外断熱推進会のプロジェクト・横浜パッシブハウスが完成し、さる10月29日(金)にプロ対象のセミナーが行われたので参加してきました。
なお、翌30日(土)と31日(日)は一般客対象の完成見学会が・・・。
場所は横浜市金沢区で、京急・金沢文庫駅より海寄りにかなり離れた閑静な高級住宅地。
横浜の北部や中心部は何度も仕事で訪れているが、金沢区は初めて。
このため、一つ手前の能見台駅で降りて家並みを鑑賞しながら歩いたら、グーグルのマップが間違っていて、迷子に。
ごく近くの住人に聞いたが200メートル先の街区と番地をご存じない。
このため、大きく回り道をしたのでセミナーには間に合わなかった。
受付で資料をもらったので、必要な事項はすべて記載されているだろうと安易に考え、基本的な質問をしなかったのが大失敗。
したがって、今回の記述内容には推測が混じっていて、正確さを欠いています。
その一切の責任は私に・・・。
そして、主催者側から適切な指摘があれば、すぐに訂正することを大前提にしていることを勘案して読んでください。
このK邸は建て替え。
建築面積の記述がどの資料にも、ネット上にも見当てたらない。真ん中に8帖程度の吹き抜けがあったから、推定延面積は40坪弱?
そして、当日はカメラの調子が悪く、上の写真のように外観も上手く写っていない。このため主要な仕様もはっきりしない。実に情けない完成現場報告書に・・・。
このK邸が「パッシブハウス」と高らかに呼称しているのは、外皮の断熱性能、サッシの熱貫流率、換気の熱回収率が高いから。
資料には、「外壁のU値が0.15W以下」 とある。これは「以上」の間違い。
パッシブハウス研究所の、「外皮のすべてのU値は0.15W以上の性能であるべし」 という約束事を厳守しています、と言いたいわけ。
206の外壁に高性能グラスウールを140ミリ充填し、合板の外側に熱伝導率が0.019Wというフェノバボード50ミリが施工されている。
この50ミリのフェノバボードが0.15Wの熱貫流率を達成させている。
帰って手計算をしてみました。
そしたら、断熱材だけの部分では0.152Wとなった。四捨五入で0.15Wと言うのは間違ってはいない。
しかし、これはどこまでも断熱材だけの部分。
市販されているツーバィフォー用の熱計算ソフトでは、一般的に外壁に占める断熱部分の比率は77%で、スタッドの部分が20%、マグサ部分が3%となっている。
この外に、2階床根太の床間も別途に計算する。
床間は別として、このK邸の外壁のU値は、私の手計算では0.166Wとなった。
パッシブハウスの基準を10%上回っている。
推進協の事務屋さんが、そういったことを知らずに断熱部分だけの数字を表示したのなら許される。しかし、建築舎というれっきとしたプロが後ろに控えているのだから、お粗末と言いたくなる。
それに売り出し中のドイツのエンジニアもこのプロジェクトに加わっているはず。
それなのに、「壁の目標U値は0.15W/u・K以下」 と表現した資料を配布していたのは、どうしても感心出来ません。
もしかして私の聞き間違いで、フェノバボード厚が60ミリだったとしたら・・・。
その場合は、心からお詫び申し上げます。
外壁の数値が、多少パッシブハウス研究所の基準を下回っていたとしても、それはそれほど重要な問題ではない。
要は、全体の熱損失係数がどうであったのか。
また、実測の気密性能は50パスカルで何回転であったのか。
完成した以上は、目標値ではなくルールに従って実測値を表示すべき。
そうでないと、プロがやった仕事とは言えない。
きちんとしたデータの裏付を用意せずに、「これぞドイツ正統派のパッシブハウスだ」 と言われても、アマノジャクの私は信用しない。
もしジャーナリストが、K邸の熱負荷計算書も確かめずに、事務局の「目標性能値」を盲信して、「横浜パッシブハウスのQ値は0.7Wである」 と書いたとしたら、これは大げさに言えば犯罪行為。消費者から見れば共犯者・・・。
是非とも、完成時の正しい数値を公開していただきたい。
さて、このK邸に限らず、10月25日付の道住宅通信によると、札幌・南あいの里プロジェクトで、フェノバボードの採用を標準仕様にしたいとの記事が出ています。
充填断熱材として100ミリのグラスウールを用い、その外側に90ミリのフェノバボードを施工するというもの。フェノバボードを採用することで、グラスウール換算で300ミリの断熱厚を確保しようというもの。
そして、この外壁のU値は0.14Wと表示している。(木軸なので数値の正否は細かく検討していないが、ほぼ妥当と考えられます)
このフェノバボードに限らず、繊維系の充填断熱材だけで断熱性能が不足する時、ネオマフォームなどを外断熱として加えている例をあちこちで目撃しました。石膏ボードの下にベバーバリアを入れた仕様にプラスして・・・。
この場合、ベバーバリアから壁内に漏れた湿気は外側へ逃げられない。
長期的に見て、壁体内部での結露の懸念が高い。
札幌の南あいの里プロジェクトでは、この問題をどう解決しようとしているのかを、建築コンサルタントのタギ氏に確かめてもらうよう依頼中。
なにしろ0.019Wという熱伝導率に惹かれて、安易なプラス外断熱を考える業者が続出してくることが考えられるから。このため結露問題がことのほか心配に・・・。
そういった点、K邸ではベバーバリアにインテロを採用しているので、内部結露の懸念を払拭しているのは見事。
ただ、森みわ女史の鎌倉パッシブハウスを真似て、インテロを施工したあと内側に胴縁を入れ、そのスペースを配線空間としているのには疑問符がつく。
ヨーロッパでは、住空間はあくまでも内径寸法で売買されている。
壁をフカせばフカスほど、ビルダーの負担となる。
ところが、日本ではあくまでも家の広さの表示は構造芯。
ただ、外壁が206の場合は、内側より45ミリのところを芯として施工している例が多く、消費者にとって実害はない。
ただし、25ミリないしは30ミリの配線スペースを外壁にとると、その分だけ生活スペースが狭くなる。
下の写真で分かるように、壁が内側に大きくフケてくる。
とくに階段室では大問題・・・。
次はサッシ。
サッシのU値は飯田ウッドワークの計算値は0.834W。
計算値というのは頷けないが、北総研をはじめとして日本の試験機関では1.0W以上の性能を測定する装置を持っていないから、とのこと。
このサッシはトリプルガラスで3-16-3-16-3。
型枠を新規に作る必要があるアルミやPVCと違って、ウッドサッシの場合はガラスの厚はかなり自在。
ただ、アルゴンガスが両方に入っているかどうか、またLow-Eの塗布は片面か両面かという肝心な点を聞くのを忘れた。
ついでの折に聞いておきます。
このサッシは北海道のトドマツを使っていて節がやたらと目立つ。
そして、外側にはアルミクラッド。
このサッシの特徴は、木の熱伝導率を少なくするため、間に木よりも5倍近く熱伝導率の少ないフェノール樹脂板を挟みこんだこと。
そして、写真に撮るのを忘れたが、一本引きの中央の縦框の太さに至ってはなんと9センチ角ほどもあるのにはびっくり。当然ステンレス製の下レール幅も信じられないほどの大きさ。
かと思えば、上の写真のように、2階の主寝室では開閉する部分は大きな框が見えるが、嵌め殺しの部分は熱橋になる木を出来るだけ避けて、性能のよいガラスでカーテンウォールのように収める手法を採用している。
これはなかなかのアイデア。
しかし、単刀直入に言うならば、「これはサッシではなくて単なる木製建具」。
押し縁を抑えるボルトがやたらと気になるし、色も馴染めない。
カントリーハウスなどに特化すれば問題はないが、都会的なセンスが求められる住宅への採用は、ほぼ不可能と言えよう。
つまり、まだまだ「製品」の段階で、「商品」にはなっていない。
最後は熱回収型換気。
この欄でも紹介した「インヴェンター」。
K邸では6ヶ所に取り付けられていた。音が予想以上に静か。
しかし、70秒ごとに給気と排気に変わるのだが、それで空気の流れは本当に全館でスムーズに行われているのか。
加湿はまあまあにしても、除湿の効果が本当に期待できるのか。
主寝室では、実質27.2m3の機械1台で本当に良いのか。
各室に大きな穴をあけることによる外部騒音対策は大丈夫か。
浴室やトイレはどう考えた方がよいのか。
こういった疑問符に対して、現時点ではデータ的に解明されていない。
セラミック蓄熱というアイデアは高く評価したい。そして、リフォームなどでは重宝されると思う。
つまり、第3種換気に比べ、その省エネ性能は非常に高い。
しかし、第3種換気が持っていた家の中の系統的な空気の流れ、とくにダーディゾーンからの排気というメリットが、このシステムにはない。
まして優れた第1種に比べると、問題点が目に付く。とくに除湿が主体になる日本では、価格面から考えてもまだまだ未完成品と言えよう。
そして、パッシブハウス研究所が、この製品を正式に認知しているのだろうか・・・。
そして、K邸そのものの魅力。
これは、施主の意向・希望や価格の問題が絡んでいるので、第三者としてはうかつな発言は慎まなければならない。
だが、関係者に聞いたところでは、「坪単価は80万円程度ではないか」 とのこと。
性能面はそれなりに満たしているが、住宅全体としての完成度はまだまだ。
これだったら、「借金を質に置いても住みたい」 という気が、残念ながら起こらなかった。