ごく最近、秋田憲司著 「完全無添加住宅の作り方」 (東京書店刊 税込1000円) を読んだ。
化学物質過敏症の患者にとっては、この本は朗報。
私も、著者の努力を高く評価する。
しかし、この本の内容に全て賛同かと言われれば、そうはゆかない。
賛同する点よりも、むしろ反駁しなければならない点が多すぎる。
なかでも、著者は科学者でも研究家でもないのに、データをきちんと示さずに、個人的な独断を堂々と並べ続ける。
読んでいるうちに、投げ出したくなってしまった。
この著に関しては、後ほど 「独善的な書評欄」 で簡単に取り上げたい。
この著に限らず、最近読んだ古い日本の木造建築に関する数冊の著書でも、耐震性や防火性という基本性能で誤った記述をしているものがあまりにも多い。
そういった点については、すでに何回となく触れているので省かせていただくが、気密性に関しては今まで正確に触れたことがなかった。
したがって、今回は古い木造建築の気密性に絞って考えてみたい。
日本の建築界で、古い木構造の気密性について最初に触れられたのが明治大学建築学科の清水一先生であった。
それは今から40数年前。
何という著書名かは失念したが、書かれていた内容は今でもはっきり覚えている。
「日本の古い数寄屋造においては、木と壁の部分に隙間が生じないように、細心の注意を払って工事をしています。木に溝を掘って繊維を埋めてから木舞いを組み、土壁を木に沿うように塗っています。それほどまでして造った名匠の数寄屋であっても、冬期の過乾燥で木材は収縮し、壁との間に隙間が生じます。その隙間を集めると、30センチ角の穴が2つ空いている勘定になります。数寄屋建築における最大の欠点は、この隙間の大きさにあります」
今から10年ほど前にこのことを書いたら、坂本雄三先生から 「清水一先生などの名は聞いたことがない」 と一蹴された。しかし、日本の木造建築における気密性の研究における草分け的な存在者は、間違いなく清水先生。
(30cm×30cm)×2=1800cm2
仮に数寄屋造の広さが100m2だったとします。
とすると、この数寄屋造の相当隙間面積は18cm2/m2ということになります。
R-2000住宅の基準の20倍、ドイツのパッシブハウスの基準の60倍もの隙間があることになります。
この隙間だらけの家こそが、長年日本人の苦痛の種であり、日本の木構造の泣き所の一つであった。
克服すべき最大の課題でした。
隙間相当面積が18cm2/m2という住宅は、「内外の温度差がゼロの家」 と言っても過言ではありません。
つまり、外気が0℃なら室内も0℃。
そして、昔の日本の家庭用暖房としては、ヒバチ、コタツ、イロリしかありません。
この中で、イロリは薪をくべている時は、火が当たる面だけは暖かいが、それ以外は外気とほぼ同じ。
昔の小説や記録本を読むと、「朝眼が覚めると、布団の上に雪の結晶が落ちていたことがある」 とか 「台所の水ガメには必ず氷が張っていた」 などという記述にぶつかる。
これは決して大げさな表現ではなく、半世紀前までの日本の住宅は全てこのようなレベルだったのです。
あのフランク・ロイド・ライト。
有名な 「有機建築」 の中で、日本の木造建築に感動し、広く紹介してくれていますが、日本の住宅の冬の寒さには音を上げています。
帝国ホテルの設計をしている時、大倉喜八郎邸に招かれ、19皿にもおよぶフルコースを自宅でご馳走になっています。
しかし、暖房としてはヒバチしかない。このため、あまりの寒さに食欲がなく、ほとんど手をつけられなかった。
「日本人は、なんと寒さに強いのだろう」 と心から感心したが、後でラクダのモモヒキをはき、長袖のシャツを着て、その上に何枚もの着物を併せ着しているからだと知り、
住宅の気密性の悪さに呆れている。
昔は 「着膨れ」 という言葉があった。
ラクダのモモヒキを穿き、ドテラを着て、家の中でも首にエリマキを巻き、ハゲ頭には防寒帽をかぶって生活していた。
気密性が悪くて、内外の温度差ゼロの住宅では、コタツから抜け出すことが出来なかった。
内外の温度差ゼロの住宅は、家の中の水は凍ることはあっても、窓や外壁内部に結露が生じるということはなかった。
そして、このような日本の生活に革命の兆しが出てきたのが、1964年に開催された東京オリンピック前後から。
まず、最初に登場したのがアルミサッシ。
ついで、石油ストーブ。
それまでは月に2万窓しか売れていなかったアルミサッシが、月に100万窓の大台を突破したのがオリンピックの年。
木製の建具の値上がりとサッシの量産効果で価格が下がり、相対的にアルミサッシが安くなったから。
そして、気密性の良いアルミサッシが、日本の木造住宅から隙間風を大幅に減らしてくれた。人々にとって、救いの神となった。
同時に、石炭から石油への燃料革命が同時進行して、全ての家に石油ストーブやガスストーブが入ってきた。
気密性の良い部屋での石油やガスの燃焼は、二酸化ガス中毒の危険と、アルミサッシの窓に結露をもたらした。
この結露が、サッシだけなら問題が少なかった。
40年近く前から、北海道で壁の内部結露や、床下でのなみだ茸の発生が大問題となってきた。
壁内結露問題は、現時点では理論的に問題は解消している。
必要な資材と技術が開発されてきている。
いまどき壁内結露を起こすような業者は、消費者から相手にしてもらえない。
だが、窓の結露問題は、未だに全国的にある。
家庭よりも高層ビルなどの方がひどい。
高齢化ということで、これからは夏期の29℃とか30℃での高温低湿での効率のよい空調換気システムが求められる。
そして、冬期はインフルエンザウィルスを家庭や職場から追放してゆくには、相対湿度50%という加湿性能が求められる。
その相対湿度50%で結露しない開口部というと、東京でU値が1.0W、寒冷地では0.7W以上のものが求められてくる。
これに対する産業界側の対応が遅れている。
そして、これからの省エネ化の中で、気密性能はますますシビアーになってゆく。
鉄骨プレハブのように2cm2/m2がやっとだという住宅は、排除してゆくべき。
最低で0.5cm2/m2という時代が、すぐそこまできている。
こういった基本を踏まえていない住宅論議は、意味がない。
正直言って、つまらない。