2010年12月21日

エネルギー・パス制度をどう考えるか   学術会議(続々)


セミナーのあと、1時間近い質疑応答が…。
自分の所属大学名と氏名を記入した質問書を司会の村上周三先生に渡す。
質問者はほとんどが会議員の大学教授ないしは研究員生。
員外の私だがどうしても聞きたいことがあったので、図々しく質問させてもらった。
それは、どの先生も触れなかったドイツのエネルギー・パスに代表されるEUの 「全建築物の省エネ性能の表示義務化」 の問題。
この制度を諸先生方はどのように考えているのか?  
また、これに近い制度設計が、日本で制定される可能性があるのかどうか?
 
質問は、伊香賀先生の 「アパートのオーナーや入居者に対する意識調査」 に関連する質問という形で行った。
「このような意識調査をいくらやっても、オーナーや入居者の省エネ意識改善は期待出来ないのではないでしょうか。やはりEUのような、《省エネ性能の表示義務》 という大きなインセンティブを与えないかぎり賃貸住宅の省エネ改修は進まない。ドイツの例では、この省エネ性能表示の義務化によって、とくに旧東ドイツ時代の中古アパートでの外壁断熱強化と高性能サッシへの取換え工事という一大断熱改修ブームが起こっています。是非日本でも、これに匹敵する制度設計を考えていただきたい」 と。

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これに対して、まず伊香賀先生は次のように答えた。
「快適性能を促進し、エネルギー性を向上させる断熱改修工事は、絶対に必要な要件。すでに全国で22の自治体が取り組んでいます。この動きが、これから加速化してゆくことは間違いありません。ただし、日本の場合に法的な義務化というところまで踏み込めるかどうかについては、私は答えることが出来ません」

次は吉野先生の発言。
「EUの省エネ性能の表示の義務化については、強い関心を持っています。ただ、個人的にはエネルギー性能の表示だけでよいとは考えていません。何と言っても空気質とか快適性ということを忘れてはなりません。つまり。Q値だけを追うのではなく、気密性なども追わねばなりません。素晴らしい換気性能を付加してゆくという視点がないと、絶対に成功するとは考えらないからです」

この吉野発言を受けて、村上先生が次のようなコメントを挟んだ。
「吉野先生の言われる通り。昨年春の改正省エネ法が問題です。私が知らないところでいつの間にかC値の基準が削除され、換気に関する基準も削除されていた。これは大変にけしからぬ話。単にQ値だけを追うのではなく、気密性と換気性能も追ってゆかねば片手落ちです。この点はなんとしてでも再改正させねばなりません」 
この発言には、正直なところ驚いた。
改正省エネ法で、C値や換気に関する項目が削除され、実質的には改悪でしかなかったのは、村上先生等上からの圧力、つまりトップダウンの指示があったからではないかと私は考えていた。昨年の春の新建ハウジングに記載された鈴木大隆氏のコメントを読んで、そのように早トチリをしていた。
そうではなく、気密や換気が持つ意味の重要性が分かっていない半端役人の段階で、大手プレハブメーカーなどの入れ智恵で、この大切な項目が外されたというのが真相らしい。
いまさら犯人捜しをしてもラチがあかない。
ともあれ、村上先生が「気密と換気の項目を外したのはけしからぬ」 と断言したことは、大変に喜ばしいこと。
これだけでも質問した甲斐があったと言える。

これに加えて、藤野氏が次のようにコメントした。
「私どもの中長期計画では、次世代省エネ基準を上回る《推奨基準》を考えています。その推奨基準ではQ値はもとより、C値も0.5p2としています」と。
C値が0.5p2という推奨基準は、国交省が言うところのトップランナー基準のことを指すのか、それとも経産省で別の基準を考えているのか?
質問しようとしたら、浅見先生か中上氏かが、更に次のようにコメントを加えた。

「アメリカの建築業界は大変に遅れているように思われているが、ハーズなどで省エネ化が進んでいます…」 と。
ハーズ?
昔、R-2000住宅をオープン化する時に、坂本雄二先生にお願いしてコンピューターのソフトを開発してもらった。それをHERS(Handy Energy Reckon System)と呼んだ。それがオーソライズされてSMASHになった。あとは光文社のファッション雑誌名のことは知っているが、アメリカのハーズは聞いたことがない。これまた質問しようと思ったが、話題はさらに先へと進んだ。
「ご案内のようにアメリカの環境保護庁は、エネルギースター制度を発足させており、エネルギースターでビルのランキングが発表されるようになってきています。上位にランキングされたビルの不動産価格は、当然のことながら上がってきています。EUの性能表示の義務化以外でも、世界ではこのような動きが出てきており、経産省ではこのエネルギースター制度を日本へ導入すべく、現在準備を進めています」

アメリカのエネルギースター制度は、オフィス機器の省エネ化からスタートし、現在ではビルそのものの省エネ性にまで及んでいるらしい。そして、オフィス機器に関しては10年前にEUとも提携の調印をしている。
詳細な実態は分からないが、日本のカスべ(CASBEE)よりは普遍性を持っているのだろう?

そして、各氏の発言を総括する形で村上周三氏が次のように話した。
「いずれにしても、当該するビルや住宅の省エネ性能が、誰の目にも明確に分かるものでなければなりません。つまり、性能の《見える化》が必要です。もちろんこの性能は省エネが主体となりますが、先ほど指摘があったように気密性や快適性を含めたものでなければなりません。環境省は、住宅やビルの標準化を行った上でラベル化を考えています。EUの省エネ性能表示義務化とは若干異なるかも知れませんが、性能の表示化は避けられない方向であり、私どももその実現に向けて努力を続けて行きます」

すでに書いた疑問の外に、もう一つ質問したいことがあった。
それは、「日本住宅の最大の大家は公営住宅の地方自治体であり、国交省所管の公団住宅。この低性能な中古住宅を多く抱えている国交省は、本来は率先して大規模断熱改修工事を行うべき。けれどもカネがないから自分から言い出せない。このため、経産省とか環境省あたりに音頭を取ってもらわない限り、既存の中古賃貸等の本格的な断熱改修工事は、日本では進まないのではないか」 というもの。
しかし、部外者の私の質問で大幅に時間を取ってしまい、追加質問をする時間がなくなりタイムアップ。

感想を一言で言うならば、今までは各先生ともEU主導の 「省エネ性能表示の義務化について」 は積極的に発言をしてこなかった。
だが、諸先生はかなり勉強をしていて、それに近い制度の必要性については十二分に認識していることはわかった。
その点では満足出来る成果が得られた。
しかし、肝心の産業界や政界、報道界には真の意味でリーダーが不在で、意欲と盛り上がりに欠けている。
こんな時に、積極的に動いてくれる政治家が一人もいないのだから情けなくなる。
小沢チルドリンかんな何人いても全く意味がない。本当に住宅のことと環境のことが分かる政治家を、一人で良いから育ててゆく義務が産業界にあるのだが…。

結局は、経産省か環境省の意識の進んだ役人が、どれだけ優れた仕掛けを用意できるかにかかっている。 としか言えないようだ。

どんな形で議論が尽くされ法制化されてゆくかを、静かに(時には騒々しく)見守ってゆくことにしょう。



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2010年12月20日

エネルギー消費実態と認識との乖離   学術会議(続)


前回の松村発表に続いて、各講師の発表内容を簡単に触れておく。

中上英俊氏(住環境計画研究所)の「エネルギー基本計画と低炭素化」は、今年3月に経産省が改定した「エネルギー基本計画」の策定作業に参加した折の裏話を含めて、2030年のエネルギー需給の姿を詳細に話した。しかし、内容はすでに発表済みで新鮮味が乏しかった。

浅見泰司氏(東大空間情報科学研教授)は、もともと都市工学が専門。「低炭素社会に向けた都市環境の変化」は、ビル建築で徐々に浸透し始めている CASBEE (カスべ。建築物の総合的な環境性能評価システム) を、いかにして都市環境にまで広めてゆくかという話。このカスべには住宅も包含されているが、低層住宅関係者では誰一人としてカスべに関心を持つ者はいない。パッシブハウスの方がはるかに知られているのが現実で、省略させていただく。

藤野純一氏(国立環境研究所)の「地球温暖化対策に係わる中長期ロードマップ」は、メキシコのカンクンで開かれたCOP16の報告も兼ねていたが、話が独善的で意味不明。
ただ今年3月に推計した中長期ロードマップを最近になって書き換えた資料が提示されていた。その新しいマップのほんの一部を紹介。
◇世帯数  5038万世帯(2005年)  5357万世帯(2020年)  5242万世帯(2030年)
以下は国内CO2▲25%の場合の必要普及度。
◇高性能給湯  70万台(2005年)  3800万台(2020年)   4880万台(2030年)
◇内燃料電池   0万台(2005年)   100万台(2020年)    200万台(2030年)
◇太陽光発電  144万kW(2005年)  5000万kW(2020年)  10100万kW(2030年)
◇太陽熱温水   61万kl(2005年)   178万kl(2020年)   282万kl(2030年)

伊香賀俊治氏(慶大システムデザイン工学教授)の「都市・建築におけるCO2排出量の50年までの長期予測」は、いくつかのモデル例、アンケート調査などをもとに発表されたが、このままでは2020年の民生部門のCO2は90年比で39%も増大するという話だけが耳に残った。それに対する具体的な対応策が示されなかったのが残念。

最後に登壇した吉野博氏(東北大工学研教授)の「建築・都市におけるエネルギー消費特性の実態」は、本人だけでなく各先生方の今までになかった新しい調査・研究の発表が含まれていて面白かった。
例えば秋田県大長谷川准教授の「農村部を対象にしたエネルギー実態調査」、東京理大井上教授の「集合住宅共用部のエネルギー消費量」、横浜国大鳴海准教授の「小売店舗のエネルギー消費実態」など、新しい発見があった。
しかし、何と言っても面白かったのは森原佑介、井上隆の両氏が2005年の9月から2006年の8月までの1年間に亘る135世帯の用途別エネルギーの実態調査と、アンケートによる入居者の認識調査。これは2009年7月の空調・衛生学会で発表されたものらしい。
しかしどの地域で、どの程度の性能住宅を対象にしたものかが分からない。
東京理大の研究者データベースには発表論文の題名は記載されている。
だが、論文そのものは見つからない。井上隆教授の場合はE-mailさえも未公開。
あちこちをネットで探していたら、平成20年の環境白書の32ページに、吉野先生が提示したのとそっくりの図が掲載されているのを発見。

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図をクックして拡大していただくと、数値がよくわかります。

環境白書によると、この図は2007年の建築学会で発表されたものを、エネ経研の2008年版に掲載され、それを見た環境省が各種のデータをアレンジして、独自に作成したものらしい。
つまり、図の上半分は昨年の空調・衛生学会で発表された原形に近いもので、下の図は環境省のアレンジ編。(上の図の%は私の方で書き込んだもので、若干の違いがあるかもしれません)
そして、上図は2人の研究者の調査になっているのに対して、環境省のものは2人のほかに酒井涼子他でのアンケート調査となっている。
なんだかややこしい。
ただ、上半分の図を見ると暖房費の実態が15%で、冷房費の実態が3%となっているから、関東エリアを中心に調査したものではないかと推測出来る。ただし、住宅の性能は次世代基準以下のように感じるのだが…。
それを、環境省は用途別の全国平均値をもとにして暖房費を24%、冷房費を2%に置き換える作業を行ったのだろう。

環境省がこの図を発表した理由は、実際の計測値と消費者の意識とのズレの大きさを知ってもらいたいがため。
実態は24%しか占めていないクーラーの暖房費が40%も占めていると勘違いし、たった2%に過ぎない冷房費が30%を占めているように消費者は感じている。
両方合わせると何と70%にもなる。
ということは、消費者の意識の中では 「家庭における省エネとは、クーラーのスィッチをON、OFFにすることである」 としか考えていないということなる。

冬は暖房費を我慢するために、出来るだけ風呂へ長く浸かる。
夏は湯上り時に扇風機を回し、夜中は冷房を切って寝ることが省エネであり身体にもよいと、新興宗教を信じるように かたくなに信じている。
このため、熱帯夜には安眠が出来ず、寝不足から大きなストレスを抱え込んでいる。
生産性も落ち、社会的に大きな損失となっている。

そして関東以西の家庭で、実態面で圧倒的な比重を占めているのが給湯。
なんと39%。
それに次ぐのが照明や冷蔵庫、洗濯機、テレビ、パソコン、掃除機、ゲーム機、ドライヤー、レンジ、食洗器などの家電。これが35%。
なんと両者で74%も占めている。
それなのに消費者の意識の中では、両者の占める割合はたったの30%。
このため、家庭における省エネとは、まずお湯の使い方を減らすことであり、次は照明など家電の節約にあることが正しく理解されていない。
つまり、音を出すクーラーの暖房や冷房に気を取られていて、音をたてないサイレント・キラーに対しては無関心。

今から22年も前、立川展示場に建てた関東地域第1号のR-2000住宅で、セントラル暖房と冷房の24時間運転と間欠運転との 「燃費の比較実験」 をダイキン工業にやってもらった。
その結果を簡単に報告すると、Q値が1.4Wの性能を持った住宅だと、24時運転も間欠運転でも電気代はほとんど変わらないというのが結論。
つまり、24時間運転と言っても、冷暖房運転の実稼働をしている時間はほんのわずか。
これに対して間欠運転の場合は、OFFしている間に部屋が冷えたり暑くなっているので、ONした時には急速運転をしなければならない。このため、立ち上がり時に大量の電気を喰っている。
したがって、R-2000住宅のように、一定以上の熱損失係数を持つ住宅の場合は、全館24時間空調の方が快適性までを含めると相対的にはるかに優れている。
22年も前にこのような結論が得られている。

それなのに、未だに個別クーラーの間欠運転に、メーカーと消費者だけではなく、研究者までもがこだわっているのは理解に苦しむ。
クーラーをしきりにON、OFFさせているのは、住宅の性能が悪い証拠。
今の電気代で、全館24時間空調に切り替えることこそ、住宅メーカーと設備メーカーに課せられた社会的な課題。それをはたしていない責任追及こそ、学術会議がやるべき仕事なのではあるまいか?
もっとも、セントラル空調の3〜5倍の風を感じる個別クーラーは、夜中は消さないと身体がだるくなって健康に悪い。
このためやむをえず消すという側面があることは事実…。

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これは、良く使われる住環境研の 「世帯当たりエネルギー消費量の国際比較図」 
データが少し古い。これより若干新しい数字が発表されているが、それほど内容に差がないのでこれをそのまま使う。
この図をみれば一目のように、日本の家庭で使うエネルギー量は欧米先進国の半分。
41GJに過ぎない。 
比率は暖房29%、冷房2%、給湯34%、調理7%、家電29%%。
世界で一番お湯をムダ遣いしているのはイギリス家庭の子女。なんと18GJ。
これに次ぐのが、ジャグジーなどでムダ遣いをしているアメリカと豪州。
これに対してフランスやドイツは、日本の半分の7GJ。北欧圏も同程度。
これらの国々は温水による地域暖房システムが普及しているということもあり、全ての家がセントラル暖房。
日本のように家の中に温度差があるので湯船に肩まで浸かり、暖と疲れをとる必要性は一切ない。
このため、ほとんどの家庭とホテルには浴槽がなく、シャワーのみ。

このことが、ドイツのパッシブハウス研のエネルギー評価に繋がってくる。
そして、同研究所のシステムで評価された森みわ女史が設計した住宅の一次エネルギー、120kWh/u以内という数値に対する疑問になってくる。
最近の日本の家庭では、とくに新居ではもっぱら深夜電力で、エコキュートでお湯を沸かしている。このため、給湯代そのものは非常に安い。
しかし、実際に使用している二次エネルギーをkWh/uでみると15〜20kWh/uに及んでいる場合が圧倒的。
これを一次エネルギー換算するとなんと41〜55kWh/uとなり、120kWh/uの34〜46%を占めることになる。どう計算しても、給湯を多く使う日本の場合は、一次エネルギーが120kWh/uでは治まってくれない。
しかし、パッシブハウス研にシミュレーションを依頼すると、ドイツでの事例に従って給湯の年間一次エネルギーを20kWh/u程度と見なしてくれる。この結果、シミュレーション上ではパッシブハウスとして承認される。
しかし、実生活で一次エネルギーが120kWh/uで収まっているという実証がない。
偏屈者の私は、パッシブハウス研の省エネに対する執念と努力には大感動しているが、パッシブハウス研のシミュレーションに対する信頼度は大きく損なわれてきている。
それほどパッブハウスが唱える一次エネルギー120kWh/uにこだわる必要が、本当にあるのだろうか?

前回、松村先生の制度設計の最大の成功例として、深夜電力を使うエコキュート例を紹介した。
深夜電力を活用するかどうかは、原子力発電を公認するかどうかという国民の選択の問題。
ただ、深夜電力を一番必要とする北海道は、昼の原発の必要量が少ないから、深夜電力の余剰が少ないと聞いているが…。

ともかく日本でのCO2の削減は、原子力を無視しては語れない。
これから新設される原発の基数と稼働率が、CO2の削減率の大きなカギを握っている。
原発のことを、「トイレのない高級マンション」 と言う厳しい現実があるのも事実。
反面、日本では原発の最新の技術開発も進んでいる。
25%のCO2削減を叫んだ鳩山元首相は、最大の原発賛成論者だったことになる。
そして、値段が1/3と安い原発による深夜電力のお湯を少しばかり多く使ったからといって、一方的に 「家庭部門ではCO2の削減努力が足りない」 と騒ぐのは、よくよく考えてみるとおかしな話ではなかろうか?
一次エネルギーが、深夜電力の利用で120kWh/uを突破したとしても大騒ぎする必要がなく、大いに許される話ではなかろうか?

私の手に負えない大きな問題にぶっかってしまった。

紙数がオーバーしたので、予定していた質疑応答は、近日中に掲載。



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2010年12月15日

制度設計ミスだった太陽光余剰買取り制  学術会議セミナー


さる9日、日本学術会議シンポジウム「低炭素化に向けた経済・社会・エネルギーのあり方と実現のシナリオ」が学術会議大講堂で開催された。

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司会は村上周三氏(建研理事長)で、発表テーマと発表者は下記。
◆スマート・コミュニティの経済学          松村敏弘(東大)
◆「エネルギーの基本計画」と低炭素化        中上英俊(住環境計画研究所)
◆低炭素社会に向けた都市環境の評価         浅見泰司(東大)
◆地球温暖化対策に係わる中長期ロードマップ     藤野純一(国立環境研究所)
◆建築・都市におけるCO2排出量の50年までの長期予測 伊香賀俊治(慶応大)
◆建築・都市におけるエネルギー消費特性の実態    吉野 博(東北大)

これらの全ての発表内容を紹介したい。
しかし、年内にこの欄で取り上げられるのは2回のみ。したがって私が個人的に強く印象に残った村松氏と吉野氏の発表と、最後の質疑応答に絞らせていただく。
それ以外の先生の発表内容は、折に触れて紹介してゆくことにしたい。

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まず、東大社会科学研、比較現代経済部門教授 松村敏弘氏の発表から。
先生は、今年の8月20日付の日経の「経済教室」欄で、「太陽光発電は、余剰買取り制ではなく全量買い取り制を採用すべきである」 と強調していた。ザッと読んだがよく意味が分からず、そのまま忘れてしまっていた。
今回、改めて先生の話を聞き、その言わんとしていることの大きさを教えられた。

将来のCO2削減目標とか一般的な低炭素化社会のイメージなどという通り一遍の話は省略させていただく。
最初に先生が指摘したのは、「低炭素化社会と言うのは、全てのガス、ガソリンなどの化石エネルギーを電気に置き換えてゆくオール電化社会にほかならない」と。
つまり、冷暖房・換気・給湯・厨房をオール電化にする。そして、自動車・パス・船舶の輸送機関の電化も進める。
飛行機燃料の電化は難しいが、産業用もヒートポンプ化で大規模な電力化を進める。
したがって、大幅な省エネ化にもかかわらず、電力需要は大きく減少することはない。

その電源は、原子力・再生可能エネルギー・CCS(二酸化炭素回収貯留)。
しかし、再生可能エネルギーは最大に見ても2050年までに20%を占めるにすぎない。
それぞれのエネルギーの割合、つまりベストミックスを組み合わせてゆくことが大切。
自然にベストミックスが実現するように、透明なルールと合理的な料金体系設計が重要になってくる。とくに太陽光発電導入の社会的な費用負担に関しては、今までの制度設計の失敗例を繰り返してはならない。

さて、最近スマート・グリッドとかスマート・ネットワークという言葉が盛んに使われるようになってきた。しかし、使っている人はそれぞれ自分勝手な解釈で「スマートOOO」と発言しており、どれも定義がはっきりしていない。このため、共通の認識をもたらしてくれていない。
そこで、「スマート・グリッド」「スマート・エネルギーネットワーク」「スマート・コミュニティ」についての定義を提示したい。

スマート・グリッドというと、効率的な電力系統とか配線網のことだと矮小化して考えている向きがある。
しかし、インターネットの普及は従来の電力系統の考えを根本から変えてきている。
インターネットは、最初は人と人がネットでつながった。その次が物と人がネットで繋がるようになり、次は物と物がネットで繋がる社会が到来。
例えば、天候用センサーが農業用機器通信を通じて水やりや肥料管理を行う。
あるいは血圧や排便のセンサーから病院のデーターベースを通じて医療の指示を行う。
来客の予定から掃除ロボ、冷蔵庫の在庫確認、欠品の自動発注までを行なう。
カーナビで渋滞の少ない道を選んで走行する。
つまり、スマート・グリッドというのは、単に電力系統網のことを指すのではなく、インターネットという全ての情報通信網と接続し、それを網羅した総合的な効率の追求を考えるということ。

そして、スマート・エネルギーネットワークは、消費電力だけでなく供給も含めたエネルギー全体の効率を考えたネットワーク。今までの大型の発電所からの片方向の送電ではなく、再生可能な発電を考えた双方向のエネルギーシステムの効率化に対応しなければならない。
さらに、スマート・コミュニティというのは、エネルギーシステムだけではなく水や交通などのインフラを含めた全体の効率化を追求するコンセプト。

オール電化社会を迎えるには、電力は貯蔵が難しいから消費に合わせた発電が求められてくる。いわゆる単純なDSM(電力の総量抑制と負荷の標準化)の仕組みでは対応が出来なくなる。
太陽光発電が増えると、夏の昼間はむしろ電気が余ってしまう。そうかと思えば、雨が降りだすと途端に電気が足りなくなる。
ゴールデンウィークの期間は、出力を調整するか、電気を捨てるしかなくなる。
これを避けるには、30分単位に計量出来るスマートメータの開発と普及が急務。
しかし、それよりも重要なことは、きちんとした「規制料金体系と規制電力市場におけるDSM競争の制度設計」 をすること。

この制度設計で、われわれは貴重な成功例と失敗例を経験している。
成功例として自慢して良いのが深夜電力の割引制度。
昼間24円の電気料金が、夜間8円にすることによってエコキュートをはじめとして多くの需要を深夜へシフトすることが出来た。
そして、電気自動車の普及は、ますます深夜電力の活用を促してゆくであろう。このため、この画期的な制度も現在では珍しいものではなくなりつつある。
そして、この特別料金制度をゴールデンウィーク期間にも運用して、電力を捨てることなく活用する制度設計が求められてくる。

制度設計の失敗例として挙げられるのが、太陽光自家発電の余剰電力の固定価格買取り制度。
この制度は、太陽光発電の普及促進のために経産省が考え出したもの。
2010年度は2倍の48円で買い上げ、4年間で次第に買い上げ価格を低くし、24円に戻そうと言うもの。
この高価な買い上げ価格は、税金から捻出されるのではない。各家庭の電気料金を数十円から数百円値上げすることで賄う。
したがって、見た目はてたいした負担で無いように見え、大きな反対運動が起こっていない。
だが、電気はあらゆる財の生産に使われている。このため、負担は見た目以上に重い。

そして、この余剰買取り制度というのは、大きな問題をはらんでいる。
売電を多くするためには、昼間の電力の消費は出来るだけ少なくした方が得。
このため、太陽光発電が稼働している時間に、徹底した省エネ意欲を誘発している。
例えば、日の出前に家を冷やしたり暖めたりして、太陽発電が始まるとエアコンを切る。
昼間はテレビを消し、掃除や洗濯は陽が落ちてからにしている。
こうして見せかけの余剰を多くし、太陽光を搭載していない家庭からの収奪を、政府の公認のもとで堂々と行っている。
この余剰電力の買取り制度は、経済効率性の観点からも、系統安定性・配電対策、さらには公平性の観点からも、ひどい制度と言わざるを得ない。

買い上げ価格を36円に設定しての全量買い取り制だと、このようないびつな省エネ衝動は起こらない。
全量買い上げ制度は、「再生可能なエネルギー」 を評価するシステム。
ところが、「余剰買取り制度は、「売電した電力量の多寡」 を評価するシステム。
このいびつな制度は早くやめ、部分最適が全体最適に繋がる制度設計をしなければならない。
近未来的には、太陽光発電を電気自動車に蓄電した場合には優遇するなど、地域で開発された再生可能エネルギーは地域でムダなく効率的に利用するスマート・コミュニティこそが目指さなければならない方向。
それをやらないと、EVが普及した時、割安時間帯に急速充電が集中するということにもなりかねない。
幸い、横浜、豊田、京阪奈、北九州の4都市でエネルギーの地産地消の実証実験が始まろうとしている。
スマート・グリッドとかスマート・コミュニティの思想は、従来の省庁の縦割り行政を根本的に変えるもの。この総合的なインフラの改善という大きな改革のチャンスを、正しく見つめて対応して行く必要がある。


松村先生の発言に、私が受けた印象が上乗せされているので、発言内容とは100%イコールではない。
ドイツの太陽光政策は、完全にバブルであったという批評を多く聞く。
私も最初はドイツの政策に飛びついたが、実態を見聞したらバブルと言うよりは投機そのものだと気がついた。
したがって、本年度から始まった48円の余剰電力の買取り制度と大手プレハブメーカーのバカ騒ぎには、正直なところ苦々しく感じさせられた。36円の全量買い上げ制度であるべきだった。
投機とイノベーションとは根本的に違う。
そして、この松村理論はまだまだオーソライズされていない。
だが、学術会議のセミナーでトップバッターとして発言の場が用意されたという意義は、それなりに評価すべきであろう。



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2010年10月05日

ビルの外皮の性能が低いワケ・・・・・サンゴバンのセミナーでの発見


貴方は、ガラスを中心にしたフランスの“サンゴバン”という巨大コングロマリットの存在をご存じであろうか?
私はガラス業界の情報に疎い。
しかし、サンゴバンのドイツ工場で、今年春から生産を開始した“クールライト・エクストリーム”というガラスを3層にして使うと、U値が0.4Wのガラスの入手が可能だというニュースを、今年の春頃に聞いた。
「ドイツを中心としたEUのパッシブハウスという新需要に呼応するために、サンゴバンは頑張っているよ」 と。

世界の板ガラスの3大メーカーというと、仏・サンゴバン、日・旭硝子、英・ピルケントン+日本板硝子が挙げられるらしい。
その中でも、高性能ガラスというとサンゴバンが現時点ではダントツ?
という話を聞くと、一体どんな会社なのか気になってしょうがない。

たまたま、日仏工業技術会というところが、注目すべきフランスの企業を日本に紹介するために出版物の製作にとりかかっていた。
その第一号として取り上げたのがサンゴバン社。
三宅理一監修、中島智章・前島美智子著「サンゴバン  ガラス・テクノロジーが支えた建築のイノベーション」(ランダムハウスジャパン刊 3200円+税)

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たまたま、その出版記念セミナーに参加しませんかとの声がかったので、10月1日の夜に喜んで出かけ、高価な出版物を手にして帰った。
この本を読み始めてびっくり。
なんと今から約350年前、ルイ14世紀の時代の1665年に設立されている。
竹中工務店は織田信長時代に設立されているが、それと同程度の大昔の話。
したがって、この著作の1/10ぐらいは過去の話で、読んでいて面白くもおかしくもない。ひたすら歴史のお勉強。
イタリアのヴェネツィアに独占されていた鏡の生産をフランスで開始したところからサンゴバンはスタートしている。ガラスを中心に発展してきた。途中から化学工業に手を染め、2008年にはガラス繊維断熱材や外装材の建材をはじめ太陽電池、燃料電池、医療用材料など世界中で21万人の従業員を擁し、グループの売上高が約6兆円 (約440億ユーロ) ということが分かった。
これに対して旭硝子の売上高は08年だと約1.5兆円。
つまり、旭硝子の4倍の規模だから、呆れてしまった。

そして、特筆しておかなければならないことがある。
それは1981年に左派のミッテラン大統領の登場で大きな政府が叫ばれ、サンゴバンが1982年から4年間は国営化されたこと。
ミッテラン大統領の肝いりでルーブル美術館の中庭にガラスのピラミッドが出現したり、強力に進められた都市再開発でガラスだけのカーテンウォールの出現が技術的に可能になったことが、同社に大きなチャンスと利益をもたらした。
それまでは、ガラスのファサードを完成させるにはサッシか方立というアルミかステンレスの枠の中にガラスを挿入するしかなかった。
それが、ガラスを固定するのではなく、回転式のピン・ジョイントでガラス板同士を結合するDPG構法が開発され、サッシ枠や方立にとらわれなくても良い全面ガラスカーテンウォール時代を迎えることが出来た。

そして2000年代に入って、建築物から失われているエネルギー量が全体の40%にも上ることが認識され、これを節減することがEU各国共通のメインテーマになってきた。
そして、サンゴバンはLow-Eガラスをはじめとしたエコガラスの生産ラインを13基が備えてきている。ドイツのポルツ工場に3基、アジア向けとしては仁川、南京の工場にその新しいラインが設置された。
このことを知って、正直なところ私はがっかりした。
高性能開口部にとって、これからは韓国や中国が、とてつもない強力な競争相手となってくる・・・。

さて、サンゴバンの紹介はこれまで。
これからは当日のセミナーの内容紹介。
まず、最初に登壇したサンゴバン社のシャランダール会長。この話は、本の内容を要約しただけのもので、どうでも良い話。

P1030560.JPG

その次に登壇した光井純&アソシェーツ代表。
設計士を50人近くも抱え、ごく最近完成した羽田空港東旅客ターミナルビルをはじめ世界各国で設計活動をしているという。不覚にも同設計事務所の存在を知らなかった。
下記の2009年度設計・監理売上高ランキングにもその名が出てこないので、私が知らなかったとしても許されるだろう。

http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/building/news/20100929/543547/

そして、光井氏はサンゴバンのガラスを使っているらしいのだが、ガラスの性能に関する話は一切れもなかった。もっぱらデザインの自慢話。
これは、次に登壇した竹中工務店の石川氏の 「プラダ・ビルのエンジニアリング」 の報告でも同じこと。構造力学的には大変に面白い話だが、ガラスの性能に関しては得るものなし。

次に登壇したサンゴバン東京本社ビルを設計したアビュト氏。
日本で、最初にLow-Eのペアガラスのカーテンウォールを採用した設計士ということもあって、やっといくらか慰められた。
それにしても、ガラスの性能値に関する具体的な言及がなかったことが残念。

このフランス系のセミナーでの中で、異色を放ったのが森みわさん。
今まではもっぱらドイツ系のセミナーからお呼びで、フランスとは無関係。たが、予定していたフランス系の設計士の都合がつかず、ピンチヒッターとしてお声がかかったらしい。
例の鎌倉の、小さな木造住宅のパッシブハウスの報告で、新しい点はなかったが、Q値とかU値に言及してくれたのでホッとしたのは事実。
そして彼女の発言で、ビル系の設計事務所が省エネに対する関心の少ない理由の一つが判明したのは有難かった。


ご案内のように、パッシブハウスでは屋根、壁、床の外皮のU値は0.15W以下であるべしとしている。
この数値を達成するには、外壁は206の140ミリの充填断熱材+100ミリのロックウールの外断熱が必要。一応250ミリの断熱厚が目安。
これに対して、次世代省エネ基準で求めている壁の性能は、W地域で0.42W程度。しかもこの低水準でありながら新築住宅での達成率は40%程度と言うから、情けない。
最後にサンゴバン社のポール社長から、「次世代省エネ基準はあくまでも推奨基準。次世代省エネ基準という低レベルの基準ですら強制出来ないでいる日本の行政は、本当にだらしない」 と罵られた。

20年前、R-2000住宅に取り組んだ時は、フランス政府は何もしていなかった。
カナダと組んだ日本は、世界の先進国だった。
だが、気密性能がクリアー出来なかったので、三井ホームをはじめとして大手ハウスメーカーは軒並み脱落していった。
それに、協会の専務理事などの事務局が、大手の立場におもんばかってR-2000住宅の制度廃止に手を貸すというみっともないことまでやってしまった。
とくに鉄骨プレハブメーカーの省エネに対する反対はすごく、国交省住宅局は完全に日和見を決め込んで何もしてこなかった。住宅局の無作為の責任は大。
このために、日本は大きく遅れてしまった。
まさか、あのフランスに罵られるほどまで成り下がろうとは、考えてもいなかった・・・。

終わった後のワインパーティで、サンゴバンの技術者に、「ビル用のガラスで、どれだけまでの性能がだせますか」 と聞いてみた。
「0.4Wまでなら可能です」 と言われた。
つまり、次世代省エネ基準の外壁と同程度の熱貫流率が、価格面ではともあれ、ガラスで出せるのだ。
パッシブハウスの0.15Wは不可能だが・・・。

そして、帰宅して2階建て200m2の箱型住宅の外皮面積を計算してみた。
Y方向、X方向とも10メートル。各階高は3メートル。基礎高が40センチで2階床、天井とも30センチ厚。つまり軒高7メートルで計算。
この建築面積100m2。2階建で延べ200m2の住宅の外壁、床、天井の外皮面積は計480m2。

次にY方向10メートル、X方向20メートルで10階建てのビルを想定した。
各階200m2で、延べ床面積は10倍の2000m2。
これに対して、外皮面積を計算してみたらなんと2400m2。
床面積は10倍になっているのに、外皮面積はたったの5倍。

つまり、戸建ての小さな住宅に比べて、大きなビルのm2当たりの外皮の熱貫流率は半分で済む。
パッシブハウスでも熱貫流率は0.15Wではなく0.3Wでよい勘定。
しかも、木造の蓄熱性能の低さに比べてRC造の大型ビルは熱容量が大きい。
したがって、場合によっては0.3Wではなく0.4Wでも、パッシブハウスの厳しいm2当たりの熱損失係数が、全面ガラスのカーテンウォールだと達成出来る可能性が大。
ガラスメーカーのイノベーションに、ひたすらオンブにダッコさえしておればいいのだ。


この計算をやってみて、ビルを担当している設計の諸先生がQ値やU値に無頓着なくせに、仕事がウハウハやってくる理由がやっと納得出来た。
彼らは省エネに緊張感がなく、ひたすらデザインの目新しさに走っている。
それでも大型建築なので食べてゆける。半分以下の熱貫流率に救われて・・・・。
しかし、こんな設計士が大きな顔をして能書きを垂れており、国交省が大手住宅メーカーをのさばらせているから、日本の省エネ化は牛歩を余儀なくされている。

情けなくて涙も出ないが、それを教えてくれたサンゴバン社のセミナーには感謝すべきであろう。



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2010年03月09日

《潜熱蓄熱》について、石戸谷先生の追加解説



今日は「建築・建材展2010」と「 LED Next Stage」を観るためにビックサイトへ行ってきました。詳細は後ほど。
国分寺まで戻ってきたら雪。
昨日紹介したサクラをついでに見てきました。
「雪の中のサクラ」は、寂しくなってくる風景。

P1020525.JPG


さて、本題に戻ります。
昨日、このシステムの肝心な点が理解出来ない。
中でも 「潜熱蓄熱」 というコンセプトが、どうしても理解出来ないと書きました。
そこで、石戸谷先生にメールで質問をしたところ、下記のような返事をいただきました。
下の写真は、カタログの小さい図を拡大したもので、ピンボケになっている点はご了承下さい。

P1020472.JPG

まず、図の左に書かれている文字は「融点」。

(1)PCMが25℃以下の時は、パラフィンは固相(固体)の状態。
これにエネルギーを加えて温度を上げると、蓄熱量は比例的に増加する。(顕熱蓄熱)

(2)融点の25℃になると、パラフィンが溶けはじめ、固相と液相が混じった状態(固液混相)になり、熱を加えても温度が上がらなくなる。
これは、投入された熱エネルギーがパラフィンを溶かすために利用されているため。
このエネルギーを潜熱という。
また、上の赤線のように、温度が変わらずに熱エネルギーが蓄積される状態のことを、潜熱蓄熱という。

(3)カプセル内部のパラフィンが全部溶けると、パラフィンは液相(液体)になる。
この状態で更にエネルギーを加えると、再びエネルギーに比例して温度が上昇しはじめる。(顕熱蓄積)

つまり、固相から液相になるときPCMは熱を吸収する。
そして、液相から固相になる時、PCMは外部へ放熱をする。
また、PCMの融点は、自由に設計することが出来る。

以上です。
お分かりいただけたでしょうか。
潜熱蓄熱というのは、温度が変わらずに熱エネルギーが蓄積される状態だということを。

この i Wall system(アイウォールシステム) は、実証実験を北海道職能大学校と日和住設(TEL 011-665-1410)と共同で実施している。

なお、壁に細いポリプロピレンのチューブ・マットを埋め込み、温水と冷水を通わすハイブリッド方式の設備価格は、一式で現在の温水セントラルヒーティングのパネルラジエーター方式と同程度とのこと。



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2010年03月08日

北海道発 高気密高断熱技術フェア in埼玉(下)


RC造に比べて木造住宅は蓄熱性能が低い。

このため、パッシブハウスクラスの超高性能住宅の場合は冬期の3月で、大きな窓から太陽が射し込むとオーバーヒートしてしまう。
という話を4年前に、長野の仲間から聞いていた。
「このオーバーヒート現象を防ぐには、バイパス機能を持った熱交換気装置を採用し、直に冷たい空気を入れない限りダメだ」 と。

同じようなことを道職能大学校の石戸谷教授が話した。
「札幌の2月でも快晴だと、外気温がマイナス5℃でも室温が30℃近くまで上昇し、大変に不快。窓を開けないと我慢出来ない」 と。

つまり、床や壁の蓄熱量が小さいので、直ぐに放熱する過昇温で空気が暖められ、オーバーヒートをしてしまう。
これを防ぐには、長野の仲間が言うようにバイパス機能を持った換気システムを探すか、1階床を土間床スラブにするか、下の写真のドイツのように壁の中に中空のレンガブロックを入れて、熱容量を大きくするしかない。

P1000144.JPG

土間床スラブの熱容量は非常に魅力的。
しかし、住宅の耐久性が100年以上となってくると、床下空間を配管空間として潜れるようにしておかないとメンテナンスがムリ。
そして、壁はどうする?
断熱材はグラスウールに比べるとロックウール、さらには木の繊維の方が性能は良いが、それは比較の問題であって熱容量的に見れば大差がない。
壁の中に入れる中空で、透湿性があり、しかも断熱性能の良いレンガブロックは、日本では生産されていない。
わざわざスペインから重いブロックを、高い運賃をかけて運ぶだけの価値があろうか?
ということで、木造住宅を手がけている以上は、熱容量に関しては逆立ちしてもRC造には敵わないと諦めていた。

ところが、石戸谷教授は 「木造住宅にもRC造並みの高蓄熱性能を持たせることが出来る。それが i Wall systemだ」 と言った。
「ウソを言うんじゃないよ!」 と思った。
ところが、今年の1月に完成した札幌のQ値1.13Wの事務所棟(104.8m2、最大暖房負荷4.26kW)と、Q値1.34Wの総2階建て住宅(106.0m2、最大暖房負荷5.06kW)に i Wall system を採用した。
そして、2月の測定結果では、平均45%の暖房エネルギーが削減出来たという。
こういう数字を示されると、ウソ呼ばわり出来ない。
とりあえず、話を聞いて見るしかない。

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ポイントは潜熱蓄熱材(PCM)の採用にあるという。
カタログの小さな写真をコピーしたので、見にくい点はお許しあれ。
潜熱蓄熱材?
このPCMというのは、白い片栗粉のような粉。
粒子径が50μmというから微少。
そして中にはノルマルパラフィンガ入ってオリ、回りはマイクロカプセでコーティングされている。
そして融点は25℃。
このPCMパウダーを20%、石膏プラスターを80%の比率で、水でこねて石膏ボードの上に左官でコテ塗りをする。

このコテ塗りには2種類がある。
1つは、南面の部屋の外壁、内壁を問わずすべての石膏ボードの上に3mm厚のPCMパウダーと石膏プラスターの混合剤を塗る方法。
もう1つは、上のやり方にプラスして上下階20ヶ所ぐらいの3尺幅の壁に、下地として薄いベニアなどを張り、その細いポリプロピレンの通水ネットを垂らし、この上に12mm程度PCMパウダーと石膏プラスターの混合剤をコテ塗りして、石膏ボードの壁と面を平滑に揃えるハイブリッド方式。
このネットの中に冬期は温水を流し、夏期は地下水を流す。

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このやり方で100m2の住宅だと塗り壁面積が130m2程度で、材料費はPCMパウダーと石膏プラスターで55万円程度という。
そのほかに左官屋さんの塗り手間がかかる。
もし、塗り壁仕上げて考えていたのなら、塗り手間が余分にかかるわけではない。

さて、このPCMの融点が25℃ということは、それ以上だと熱を蓄熱し、25℃以下だと蓄熱した熱を放出してくれるのだと思う。
説明を聞いていた時はわかったつもりだったが、もらってきたカタログを見たらわからなくなってきた。
昨日、一昨日は休みで先生に連絡がとれない。
今日中に連絡をとって、もし間違っておれば訂正します。
それと、もう1つ分からないのが 「潜熱蓄熱方式」 という内容。
これも、宿題として残します。

さて、この2月の試験で平均45%の暖房エネルギーが削減出来たというのはハイブリッド方式で、薄く3mmを塗り回すというやり方だと20%程度の削減ではないかという。
いずれにしても生まれたばかりのシステム。
1月完成物件はいずれもハイブリッド式。これについてはあらゆるデータをとっている最中。
3mmについては、まだデータがとれる実物がないらしい。
ただ、既に札幌で2件、内地で2件の工事が内定しており、次第にデータが揃ってくるものと期待出来る。

いずれにしろ、ハイブリッド式だとRC造並みの蓄熱量があるというから、今後いろんな展開が考えられる。
大変に興味のある新商品の登場。
ただ、その原理が未だに良く分からない。
一度札幌を訪ねて、現場をみた上で、もっと詳細な報告を行いたいと考えます。

なお、ユーロハンズのサッシと90%の熱回収顕熱換気システムについては、別の機会に報告します。



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2010年03月07日

北海道発 高気密高断熱技術フェア in埼玉(上)



昨6日、大宮・共済ビルで「北海道発 高気密高断熱住宅技術フェア in埼玉」が午後1時から4時間半に亘って開催されたので参加してきた。

内容は、室工大鎌田先生の基調講演「高気密・高断熱住宅技術の温暖地への展開」が1時間15分間。
その後は、道住宅局の「北方型住宅エコ」を含めて協賛12社が各10分間ずつ自社商品を説明し、隣の会場で展示物を見ながら質疑応答を兼ねて商談をするというイベント。

私が参加した主目的は、ユーロハンズのサッシの進捗状況と仲間のビルダーの活躍状況を聞きたかったことと、鎌田先生の「温暖地対策」がどんなものかを一度おさらいしておきたかったから。
ところが、予想もしていなかった「木造住宅の簡易蓄熱体」の発表があり、大変に面白かった。
その辺りを、2回にわけて報告。

P1020410.JPG

まず、鎌田先生の基調講演。
これを、私流に消化した範囲で紹介すると、下記に。

私が室工大に赴任した当時の北海道はひどいものだった。
プラットフォーム工法のツーバィフォーでは、床で1、2階の壁が切れているが、古い木軸工法では、床下の空気が1階の壁から2階の壁に抜け、天井裏まで到達している。
たとえ5センチ厚の断熱材をいれても、効果は1センチ程度しかなく、しかも空気が流れているので激しい結露が生じる。
そこで私がやったこととは、技術的には「気流止め」を入れただけ。
ツーバィフォーの考えを木軸に応用したということ。
最近の内地では金物工法が普及し、ほとんどが剛床工法になってきているので気流止めの心配はほとんどなくなってきていると聞いているが、一部地域の古いプレカット工場ではまだ問題が残っている。

北海道ではQ1.0W住宅を展開している。
北方型エコ住宅は、換気を別でQ値が1.3Wという厳しい基準。
もし90%の熱回収換気装置を付けるとQ値は1.05W前後となり、私の提唱してきたQ1.0W
住宅とはほとんど変わらぬレベルになってきた。
これからは、北海道では北方型エコを推進してゆくことになろう。
そして、200万円の設置費用はかかるが、全館温水暖房を奨めている。
ラジエーターは全室に設けず、5〜6ヶ所。このため、必ずしも全館同じ温度とは限らない。
ラジエーターのある部屋は20〜22℃だが、18℃のところもある。
そして、夜は暖房を消して寝る。このため朝は16℃になるが、朝に温水をONにする。

北海道では、原則として冷房は入れない。
しかし、風通しを良くするために各室に開口部を2ヵ所設ければ良いというものではない。
熱帯夜の夏の夜は、ほとんど風がない。このため、窓をあけても決して涼しくなってくれない。

P1020416.JPG

つまり、上図のようにヨコへ風を流そうと思ってもうまくゆかない。
そうではなく、夜外気温度が低くなったら1階の窓を開ける。
そして、必ず居間などに吹き抜け空間を設け、2階の一番高い天井面に開口部を設け、そこから外へ吐き出すようにする。
つまり、室温が高い夏は、温度差で上下の空気の流れをつくって、家の中を涼しくする。

P1020413.JPG

この場合、1階の窓を開けておくと防犯上問題がある。
ドレーキップ窓が理想だが、PVCにしかなく、アルプラにはない。また、プロのカギ師だとドレーキップも開けられてしまう。
また、吹き抜けの最上部に、電動開閉の窓を付けるのにも工夫がいる。
ただ、台所換気扇は600m3だが、こうした上下の流れをつくれば、多いときは5000m3も流れるので、有効。
そして、朝になれば窓を閉める。
遮熱ガラスを使うのは東西面だけで、南面に庇を長くすることとスダレなどを用いて冬期のために遮熱ガラスは使わない。
また、換気はナショナルの安い全熱交を奨めている。

これらの新住協の技術を応用すれば、北海道の高気密・高断熱住宅技術は、十分に内地に展開することが出来る。


さて、ヨーロッパのように夏期が乾期の地域だと、鎌田理論は十分間に説得力を持っている。
しかし、高温多湿の関東以西の日本の夏には、温度だけを問題にしているこの種の理論は、一般の消費者に通用するかもしれないが、20年以上も苦労している私どもには通用しない。
温度は29℃でも30℃でも問題ない。
体調維持やガンなどに罹病しにくいことを考えると、室温は高い方がよい。
問題はどこまでも相対湿度。
如何に45%から40%にするかという闘い。
絶対湿度だと10g〜11g以下。

鎌田理論は、残念ながら関東以西ではそのままでは通用しない。
施主から大目玉を食らい、今までクレームので泣かされてきた。
その程度の技術で苦労しているのではないということを、理解して頂きたい。


posted by unohideo at 21:40| Comment(0) | シンポジウム・講演 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月15日

「グリーン・ニューディール」のセミナーに参加して

さる12日、エコプロダクツ2009のスペシャルプログラムとして、(社)産業環境管理協会と日経新聞共催のセミナーが開かれた。
テーマは 「本当のグリーン・ニューディールとは何か?」

今年の新年早々のNHKの特別番組で寺島実郎氏(三井物産総合研究所長、多摩大学学長)らが、オバマ大統領の 「グリーン・ニューディール政策」 について熱く語っていた。
再生可能な地熱、太陽光、風力、バイオマス、潮波、藻など新エネルギーへの投資だけでなく、送電システムを大々的に革新するスマート・グリッドや、風力や太陽光発電を電気自動車に蓄えて地域毎に使うスマート・メーターなど、ITを中心とする新しいイノベーションが語られていた。
グリーン・ニューディールには 「未来」 が感じられた。
「オバマ大統領は、とてつもないことをやりそうだ」 と。

ご案内のように、ニューディール政策というのは、1933年に世界大恐慌からアメリカを救うために、ルーズベルト大統領がとった景気回復と雇用促進を狙った積極果敢な財政出動政策。
100年に一度というリーマンショックからアメリカ経済を立ち直らせるには、かつてのような単なる財政出動だけではダメ。
CO2を削減させるためにグリーン産業に集中投資をする。
そして新しい産業を興して、経済をテーク・オフさせる。
つまり、今回はどこまでもグリーン・ニューディール政策でなければならない。
その実態が、どこまで進んでいるのか?

ところが、プレゼンテーターの報告によると、アメリカやヨーロッパではグリーン・ニューディールがそれほど進んでいないのかのような口振り。
もし、進んでいないとするならば、その原因は何なのかが知りたい。
主催者のミスジャッジで、プレゼンテーターの選出を間違えたのではないか。
それともプレゼンテーターの新しい情報蒐集能力が著しく不足していたせいではないか。
理由はよく分からないが、いずれにしろ内容は期待を裏切るものであった。
もっとも、無料のセミナーだったので大声で文句を言うわけにはゆかない。

アメリカやヨーロッパには、グリーン・ニューディールで日本に紹介されていない大きなイノベーションが進んでいるのは間違いない。
その実態がよく見えないだけなのだと思う。
有料でいいから、そうしたイノベーションの実態に詳しいプレゼンテーターによるセミナーを是非とも聞きたい、という強い願望が澱のように残った。
しかし、それなりの内容があったので、簡単に紹介したい。
ただ、撮影が禁止のため、顔写真も掲載出来ない。また、配布されたデータは無断転載禁止とあり、私の方で勝手に図面化させて頂いたことをお断りしておきます。

最初に、問題提起をされたのがアドバイザー役の東大の山本良一教授。地球の温暖化がどこまで悪化してきているかについて、10分ばかりの報告があった。
氏が2年前に書いた「温暖化地獄」(ダイヤモンド刊)は2007年10月25日の欄に 「これからの10年が勝負! 温暖化地獄へ転落か、踏み止まれるか!」 で紹介しているので、関心のある向きは参照いただきたい。
そして、翌年は 「温暖化地獄のパート2」 を出版されている。これはダブりが多かったので紹介しなかった。
そして、今年は 「残された時間」 が出版されている。これにはグリーン・ニューディール問題が多く取り上げられているので、むしろ今回はメイン・プレゼンテーターとして登場してもらった方が良かった。

氏が強調しているのは、世界のCO2の排出量がIPCCの一番高い予想を上回って進んでいるという恐ろしい現実。
このまま進めば、2℃温度が突破してリターン出来なくなる 「Point of No Return」 の時期が2032年5月12日から2040年7月28日までの間にくるという。
月日まで限定されているのがすごい。
あと20年から30年に迫っているということ。
遠い先の話ではなく、切羽つまった危機。
1990年比で2020年までに25%削減、2050年までに80%削減は、自分の子どもや孫のことを考えると避けて通ることの出来ない課題。

そして、今のペースのままでは、再生可能なエネルギーによる発電量は2030年までに20.7%にしかならないが、それを何としてでも40.2%にまで高める必要があるという。
国際エネルギー機関は、その40.2%の再生可能エネルギーの発電比率を下図のように予測している。(日立総研の図と表を手直したもの)

P1020107.JPG

続いて登壇したのは千葉商大の三橋規宏教授。
元日経ビジネスの編集長ということなので、ジャーナリストらしく足で稼いだ生の情報が聞けるのではないかと期待したが、具体的な事例はほとんどなかった。
やたらと文字だらけのスライドが続くので途中で飽きた。
氏が言わんとするのは、かつては経済成長とともに化石燃料の使用量が伸びた。
つまり、化石燃料依存型の経済社会だった。
これからは、経済は成長するけど化石燃料を減らしてゆく社会を創らねばならない。
経済成長イコール化石燃料の増大ではなく、両者を引き離すデカップリング政策が必要だと説く。
横文字を使っているだけで、特別目新しい思想でも何でもない。
そして下図のように、ヨーロッパ各国は1990年から2007年の17年間に経済成長を遂げるとともに低炭素社会を築き上げてきた。
先進国の中で、温暖化ガスの排出量を増大させているのはアメリカと日本だけ。

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この指摘は正しい。
しかし、なぜ日本は国際的に約束した6%の削減が果たせず、CO2の排出が増大しているのか。デカップリングが出来ていないかの原因に付いての言及がなかった。
ビル、学校、商店、病院など業務用と家庭用でのCO2の排出が増えていることに対して一言のメスも入らず、空虚な理論が延々と・・・。
そして、デカップリング現象を促進する政策は、(1)イノベーションであり、(2)制度設計であり、(3)自然再生、だと説く。
これも、当たり前の話。
聞きたいのは、ヨーロッパでどのようなイノベーションが起こり、どのような制度設計がなされたか。 そして自然再生は具体的にどのように進んでいるか、である。
ジャーナリスト出身であれば、徹底した取材が基本。取材なき者に発言権はない。

パネラーによる討論の後、司会者が「会場の皆さんの中で、どなたかご意見のある方はありませんか」 と言ったが誰も発言しない。
ストレスが溜まった私は、「山本先生にお願いしたいことがあります」 と、次のような発言をした。

日本のCO2削減が進んでいない根本原因は、国土交通省関係の業務用、家庭用のCO2削減が著しく遅れていることにある。
イノベーションということであれば、ヨーロッパで画期的なトリプルコーテングのガラスや省エネ給湯換気システムが開発されてきている。
サッシにしても日本はU値2.33Wが法律上最高値とされているのに対して、ヨーロッパでは日本の3倍の高性能を持つ0.8Wというサッシが、安く入手出来る。
日本の建築物の省エネ基準は、熱損失率は2.7Wのものを推奨しているだけだが、EUでは2011年から日本の1/4の0.7Wという性能値を持つことを新築住宅と新築建築物の全てに義務付けようとしている。
新築住宅や建築物だけではない。
EU各国はあらゆる建築物の省エネ性能の表示の義務化を始めている。いわゆる革新的な制度設計を行っている。
この義務化によって、例えば家賃が年80万円でも光熱費が20万円かかるアパートから、家賃が90万円でも光熱費が5万円のアパートへ人々が移っている。
このため、ヨーロッパではアパートを中心に断熱改修の一大ブームが起きている。
ところが、こうした肝心のイノベーションや制度設計情報が、日経のアーキテクチャーにしてもホームビルダーにしても伝えていない。
山本先生。この国土交通省がらみの分野へメスを入れて、もっともっと率先して頑張るように発破をかけてください。お願いします、と。

そして、最後に登場したのが上智大学環境貿易センター長の有村俊秀准教授。
ミネソタ大で博士号を取得しているが、それほどアメリカに情報網を持っているわけではないらしい。
提出されている資料は、どこでも手に入るもの。手島実郎のような、トップシークレットに近い情報がない。
アメリカでグリーン・ニューディールを語るにはIBMやGoogle の情報は欠かせない。
それと同程度に重要なのが元気なベンチャー群の情報。
有村氏のプレゼンテーションには、この2つが決定的に欠けていた。
これが、寺島実郎氏との違い。

氏はグリーン・ニューディール政策として以下の予算関係数字を挙げた。
◆再生可能・省エネルギー関連 130億ドル
・配電網の近代化と新たな送電施設 45億ドル
・革新的な技術ローン保証プログラム 60億ドル
・省エネと再生可能エネルギー研究促進 25億ドル
◆石炭産業関連  石炭のクリーン燃料化 34億ドル
◆自動車関連 13億ドル
・連邦政府保有車両のプログラム 3億ドル
・運輸部門の電化 4億ドル
・代替バス、トラックの促進策 3億ドル
・ディーゼル排ガス削減 3億ドル
◆住宅・ビルの省エネ関連 97.5
・連邦政府ビルの省エネ促進 45億ドル
・政府支援住宅の省エネ投資 2.5億ドル
・住宅の耐候化支援 50億ドル

そして、氏はアメリカではグリーン・ニューディールという言葉をほとんど聞かないと言った。
聞かれる言葉は、もっぱら 「グリーン・ジョブ」。
つまり、「ブルー・カラー」 が 「グリーン・カラー」 に商売替えをすることだと捉えられているという。
たしかに、そうした一面はあろう。しかし、氏の話の中にはワクワクするようなイノベーションの話が1つも出てこなかったのには納得出来かねる。
そして、最後にアメリカソーラーエネルギー協会のグリーン・ジョブの現況と将来の見通しの図をあげた。それを手直ししたのが下図。

P1020109.JPG

いずれにしろ、この程度の議論をトクトクとしているようでは、残念ながら日本のCO2削減のピッチは速まりそうにはない。


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2009年07月28日

ドイツ新築住宅の木造率は25%。池田氏から訂正メール


池田氏は、今日名古屋からドイツへ帰るとのこと。
時間がないので、とりあえずいくつかの訂正点をメールいただきましたので掲載いたします。細かい表などの数値の訂正は、後日となることをご了承下さい。

●ドイツの既存住宅の木造率は12〜15%。しかし最近の新築住宅における木造率は25%。

●ティッペライという3年間の職人の放浪の旅は、義務ではなく自主的なもの。

●私有林家が「林業共同体」への参加するのは義務ではなく自主参加性。しかし、参加した方がメリットが多いので、ほとんどが参加している。

●同じことで、森林官のサービスを受けるかどうかも私有林家の自由であって、義務ではない。しかし、これもメリットを考えて多くがサービスを受けている。

●ロングリーチというアームの長い機械は、浜松のイービジョン・エンジニアリングが開発したもの。

●太いタイヤなどは専門メーカーがある。林業機械メーカーは林業用のベースマシーンを中心に改良、改善を加えている。日本のように土木用のマシーンをベースにアタッチメントをつけたものではない。

●日吉町の湯浅さんとは懇意の仲。日吉町の団地化のシステムは、ドイツの森林官がやっていることとほぼ同じ。林業の原則は、世界共通なのだと痛感します。
ただ、計画的施業と路網づくりには、湯浅氏自身が感じているようだが、若干問題があると思います。
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2009年07月25日

ドイツの木材産業関連就業人口は自動車産業を上回る!



昨夜、飯田ウッドワークシステム社主催の「ドイツの木材チェーンの仕組みと現状」というセミナーがあったので、参加してきた。
報告者は日独コンサルタントの池田憲昭氏。
http://www.ikeda-info.de/

上のURLを開いてもらうと経歴が一目。岩手大を卒業後フライブルク大で森林環境学部を卒業し、そのままあまりの自然環境の良さにフライブルク市近郊の小さな町に居付いてしまった。現在は、ドイツ黒い森木材チェーン協会の広報を担当する一方、日本とドイツでコンサルタントを行っている。
氏が2年以上前に雑誌「山林」に書いていた「ドイツの黒い森の林業・木材産業事情」をたまたま読んで、単に山林の専門家ではなく、地場ビルダー事情と大工など専門職の教育システムにも比較的明るいということを知っていたので、喜んで参加させて頂いた。

話は、まず氏の専門の林業から。
林業に関するデータはきちんとしており、大変に参考になった。しかし、話の内容のレジメが配布されていなかったので、詳細を報告することは出来ない。
大まかにいうと、ドイツと日本は国土面積がほぼ同じ。そしてドイツの山林は30%に対して日本は65%。
しかし、山の蓄財、成長率とも日本はドイツの2/3。木材の伐採量に至っては1/5以下と極端に低い。
そして、ドイツではパルプを含めると木材の自給率は50%に過ぎないが、製材品だけで見ると100%を越えている。パルプ材はロシアをはじめ安い国から輸入しているということだが、製材品に関してはトウヒを中心に自国で賄っている。
とは言っても、時には北欧や日本からの輸入材も使う。しかし、それ以上に最近はヨーロッパ各国への輸出が増えてきているということ。一時はロシアからの輸入丸太の加工製材工場が栄えたことがあったが、丸太の質、納期、取引条件の勝手な変更などが続き、現在ではロシアをあてにせずほとんど自国で賄っている。
山林労働者の労働時間は日に8時間で、日給は福祉厚生費を含めて4200円に決められている。(1ユーロ140円換算)。手取りは2100円というところ。

ドイツの林業がこのように隆盛を極めてきたのは、林道の道路網の1960年代に進んだことと、高性能の林業機械の開発が進んで生産性が飛躍的に高まったからだという。
この林道というのは幅4〜5mで、一般的に100m間隔に設けられる。しかし、地形や使用する機械によって、林道の付け方や作業路の付け方が変わる。
この話は大変面白かったがあまりにも専門的すぎるので、省略させていただく。
ただ、この路網作りと大型機械の導入については、すでに一部だが日本でも実施されている。
今週の本音の2008年5月15日に「独力で大型機械を導入した先見性」ということで鶴岡市の加藤さんを紹介している。
続いて2008年5月20日付け「団地化と路網整備と地場ゼネコン」で、日吉町山林組合の湯浅氏の画期的な活動を紹介している。
これを読んでいただくと、山林を活性化させるには如何に路網の整備とプロセッサ、ハーベスタ、フォワーダ、タワーヤーダなどの大型機械の導入が必要であるかが分かる。
そして、小規模な私有林で管理されていない日本の山林を活性化するには、私有権を制限して団地化をすすめるしかないことを、日吉町の成功例が如実に物語っている。

面白かったのはドイツの山林用の機械メーカー。
日本のようなゼネコン用の大手機械メーカーが独占、ないしは寡占しているようなことはない。ほとんどが従業員数十人以下の小さなメーカーばかり。
これらのメーカーが、山林や木の根に負担がかからないような極太のタイヤを開発したり、タイヤの数を増やしたり、ロングリーチの機械を開発してより生産性が上がるように頑張ってくれている。
つまり、ドイツの山林用の高性能な機械の開発は、小さなメーカーのイノベーションにおんぶしているという。この指摘はうれしかった。

そして、池田氏の話で意外だったのは、ドイツでも山林所有者の圧倒的多数が1haとか2haという小規模地主であるという報告。
ただし、これらの小地主は「林業共同体」という組織に加入を義務付けられているようだ。そして、その林業共同体を完全に機能化させているのが、山林から経営のことまでを勉強して身につけ、森のことに関してはオールマイティの「森林官」の存在。
この森林官は、一定規模の森に配属されると、終身その森で勤めあげるという。そして、仕事の80%は現場歩き。
山の状態を、植林から伐採計画までを完全に把握し、製材工場と年間契約を結んで森全体として計画産出する。個々の山林地主は、その計画に従う。
こうした管理面のソフトが完備しているから、ドイツの森は生きている。

次は製材。
ただ、製材に関する説明が早すぎ、写された数字をメモできなかったので、かなりあやふやな点が多いのはお許しいただきたい。
ドイツには2465社(内針葉樹専業は1800社)の製材会社がある。
そのほとんどは南部に位置している。
そして、2000m3以下の規模の業者が2281社と圧倒的。大手と言えるのは至って少ない。
大工場というのは100キロ圏を商圏とし、30〜40cmの中径木を中心に製材しているという。その理由を聞くことが出来なかった。おそらく、集成材に加工しているのではなかろうか?

そして、中規模製材業者は50キロ圏、小規模製材業者は20〜30キロ圏を商圏として直にビルダーや家具屋さんと結びついている。
つまり、日本のような原木市場という存在や仲卸という商売はない。
林業共同体は地場の製材工場と年間契約し、中小の製材工場はビルダーや家具屋と直結している。こうした中小の製材工場は、すべてビルダーや家具屋からの受注生産。年間2棟とか数棟の注文を何社かのビルダーから集め、製材し、乾燥させ、場合によってはプレカット化して現場へジャストインタイムで納入する。
木材の山元価格(林道まで産出された価格)は7,000円〜12,000円/m3。これは日本とほとんど変わらない。
ところが、製材され、含水率15%±3%に乾燥された製材品(集成材だと10%±2%)の価格がドイツでは35,000円から40,000/m3という。日本の65,000円との大きな開きが出てくる。これは製材業者の生産性もあるが、原木市場とか仲卸という古い体質が、ビルダーと建築主の大きな負担になっていることが良くわかる。

次はビルダー。
この項目でも説明が早すぎて、住宅の構造にタッチしている事業所の数、及び人員構成比という肝心な点を書き取ることが出来なかった。ともかく木造住宅のビルダーは次第に増えてきて11,000社程度になっているはず。そして、従業員19人以下が約半分を占めていることだけはたしか。
後日、なんとか機会をつくって池田氏から聞き出したいと思うのだが、ビルダーの企業規模は平均して日本より大きく、新築住宅が減少している中でも元気なビルダーが多いように感じている。
元気なビルダーが多いのは、最近木造住宅の比率が15%程度までに伸びてきていることが大きい。

この最大の要因は、パッシブハウスに対する認識の高まり。
パッシブハウスが求めている高断熱を達成するには、駆体として木造が最適。
そして、木材関係者の努力で、火災保険料率が、石造やRC造と同じになったという背景も大きい。
それと、ドイツでは1999年を境に新築住宅よりもリフォーム需要が増加している。
RC造の中高層建築では、外断熱としてロックウールないしはEPSを100mm湿式工法で補修する断熱改修が圧倒的。
しかし、低層住宅では石造や木骨土壁造を改築する場合は、床や屋根まで変える例が多い。
石造やブロック造といっても、床と屋根は最低16cmの太い無垢材ないしは集成材が使われる。このため、石造であっても木材の使用量は15m3/m2と、日本の木造住宅の平均石数とは全く変わらないという。
日本の製材品の価格が、ドイツに比べて60〜85%も高いという現実が招いている現象と言わねばなるまい。

次は職人教育。
駆体大工さんと造作大工のマイスター制度の詳細を聞きたかったが、説明はなかった。
ただ、どの職人の場合でも3年間デュアル(二次元)教育を受けねばならないという。
この二次元教育とは、単に学校で机の前で勉強するだけでなく、ビルダーが職場を提供し、実務を教えるというシステム。
この実態も、もっと聞きたかったがタイムアップ。
そして、ドイツの大工の試験に合格したものは、さらに腕と社会性を身につけるために3年間放浪の修行の旅に出ることが義務づけられているという。
これはティッペライと言われる昔からの習慣。毎年600人が放浪の旅をしているという。
ともかく、自分の故郷から50キロ以上離れたところで修行をしなければならない。伝統的な仕事着をまとい、必ずヒッチハイクで移動しなければならないというのが決まり。
なぜヒッチハイクかというと、知らない人に対する作法とかコミュニケーションが学べるから。そして3年間の人にもまれる修行で、技術や技能以外の大切な産業人としての社会的な対応力が得られる。
これは、非常に面白い制度。

そして、最近になってドイツでは自動車産業界に携わる労働人口が75万人だけれども、木材無関連産業はそれよりもはるかに多い132万人であることが発表されたという。
内訳は、出版印刷の33万人はどこまでふくめたのかは分からないが、非常に興味のある数字。是非、日本の数字をまとめてもらいたい。そして、未来産業というとITとか新エネルギー産業しかないように考えている者が日本には多すぎる。
林業、製材業、農業に対する補助金行政をやめ、競争力を持った産業として育成してゆけば、林業家関連産業は自動車産業の2倍の産業規模になる可能性がある。(ただ、項目が抜けたらしく合計数字が合わない)
このことを教えてもらっただけでも大きな意義があった。
林業        10.0万人
製材業        4.1
家具        18.2
ビルダー      45.2
パルプ       14.0
出版印刷      33.0
木材流通       3.5
木材機械       4.5

最後に、ドイツでは林業を中心に、一般市民を巻き込んだ「木材チェーン」が生まれてきているという。
ということで秋川の木材協組、製材業、設計士と東大の信田准教授とのパネルディスカッションが行われたが、これを新宿の会場で行ったのは失敗。やるなら、青梅か八王子で、先進的な日吉町などの代表者を招き、地場のビルダー、消費者を含めてやるべき。
一般的に日本の林業家と製材業者は、施主やビルダーのニーズや考えを全くと言ってよいほど勉強していない。
タマホームが12cmの柱に4.5×12cmの間柱(材積は206と同一)で含水率は12%以下の乾燥材を供給していることも知らずに、地産地消を叫んで10.5cmの柱、3.0×10.5cmの間柱で含水率20%の強度の落ちるスギ材を提供し、「これを使え」と殿様商売。

ドイツでは、パッシブハウスの性能を担保できるということで木造に光が当たってきている。
ダイワハウスの外断熱に代表される鉄骨プレハブの致命的な欠点。
駆体からの大量のエネルギーロスを隠すために太陽光発電と燃料電池発電を搭載するという厚化粧で、消費者を騙そうとしている悪質な策動の数々。
これを打ち破る武器を木造で用意せずに、地産地消を叫ぶのは虚しい。
お互いに、もっとドイツの木材関連産業から学ぼうではありませんか。
posted by unohideo at 18:25| Comment(0) | シンポジウム・講演 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年03月30日

国交省が住宅のCO2表示制度を考慮中?

ハウスオブザイャー・イン・エレクトリックの表彰式のことは、10日前のネット・フォーラム欄ですでに触れた。
一番の疑問だった「なぜパナホームのエルソラーナが大賞に選ばれたのか」は、坂本先生の講評で簡単に氷解した。

賞は4つの視点で選ばれる。
(1) Q値を中心とした省エネ性
(2) トータル性とオリジナリティ
(3) 全体的なバランス
(4) 普及率とコストパフォーマンス

このうち、ポイントになるのは何と言っても(1)の省エネ性能。
パナホームのエルソラーナは、省エネ性能では今回の応募システムの中では2流。
しかし、03年に発売されて以来、過去5年半に1万戸を売ったと言うから(4)の実績ではダントツ。
下の写真は、横の席から撮ったもので大変に見にくい点をお断りする。
上の棒グラフが各社の(1)の省エネ性。
そして、下の棒グラフが(4)の普及戸数。



これを見せられたら、エルソラーナが大賞に選ばれた理由が納得。
と同時に、(1)の省エネ性能でQ値0.7Wのサンワホームが大賞に選ばれた理由も納得させられる。
ただ、同社の言う「無暖房住宅」という表現には、どうしても「誇大広告ではないか」との疑念がついて回る。
ハウスオブザイャー大賞を授賞したシステムが、誇大広告であったということになれば、折角のこの制度そのもの信頼性が損なわれることになりかねない。
何回も書くが、同社の「ハイパーエコシリーズ 0.7」は「無暖房機住宅」でもなければ「暖房費ゼロ住宅」でもない。「限りなく暖房費がゼロに近い住宅」にすぎない。
それなのに、消費者を欺くようなPRの数々と企業姿勢・・・。
くれぐれも自重されることを願いたい。

さて、この表彰式で面白い話が2つあった。
1つは経産省の渡邉宏窯業建材課長の祝辞。
「日本の住宅が本当に200年持つようなレベルになったら、年間の新築着工量は25万戸で十分だということになる。しかし、現存する約5000万戸を25年で断熱回収するということであれば、毎年200万戸の断熱改修工事が必要だということになる。ハウスオブザイャーは、新築住宅も大事だが、これからはハウスオブザイャー・イン・改修という面にも着目して欲しい」と。
ことさらに取り上げるだけの新規性に欠けるが、役所が耐震改修だけではなく、断熱改修工事にも触れたという点で評価したい。

ドイツには約4000万戸の既存の住宅がある。
これらの住宅の平均的な暖房エネルギー消費量は年間250kWh/m2という。
ドイツの今までの新築住宅の年間消費暖房エネルギー基準と、今後制定されるであろう基準は下記のようになるだろうとドイツの関係者は話している。
・1984年   150kWh/m2
・1995年   100kWh/m2
・2002年    70kWh/m2
・2009年    50kWh/m2
・2012年    35kWh/m2
・2020年    15kWh/m2

なぜドイツの例を出したかというと、(1) ドイツではこのところ数年毎に基準を厳しくしている。これに対して次世代省エネ住宅が施行されて10年たった今年は、本来改正されるはずなのにされなかった。
(2) ドイツの基準は義務化基準。
これに対して日本は2000m2という大型物件は届け出なければならない。だが、一般の住宅の場合は、次世代基準はあくまでも推奨基準であって義務基準ではない。今年も義務化が見送られた。

日本の住宅業界には2つの守旧派グループがある。
1つは鉄骨プレハブを中心とする大手の住宅メーカー。もう1つが全建総連。
国交省はこの2つに弱い。このため、今年の省エネ基準の改定と、最低線での義務化規定が見送られてしまった。情けないお話。

ドイツでは新築住宅の義務化基準を厳しく改正する一方、昨年から実施している住宅の消費エネルギー量表示の義務化「エネルギー・パス制度」の影響で、既築住宅の断熱改修がものすごい勢いで進んでいる。
とくに賃貸住宅では、年間燃費の表示が義務化された効果が大きい。
いままでは、勤務先への近遠とか家賃だけでアパートが選ばれていた。しかし、年間燃費が明らかにになったため、燃費を含めての家賃の比較が始まった。
当然のことながら暖房代が嵩むアパートは敬遠される。
このため、アパートの断熱改修ラッシュが起こった。
ほとんどがEPS、あるいはロックウール100mmによる外断熱での改修。
ついでに、サッシを高性能なものに変え、換気工事や太陽熱利用の給湯改修工事も行われている。国の断熱改修補助制度もある。
もちろん、戸建て持ち家の改修も行われているが、圧倒的に先行しているのが中高層のアパート建築。

渡邉課長の発言は、これらの実態をどれだけ理解しての発言だったかはさだかでない。
日本で、断熱改修をやるとすれば、最初に取り上げなければならないのが公営、公団の賃貸住宅。
こうしたRC造の断熱改修に最適なのがEPSとロックウールによる外断熱。
しかし、EPSは上階への類焼問題を完全に解決しなければならない。それこそ独立行政法人建築研究所の出番。だが、そういった動きが見られない。

もう1つの発言は坂本雄三先生。
当日は国交省の担当者が急用で出席できなかった。変わって坂本先生が省エネ基準改定のポイントを、講評とは別にサービス講演。
気密の基準がなくなったことには、一言も触れなかった。
それで良いのだと思う。
実際のところ、相当隙間面積が5cm2/m2などという基準は、全建総連のために設けられた基準。鉄骨プレハブ以外の普通の企業なら、黙っていても2cm2/m2は軽くクリアー出来る。
1cm2/m2の基準を設けるなら意味があるが、5cm2/m2の基準ならない方が良い。
そして、どうせ設けるなら国際基準で、50パスカルでの漏気回数とすべき。

そして、先生が強調したのは、大手分譲業者用に新設された省エネ基準の持つ意義。
ご案内のようにI、II地域の熱損失係数(Q値)は1.4W。夏季日射取得係数(μ値)は0.08。
III、IV、V地域のQ値は1.9W。μ値は0.07。

これから先はあくまでも私の推定。
坂本先生らは、今年の省エネ基準の改正をこの線で考えていたのだと思う。
そして、最低守らねばならない義務化基準として、1980年制定の通称「旧基準」を考えていたはず。
ところが、どこからどんな横槍が入ったのかはわからないが、強化予定の省エネ基準の改正は見送られてしまった。
その代用として登場してきたのが、大手分譲業者に対する基準の新設だったのではなかろうか。そして、この1.9Wという数字は、単に分譲住宅だけにとどまっていることはあり得ない。
当然、戸建てにも波及してゆく。
鉄骨プレハブが1.9Wを達成することは、容易なことではない。
しかし、この制度が発足したということは、早かれ遅かれ、鉄骨プレハブも次世代省エネ基準からの脱皮を迫られるということ。

「国交省は、この大手分譲業者用の基準の推移を見極め、一年がかりで分譲以外の戸建てへの応用も考えているようです」と坂本先生。
そして、つぎのように付け加えた。
「国交省は、大手分譲業者の分譲住宅のそれぞれの家に、CO2の排出量を表示することを考えている節がある。これはきちんとした数値が出されれば簡単に計算出来る。もし、分譲住宅にそのような表示制度が採用されるようになれば、これを戸建て住宅に応用することはいとも容易。そんなふうに進むかもしれません・・・」

さて、再び私の推論。
国交省も、EU各国で進んでいる住宅の燃費表示制度のことは知っているはず。
しかし、いきなりこの制度をドイツのようにドラスチックに打ち出すと、公庫や公団をはじめとしてアパートのオーナーから総スカンを喰う。
家賃保証とか入居保証をしている大手の住宅メーカーからの反撥は、想像を絶するものがある。
天下りにも影響が出てくる。
したがって、とりあえずは分譲から、しかも分かりづらいCO2表示で始めれば、環境問題として誰も反対は出来ないだろう。そして、徐々に戸建て需要にも及ぼしてゆく。
アパートへ波及させるのは最後にしたい。そうでないと、何よりも身内の公団が困ってしまう・・・。



上の写真は、応募システムの第一次エネルギーの測定結果。
SMASHを使えば、二次エネルギーの表示も、一次エネルギーの表示も簡単に出来る。
ギガジュール表示でなく、kWh/m2.aでの表示も問題ない。
そして、一次エネルギーが分かれば、電力会社ごとの変換表を用いてCO2の排出量を表示するのは簡単な作業。

私は当初、ドイツからエネルギー・パス制度をそっくり持ってこなければ、日本で燃費表示制度を軌道に乗せるのは難しいと考えていた。
しかし、一年ぐらいのズレは出そうだが、どうやらその必要はなさそう。
いや、絶対にそうであってほしい。
国交省さん。頑張って下さい。
posted by unohideo at 11:39| Comment(0) | シンポジウム・講演 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年03月05日

4月から施行される改正省エネ法の余りにも淋しい内容

省エネ法は、1980年から約10年間隔で、過去3回改正されてきた。
1980年のいわゆる、旧省エネ法。
1992年の通称、新省エネ法。
1999年の、次世代省エネ法。
そして、2009年の今年は、21世紀を見据えての改正があってしかるべき。
日本の常識ある人は、すべてがそう感じているはず。

ちょうど3ヶ月前の12月の初旬に、ネット・フォーラム欄にhiroさんから「国交省の第3回省エネ基準小委員会の配布資料がwebに掲載されている」との書き込みがあった。
早速開いて、全資料をプリントアウト。
なんと14項目を全部プリントしたら200枚にもおよぶ膨大さ。
こうなると一人でやっているSOHOの悲しさ。この200枚の資料を読み下すだけの能力が備わっていない。現役だったら関係者や懇意の記者を食事に誘って教えてもらうのだが、資料の多さに圧倒され、そのまま放置していた。
このため、改正省エネに対して、私は間違えた認識を持っていた。
その間違った認識でいろいろ発言してきたことを、まず深くお詫び致します。

3ヶ月前にwebに掲載された資料は、大きく分けて3つにわかれていた。
(1) 150戸以上を分譲している業者のための新しく設定する基準
(2) 2000u以上の建築物にあった届け出義務を2000u未満に改訂する告示
(3) 4月1日から次世代省エネ基準を部分的改訂する公示案

この中で、私どもビルダーにとって関心があったのは(1)と(3)。
(1)の大規模分譲業者用に新設される基準で目立った点が2点。
●Q値がT、U地域で1.4W。  V、W、X地域で1.9W。
●省エネ地域基準がT地域とW地域が細分化され、Ta、Tb、U、V、Wa、Wb、X、Yの8区分に分けられたこと。
これを読んで私の早とちりが始まった。
まず、品確法が改正されるであろうと考えた。
ご案内のように、現在の品確法の省エネ基準は4等級しかない。
次世代基準が4等級。新省エネ基準が3等級。旧省エネ基準が2等級。
いまどき2等級の基準が存在すること自体、国家の犯罪行為という以外にない。

いわゆる200年住宅。
200年も先の省エネ事情に対応するためにはかなり難しい制約があると考えるのが普通。ところが次世代省エネ基準の4等級をクリアーしておれば、200年住宅として認定される。
消費者の皆さんはどう考えられますか。
たしかに補助金などが得られて嬉しいが、次世代省エネ基準は東京だとQ値が2.7Wというみすぼらしい性能。そして、耐震基準も2等級。つまりギリギリの基準法の1.25倍のものでしかない。中越地震の震度7、2500ガルの直下型が襲ってくれば、倒壊しないまでもかなりの被害が避けられない性能。
こんな性能のものを200年住宅として認可されるのですから、国交省を信用して下さいと言われても素直に出来ない。

私は、耐震性は1.5倍の3等級を最低条件にすべきだと思う。
そして、省エネ基準は、新しく5等級を設けて、T、U地域のQ値が1.4W。V、W、X地域のQ値が1.9Wが設定されるのだろうと考えていた。そして、これが200年住宅の最低条件になると…。
今までの10年間隔の省エネ基準の改正を考えると、これが最低の改正案であるべき。
ところがですよ…。
分譲業者用の高い基準を新設しながら、国交省は品確法を変える考えは、なさそう。つまり、省エネ性能は等級4止まりで打ち切り。
国民の住宅をより良い方向へ誘導する政策作りが国交省の仕事のはず。それが、多分大手プレハブメーカーと全建総連の反対でネグレクトされたのだと邪推せざるをえない。

こうしたチンタラムードの中にあって、北海道の「北方型エコ」は突出している。
大手分譲業者用のT、U地域のQ値1.4Wを先取りしただけでなく、それを上回り、限りなくR-2000住宅に近い1.3Wを、北海道の省エネ住宅の最低基準として機能させようと頑張っている。
この動きをつぶさに見てきたので、このようなドラスティックな改訂意欲が、(3)の今回の改正省エネの中のどこかに含まれているのだろうと、ないものねだりの期待をしてきた。
だが、その期待は見事に裏切られた。
次世代省エネ基準は、その性能基準をただの1ヶ所も上げることなく、何ヶ所かの手抜き工事を奨励し、ご案内のとおり気密性能に付いての書き込みを抹殺してしまった。一口に言うと改悪しかやっていない。

改正省エネ基準のポイントについては、新建ハウジングの2月28日付けの4〜5ページにわたる特集記事が参考になる。
基準策定委員の一人である北総研の鈴木大隆氏のインタビュー記事が掲載されている。この記事を全面的に紹介したいのだが、同社のホームページに掲載されていないので、残念ながら勝手に紹介するわけにはゆかない。関心のある向きは、同日付の新聞のコピーなどを取り寄せて欲しい。

まず、「次世代省エネ基準の主な改正点」は以下。
(1) 冬期の日射取得と夏期の日射遮蔽の計算を簡便化した。
(2) 相当隙間面積(C値)の基準を削除した。
(3) 換気に関する規定を削除した。
(4) 熱貫流率(K値)を国際的なU値に変更した。
(5) ユニットバス回りと玄関回りの軽微な手抜き、およびオーバーハング床の軽微な手抜き工事をみとめた。

これと併行して「設計施工指針の主な改正点」は以下。
(1) 断熱する部位の緩和。
(2) 断熱・防露の施工基準の削除。
(3) 気密の施工基準の削除。
(4) 開口部断熱規定の合理化。
(5) 開口部日射遮蔽仕様の簡素化。
(6) 換気計画、暖冷房・給湯計画、通風計画の削除。

この中で、一番問題になるのはC値基準を何故外す必要があったかということ。
私は、寒冷地2cm2、それ以外の5cm2というC値基準というのは、どこまでも鉄骨プレハブメーカーと全建総連に対する妥協数値であって、世界的に恥ずかしい数値であり、全面的に改定すべきであると提唱してきた。
まず、10パスカルでのC値表現は世界に通用しない。やはり国際基準である50パスカルでの漏気回数に改めるべき。そして1.5回/hとか2.0回/hにすべき。最低でも3.0回/hにすることが、責任ある技術者の取るべき行動だと思う。
そういった指針値は絶対に必要。

ところが、鈴木氏は撤去した理由として「気密性を高める目的は@漏気の低減 A壁内気流の流れ抑制 B結露の防止 C換気計画の実効性の担保、と言う目的があるが、その目的から逸脱して各工法間のC値競争になっており、意味のないものになっていた」を上げている。
良心的なビルダーは、鈴木氏の上げた4点の目的を正しく遂行するため、命がけで施工精度を維持してきている。氏の言うような意味のない競争はやっているのではない。これは、ビルダーを愚弄した発言だと言いたい。
といっても、別に鈴木氏に糾弾しようというわけではない。ただ、こんな言い訳が世界の建築界に通用するだろうか。ヨーロッパや北米の学者が聞いたらあきれるのではなかろうか。説得力を持つものとはお世辞にも言えない。

P1000956.JPG

「気密の書き込みが無くなったから、気密性がどうなっても良いといっているわけではない。気密工事の重要性は今までどおり大切だ」と、昨日のセミナーで支援機構の河田氏も強調していた。
ただ、「画一的な規制基準が、基準の簡素化・合理化によってなくなった」と理解すべきであり、「省エネ性能の実現・内部結露の防止・計画換気実現のために仕様書などを参考にして、高い気密性確保のために丁寧な施工が望まれる」と声を大にしていた。
また、等級4の適合を得るためには、防露対策として品確法で規定されることになっており、改訂省エネ基準から気密性が削除されたからといっても、気密性は幾重にも担保されていると弁護していた。

しかし、気密性が削除されたので、かつてあった乾燥材の使用規定がなくなっている。
そのほか、温熱関係の研究者だけで制度を作っており、日本の木質構造が間違った方向へ誘導されているという気がしてならない。
杉山英男先生のように林産と木質構造と建築に精通した研究者が居なくなった。
杉山先生が生きておられ、改正省エネ法を読まれたら、おそらく長嘆息されることは間違いない。
単に温熱環境の研究者だけでなく、木質構造の研究者や、金物工法で実績を上げてきている民間の技術者を巻き込んで、次世代の次の省エネ基準に合致する素晴らしい木構造建築を創造してほしいと、心の底から願望したい。
posted by unohideo at 13:15| Comment(0) | シンポジウム・講演 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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