もらった資料を見たらU値が2.0W。
つまり、ウッドのペアガラスは、Low-Eもアルゴンガスもない単なるペア。
これでは性能が低すぎて、パッシブハウス用のサッシとしては使えない。
そこで「0.8Wはムリでも、なんとか1.0Wの性能がクリアー出来ないか」と聞いた。
「ガラスを変えれば何とかなる。ただ、ガラスを変えるためにはある程度のロットがまとまらないと話にならない。ロットがまとまる見込みはあるか」という当然の質問。
自分が事業をやっていたなら「最低50棟は保証する」とハッタリを咬ませて断言する。
しかし第一線を退いた現在では、仲間の意向を聞いて回るしかない。
仲間のおおまかな意見は下記。
「日本や中国のガラス事情を考えると、うまくいって1.2Wが限度ではなかろうか…」
「実験値でなくてもいい。シミュレーションで良いから、どれだけの性能値が得られるかの数値を出してもらわないと検討が出来ない。そして、その性能値でのおおよその価格を教えてもらえないかぎり判断は出来ない…」
恥ずかしながら、子どもの使いになってしまった。
再度こちらの意向を伝えると、「当社はサッシ屋ではない。輸入資材や輸入住宅を含めていろいろ考えてもらわないことには、数値が出せない」との返事。
「シミュレーションでも良いからサッシの性能値を…」という当然の要望に対して「企業秘密に近い数値を出す以上は、どれだけ動くかの保証が必要。それがないかぎりは出せない」と断られた。
サッシの性能値が企業機密とは…。
つまり、ニワトリが先かタマゴが先かのコンニャク問答。
私のアプローチが間違っていたようだ。
最初から本社のトップに会っておれば、コンニャク問答にはならなかったはず。
私の仲間は、R-2000住宅でのトップランナーばかり。
その仲間が欲しいのは高性能なブラインドつきドレーキップサッシ。
その他の資材は、安くて良いモノがあれば使わせてもらう。
しかし、スウェーデンホームを売らねばならないほど落ちぶれてはいない。
技術力、デザイン力、営業力、経営力は、各社とも優れている。
戸数はおよばないが、中には一年先までの需要を抱えている仲間もいる。
目下の同盟者になろうなどという考えは、誰も毛ほども持っていない。
しかし私は、昭和住宅を責める気もなければ、その資格もない。
メーカー側からのアプローチを待つのではなく、「何としてでも日本最初のパッシブハウス専業ビルダーとして、年間30棟建ててゆく。その30棟用の0.9Wの性能を持ったブラインド付きサッシを、なんとしてでも開発して欲しい」と、ビルダー側からの強い熱意を示さない限り、日本のこの閉塞状態は絶対に打破されない。
問題はサッシメーカーよりも、ビルダー側にある。
ビルダーの意欲の乏しさが根本原因だと思う。
この時期に、意欲を持てというのは酷な要求かもしれないが、イノベーターというのはどんな時代でも酷な条件を克服するのが使命。