2010年11月05日

横浜パッシブハウス  性能面はまあまあだが、完成度は低い。


外断熱推進会のプロジェクト・横浜パッシブハウスが完成し、さる10月29日(金)にプロ対象のセミナーが行われたので参加してきました。
なお、翌30日(土)と31日(日)は一般客対象の完成見学会が・・・。
場所は横浜市金沢区で、京急・金沢文庫駅より海寄りにかなり離れた閑静な高級住宅地。
横浜の北部や中心部は何度も仕事で訪れているが、金沢区は初めて。
このため、一つ手前の能見台駅で降りて家並みを鑑賞しながら歩いたら、グーグルのマップが間違っていて、迷子に。
ごく近くの住人に聞いたが200メートル先の街区と番地をご存じない。

このため、大きく回り道をしたのでセミナーには間に合わなかった。
受付で資料をもらったので、必要な事項はすべて記載されているだろうと安易に考え、基本的な質問をしなかったのが大失敗。
したがって、今回の記述内容には推測が混じっていて、正確さを欠いています。
その一切の責任は私に・・・。
そして、主催者側から適切な指摘があれば、すぐに訂正することを大前提にしていることを勘案して読んでください。

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このK邸は建て替え。
建築面積の記述がどの資料にも、ネット上にも見当てたらない。真ん中に8帖程度の吹き抜けがあったから、推定延面積は40坪弱?
そして、当日はカメラの調子が悪く、上の写真のように外観も上手く写っていない。このため主要な仕様もはっきりしない。実に情けない完成現場報告書に・・・。

このK邸が「パッシブハウス」と高らかに呼称しているのは、外皮の断熱性能、サッシの熱貫流率、換気の熱回収率が高いから。
資料には、「外壁のU値が0.15W以下」 とある。これは「以上」の間違い。
パッシブハウス研究所の、「外皮のすべてのU値は0.15W以上の性能であるべし」 という約束事を厳守しています、と言いたいわけ。
206の外壁に高性能グラスウールを140ミリ充填し、合板の外側に熱伝導率が0.019Wというフェノバボード50ミリが施工されている。
この50ミリのフェノバボードが0.15Wの熱貫流率を達成させている。

帰って手計算をしてみました。
そしたら、断熱材だけの部分では0.152Wとなった。四捨五入で0.15Wと言うのは間違ってはいない。
しかし、これはどこまでも断熱材だけの部分。
市販されているツーバィフォー用の熱計算ソフトでは、一般的に外壁に占める断熱部分の比率は77%で、スタッドの部分が20%、マグサ部分が3%となっている。
この外に、2階床根太の床間も別途に計算する。

床間は別として、このK邸の外壁のU値は、私の手計算では0.166Wとなった。
パッシブハウスの基準を10%上回っている。
推進協の事務屋さんが、そういったことを知らずに断熱部分だけの数字を表示したのなら許される。しかし、建築舎というれっきとしたプロが後ろに控えているのだから、お粗末と言いたくなる。
それに売り出し中のドイツのエンジニアもこのプロジェクトに加わっているはず。
それなのに、「壁の目標U値は0.15W/u・K以下」 と表現した資料を配布していたのは、どうしても感心出来ません。
もしかして私の聞き間違いで、フェノバボード厚が60ミリだったとしたら・・・。
その場合は、心からお詫び申し上げます。

外壁の数値が、多少パッシブハウス研究所の基準を下回っていたとしても、それはそれほど重要な問題ではない。
要は、全体の熱損失係数がどうであったのか。
また、実測の気密性能は50パスカルで何回転であったのか。
完成した以上は、目標値ではなくルールに従って実測値を表示すべき。
そうでないと、プロがやった仕事とは言えない。
きちんとしたデータの裏付を用意せずに、「これぞドイツ正統派のパッシブハウスだ」 と言われても、アマノジャクの私は信用しない。
もしジャーナリストが、K邸の熱負荷計算書も確かめずに、事務局の「目標性能値」を盲信して、「横浜パッシブハウスのQ値は0.7Wである」 と書いたとしたら、これは大げさに言えば犯罪行為。消費者から見れば共犯者・・・。
是非とも、完成時の正しい数値を公開していただきたい。

さて、このK邸に限らず、10月25日付の道住宅通信によると、札幌・南あいの里プロジェクトで、フェノバボードの採用を標準仕様にしたいとの記事が出ています。
充填断熱材として100ミリのグラスウールを用い、その外側に90ミリのフェノバボードを施工するというもの。フェノバボードを採用することで、グラスウール換算で300ミリの断熱厚を確保しようというもの。
そして、この外壁のU値は0.14Wと表示している。(木軸なので数値の正否は細かく検討していないが、ほぼ妥当と考えられます)

このフェノバボードに限らず、繊維系の充填断熱材だけで断熱性能が不足する時、ネオマフォームなどを外断熱として加えている例をあちこちで目撃しました。石膏ボードの下にベバーバリアを入れた仕様にプラスして・・・。
この場合、ベバーバリアから壁内に漏れた湿気は外側へ逃げられない。
長期的に見て、壁体内部での結露の懸念が高い。
札幌の南あいの里プロジェクトでは、この問題をどう解決しようとしているのかを、建築コンサルタントのタギ氏に確かめてもらうよう依頼中。
なにしろ0.019Wという熱伝導率に惹かれて、安易なプラス外断熱を考える業者が続出してくることが考えられるから。このため結露問題がことのほか心配に・・・。

そういった点、K邸ではベバーバリアにインテロを採用しているので、内部結露の懸念を払拭しているのは見事。
ただ、森みわ女史の鎌倉パッシブハウスを真似て、インテロを施工したあと内側に胴縁を入れ、そのスペースを配線空間としているのには疑問符がつく。
ヨーロッパでは、住空間はあくまでも内径寸法で売買されている。
壁をフカせばフカスほど、ビルダーの負担となる。
ところが、日本ではあくまでも家の広さの表示は構造芯。
ただ、外壁が206の場合は、内側より45ミリのところを芯として施工している例が多く、消費者にとって実害はない。
ただし、25ミリないしは30ミリの配線スペースを外壁にとると、その分だけ生活スペースが狭くなる。
下の写真で分かるように、壁が内側に大きくフケてくる。
とくに階段室では大問題・・・。

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次はサッシ。
サッシのU値は飯田ウッドワークの計算値は0.834W。
計算値というのは頷けないが、北総研をはじめとして日本の試験機関では1.0W以上の性能を測定する装置を持っていないから、とのこと。
このサッシはトリプルガラスで3-16-3-16-3。
型枠を新規に作る必要があるアルミやPVCと違って、ウッドサッシの場合はガラスの厚はかなり自在。
ただ、アルゴンガスが両方に入っているかどうか、またLow-Eの塗布は片面か両面かという肝心な点を聞くのを忘れた。
ついでの折に聞いておきます。

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このサッシは北海道のトドマツを使っていて節がやたらと目立つ。
そして、外側にはアルミクラッド。
このサッシの特徴は、木の熱伝導率を少なくするため、間に木よりも5倍近く熱伝導率の少ないフェノール樹脂板を挟みこんだこと。
そして、写真に撮るのを忘れたが、一本引きの中央の縦框の太さに至ってはなんと9センチ角ほどもあるのにはびっくり。当然ステンレス製の下レール幅も信じられないほどの大きさ。

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かと思えば、上の写真のように、2階の主寝室では開閉する部分は大きな框が見えるが、嵌め殺しの部分は熱橋になる木を出来るだけ避けて、性能のよいガラスでカーテンウォールのように収める手法を採用している。
これはなかなかのアイデア。
しかし、単刀直入に言うならば、「これはサッシではなくて単なる木製建具」。
押し縁を抑えるボルトがやたらと気になるし、色も馴染めない。
カントリーハウスなどに特化すれば問題はないが、都会的なセンスが求められる住宅への採用は、ほぼ不可能と言えよう。
つまり、まだまだ「製品」の段階で、「商品」にはなっていない。

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最後は熱回収型換気。
この欄でも紹介した「インヴェンター」。
K邸では6ヶ所に取り付けられていた。音が予想以上に静か。
しかし、70秒ごとに給気と排気に変わるのだが、それで空気の流れは本当に全館でスムーズに行われているのか。
加湿はまあまあにしても、除湿の効果が本当に期待できるのか。
主寝室では、実質27.2m3の機械1台で本当に良いのか。
各室に大きな穴をあけることによる外部騒音対策は大丈夫か。
浴室やトイレはどう考えた方がよいのか。
こういった疑問符に対して、現時点ではデータ的に解明されていない。
セラミック蓄熱というアイデアは高く評価したい。そして、リフォームなどでは重宝されると思う。
つまり、第3種換気に比べ、その省エネ性能は非常に高い。
しかし、第3種換気が持っていた家の中の系統的な空気の流れ、とくにダーディゾーンからの排気というメリットが、このシステムにはない。
まして優れた第1種に比べると、問題点が目に付く。とくに除湿が主体になる日本では、価格面から考えてもまだまだ未完成品と言えよう。
そして、パッシブハウス研究所が、この製品を正式に認知しているのだろうか・・・。

そして、K邸そのものの魅力。
これは、施主の意向・希望や価格の問題が絡んでいるので、第三者としてはうかつな発言は慎まなければならない。
だが、関係者に聞いたところでは、「坪単価は80万円程度ではないか」 とのこと。

性能面はそれなりに満たしているが、住宅全体としての完成度はまだまだ。
これだったら、「借金を質に置いても住みたい」 という気が、残念ながら起こらなかった。



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2010年10月20日

釧路に完成した坪55万円  206でQ値0.74Wの家 (下)


前回まで、O邸の性能や機能について触れてきた。
今回は使用建材やデザインについて見てゆきたい。

ご案内のように、北海道では内地以上にシンプル・モダンがブーム。
以前から無落雪建築が多かったということもあって、陸屋根は珍しくない。
ハイムのユニット住宅の以前から、箱型住宅が根付いていた。
そして、道東の帯広や釧路あたりでも、コストの問題もあってシンプル・モダンが幅をきかせてきている。

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その中にあって何社かのビルダーは、未だに勾配屋根の美しさにどこまでもこだわっている。
広岡建設もその中の1社。
急勾配屋根で、屋根材はガルバニウム鋼板に石を吹きつけたアドリアット。
地震が多い道東では、軽量屋根材が耐震面でのポイントの一つ。
ツーバィフォー住宅の普及率が50%を超えている地域だけのことはある。
外壁はサイディングの冷たさを嫌って、テラコートの塗り壁仕上げ。
これが同社の特徴。

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そして、内装面で注目されるのが、ほとんどの木部をパイン材で仕上げたこと。
もちろん、フロアー材としてパインは堅さが不足。当然のことながら傷がつく。
しかし、カントリー調でコーデネイトされた住宅にとっては、20ミリの無垢材に付く傷は、ある意味では勲章。
その節だらけのパイン材がソフトさを呼んで、癒しの空間をつくっている。
据え付けられる家具もパイン製。

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そして、2階の床も、手すりもパイン。

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システムキッチンもパイン。
ついでに全ての家具もパインにしたいところだが、使われていた古い家具をすべて捨てるわけにはゆかない。
当初はぎこちないが、やがてカントリー調に馴染んでくるだろう。

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そして、広岡建設の最大の特徴は内壁の仕上げにある。
全てマルチコンパンドという塗り壁仕上げ。
アメリカでは、ドライウォール工法の下地材として使われている素材。
この素材をそのまま使う場合もあるが、ワラや珪藻土を混ぜて施工すると、それこそカントリー調の味がひときわ冴えてくる。
とりわけ、手塗りのコテ跡が嬉しい。
また、鉄製の装飾金物と照明が、この雰囲気をいやが上にも盛りあげている。

ただ、私はこのコンパンドを使ったことがないので、そのメンテナンス性については不明。
広岡社長によると、「吉野のものを使うとヒビが入るということを聞いたことがあるが、この輸入品は大丈夫。仮に造作材との間に隙間が出来た場合でも、重ね塗りで綺麗に処理出来、施主からは好評を得ている」 とのこと。
試みに採用して見る価値はありそう。

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ステンドグラスの使い方の妙。
内壁に、わざわざクラシックなルーバー付きの窓を設けたテクニックが憎い。


さて、前回書いたように、このO邸のQ値は0.74W。
パッシブハウスクラスと言っても過言ではない。
しかしこれは、たまたま開口部の比率が低かったから・・・。
いくらU値が0.8Wのサッシとは言え、0.27Wの外壁に比べると3倍もの熱を損失させている。したがって、大型ビルとは異なり住宅では開口部の大きさがものを言う。
冬期の日射のことを考えると、窓を大きくした方がよいという意見もあるが、超高性能住宅では冬期ですら過日射によるオーバーヒートが大問題に・・・。
まして、夏の日射遮蔽を考えると開口部面積は無闇と大きくすべきではない。

O邸の仕様では、Q値が0.8W前後というのがおそらく平均的な数値。
206の充填断熱材140ミリだけで、プラス外断熱材がなくてその数値が得られることは素晴らしいことだと考える。
実際にプランし、積算をしてみると、なかなか0.9Wを切ってくれない。
0.8Wに近づこうとするとコストがアップする。
ともかく、それほどのコストアップなしにQ-1住宅の性能を20%も上回ることが出来たということは、特筆すべき出来事と思う。

そしてここで強調したいのは、広岡建設にとってこれからはこの仕様が標準仕様になる可能性が非常に高いこと。
すでに数戸が、この仕様で契約済みやプラン中と聞く。
地場ビルダーで、年間こなせる量は限られている。やたらと量は追わない。
U値0.8Wのサッシ、90%の熱回収換気、エコキュートという最新の設備で完全武装した0.8W前後のセンスのよい超高性能手造り住宅。
これが一切合切込みで、坪55万円で設計・施工が出来るという強さ。
これこそが地場ビルダーの差別化の典型。

デモハウスから一歩抜けだした同社が、どこまでトップランナーとして快走を見せてくれるか・・・。
と同時に、同社を追う第2、第3の専業地場ビルダーが、来年こそは陸続と輩出してもらいたいもの。
パッシブハウスという 「名」 にこだわるのではなく、消費者のための省エネの 「実」 にこだわって行く地場ビルダーの時代が、始まろうとしている!



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2010年10月15日

釧路に完成した坪55万円  206でQ値0.74Wの家 (中)


この釧路モデルのO邸に、日本製では初めてのU値が0.8Wというサッシが採用された。
今までの最高は、1.2W前後というところだから、50%の性能アップということになる。

ご案内のとおり、サッシでより熱が損失する部分はガラス面ではなく枠の部分。
サッシ全体のU値が0.8Wということは、ガラス単体では0.6W。
先にみたように、サンゴバンでは0.4Wのガラスの生産を今年の春より開始している。

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しかし、U値が0.8Wのガラスと0.6Wのガラス、さらには0.4Wのガラスでは、価格が大きく異なる。
どれほどの価格差があるかについては、サンゴバン・ジャパンに聞いていただきたい。
しかし、この0.4Wから0.8Wというガラスは、ドイツ工場でしか生産されていないらしい。
何しろパッシブハウスの性能が義務化されようとしている地域。U値が0.8Wのサッシを求めているのはEU各国。
そうした需要があるから、生産を開始している。

サンゴバンの工場は中国・南京と韓国・仁川にある。
高性能ガラスの要望は、日本よりも韓国や中国の方が大きい。
大型ビルの省エネ化は、日本よりも進んでいる。
したがって、日本のサッシメーカーよりも、韓国や中国の方が性能面では上回ってきているらしい。真偽のほどは定かではないが。
監督官庁の経産省や国交省がゼネコンや大手プレハブメーカーの顔色をうかがい、モタモタしているから日本はサッシ後進国になり果てた。
と言っても、まだまだアジアの需要はEUほど高価で、高性能なものは求めていない。
したがって、0.6Wのガラスはドイツの工場から輸入するしかない。
幸いユーロ安で、高性能なガラスが比較的リーズナブルな価格で入手出来る。

ところが、このガラスの加工業者と言うと今まではほとんどが旭とか日本板などのメーカー系列に入っている。
外国製品などを加工出来る高レベルの技術を持った専門業者は、日本では北海道と北陸だけにしか存在しないそうだ。
したがって、素人がサンゴバン社からコンテナでガラスを買ってきても、これをサッシ枠に収まるように加工してくれる業者が地場にはない。
そういった点で、北海道は輸入ガラスを加工するには最高の立地。
今回、釧路のO邸に0.8Wのサッシを納入したユーロハンズの工場は帯広にある。
ほかにノルドと久保木工の工場が旭川に、ウッドワークは札幌にある。
こうしたガラスの専門加工場が北海道にあるということが、新しいサッシが北海道から誕生してきているキーポイントになっている。

さて、ここで2009年11月25日付の今週の本音欄「まずコンスタントにQ値1.0Wの住宅の提供を!」(カテゴリ パッシブハウスの計画と現場)を開いて頂きたい。
そこに40坪(132.5u)の総2階の住宅の平面図と立面図が掲載されている。
あまりにも平凡なプランだが、熱損失を分かりやすく計算するために作ったもの。
したがって、面白くもおかしくもないプラン。
天井面積62.6u、外壁面積(含む界床)136.6u、サッシ35.0u、玄関ドア3.3u、気積330.2m3となっている。
全外壁面積に対する玄関ドアを含めた開口部面積は21.9%。

この天井には300ミリ、床には235ミリ、外壁の充填断熱には140ミリの64キロの吹き込みロックウールを用いたとする。
そして、Aはさらに80ミリの外断熱を施工し、サッシは1.3W、ドアは1.0Wを用いたと仮定してみた。
一方、Bは外断熱をプラスせず、サッシは0.8Wを用い、玄関ドアには0.78Wのレクサンドドアを用いたと仮定した。
換気はABとも90%の熱回収として、両者の熱損失を比較してみた。

そしたらAの場合は 110.18Wで、u当たりのQ値は0.83W。
Bの場合は 107.65Wで、u当たりQ値は0.81Wとなった。

北海道などの寒冷地では壁厚300ミリ近いものが欲しい。
しかし、東京周辺ではプラス外断熱も大切だが、玄関ドアとサッシを変えることでより高い熱損失が得られる方が有難い。
施工手間を含めて、価格的にどちらが効率かという勝負。
それとともに、地価の高い東京ではやたらと壁厚を厚くすることは出来ない。
したがって、よりサッシの性能頼りにならざるを得ない。
そういった意味で、釧路の実験は有難たかった。
なお、O邸の場合は全外壁面積に占める開口部の比率がかなり低かったので、Q値は0.742Wという高い数値が得られている。

このO邸の暖房はPAXオイルヒーターという簡易暖房。
そして、居間に三菱電機の寒冷地向けのエアコン 「ズバ暖」 が設置されている。

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そして、換気は90%熱回収をしてくれる顕熱型のVM1A。
この熱交換機のすぐれているところは、外気温がマイナス20℃近くになっても結露で運転が停止することがない点。ただ、価格は高い。
ドイツ製の顕熱交換機は往々にして結露を起こし、その解凍運転のため90%熱回収というのはお題目になってしまった例があった。
したがって、寒冷地用としてはお薦め。

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そして、寒冷地用の日立ハウステックのエコキュートも採用されている。
うっかりCOPを聞き忘れたが、これからは北海道でもエコキュー時代がやってくるということであろう。

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2010年10月10日

釧路に完成した坪55万円  206でQ値0.74Wの家 (上)


一条工務店のi-cube とセキスイハイムのシェダンは、とりあえず別格として脇に置いておこう。

正直言って、日本の地場ビルダーで、Q値が0.8Wを切る住宅建設は、施工したとしても年に1、2戸というのがせいぜい。
森さんのパッシブハウスも、2年間でやっと3戸目。
外断熱推進会が仰々しく始めたパッシブハウスプロジェクトは、1戸目の近藤邸がそろそろ完成を見るか見ないかという段階。
札幌市を動かした今川設計も、厚別後の続報ニュースが聞こえてこない。

パッシブハウスと呼称はしていないが、長野、宇都宮、仙台、秋田、青森、札幌、小樽、帯広、旭川などで仲間がそれぞれ1ないしは2戸のデモハウスに挑戦してきた。
そして、現在2戸目から3戸目にとりかかっている仲間が数社ある。
何も、パッシブハウスだけが先行しているわけではない。
だが、なかなか継続的に、コンスタントに需要が取れる形に持ち込めないでいる。
デモハウスだったら、誰にでも建てられる。
問題は、いち早くコンスタントな地場需要を捉まえることが出来るかどうか・・・。

R-2000住宅の場合は、札幌のよねくらホーム、仙台の北洲ハウジング、群馬のマイスターハウス、東京のハーティホームの4社が15年前に、一斉にR-2000住宅へ全面的に切り替えを断行した。
つまり、R-2000住宅専業ビルダーに脱皮した。
これは、あれもこれもと手を出したのでは、職人さんの高い技術水準を維持することが出来ない。所定の気密性能などを確実に担保するには、専業メーカーに切り替える必要があったから。
この全面的な切り替えには、営業を中心に各社ともものすごい抵抗があった。だが、4社のみが勇気をもってこの抵抗を排除して急伸した。
この全面的切り替えが出来なかった大手ツーバィフォーメーカーと、地場ビルダーは停滞を余儀なくされた。

必ずしもパッシブハウスでなくてよい。
Q値は必ずしも0.8W以下でなくてもよい。
0.9Wでも1.0Wでもよい。
ポツン、ポツンとパッシブハウス級を1戸や2戸やったことを自慢していてはいけない。
地場でコンスタントに需要を捉えて、専業ビルダーに変身すること。
これこそがポイント。
それが出来たら大いに自慢してよい。
受注が厳しいこの時期に、R-2000住宅の1.4Wの性能を、50%から80%引き挙げて、0.8Wから1.0W以下の高性能仕様に切り替えるのは並大抵の仕事ではない。
周到な準備と覚悟が必要。

そして、ドイツのパッシブハウスは大いに参考にはするが、あまり拘泥しない方が良い。
夏期が乾期のドイツのパッシブハウス仕様を、そのまま日本へ導入することには非常に問題点が多いことが判明してきている。
日本の夏期の除湿問題と冬期の過乾燥問題は、ドイツのパッシブハウスの技術と規定では絶対に解決できない。
日本では、独自の仕様と基準と技術体系を用意しなければならない。
その難事業を、あの国交省や環境省がやってくれるわけがない。ましてドイツ大使館や坂本先生などに期待するスジのものではない。
意欲的なビルダーが、協賛してくれるメーカーと手を組んで自腹を切らねばならない。

除加湿の問題を解決させながら、どの時点で全面的に1.0Wから0.8W以下に切り替えたらよいのか?
それには技術的な問題もさることながら、性能面、コスト面、デザイン面で大きなブレークスリューを果たさねばならない。
そして強調したいのは、全ての面でイノベーションが終わらないと切り替えられないというものではない。問題点を残して、1点突破で切り込む覚悟が必要。
そういった意味で、大きなヒントを与えてくれたのが9月末に完成引き渡しを終えた広岡建設を中心とした釧路O邸プロジェクト。
これは記念すべき出来ごとだと思う。

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この釧路市のO邸の面積は下記。
1階床面積   104.34m2(31.56坪)
2階床面積    72.90m2(22.05坪)
延べ床面積   177.24m2(53.62坪)

この家は、写真(下)のような大きな吹き抜け空間を持っているので、実際の施工面積はあと数坪増やして計算すべきだろう。
だが、ここでは53.6坪で話を進める。

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さて、この家の外皮性能から見てゆくことにしょう。
床・外壁・天井の断熱材には、64キロの吹きこみロックウールが採用されている。
ブロークングが、びっしり施工されている。
1階床は床断熱で、235ミリ厚の熱伝導率0.036Wのロックウール。これだとパッシブハウスが求めているU値0.15Wの性能値を、ほぼクリアーする。

外壁は、0.15Wの熱貫流率を達成するには、64キロで140ミリのロックウール充填断熱材に、プラスして100ミリ厚の外断熱が必要。
ところが、このプロジェクトでは外断熱100ミリを省いて140ミリ厚の充填断熱材だけとした。
このため、U値は0.27Wとかなり不足するが、性能の良いサッシと90%の熱回収交換機と開口部の大きさがそれを補った。
つまり、あえてパッシブハウスの規定に違反した。
それでもSMASHでの熱計算値は、0.742WのQ値を達成している・・・。

外壁断熱材の中で一番優れているのが、この64キロのロックウールのブローイングだと、最近つくづく感じさせられている。
まず、配線・配管工事が終わってから隙間なく施工出来る。ドレーン配管などに結露が生じる懸念が一切ない。
EPSやウレタンなどの硬質断熱材の充填だと、ドレーンや冷媒配管などの工事とその補修に大変苦労させられる。
そして、何と言っても優れている点は、グラスウールやセルローズファイバーのように沈下して上部に隙間が生じないこと。
吹き込んだままの姿で固定されているのがものすごく良い。
また、発泡ウレタンのように経年変化で性能が劣化する懸念がない。防火性も高い。
さらに、小屋裏のグラスウールのブローイングは、上部をカバーしないと所定の性能が出ないと、アメリカの研究所からデータが発表されている。
しかも、ロックウールは吸音性がよい。外部騒音をカットしてくれる。
そういう意味で、帯広や札幌のツーバィフォー地場ビルダーの中で64キロのロックウールの採用者が増加しているのは、喜ばしい傾向だと私は考える。

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上の写真は、ロックウールの吹き込み現場の写真が手元にないので、ネット上の25キロの壁吹き込み中のものを拝借した。64キロだともっとしっかりしている。このピンボケ写真は、あくまでもイメージ写真と考えていただきたい。

天井は300ミリのブローイング。これだと屋根断熱部分を含めても0.12W程度の熱貫流率があり、グラスウールのブローイングと違ってモロに計算出来る。

さて、次はいよいよ開口部。
前回取り上げたサンゴバンが、ここで登場してくる。



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2010年07月10日

足踏みを続けているパッシブハウス



昨年の7月以降に完成したパッシブハウスと呼べる住宅は少ない。

一番多いのは、やはり一条工務店のi-cube。
しかし、このi-cubeの展示場は、全国にまだ8つしかない。
同社の展示場が全国で約320もあることを考えると、2.5%にすぎない。
同社は、セキスイ、ダイワ、ミサワ、ナショナルのように、テレビや新聞、雑誌などの媒体を使ってのPRはしない。
もっぱら展示場を通じてのPR。
Q値が0.78Wで、50坪の住宅の坪単価が53万円と言われても、普通の人にはその有難味がピンとこない。
したがって、実物のモデルハウスがないと、なかなか浸透しない。
やはり、1県に最低1ヶ所はi-cubeのモデルハウスがないと、爆発的に売れ出すというわけにはゆかない。

同社が、これまでに完成したi-cubeの戸数を訊ねても、「あまり各社を刺激してはいけないから・・・」といって、つまびらかにしてはくれない。
したがって、どこまでも推定だが、現在までの完成戸数は30棟強。
今年一杯の契約戸数は数百棟というところではなかろうか。
生産ライン、工事体制などを考えると、ここら辺りがムリのないところ。
したがって、現時点ではプレハブ各社を脅かすとか、地元のビルダーと激しく競合するという形が表面化していない。

しかし、青森、山形、浦和、津あたりでは次第に影響が出始めていると聞くし、i-cubeのモデルハウスが姫路と伊丹の2ヶ所に出現した兵庫県では、その性能に対抗できる商品を持った地場ビルダーが少なく、このまま独走を許すということになりかねない。
いずれにしろ、仙台、北関東、南関東、北信越、中部地域にi-cubeのモデルハウスが登場するまでの間は、小康状態が続くと考えて良いようだ。

この一条工務店以外では、この一年間に建てられたパッシブハウスは片手で数えることが出来る。
森みわさんは、昨年夏に完成した鎌倉のパッシブハウスに続いて今年の春には山形のパッシブハウスを完成させている。
しかし、それに続く動きは、私のホームページのリンク先のKEY ARCHITECTSを開いても残念ながら出ていない。

この間、何と言っても大きいのは エコタウン信州 の ●桜ガーデン茅野 ●桜ガーデン宮川 ●エコセンタービル などのRCの外断熱の中層ピルが完成したことであろう。
この 「エコタウン信州」 の大まかな仕様や計画は、今週の本音の2008年3月15日から25日までの3回に亘る「桜ハウス玉川」の中で書いているので参照して頂きたい。
なお、近く同施設を訪れたいと考えているが、下記のURLからも大まかに想像することが可能。

http://www.ecotown-shinshu.co.jp/index.html

また今年の春、札幌市長が訪れて、市としての予算が計上された今川建築事務所が完成させた厚別の北海道パッシブハウス。

http://www.imagawa-k.jp/

これが、どれだけ札幌市や道を動かすことが出来るか。
北ヨーロッパ並みの高いQ値が求められるのは北海道。
梅雨のない北海道では、やはりアースチューブを活用した換気システムを主体に、Q値がこれからも大きな課題として取り上げられるだろう。
しかし、首都圏以西では、パッシブハウスが求めるQ値よりも、ポイントになってくるのが湿度コントロール。
つまり、冬期が雨期で夏が乾期のヨーロッパのパッシブハウスのポリシーとシステムを、冬乾期、夏雨期の日本にそのまま持ち込むことには問題点が多いことが次第に明らかになってきている。
したがって、導入すべきはパッシブハウスのシステムではなく、サッシやアースチューブの技術体系。
それと、何よりも大切なのはEU各国で始めた全建築物の省エネ性能の表示の義務化。
これこそが、ポイント。

ところが、最近の日経アーキテクチャーや住宅産業新聞などで取り上げているのは太陽光発電とLED照明のことばかり。
それに、最近になって家庭用蓄電装置が加わってきているだけ。
住宅屋として果たさなければならない肝心の外皮の性能アップ、高気密・高断熱化の仕事が等閑視されているのは情けない。

なお、外断熱推進会議関連では、下記の40坪のパッシブハウスを6月から着工する。

http://f-ei.jp/archives//001782.html

当面の動きは、この程度。



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2010年02月24日

札幌市がパッシブハウス研究に500万円の調査費




北海道の仲間が昨日、23日付けの北海道新聞札幌版のコピーを送ってくれました。
それによる、上田札幌市長が今井設計事務所が厚別区内で新築したパッシブハウスの工事現場を訪れ、大変に感動し、市の予算の中に500万円の調査費の計上を決めたと書いてあります。

この厚別の個人住宅のパッシブハウス120u程度の小さな家。
しかし、省エネ性能はバカに高い。
何しろ壁厚がロックウールで465mm。天井が525mm。
そして、サッシはスウェーデンからU値0.8Wの超高性能のものを輸入し、換気も熱回収が90%で、バイパス機能があり、ヒートポンプの霜取り機能も付いているというもの。
このため、Q値測定依頼を受けた東大坂本研究室の研究グループが、現場に測定器を持ち込んでの測定の結果、なんとQ値が0.47W。
今までの日本での省エネ性能では最高レベルの、信じられない数値。
こんな住宅が完成し、坂本研の正式な認定を得たのです。
だが建築坪単価は、家が小さいこともあって坪70万円台と割高。

しかし、平方メートル当たりの灯油の使用量は1.5リッター以下。
一般的な札幌の住宅に比べて1/10以下のエネルギー消費量。
視察した上田市長は、このモデルを見て、調査費を付けることを決意したようです。
同市の道議員の多くも、ドイツのパッシブハウスを視察してきており、市と市議会が協調してパッシブハウスの普及に乗り出しそうな雰囲気。

調査費を付けた目標として、市は(1)住宅だけではなく、市の施設建設に応用出来ないか (2)超高性能住宅に対する支援の在り方 (3)札幌独自の省エネ基準が出来ないか、などの調査を行うようです。

いずれにしろ、地方の有力な市が議会と一体となって、パッシブハウスに注目したということは、特筆すべきことだと思います。



posted by unohideo at 23:35| Comment(0) | パッシブハウス(計画と現場) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月25日

まず、コンスタントにQ値1.0Wの住宅提供を!(9月10日の続き)



9月10日付け「東京における具体的なQ値削減手段と建築コスト」(パッシブハウス・計画と現場)で、下記の延べ40坪(132.5m2)の住宅を用意した。

P1010830.JPG

断ったとおり、プランとしてはつまらない3LDK。部位別面積と気積は下記の、とりあえずの叩き台。
◆天 井        62.3m2
◆1階床        59.0m2
◆土間床         3.3m2
◆外壁(含む階間)  136.6m2
◆開口部        38.3m2
◆換気(気積)     330.2m3

上記プランの東京でのR-2000住宅の熱損失は、Q値1.4W×132.5m2=185.5W。
部位別面積に、R-2000住宅の部位毎の熱貫流基準値を掛けると、このプランの断熱部分の熱損失は下記のように74.4Wとなる。
・断 熱 (天井62.3×0.23=14.3W)+(1階床59.0×0.23=13.6W)+(土間床=2.8W)
+(外壁136.6×0.32=43.7W)=74.4W。
・開口部  U値1.7WのLow-Eペア、アルゴンガス入り 38.3m2×1.7W=65.1W。
・換 気  第3種 330.2×空気容積比熱0.35×換気回数0.5回/h=57.8W。
・熱損失合計  断熱74.4+開口65.1+換気57.8=197.3W    197.3÷132.5=
1.49W/m2。

という次第で、第3種換気を用いていたのでは185.5WというR-2000住宅の基準を、11.8Wもオーバーして、失格になる。(前回の記事を訂正)
しかし、日本の建築基準法と違ってR-2000住宅では、ホルムアルデヒド濃度が薄く、建築面積が165m2以上と大きな住宅の場合は、その換気回数は0.5回ではなく0.3回で良いという免責基準があった。
このため、R-2000住宅でも第3種換気がまかり通っている。
けれども、東京でサラリーマンを対象に商売をしていると、当然のことながら40坪以下の住宅も多く、R-2000住宅の認定証を確実に得るためには第1種換気とせざるを得なかった。

さて、R-2000住宅がカナダ政府と建設省の支援のもとに、国家の事業として新発足したのが18年前の1991年。
その発足とともにツーバィフォー協会のメンバー各社は、たとえ1戸であっても新事業であるR-2000住宅に取り組んだ。
しかし、ほとんどのメンバーが挫折した。
その原因は、性能が断熱面でそれまでの3.2Wから1.4Wになったことではなかった。
Q値だけなら、仕様変更で対処出来る。新しい仕様体系を、商品の中にラインアップするだけでことが足りる。
ところが、それまで誰も追求されることがなかった「50パスカル加圧・減圧で漏気回数が1.5回/h」という気密性能がネックになってきた。
日本流に言うならば相当隙間面積が0.9cm2/m2以下。
大手メーカーの施工代理店には、この気密性能を担保する能力が当時はなかった。
このため、三井ホームが真っ先に失速し、それ以降は政府間協定でツーバィフォー協会が始めた事業であったのに常に反対側にまわって妨害をし続けた。その代表がF常務。

50パスカルで1.5回/hという気密性を担保するには、現場監督をはじめとして大工・電気工・配管工・空調設備工・内外仕上工を徹底的に教育し、トレーニングする必要がある。
まず、気密測定器を購入し、全戸気密測定してどの程度の気密性能を持っているか、どこに問題点があるかを実際に目で教える必要がある。
その測定データをもとに、とくに大工と電気工のモチベーションを高めるための日常的な訓練が不可欠。
これが、大手ツーバィフォーメーカーには出来なかった。
気密に徹底的に拘ったのが地場ビルダー。

しかし、コンスタントに50パスカルで1.5回/h(隙間相当面積0.9cm/m2)を達成出来るだけの技能・技術が次第に備わってきたけれども、Q値1.4Wを達成するためにはサッシなどの性能と価格が大問題だった。
当時はペアガラス入りのPVCサッシが普及し始めたばかりで、Low-Eのアルゴンガス入りは日本では普及しておらず、Q値1.4Wの性能を確保しようとすると、それまでのツーバィフォーに比べて坪単価が10万円も高くなった。
このため、R-2000住宅として認定された住宅は年間せいぜい10棟ぐらいしかなかった。

これでは絶対に高気密住宅が普及しない。
ということで考え出したのがSEA(Save Energy Amenity)という商品。
壁断熱は90mmで、サッシはPVCのペア、換気は第3種で、気密性能はR-2000住宅に準じて50パスカルで1.5回/hというもの。
Q値でいうならば2.2W程度で、次世代省エネ基準を10年早く先取りした程度の商品。
ただ、気密性能だけは次世代住宅をはるかに上回っていた。
これを今までの自社のツーバィフォー住宅に比べて、坪4万円高で売り出した。
坪4万円高でも大手メーカーの単価に比べればはるかに安く、この高気密高断熱住宅はそれこそ爆発的な売れ行きを見せた。
年に200棟以上の実績を数年間連続的に上げることが出来た。

こうした実績の中で、パッコン給気の直下に暖房設備がない関東地域での第3種換気の問題点を、施主のクレームを通じて嫌というほど味わされた。
しかし、気密性能に対しての自信はゆらぎのないものになった。
そして、次第に断熱、サッシ、換気などの建材・部品・設備なども出揃い、価格が格段に安く入手出来るようになってきた。
そこで、売れ筋だったSEAをやめて、R-2000住宅一本に絞った。
つまり、R-2000住宅の専業ビルダーに変身した。
その年が1997年で、R-2000住宅事業が始まってから6年間が経過していた。
そして、R-2000住宅の専業ビルダーとしてよねくらホーム、北洲、マイスターハウス、ハーティホームをはじめとして全国に十数社が名乗りを上げた。

こうしたビルダーの専業化の動きなくして、R-2000住宅の普及はなかった。
したがって、パッシブハウスの場合も、これに専業化し、特化する地場ビルダーや設計事務所が増えない限り、パッシブハウスは日本では絶対に普及しない。

今年の2月、札幌に一条工務店のQ値0.76Wというi-cubeの宿泊体験棟が誕生した。
一条工務店の招待を受けて、私も宿泊体験をした。
快適さは抜群。
しかもこの性能で、空調換気設備費込みで50坪の住宅の販売価格が53万円/坪。
これぞ、間違いなくかつてのR-2000住宅に匹敵する画期的な商品。
日本の消費者が待ちこがれていたもの。
この商品が出回ると、大手プレハブメーカーは音を上げるだろう。
と同時に、これは地場ビルダーに対する挑戦状でもある。

一条工務店は個別認定をとって、夏頃から全国的に本格発売に踏み切ると言っていた。
このため地場ビルダーは、R-2000住宅から一気にパッシブハウスへジャンプする必要があると、そそっかしい私は今春頃は考えていた。そして、皆さんを煽った。
ただ、幸か不幸かは分からないが、一条工務店はテレビや新聞広告を一切しない会社。
全国に展開する300余の展示場とネットを通じてしかPRしない。
そして、現時点ではi-cubeの展示場は全国に数ヶ所しかない。ネット広告が始まったのは9月になってから・・・。
一気にモデルハウスを建て替えるほどの馬力は、今のところ見られない。
このため、地場ビルダーは年内にパッシブハウスの体制を整える必要はなく、あと一年ぐらいは執行猶予期間があると考えて良いようだ。

その間、どうすべきか。
当然のことながら関東周辺ではQ値0.8W前後の住宅づくりの準備を、東北から北海道ではQ値0.7Wを切る住宅を準備すべき。
しかし、再三同じことを言っているのでいささか草臥れたが、肝心の高性能なサッシと換気の開発が日本では進んでいない。
北海道の一部では、十分に対応出来る武器が揃いつつある。
しかし、関東以西では、未だに揃っていなく、最低でもあと一年以上はかかる。
といって、座して待つべきなのだろうか?・・・

座して待つのではなく、当面は高性能なU値1.0Wのサッシ、熱回収率90%の熱交換気が得られないとしたら、手に入る1.3Wのサッシと熱回収率70%の換気で、全戸をQ値1.0Wの住宅に切り替えるべきである、と私は考える。
つまり、当面はQ値1.0W専門ビルダーに特化する。
かつて私が、段階的にSEAを選んだように・・・。
この方が、停滞することなく走り続けることが出来る。

そして、高性能サッシと熱交換機システムがリーズナブルな価格で入手出来るようになったら、一気に日本流のパッシブハウスに特化すべき。
ドイツのパッシブハウスは、気密やアースチューブなどの点では大いに参考にすべきだが、除湿の面では参考にならない。むしろ害が多い。
パッシブハウス研究所への盲目的な礼賛主義者とは、一線を引いて準備すべき。

とは言え、これは一条工務店の動きが、現在のように牛歩である場合の話。
もし、一条工務店の動きが競争馬のようなギャロップに変わった場合は、急がねばならない。
その場合は、Q値が1.0Wではなく、関東でいきなり0.8W前後、東北以北では0.7W以下となる。
覚悟をして、準備を急がれたし。



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2009年09月10日

東京における具体的なQ値削減手段と建築コスト



北欧、カナダ、北海道などの寒冷地では、Q値(熱損失係数)の小さな住宅ほど省エネルギー住宅だと言っても間違いではない。
だからといって、やたらとカネをかけてQ値のみを追求し、暖房機を排除した住宅とかゼロエネルギー住宅とかが、コストパフォーマンスという面から考えて、決して優れものというわけにはゆかない。
ドイツのパッシブハウスというのは、コストと性能を考えて、必要最小限の暖房設備を持つ絶妙なバランスのとれた寒冷地用住宅・建築物だと思う。フランクフルトのパッシブハウス小学校では、子どもが居なくなる夜間のためにペレットを燃料とする1.5kWの小型のパネルヒーターを備えている。だからこそ、全ヨーロッパ的な拡がりを見せようとしている。

一方、東京以西の高温多湿地域では、冬期のことだけ考えるわけにはゆかない。
3ヶ月の夏期と4ヶ月の中間期の冷房と除湿のことを真剣に考えねばならない。
やたらとQ値を良くすると、中間期の冷房・除湿運転時間が長くなり、エネルギー消費という面からマイナス効果を及ぼす懸念がある。
内部発熱と90%の熱回収で、暖房費がほぼ不要と考えられるQ値0.8W前後が、東京におけるマキシマムの熱損失係数なのではなかろうか。
そして、マキシマムまでQ値を追求すると日射遮蔽とか除湿問題が、幾何級数的に大課題としてのしかかってくる。

そして、SMASHなどで冷暖房負荷計算は出来るが、それを実際の生活に落として有効な消費エネルギーを計算する基準が、いまのところはっきりしない。環境省の言うように冬期18℃、夏期28℃で生活しなさいと一方的に言うのは、国民にストレスを押し付けるだけ。
温度だけでなくて湿度設定も同時に明記しなければ意味がない。
例えば、冬期は温度が21℃で相対湿度が40%、夏期は温度が28℃で、相対湿度が50%という具合に。
その条件を設定して入力出来る簡易ソフトがない。
だから、消費者が納得する消費エネルギーが表示されない。サンワハウスのような怪しげな数値が横行する。この問題は、大変に大きな問題。

しかし、今回はその課題を棚上げにして、とりあえず東京でQ値が0.8Wの住宅を達成するには、断熱、開口部、換気のどの面にどれだけの力点を入れるべきか。そして、それを達成するにはどれほどのコストがかかるか…。
手計算で大まかに考えてみたい。
しかし、前提となるプランかないと話が見えない。
そこで、下記の1、2階とも20坪の総2階建て、延べ40坪(132.5m2)の住宅を用意した。

P1010830.JPG

プランとしてはつまらない3LDK。部位別面積、気積は下記。
◆天 井           62.3u
◆1階床           59.0u
◆土間床            3.3u
◆外壁(含む階間)     136.6u
◆開口部(サッシ、ドア)  38.3u
◆換気(気積)        330.2m3

R-2000住宅の東京のQ値は1.4W/m2。132.5m2の住宅だから185.5W以下であればOK。
断熱の熱損失は天井62.3×0.23=14.3W、1階床59.0×0.23=13.6W、土間床=2.8W、外壁136.6×0.32=43.7W、合計74.4W。
これにLow-Eペア、アルゴンガスのサッシが1.7W×38.3=65.1W。
換気は70%熱回収で34.7W。
つまり断熱74.4+開口65.1+換気34.7=174.2Wで、R-2000の基準185.5Wをクリアー。

しかし、ドイツのパッシブハウス研究所は、これからの外皮の断熱性能は全て0.15W以下であるべしと言っている。
少なくとも天井は0.15Wであるべきだろう。
東京の1階床は0.2Wで十分。
そして、外壁も0.2Wで十分と考えたが、ヨーロッパにおけるパッシブハウスの進展から考えて0.16Wとした。中途半端な数字には訳がある。
R-2000住宅の場合は、206の壁に140mmの繊維系断熱材か現場発泡を充填すれば0.32Wをクリアーした。しかし、0.2Wを切るにはプラス外断熱が必要。どうせKMブラケットを使うなら、ロックウールを100mmにしてみたら0.16Wという数値。
東京はこれで十分。そして、KMブラケット以外でも、0.2Wを切る手法はいろいろある。
とりあえず、この数値で断熱面を固定した。
天井62.3×0.15=9.3W、1階床59.0×0.2=11.8W、土間床=2.8W、外壁136.6×1.6=21.9W。合計45.8Wがそれ。

R-2000住宅の時の断熱が74.4Wだったものが45.8Wになるのだから、40%近くも性能がアップ。
しかし、10年から20年先を考えると、この程度の外皮性能は必要不可欠だろう。
そして、R-2000住宅に比べて40%の性能アップのために必要とされるコストを概算してみたら、約80万円。坪当たり2万円のアップ。
この数字は、是非とも消費者の皆さんに認めてもらいたい。

外皮の数値を固定して、サッシと換気の数値を動かしての、トータルの熱損失とその比率、及びm2当たりのQ値は、次のようになる。

◆サッシのU値は1.7Wで、第3種換気。
・断熱     45.8W 27.1%
・開口     65.1W  38.6%
・換気     57.8W  34.3%
・合計     168.7W 100.0% 
・m2当たりQ値  1.3W(1.27W)
◎この場合は、建築コストは坪2万円アップするだけ。(すべてR-2000住宅比)

◆サッシのU値は1.3W。
・断熱     45.8W  29.8%    
・開口     49.8W  32.5%    
・換気     57.8W  37.7%    
・合計     153.4W  100.0%     
・m2あたりQ値  1.2W(1.16W)
◎この場合、建築コストは現時点で坪約3.5万円アップ。

◆サッシのU値は1.3W。熱回収率70%の顕熱交換機を採用。
・断熱     45.8W  35.2%   
・開口     49.8W  38.2%   
・換気     34.7W  26.6%   
・合計     130.3W  100.0%   
・m2当たりQ値  1.0W(0.98W)  
◎この場合のコストは約4万円アップ。

◆サッシQ値は1.0Wの単板アルミ+ブラインド+ウッドのペアまたはトリプルのドレーキップ。熱回収率90%の熱交換機を採用。
・断熱     45.8W  45.1%  
・開口     38.3W  37.8%   
・換気     17.3W  17.1%   
・合計     101.4W  100.0%    
・m2当たりQ値  0.8W(0.77W)
◎この性能のサッシは、現時点では輸入以外になし。したがって価格は未定。おおよそだが、総コストは坪5.5万円アップ。

◆上記に給湯のCO2削減のため太陽熱集熱エコキュートを採用。
◎総コストは坪6.5万円アップ。

◆サッシのQ値0.8W。熱回収熱率90%の交換機を採用。
・断熱     45.8W  48.9%  
・開口     30.6W  32.7%    
・換気     17.3W  18.4%    
・合計     93.7W  100.0%     
・m2当たりQ値  0.7W(0.71W) 
◎北海道では現時点で総コスト5.5万円アップで可能。

R-2000住宅の初期の頃、性能の良いサッシが入手出来なかった。
直接輸入も試みてみたが、徒労だった。
ところが、そのうちにPVCメーカーが次々と新商品を開発してくれ、価格も爆発的に安くなった。このため、R-2000住宅は性能に対する割安感から売れた。
そこまでは良かったのだが、やたらと競争が激化して定価の7割引き、8割引きというものまで出現し、これがPVC専用メーカーの首を絞めた。そして防火偽装にまで発展してしまった…。
少なくとも、新しい型材を開発し、ドイツ流の安価で高性能のトリプルサッシを開発してくれない限り、ビルダーは安くQ値0.8W住宅を提供することは出来ない。PVCサッシメーカーが前向きに正しい競争をしてくれれば、サッシで坪単価1万円は安くなる。

また、換気も動きが悪い。
R-2000住宅の時は、ナショナルと三菱の寡占を打破しようとダイキンをはじめ各社が意欲的に動いてくれた。しかし、今回は一条工務店の全熱での90%の熱回収率という先進的な動きはあるのに、各社の反応は至って低調。
国内の空調換気メーカーが動き出せば、換気で坪単価5000〜1万円は安く出来る。
つまり、R-2000住宅に対して坪4万円高でQ値が0.8W前後の住宅が供給出来るはず。40坪の住宅で150万円から160万円の出費。それが、現時点では5.5万円高だからどうしても割高感がつきまとう。

R-2000住宅と言っても、40坪の住宅では仕上げ材や設備機器などの仕様によって坪単価は50万円から80万円と大きな幅がある。セントラル空調換気システムだとどうしても坪55万円以上はする。追加が4万円で済めば、なんとか坪50万円台で収まるはず…。
鳩山内閣が、本気で2020年までにCO2を1990年比で25%も削減するつもりだったら、このサッシと換気メスを入れることを最優先しない限り、家庭用CO2の削減は達成出来ず、公約は絶対に守れない。
そう思いませんか!

(手作業なので、一部思い違いや勘違いがあるかもしれません。ご指摘いただければ訂正させていただきます)
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2009年08月30日

パッシブハウスに踏み切ったフューチャーの長期戦略



http://www.green-ecohouse.com/

上のURLが登場したのが今年の7月。
ともかく、日本に初めて「パッシブハウス」を目的にした専門の住宅組織が出現。

しかし、URLを立ち上げたからと言って、直ぐに飛び込んでくる慌て者はいない。
家庭用雑貨や書籍であれば、簡単にネットショッピングに手を出す。
だが、坪60万円もする高額のパッシブハウスとなると、簡単に飛びつける訳がない。

22年前、最初にカナダへR-2000住宅の調査に行った時、「購買してくれている層、つまりターゲットにしている層は誰か」 を聞いた。
その時、カナダのビルダーは笑いながら答えた。
「弁護士と医者と酋長と…」
つまり、高性能で高額物件の場合は、当初は顧客が限定される。
誰をも相手にしようとすれば失敗する。
思い切って対象を絞らねばならない。
その教訓が脳裏に焼き付いた。

そして、こうした高性能物件は、現物見本がないとそのメリット、つまり有難味が絶対に知ってもらうことが出来ない。
当時、建築関係の学者も、電力や空調設備機器の技術屋も、「東京で高気密高断熱住宅をやるなんて気が狂ったのではないか。この温暖地の東京で、高断熱住宅のメリットが立証出来るわけがない」 とせせら笑った。
R-2000住宅は、もっぱらカナダや北海道などの寒冷地用の住宅でしかないと、誰もが信じて疑わなかった。
その先入観を拭い去ってもらうには、体感し、納得して頂くしかない。

パッシブハウスの場合も、全くこれと同じはず。
ともかく、モデルハウスが不可欠。
そして、パッシブハウスのモデルに必要なのは、必ずしも正確な燃費云々ではない。
最初に絞り込んだターゲット層に満足してもらえる 「快適さ」 と 「満足感」 がなければならない。
とくに快適さが物を言う。

高気密高断熱住宅で、全国的に施主が一番快適さを実感するのが暖かさ。
それも、音もなく空気が汚れないソフトな輻射暖房に満足度が高い。
多くの高気密高断熱の地場ビルダーが、床暖房ではなく温水、または蓄暖の輻射暖房を採用したのは、正解だった。
ところが、パッシブハウスは、そのメリットを実感させる高価な輻射暖房設備を不要にするだけの性能を持っている。
もう、暖房がメインの時代ではないということ。
Q値が0.8Wを切るというパッシブハウスの場合は、暖房機がなくても内部発熱と90%の熱回収で十分に暖かい。
ほぼ無暖房に近い。
そして、万が一の場合は、どうせ冷房除湿のために入れているクーラーを利用し、ほんの少しだけ運転させれば良い。
風速が弱いセントラル空調換気システムは、風や音を感じることもなく、輻射暖房に匹敵する快適さを持っている。

とすれば、V地域以西でのパッシブハウスの売り文句は 「夏の快適さ」 であらねばならない。
快適さの条件が、全面的に変化しようとしていることを、まず知らねばならない。
今年の夏は比較的涼しかったが、これからは温暖化が進む。
ポイントは冷房と除湿に移る。

ここで、20年前によく使っていた3つの図を再録したい。(いずれも鵜野日出男著「高気密住宅を拓く先覚者、先住人」より)
下図。これはあまりにも有名なASHRAE(アシュレ、全米冷凍空調学会)が25年も前に作成した相対湿度と微生物などとの相関関係図。
これをみるとバクテリア、ウィルスは高温でも低温でも活発に活躍する。
そして、冬期相対湿度を50%にするとウィルスは死滅する。風邪対策に効果があるということが一目で分かる。
そしてダニ、カビは相対湿度が60%を越えてから急速に繁茂することも分かる。
夏の相対湿度を50%に維持出来たら、ダニ、カビは関係なくなる。

つまり、健康に良い室内空気湿度は、年間を通じて40%から60%に維持すること。これこそがビルダーの使命であるということが良くわかる。

P1010800.JPG

下図は、ヨーロッパや北米など北半球の主要都市の月別相対湿度の推移。
ヨーロッパやアメリカの中西部は夏期が乾燥期。そして冬期は雨期。
これに対して、東京はフェーン現象で冬期は過激なまでの乾燥期で、夏期はモンスーン型の高温多湿期。
世界の各都市はV字型なのに日本だけは逆のΛ字型で、冬期の加湿と夏期の除湿が不可欠の国。
ドイツのパッシブハウス研究所では、絶対湿度が12g以上と高い場合には除湿が必要だと強調している。
何度も書いていることだが、人々が夏期に快適だと感じるのは、温度だけではなく湿度が大きく関わっている。

P1010804.JPG

さらに下図は、東京ガスが岩下神奈川大教授に依頼して行った320人にも及ぶ体感温度の実測記録。
相対湿度が60%と40%の条件を用意し、室温を26℃、27℃、28℃、29℃、30℃に設定して体感快適度を調査したもの。
この調査ではっきりしたことは、相対湿度が40%であれば温度が30℃であっても、ほとんどが快適だと感じていること。
それもそのはず、相対湿度が40%で温度が30℃ということは、絶対湿度が11gに過ぎない。

P1010803.JPG

絶対湿度が12g以下という条件は、相対湿度と温度との関係で見ればどのようになるか。
それは、下記のように覚えておくのが分かり易い。この数値を達成出来ると施主からお褒めの言葉がいただける。
   温度       相対湿度
   25℃以下    75%以下であれば快適さに関係なし
   26℃      60%
   27℃      55%
   28℃      50%
   29℃      45%
   30℃      40%

つまり、夏期は如何にして上記の相対湿度を実現できるかが、これからの住宅作りの正念場になってくる。
温度を25℃以下にしなければ不快だ、と感じる家は明らかに失格。
個別エアコンで、25℃以下の刺すように痛い冷房のモデルハウスがなんと多いことか。
28℃でも30℃でも、爽快と感じる家こそが本物。
これは、ひとえに湿度コントロールの技術にかかっている。

それだけではない。
個別エアコンは風を感じる。
個別エアコンは熱帯夜の夜に付けっぱなしで寝ていると身体がだるくなる。これは、風が身体から温度と湿度を奪ってゆくため。
風を感じさせない冷房というと、セントラルシステムで、廊下側から天井面を伝わって窓へ向かって弱い風を送り、窓に当たった流れがドアの下からリターンさせる方式。これが一番ベター。
つまり、頭の上を涼気が流れ、室内の温度ムラを無くするというやり方が大好評。
東京でR-2000住宅の施主第1号になっていただいたのが、玉置宏さんの奥様の敦子さん。
玉置宏と言っても、今では知っている人は少ない。
歌謡番組の司会者としてあまりにも有名だったし、現在はよこはま賑わい座の館長としても知られている。敦子さんは上記の著書の中で次のような感想を述べている。

1989年の4月に、主人と子ども、妹夫婦の5人でR-2000住宅のモデルを見に行きました。春とは思えない暑い日で、クーラーが入っていました。その冷房が、信じられないほど肌にやさしく、ソフトなのでびっくりしました。
私は冷房に弱く、ヒジと肩にすぐサシがくるので、常に肩パットを2枚入れていたほど。ちょっとした冷房でも敏感にサスので、主人が家を出るとすぐに冷房を切り、夕方になり主人が戻る頃となると、つい「ああ…」とため息。
それほど敏感な私が、R-2000住宅のセントラル空調だと全然ササない。妹は、いつもヒザがサスとこぼしているので、「どう」と聞いてみたらやはりササないと嬉しそう。
「ためしに、他社のモデルハウスを体験してみて下さい」と言われて外に出たらBGMが大きく鳴っていたのにびっくり。家の中では騒音が聞こえなかったから…。
有名な大手3社ばかりのモデルに入ってみましたが、冷房のサシが痛い。それにBGMも聞こえる。
対比してはじめてR-2000住宅の良さが実感出来ました。そして、紆余曲折はありましたが、関東地域でのモルモット第1号に名乗りを上げました。

こうして、東京地域でR-2000住宅がポツポツと売れ始めた。
しかし、爆発的に売れるようになったのは、高気密用のサッシ、ガラス、空調、換気、断熱などの部品、部材、設備が揃い、価格が安くなりはじめてから。
そういった資材が出揃うまでの数年間は、苦戦を余儀なくされた。
Q値が1.4WのR-2000住宅ではなく、1.9W程度のSEAという商品で我慢をしてもらっていた。
やがて資材が出揃ったところで、R-2000住宅一本槍に方針を切り替えた。
そして、東京電力、鹿島建設をはじめとしたゼネコン、三菱電機や東芝、医者や大学教授、IT関連の技術屋さんを中心に面白いようにR-2000住宅は売れた。そして、95%がセントラル空調換気システムを選び、予算の関係で個別エアコンにしたのは5%。
モデルハウスでの冷房体験が、必然的にセントラルシステムを選ばせた。


フューチャーハウジングが、グリーン・エコの仕様を (1)U値0.8Wの輸入サッシに統一(2)熱回収率90%で、バイパス機能を持った顕熱交換機の採用 (3)セントラル空調換システムの採用 (4)調湿機能付きのインテロの採用を決めたことは素晴らしいことだと考える。
そして、(5)太陽熱集熱器付きエコキュートの本格的採用までも行うかもしれない。
いずれにしても、現時点の日本で考えられる最高のハイレベル。

それだけに、需要が限定される。
そして、ビルダー段階でモデルハウスを持つことが急務になってきている。
とりあえず3社が先行してモデルハウスを建て、3ヶ月ほど展示して特別価格で売り、入居者の協力を得て夏と冬のデータを揃えることを当面の目標にしている。
グリーン・エコの場合は、今までのような輸入住宅の範疇で考えるわけにはゆかない。
ネット商法が軌道に乗るのは数年先と考えるべきだろう。

そのため、今年の7月に 「一般社団法人・日本省エネ住宅協会」 を新規に設立して、認可を得てきている。
この新法人が中心になって、ドイツから新進気鋭の建築士ランジェンカンプ氏を招き、福岡、大阪、名古屋、東京、仙台、札幌でパッシブハウスのセミナーを開催する計画を練っている。
いずれにしろ、パッシブハウスを軌道に乗せるには、息の長い長期計画が不可欠。
それと、除湿や日射に対する研究や開発、さられはダクトの納まりをよくするための平行弦トラスやTJIの開発採用など、まだまだ不十分な点が多々ある。

R-2000住宅の時がそうであったように、走りながら考えて行く以外にない。
ともあれ、マラソン競争の幕が切って落とされた。



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2009年01月10日

PHIの目標値は日本の目標に相応しいか? (下)



パッシブハウス研究所のホームページに示されているグラフの、暖房15kWh/uaと多分給湯の6kWh/uaと、新規に追加される予定の冷房の15kWh/uaのいずれもが、二次電気エネルギー量ではなく、建物性能負荷だということがMiwaさんのリサーチで初めて明らかになった。
とたんに、私のような文系の人間はパニックってしまう。

図示されている換気の4kWh/uaと家電の11kWh/uaは、建物の負荷ではなく二次電気エネルギー量のはず?
異なる2つの単位が1つのグラフの中に同居しているということなのか?
それとも…。

私を含めた素人が一番分かり易いのが年間の電気代。
しかし、電気代の中の照明やテレビ、冷蔵庫、洗濯機、ドライヤーなど家電の電気使用量までは住宅屋がタッチ出来る訳がない。
また、IHヒーターなどの調理のエネルギー費もタッチ出来ない。
それに給湯費も家族構成の多寡によって変わる。u当たりという表示は、必ずしも妥当とは言えない。

電気代は国によって基本料金や単価が異なるから、国際比較する場合はやはりkWhかGJで表現する以外にないということになる。
そして、1万5000戸という累積実績戸数を誇るドイツのパッシブハウス研究所のkWhの数値が、必然的に基本的な参考数値となる。
面倒だが、やはりPHIの数値の検討からはじめなければならない。

まず、問題になるのが暖房負荷と冷房負荷。
北海道などの寒冷地は、暖房負荷の15kWh/uaのままで良いだろう。V地域からW地域にかけては、PHIが言うように暖房負荷15kWh/uaと冷房負荷15kWh/uaで計算すれば良いのか?
これに対してネットフォーラム上で異を唱えているのがhiroさん。
ヨーロッパでは冬期は雨期で加湿の必要性がない。また、夏期は乾期で空気が乾燥しており、日陰に入ると涼しい。日射遮蔽さえすれば、除湿の必要性がほとんどない。
つまり、顕熱だけを問題視すればよい。
これに対して日本の冬期は、とくに表日本はカラカラに乾燥する。風邪を防ぎ、静電気の発生を防ぐには加湿が必要。
そして、夏期は高温多湿で除湿が最大の課題になる。
したがって、日本の場合は「暖房顕熱負荷+暖房潜熱負荷(加湿)+冷房顕熱負荷+冷房潜熱負荷(除湿)の合計で45kWh/uaの負荷を標準にすべきだ」と提案している。

Miwaさんが鎌倉で計画中のプロジェクトの負荷計算をPHIのSさんに絶対湿度を12g/kgで計算してもらったら暖房負荷13kWh/uaに対して冷房負荷が15kWh/ua、そして除湿負荷はなんと25kWh/uaにもなったという。30kWhどころか53Whという大きな数値。もっとも絶対湿度を13g/kgとして計算すると除湿負荷は16kWh/uaで済む。
Hiroさんが提案する45kWh/uaに限りなく近い。
PHIの規定では除湿負荷は冷房負荷の中にも含まれておらず、特別な規定はないという。ただ、一次エネルギーの時にカウントするだけという。

このように見てくると、日本の場合は暖冷房・除加湿負荷が45kWh/uaというのが非常に妥当で、COP3の機種を用いると二次電気エネルギーは15kWh/uaとなる。
そして、この数値は部分空調や間欠運転、あるいは暖房温度を18℃に設定したものであってはならない。
冬期室温22℃、相対湿度40%以上。
夏期は室温28℃、相対湿度50%以下で全館24時間空調運転をする、ということが大前提での計算であるべきだと考える。

そして、換気は90%の熱回収能力があるものを365日間フル稼働させる。
この換気のリターンエアを除いた二次電気エネルギーが5kWh/ua。
つまり、「冷暖房・除加湿と換気で、20kWh/uaの二次エネルギーであげましょう」というのが、今年の私のホームページに掲げた提言。
私が考えだしたということではなく、皆さんのご意見をまとめたら、そういうことになったという次第。
この方が、パッシブハウス研究所の提案よりも日本にはフィットする。
そして、この数値はT地域からWb地域まで、共通して使えるのではないかと思う。

北海道は暖房と換気で15kWh/ua。
これを達成するためには旭川はQ値が0.5Wで、札幌はQ値が0.6W必要なのかもしれない。あるいは、Q値よりも蓄熱性能が求められるのかもしれない。
仙台や北関東のQ値は0.7Wから0.8Wが最適なのかもしれない。あまりQ値を上げると逆に冷房負荷が増えるかもしれない。そして、より日射遮蔽が問題になってくる。
東京以西では最適Q値が0.9Wから1.0W、あるいは1.1Wなのかもしれない。
そして、やたらとQ値を上げることが目的ではなく、除加湿を含めて最適Q値と蓄熱と日射遮蔽を求めるというのが、これからの競争の基本となってくる。

そしてT、U地域では、暖房設備のない住宅が登場してくるかもしれない。
熱回収換気で暖房設備を不要にしてゆく住宅。これこそがパッシブハウスと呼べる。
そして、地球の高温化(温暖化というおだやかな問題ではない)に伴ってより冷房設備が必要な地域が次第に拡大してゆく。
この冷房地域では、ますます重要性を帯びてくるのが除湿。Q値を高め、日射遮蔽を抑えてゆくと、冷房よりも除湿がよりウェィトを占めてくる。
何回も同じことを書いているので気がひけるが、相対湿度や絶対湿度が低いと、多くの人々は30℃であっても快適と感じる。
温度と相対湿度、絶対湿度と快適性の相関関係は下記。

  温度    相対湿度   絶対湿度
  26℃     60%     13.0g/kg    
  27℃     55%     12.5g/kg     
  28℃     50%     12.0g/kg     
  29℃     45%     11.5g/kg     
  30℃     40%     11.0g/kg
          
今までのクーラーの除湿運転に変わる、もっとアクティブな除湿機械の開発が求められている。
すでにビル用の大型のデシカが開発されている。
今までのデシカント除湿の最大の欠点は、吸湿した湿度をパージするときの電気ヒーターに大きな電気代がかかったこと。
これをヒートポンプに変えたら、効率は4倍になったと言われている。
新しい技術が誕生している。
しかし、日本の大手住宅メーカーは、家庭用デシカの開発をメーカーに求めていない。
このため設備機器メーカーは、個別エアコンのサララを売ることに精を出している。
技術はあっても、住宅メーカーが「セントラル除湿機械の開発」を求めないから、いつまでたっても開発されない。宝の持ち腐れ現象を起こしている真犯人は、大手プレハブメーカー。

日本に求められているのは「パッシブハウス」ではなく、積極的なイノベーションを求めている「セントラル除湿付きのアクティブハウス」なのかもしれない。
ともかくビルダーがやらねばならない仕事は、冷暖房・除加湿・換気で年間20kWh/uで上がる家造り。
当面は、この目的に集中したい。

そして、これ以外の家庭用の二次電気エネルギーとしては、hiroさんの当面の提案でほぼ良いのだと考える。
まず、給湯が11〜12kWh/ua。
深夜電力を使っているエコキュートの電気代は安い。月2000円以下。しかし、kWh/uaで見るならば、4人家族だと日本の場合は1500〜2500kWhも使っている。
つまり、関東以西では暖房費よりも給湯費の方が、小さな家ほど大きくなってくる。
本来は15kWh/uaとすべきだが、我慢をしてもらうことにしょう。
将来は太陽熱を組み込んだハイブリッド給湯に変えると、給湯エネルギーを半分にすることが出来る。しかし、深夜電力利用のエコキュートの料金が安いので、わざわざ設置費を投じて、メンテナンスが難しいハイブリッドを求める人は少なかろう。よほど政策的誘導策がない限り、日本での普及は難しい。

次は照明を含んだ家電。これが16〜17kWh/ua。
高性能家電の開発が進めば、これも将来はかなり少なくなってゆこう。

そして、調理が4kWh/ua。

これらを全部合計すると二次電力エネルギーが52〜54kWh/uaとなる。
したがって、一次電力エネルギーは140〜146kWh/ua。
この少ない方をとって私のホームページの当面の目標とした。
一次電力エネルギーがPHIの120kWh/uaよりも20%近く多いから、正式にパッシブハウスとして認定されることはない。
それでいいのだと思う。ドイツの生活に、窮屈な思いをして合わせる必要はことさらない。日本は日本の実態に合った目標を建て、それをクリアーすべく努力してゆくことが正しいのだと確信する。

そして、もう1つやらねばならないビルダーの仕事は、当該住宅の年間燃費を全ての消費者に公開してゆくこと。
昨年7月のドイツに続いて、今年からEUの多くの国々で、年間燃費の公表が義務づけられてくる。
これは、消費者にとっては非常に有難いシステム。
建てた住宅、あるいは借りようとしているアパートの年間燃費が、冷暖房を除けば標準的な水準表示に過ぎないが、全戸が表示され、格付けされる。
そのランキングを見て選択出来る。
今までいろんな住宅の性能表示制度があったが、これこそが消費者にとって究極の性能表示だと思う。

表示される二次電気エネルギーは冷暖房・除加湿・換気と給湯だけ。
イギリスではこれに照明が加わるようだが、日本は照明を除いた方が良いと思う。
そして、いきなり冷暖房・除加湿・換気と給湯の二次電気エネルギーが31〜32kWh/uaを目指さなくてもよい。

P1000795.JPG

上図のように、冷暖房・除加湿・換気と給湯が47kWh/uaというR-2000住宅並のものでも堂々と表示してゆく。
この47kWh/uaでも、9ランクに分類されたランクで最上の第1級のランクに分類される。プレハブの3級をはるかに引き離している。
エネルギー消費の面での差別化が出来、誰の目にもその優位性が明らかになる。
これに家電の18kWh/uaと調理の5kWh/uaが加わり、二次エネルギー合計が70kWh/uaだったとする。
この場合の一次エネルギーは189kWh/ua。
これをCO2排出量に換算すればいくらになるかは分からない。そのうち計算式が示されるだろう。仮に68.3kg/uaであったとすれば、それを公表してゆく。

本来、この仕事は政府が率先して行うべき仕事。しかし周回遅れの国交省と大手プレハブメーカーのモタモタに追随しているわけにはゆかない。
ドイツのDINなどのシステムを、日本の基準に準じたものに変更し、先進的なビルダー共有のシステムとして活用し、消費者にそれぞれの住宅のエネルギー性能を、世界の基準に沿って公表して行こうではありませんか、というのが私のメッセージ。
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2009年01月05日

パッシブハウス研(PHI)の目標値は日本の目標に相応しいか?(上)



パッシブハウス研究所(PHI)の掲げている目標数値は下記のとおり。

http://www.passivehouse.com/English/PassiveH.HTM

この図から年間暖房費15kWh、年間給湯費6kWh、年間換気費4kWh、年間家電費11kWh、計36kWhと読みとることが出来る。
つまり、二次エネルギーの燃費が36kWh/uaで、一次エネルギーが97.2kWh/uaで上がる住宅のことを指すのだと考えていた。

この数値を達成させるためには、外壁などの熱貫流率(K値)0.15W/u以下で、サッシは0.8W/u以下であるべき。そして気密性は0.6tims/50pa(相当隙間面積0.3cm2)以下でなければならせない。また換気の熱回収率は80%以上であることが絶対的な条件になると言っている。
そして、パッシブハウスという名称を用いた理由は、ヨーロッパで広く用いられている温水ラジエーターによるセントラル輻射暖房装置を、住宅から追放してゆくという目的を明確にするためであった。
つまり、「セントラル温水式輻射暖房装置を追放した住宅」ということ。

日本では、北海道だけでなく10数年前からV地域やWa地域でもこのセントラル温水式輻射暖房のクリーンさと快適さが認められて、かなり広く普及してきている。
東京ガスなどが提案している床暖房よりもはるかに温度コントロールが容易で、セントラルシステムとして使いやすく、床暖房よりはるかに快適だから。
しかし灯油価格の高騰から、この給湯方式が寒冷地では見直されてきている。
V地域やWa地域では、深夜電力のエコキュートを使えば、灯油よりもはるかに安くなってきた。このため、灯油から深夜電力利用の給湯方式に切り替わった。
しかし、北海道などではエコキュートのCOPが低いので、温水輻射暖房から深夜電力利用の「チクダン」などへ切り替わってきている。
残念ながら、暖房機器の本格的な追放運動は起きていない。
「無暖房住宅」という勇ましい掛け声は聞こえてくるが…。

そういった点から考えると、ヨーロッパ人が不可欠と考えていたセントラル温水式輻射暖房装置の追放を叫んだパッシブハウス研究所の先見性と、それを推進してきた馬力には頭が下がる思いがする。
しかし、昨年秋に同研究所を訪ねた時「新しく冷房負荷基準として15kWhを加えるつもりだ」と言われた時、裏切られた思いがした。
まさしく「100年来の恋いが醒める」想い。
今までの二次エネルギー36+15=51kWhとなる。
これだと、単純計算をすると一次エネルギーは137.7kWh/uaとなってしまう。今まで唱えていた120kWhが霧散してしまうではないか、と考えた。

横浜国大建設卒で、ドイツStuttgart大建設学部でDiploma学位を取得し、アイルランドでパッシブハウスの普及に努めているMiwa女史から昨年秋にメールが入った。そして近くパッシブハウス研を訪れる予定があることを知った。
その折に、2つのことを訊いていただくように依頼した。
(1) 昨年末までにパッシブハウスの累積建築戸数は2008年末に1万5000戸に達すると聞いたが、この数値はむPHIのコンサルタントが一戸一戸確認した数値か、それともおおよその推定値か。
(2) 新しく冷房の15kWh/uaが加えられるということだが、その根拠と具体的な内容について細かく教えていただきたい、と。

この2点についての返答メールが、12月15日にとどいた。
(1) 1万5000戸というのはPHIの社員と認定コンサルタントが一戸一戸確認し、認定した数値だという。
したがって、R-2000住宅やQ-1住宅の累計戸数が推定4000戸というのとは訳が違う。改めて、凄い数値だと感じさせられた。
(2) 新しく追加される冷房負荷については、COPを1とした場合の建物が必要としている上限のエネルギー量であるとのこと。

つまり、kWhで表現するから二次電力使用エネルギーと私などは勘違いしていた。そうではなくて省エネ基準で定義されている年間冷暖房負荷と同様の建物性能の定義。つまりギガジュール(GJ)を使った方が理解が早い。
仮に、赤道直下でパッシブハウスを建てるとなると暖房負荷はゼロだが、冷房負荷は最大15kWh以内にしなさいということ。
そして、東京で暖房が12kWh、冷房が10kWhの住宅を建ててもパッシブハウスとは呼べない場合が出てくる。二次エネルギーはクリアーしていても、一次エネルギーの120kWhをクリアーしないとパッシブハウスとは認定されないから…。
だから冷房15kWhという基準を加えても、問題がないというのがPHIの見解。

それと、もう一つ重要なポイントが隠されている。
夏が乾期で乾燥しているヨーロッパでは、クーラーを用いなくても、つまり冷房除湿装置がなくても過ごせる場合がある。その場合には、建築物の二次エネルギーが15kWh以下であれば、一次エネルギーはゼロ。また、冷房のことだけを考えればよく、日本のように除湿について細かい配慮が要らない。
ただし、MiwaさんがPHIに計算を依頼した日本の例だと、絶対湿度が12g/kg(DA)以下であるようにして計算されているという。結果は、「日本は夏の夜、温度が低くなっても窓をあけてはいけない」という当然の答が出てきたという。
しかし、冷房負荷15kWh/uaを決めた時に、絶対湿度が12g/kg以下になるようにエンタルピ負荷を考慮して決めたのかどうかが定かではない。

また、太陽光発電を搭載していると、暖冷房費がいくらかかっても一次エネルギーは
ゼロ。だから、5キロワット以上の太陽光発電を搭載さえしておれば、冷暖房負荷に対する配慮がいい加減な住宅でもパッシブハウスとして認められる可能性がある。
原子力発電を必要以上に忌み嫌うドイツらしい方程式。

こういった冷房除湿に関する諸点の他に、給湯と家電のエネルギー消費量でもいろいろな疑問点が浮上してきた。

まず、給湯。
これは、すでに何度も書いていることだが、ドイツのモデルハウスにはほとんど浴槽がついていなかった。
今までドイツで泊まったホテルには、いずれもシャワーしかついていなかった。
このため200リッターの貯湯槽のコンパクト・ユニットが普及していた。
データで見てもドイツの世帯当たりの年間給湯エネルギーの使用量は7ギガジュール。
これに対してセントラル空調換気システムが普及していない日本では、肩まで湯に浸かって身体を暖めなければならない。ストレスを解消するためにも浴槽は不可欠。そして追い炊き機能が求められている。
このため、日本が給湯に使用するエネルギーはドイツの2倍の14ギガジュール。

7ギガジュールのドイツやフランス、オーストリア、オランダなどを前提にPHIは給湯の目標値を6kWh/uaと定めた。
その基準をそのまま日本へもってくることは本当に正しいのか?
2倍の12kWhは無理としても、10〜11kWh/uaを見込む必要があるのではないか?

日本は、基本エネルギーを原子力に依存する方向を定めた。
原子力発電は稼働率を変えることが出来ない。
したがさって、東京などの産業が集中している大都市では、夜間の電力の利用が大問題になってきている。そして、深夜割引料金がこれからも維持されてゆくであろう。
このため、夜間電力を利用している給湯費は非常に安い。月2000円を超すことはまれ。
しかし、年間の二次エネルギーで見ると、簡単に15kWhを突破してしまう。
つまり、東京以西では暖房よりも給湯エネルギーの占める割合が非常に高い。

このほかに、省エネ家電の開発が進んでいるとはいえ、日本の家庭での家電の使用量はドイツに比べて5割近く多い。
また、調理費もドイツの家庭の2倍。
このあたりを考慮しないと、PHIの目標値は単なる高嶺の花と、日本の消費者から無視されてしまう可能性が高い。

そして、更に言うならば、最終的な目標がCO2の削減にあるならば、半分近くの電力を石炭に依存しており、風力や太陽光、バイオに力を入れてはいるが、これらの占める比率がまだ10%に過ぎないドイツ。
これに対して日本で原子力発電が進んでゆき、フランスのように80%近くになったとしたら、日本のCO2は大幅に削減されることになる。
そういった点まで含めて考えると、パッシブハウスの基準を金科玉条のように考えることには、どうしても疑問符がつく。

温暖地で、冬期の過剰乾燥と夏期の異常な多湿を抱える日本の場合は、PHIの貴重な動きは大いに参考にしながらも、独自の省エネ目的を掲げてゆくことが非常に大切だと考える。
posted by unohideo at 16:54| Comment(0) | パッシブハウス(計画と現場) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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